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紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
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長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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Category: 広くて長い

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広くて長い 13
<13>

 木枯しが吹く度、枯葉が乾いた音を立てアスファルトの上を転がってゆく。車1台がようやく通れるくらいの狭い道が夢のような金色に染まったのは、ほんの短い間だった。
 食べ終えたトンカツ弁当の容器をポリ袋に突っ込み、後半のスケジュールを再確認して車を出す。
 新年の挨拶を兼ねて何軒かの得意先を回り、会社に戻ったころには就業時間も過ぎていた。
「シマちゃん、太田部長って出張?」
「広島で、戻られるのは週明けの火曜日です。急ぎなら直接携帯に連絡入れてもいいって聞いてますけど、番号わかります?」
 ホワイトボードを見ながら帰り支度をしているシマちゃんに尋ねると、引き出しから大田部長の番号を書きつけたメモを取り出した。
「いや、別に急ぎじゃないからいいよ」
 退職願は鞄の中に入っている。

 レジデンスで紅雷と会った翌日、1月4日は仕事始めだった。
 クラブが開店する13時を待って、人気のない路肩に停めた営業車の中から佐野に電話をいれた。落札者とのデートが自分の不手際で不履行だったことを詫び、紅雷が払った一千万の返却を頼むつもりだった。違約金を請求されるかもしれないが仕方ない。
 あと、フルタイムのシフトに移行したい旨も一緒に伝えるつもりだった。退職届は、昼もアルデバランで働くことを見越して、レジデンスから戻った夜に認めた。

「ウチの客が他のクラブより格段に高額な料金なのにかかわらず、会員登録するのはなぜか、お前はしっているか? ボーイやサービスの質が高いのも当然だが、何より客が重視するのは、安全と信頼だ。一度、愛想を尽かして他に流れた客は、その客が良客であればあるほど戻ってくることはない。アルデバランが最も重きを置く信頼に泥を塗ったことを、お前はわかってんのか?」
 電話に出た佐野から、いきなりクビを告げら、スマホを落としそうになった。
 弁解も聞いてもらえず、紅雷の1千万の支払いについても、部外者には何も教えられることはないと素気無く突っぱねられ、一方的に通話を切られた。スマホを耳に当てた姿のまま暫し放心した。
 奨学金に賠償金、父親の入院費、それに紅雷に返す1千万が加算される。
 新しい店を探しても高値で売れる旬はそう長くはない。今度こそ本気で体を売るか、いっそ強盗でもするか。短絡的にそんな発想が出てくる自分に辟易し、人が堕落していくことの容易さに身震いした。


「束原さん?」
 シマちゃんの声に我に返った。
「どこか体調でも悪いんじゃないですか? 時々ぼんやりしちゃってるし。今日はもう飲みはやめてまっすぐ帰ったほうがいいですよ」
 シマちゃんがいたずらっぽく笑いながら下を指差す。その意味を察して、隠微に溜息が出た。
「わかった。ありがとう、そうするよ」
 シマちゃんがくすくす笑い出した。
「なんか、あの人ってすごい男前なのにどこか犬っぽくないですよね。わざわざ迎えに来てくれるところなんか、まるで忠実な恋人みたい」
 男前で犬で、忠実な恋人。シマちゃんの発想には時々ついていけない時がある。
「やめてくれよ。嫁さんがおめでたで、早く帰ると邪険にされるんだってさ」
 笑いながらすらすらと口を滑りでる嘘が、自分の耳に突き刺さった。
 退職願の入った鞄を手に営業部を出た。紅雷が待つ正面エントランスではなく、裏の駐車場につながる階段を下りて外に出る。外気に触れた途端、思わず首をすくめた。気温はまた下り、まるで冷蔵庫の中にいるような寒さの中を駅に向かって歩き出す。
 澄んだ天空に、小さな星がさえざえと輝き、アスファルトに響く靴の音さえ凍りつきそうな夜だった。
 裏から出たことを知らない紅雷は、きっとこの寒空の下で自分を待ち続けることになるのだろう。
 立ち止まって向きを変えた靴の爪先は暫し迷い、元の角度に戻すと歩き出した。
 




「まずは……一緒にシャワーを浴びてください、汪様」
 汪様と呼ぶ声に薄く蔑みが滲む。
 バスルームに連れて行き戻ろうとする肘を 裕紀に掴まれた。
「一緒にと言っただろう。そういう決まりなんだよ」
 どこといって特別なところは何もない。ニットシャツに綿のズボンという、ごく平凡な格好をした男が視線を上げるだけで、身体の奥の熱の塊がドクンと脈打った。
 束の間、自分を見つめていた裕紀が薄い目蓋を緩く下ろす。
 いきなり躊躇いなく服を脱ぎだした裕紀に、平常心もまともな判断力も木っ端微塵に吹き飛んだ。

 能勢にパネライを返させ、京都行きも阻止できた。確信した勝利が、能勢の耳打ちに目許を染める裕紀を見た途端、不安定に揺れだした。
 そこに 『今日も、可愛がってもらえよ』 という中年の冷やかしだ。今日もって、何だよ? 
 動揺する裕紀を問い詰めたい気持ちを力技で捩じ伏せ、面白がる男に殺意すら覚えたところで、
 ――俺たちはそんなんじゃないですから!
 裕紀のこの否定が、暴走に弾みをつけた。
 平静時ならば、裕紀の否定がオレを庇うために言った言葉だと、すぐに理解できたはずだ。
 それを先走ったバカ男は、嫉妬と怒りをエネルギーに、広い広い河を一気に飛び越えようとジャンプした。
 ―― で、どんなことをしてくれんの?
 自分の思い上がったセリフを思い出す度、叫びたくなる。
 裕紀に好感をもってもらおうと、裕紀に会う時は自分が最大限格好良く見える服や靴を時間を掛けて選び、普段は適当に撫で付けるだけの髪型もワックスでスタイリングした。

 複雑な生い立ちのせいか、自分の中に潔癖なところがあることを、自覚している。だから正直、裕紀が風俗に足を踏み入れたと知った時は、もう昔のような純粋な気持ちで裕紀を想うことはないだろうと思っていた。
 それが、公園で襲われたところを助けたあの短い時間で、裕紀への想いは4年前よりも激しく再燃した。
 可愛い、愛しい、どうしても手に入れたい。
 表と裏の生活の間を、危ういバランスを行き来する裕紀は、無闇に関わりたがる古い友人を煙たがった。疎ましがられず、傍にいられる存在になるには、どうすればいいのか?
 それには、裕紀の理解者にならなければならない。心中では苦々しく思っていても、裕紀の副業を非難したりせず、平常心で受け流す努力をした。
 そして自分の仕事の面白さとか、充実感を事細かく話して聞かせた。最初は鬱陶しそうに聞いていた裕紀も次第に触発され、食品衛生管理者の資格を取りたいと聞いた時は、抱きしめたいのを抑えるのにそれほど苦労したことか。
 
 スマートな大人の男に見えるか、スーツは決まっているか。裕紀と会う前は、職場の鏡で再度念入りにチェックする。社長にデートかと冷やかされ、頷く時の幸福感。そう、数年越しの想いをやっと成就させ、惚れきった大好きな恋人とデートする。
 気分はまさしくそんな感じだが、裕紀は恋人ではない。
 一度はクラブの仕事をやめそうな雰囲気で万々歳だったのが、その後、裕紀は拍車を掛けて客を取るようになり、とうとうオークションにその源氏名が上がった。
 理由は、電話2本であっさり解った。裕紀が保険で賄うと言っていた父親の事故は、実際は保険に入っておらず、賠償金も入院代も保険金はおりてなかった。パートの母親の収入では賄いきれるはずもなく、当然その重圧は裕紀に掛かっていた。
 プライドもあるだろうし、心配させたくなかったのかもしれない。それでも、一言でいいから相談して欲しかった。
 裕紀が風俗をやっているだけでも充分、赦し難いのに、ヴァージンを他人に渡すなど。考えただけでもドス黒い嫉妬と怒りで、腸が煮えくり返った。
 そして佐野にサーバー事故を装ってオークションを中断させ、自分もオークションに参加することを条件に再開させた。
 他に追随できない金額で裕紀を落札し、京都に裕紀を連れ去ろうとする能勢の陰謀を挫き、最後は裕紀と手をとって喜び合う手はずだった。裕紀に頼りになるところを見せ、あわよくば好きになってもらえるかもという下心も当然あった。

 それが自分の品のない一連の言動で、全ての努力は泡となって潰えた。
 好きになってもらうどころか、友人として、人間として裕紀の中でオレはもう終わっている。
「煩いヤツだな。叫ぶんなら、空いてるから下の防音室に篭もれ」
 頭を掻き毟り、意味不明な中国語を叫んだ紅雷に東夷が冷たく言い捨てた。
 階下から澄んだチェロの音が聞こえてくる。
 バッハのプレリュード。音が上がってくるのは晴人が防音室でなく、恋人を追い出して自分たちの部屋のリビングで弾いているからだ。
「もうオレに会いたくねえって」
 優しい調べがメランコリックな気分を増長し、今にも涙が出そうだ。
 ちなみに晴人は、この傷心を知っていてわざとメランコリックな曲ばかり選んで弾いている。マジでうざったい中年バカップルだ。
「友達に一千万なんて品のない値段つけたんだ。まあ、嫌われても仕方ないな」
 呑気にミカンを頬張りながら、やれやれと東夷が頭を振る。
「こういう輩がいるから爆買いとか下品な言われ方するんだよな、俺たち中国人は」
「東夷は半分じゃん。自分も面白がって、一枚噛んだくせに。殺すぞ中年ハーフ」
「おお、怖い、怖い。さすが汪家の若様だねえ。脅しも一味違うねえ」
 ソファに座り膝に突いた両手に顎を乗せた紅雷が、黒い虹彩だけを東夷に向ける。
「今は受け流すゆとりねえから、マジで喧嘩を売らないでくれ」
 東夷が再び、ヤレヤレと頭を振った。
「紅雷、お前が支払った代償は一千万なんて端金じゃない。束原 裕紀はそれだけの価値がある相手か? その上、奴はお前がその端金で自分の人生を売ったことも知らないんだろ」
 関係ないと言わんばかりに、ぷいと横を向く。
「おい若者、その猪突猛進型の性格をなんとかしねえと。そのうちこっ酷い目にあって、後悔をすることになるぞ」
「よく言うぜ。親父とグルになって、オレをハメたくせに」
「ご明察だな。俺は義兄さんに弱い」
 手で支えていた頭が、ガクンと項垂れた。
「もう色んな意味で、オレは後悔の大海原で遭難中だよ」
 背中を大きなクッショに埋め、まるで溺れる人のように紅雷は長い腕を上にあげ、目を瞑った。


 裕紀が服を脱ぎ始めた。
 セーターの裾に手を掛け、次々と着ている服をその躯から剥いでゆく。潔すぎてムードも何もない脱ぎ方だったが、露わになっていく愛しい相手の裸体に視覚が痺れ、心臓が壊れるんじゃないかというくらい激しく脈打った。
 ほっそりとした頸も、浮き出た肩甲骨も踝さえ、ただ愛しくて。
 高圧的な態度で出たことも忘れ、下着も足から抜き去り一糸纏わぬ姿になった裕紀を感極まる想いで凝視めた。
「じっとして」
 見蕩れていた喉元に伸びてきた裕紀の手指が、サックスブルーのシャツのボタンを外したところでぎくりと息を呑んだ。困ったことに、素直過ぎる欲望が強烈に反応してしまっている。
 格好つけて啖呵をきった手前、獰猛な野獣レベルで反応する劣情を曝せば、裕紀のさらなる侮蔑を買うのではないか。自分の卑しい下心は、果たしてここで丸裸にしてよいものだろうか。
「なあ、裕紀」
 逡巡の末、シャツの袷に滑りこんだ手指を掴まえる。
 問いかけるようにゆっくり上がった裕紀の目が突然、夢から醒めたように見開き、自分の手を引き抜いた。
「あ…す、すまん」 裕紀が後ずさった。俯いた耳まで真赤に染まっている。首の後ろ、背骨に続く骨の小さな突起の可愛らしさに、全身の血液が騒ぎ出す。
「いや、あ……あの」 興奮で鼻息が荒くなるのを手で抑えて隠した。
「ごめんな、紅雷」
 呼び名が汪から、元の紅雷に戻っていた。
 下を向いた裕紀の頭から、ポタポタと床に落ちた涙に、金槌で頭を殴られたような衝撃を受けた。ようやく冷静になって、金で裕紀を買った他の男達と同じことをしている自分に気がついた。
「俺が不甲斐ないせいで、お前にこんな辛い茶番までさせて……ごめんな」
 え? 感情のアップダウンに翻弄され、思考力か欠落した頭は裕紀が言っていることがいまひとつ理解できない。
「わかっているんだ。お前は男を抱けるようなやつじゃない。俺がお前に負い目を感じないでいいように、俺を買うなんてことを思いついたんだろう? 大事な親友にこんな真似をさせる俺は最低だ。借金は俺の問題だから。俺のためにこんな無茶はもうしないでくれ」
 なんでそうなるんだ、最低なのはオレの方だろう?
「お前がクラブに払った金は、返してもらえるように俺が頼んでやる。紅雷はなにも心配するな」 
 脱ぐ時の更に5分の1の速さで衣服を身につけた裕紀は、事態の急展開に呆然とするオレをバスルームに残し帰ってしまった。
 4年前となにも変わっていない。
 手の伸ばせば届く距離にいる。想いだって届きそうなものなのに、心はいつまで経っても触れることも出来ない。
 本当はこんなやり方では駄目なことくらいわかっているのに。
 じゃあ、どうすればいい?

 河岸は遠く、飛び越えればより深い友情の流れに落ち、泳いで渡ろうとすれば流される。
 どうしたらこの広くて長い河を越えられる?


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広くて長い 12
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 古い敷石がゆるやかにカーブして上がってゆくスロープがコーン型に刈り込まれた針葉樹の奥に消えてゆく。一見、西洋風の庭を彷彿させるが、樹齢を感じさせる張り出しの見事な枝ぶりや、木々の陰にひっそりと佇む石灯籠に、ここが元華族の邸宅であった場所だということ思い出した。
 クラブが指定した部屋に先に到着していたらしい紅雷は、口数も少なく慣れた足取りで砂岩色のスロープ上がってゆく。
「そこ補修したばかりだから、セメント踏まないように気をつけて」
 不意に紅雷に注意され、足元を見た。踏み石の一部が色を合わせたセメントで丁寧に補修されている。跨いで休日のラフな格好をした紅雷の背中を追ってスロープを上りながら、裕紀はパネライの消えた手首に触れた。

 能勢は京都に帰ってしまった。
 当然、自分を京都へという話はご破算だ。これで借金返済も、賠償金も入院費のことも振り出しに戻ってしまった。
 金のことで思い悩む日々が続くのかと思うとうんざりするが、どこか荷が下りた気がするのは、こんな自分のことを想ってくれた能勢を裏切り続けなくて済んだからかもしれない。
 凡庸な自分には勿体無い、器の大きな人間だったと思う。
―― 愛情の原因は、この人なんやな
 能勢は、紅雷に抱く気持ちを見抜いていた。そしてそれを 『愛情』 と表した。
 前を行く背中を凝視めながら、愛情という言葉を口の中で転がしてみる。面映ゆいような、切ないような感情にきゅっと胸を締め付けられ、そっと息を吐いた。
 紅雷への気持ちを、欲望とか恋情ではなく愛情と、そう呼んでもいいのだろうか。能勢の最後の言葉に慰められるような気がした。

 紅雷がちらっと目の端で振り返った。
 まるで裕紀がちゃんと着いてきているのを確かめるような紅雷の瞳に、とくんとひとつ胸が高鳴った。この男を、ちゃんと友人として護らなくては。
 まずはクラブに払ったという一千万だ。一体どこからそんな大金を調達したのか。
 能勢の入札希望額が百万。この金額も大いに問題だが、なんといってもその10倍だ。
 せいぜい数万円の小競り合い手で終わる、お遊びのはずだった。
 ―― なんで一千万もつけたんだ? 問に、紅雷は裕紀の顔をじっと見たあと 「勝ちたいからに決まってるだろ」 と素っ気なく答えた。
 自分の取り分はそのまま紅雷に返すとして、店の取り分は折半で五百万くらいかと予測する。、
 五百……まったく馬鹿げている。
 いくらかでも返してもらえるよう、オーナーに掛け合ってくれと佐野に頼むしか無い。そこまで考えて、言いようのない疲労感が押し寄せてきた。
「なあ、紅雷」
 紅雷もまた考えごとをしているのか、呼びかけに返事はない。
 自分のために馬鹿げたオークションに、一千万円という大金を積んで参加してくれた紅雷。
 友達なら誰にでも、紅雷は同じことをしたろうか。
 友人だという、それだけで?

 ラフなコートの上からでも、綺麗に締まった筋肉の動きが想像できる。我の強いところがあって、能勢のような老成した寛容さや達観はまだないが、紅雷は最高にカッコいい男になるとわかる。
 自分をゾクゾクとさせる大人の色香に、真直ぐ目を合わせる時の瞳の深さに、心は奪われっぱなしだった。
 愛情は友情とリンクする部分もあるが、やはり異なる感情だ。
 紅雷を想う自分のこの心は、友情ではない。

 紅雷を追う足が止まった。
 秘する恋心や、不埒な欲望を知らないから紅雷は手を差し伸べてくれたのだ。その友情に応えるどころか、自分の苦境に巻き込んでしまった。もう紅雷を自分に関わらせるのをやめなくては。
「紅雷…」 
「部屋は、ここの二階だから」
 俺は帰るぞ、と続けようとした裕紀より前に、紅雷が振り返った。
 木樹の間から、ちらちら見えていた建物の全貌が目に飛び込んできた。白い枠で囲まれたガラスの箱のような2階建ての建物は、張り出した薄い庇の下にリビングのようなテラスがある。
「凄い……こんな部屋があったのか」
 もちろんアルデバランの客室にという意味だ。VIPより更にスペシャルな客専用ということかと呟いた裕紀に、紅雷が皮肉めいた眉を寄せついで諦めたような息を吐く。
「あのなあ、裕紀……」
「おう来たな、司!」
 いきなり源氏名で呼ばれてギョッとした。呼んだ相手を見てつけて、二重で驚いた。
 一度だけ相手をしたことのある幸田という客だった。確か、チェロ弾きののパートナーがいると言っていた客だ。
 目を白黒させる裕紀に、幸田が笑いながら近づいてくる。
 客同士がバッティングするというのは不味い。VIP客なら特にだ。今まで一度もこんな失敗はなかったのに、スタッフが段取りを間違えたのだろうか。
 鋭い舌打ちが、焦った裕紀の耳を打った。
「出てくるなって、オレは言ったよな?」
「俺は今から晴人を迎えに成田だから。ああ、晩飯はいらねえからお前らは好きにしろよ」
 ”お前ら” の ”ら” を強調し、ニヤリと目配せして笑った幸田に、紅雷は舌打ちで答えた。
「行くぞ、裕紀」
「紅雷……まさか幸田さんと知り合いなのか?」
 混乱した腕を紅雷に引っ張られ、階段を上がる裕紀を朗らかな声が追ってくる。
「よかったな、司。思いっきり可愛がって貰え」
 一瞬で全身から血の気が失せた。幸田の相手をした時、間違えて紅雷の名前を呼んだことを言っているのだとすぐにわかった。
「あ……いえ…お、俺たちはそんなんじゃないですから!」
 足が縺れだした裕紀を引っ張りあげるように階段を上っていた紅雷がつと振り返る。そして
『黙ってろ、中年っ! もし上がってきたら、秘密をバラしてやるからなっ』
 続けて紅雷が中国語で何か怒鳴ると、下から面白がるような笑い声が返ってきた。

「そこに座わって」
 紅雷が低い声で短く言う。
 突っ立ったまま動かないでいると、裕紀に座れと言ったソファに脱いだコートを投げ空調を調節する。何か飲むかと訊かれて、首を振る。
 紅雷はローテーブルに裕紀と向かい合う形で腰を下ろし、組んだ指に顎を乗せた。そして黙りこんだ。
 幸田に会った途端、あからさまに紅雷の機嫌は急降下した。紅雷が苛つくのを抑える努力をしているのが伝わってくる。もしかしたら幸田から、司というボーイが抱かれている最中に紅雷の名前を呼んでたぞと聞かされたのかもしれない。
 最悪もここまで来ると、感情を動かす事すら放棄したくなる。
 
 連れてこられたリビングは。外から見た印象そのものの部屋だった。大きなガラス窓に挟まれ開放的な空間。外国人向けのレジデンスというだけあって、天井が高い。インテリアも映画のセットのように完璧。ここまではいつも使う部屋も似たりよったり。
 床に積まれた新聞や雑誌、テーブルの上の宅配ピザの空箱にマグカップ。これは今までに無かった現象だ。他人の留守に勝手に上がり込んだようだ。
「紅雷、ここって…」
「オレの家だけど」
 黙っていた紅雷が、驚いた裕紀を目だけで見上げた。その上目遣いの仄暗い視線に、背筋が僅かに緊張する。
「で、どんなことをしてくれんの?」
 質問の意味がかわからず、目を瞬かせた裕紀に紅雷が放った言葉に呼吸が止まった。
「裕紀がお客にしてるサービスだよ。オレはお前を買ったんだから、当然だよな。」
「な…に言ってるんだ? そんなことするわけないだろう」
 ゆらりと立ち上がった紅雷は自分より頭半分背が高く、体躯もいい。反射的に後退った裕紀を一歩、また一歩と追い詰めてゆく。
「会社は今のままでいいけど、アルデバランの仕事はやめてもらうから。それと今の家はすぐに引き払って、ここに住んでくれ」
 これはなんだ? 紅雷は能勢に、諦めろと言った。裕紀は京都には行かせないと。友情からでた言葉だったとしても、本当は嬉しかった。
 だが、「お前を買ったのはオレだ」 とも。友情でも救済でもなく、紅雷は本気で自分を金で買ったというのだろうか。 
「すぐにでも金が必要なんだろ」
 紅雷を蔑むように歪めた裕紀の顎を、紅雷の手が掴んだ。


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09

Category: 広くて長い

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広くて長い 11
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俺は君を落札できんかった」

 言葉を失い、見つめ合うふたりの頭上でし、飛び立つ鳥の羽音が鳴き声が高く響いた。
 むかし華族の邸宅のあった場所に建てられたレジデンスは、クラシカルな色調の高い柵が敷地をぐるりと囲む。
 裕紀は能勢から視線を移動させた。表通りに真っ直ぐに伸びる道、瀟洒な柵のデザインに合わせた分厚い木製の門扉。車6台分はありそうなカーポートの跳ね上がり戸も木製だが、こちらは薄く埃が溜まり、あまり頻繁に使われていないようだ。
 ひっそりと静まり返り返った私道には、他の誰の姿もない。能勢と裕紀だけだ。視線を戻し問いかける自分の声が空々しい他人の声に聞こた。
「……でも、能勢さんは落札たからここにいらしゃったんですよね?」
 能勢でないとしたら当然、他の誰かが自分を落札したということになる。想定外の出来事に予定調和が崩れた。不安げに揺れた表情は、次の能勢の言葉で感情がすとんと抜け落ちた。。
「俺の入札額は百万。たかがと言うては何やが、セックス1回にこの金額は常識ではありえへん数字や。せやけど、一千万いれてきた人間がおったらしい」
「一千……」  異常だ。
 オークションはただのお遊びだと佐野は言った。
 能勢の言う通り、たかがセックスの代償に百万という数字を提示した能勢も既に尋常ではないと思うが、能勢にしてみればこの後の愛人契約のための手付金的な意味合いも含んでの値段だ。
 その十倍もの金額をつけるなど、常軌を逸しているというより、既にまともな思考を持つ人間のすることではない。
 そんな狂気めいた金額で買われた自分は、一体何をさせられるというのか。
 背筋がぞっと震えた。
 もしかしたら、自分はアルデバランに裏切られたのかもしれないという気がしてきた。
 店が人身売買にまで手を出すようなことはしてないと信じたいが、所詮 人を売り物にして稼ぐ世界だ。店長の佐野は金儲けには抜目の無い男だし、破格の落札価格に欲が出たということも。
 自分を騙そうとする片鱗が無かったかと、佐野との会話を頭の中で再生する。
 佐野は落札者の名前を言わなかった。自分も、能勢が落札したとばかり思い込んでいたから、尋ねもしなかった。一番大事なことを確認しなかった自分の迂闊さが悔やまれた。
 
「俺は……落札したのは、能勢様だとばかり思っていたから」
 他の男に抱かれても、能勢はまだ自分を京都に連れて行きたいと思ってくれるだろうか。痩せこけた父の顔と、長い息を吐いて俯いた母の毛玉をいっぱいつけたカーディガンの薄い肩が脳裏にちらついた。
 無意識に手首のパラネイを弄る裕紀の手を能勢が握った。
「心配せんでもええ、俺もこれから司と一緒に落札した奴に会うて、交渉をするつもりや」
「能勢様、それはできません。そんなことは、店が許すはずが…」
 馬鹿げたオークションであっても、オークションという形をとって大金が絡んだ以上、自分個人の勝手など許されるはずがない。
「アルデバランには許可を取ってある。だから俺は今日、ここに来れたんや」
「店が…、ここを教えたんですか?」
 驚いた。店が落札者以外に情報を流すなど考えられない。
 ならば、能勢はどうしてこの場所を知ったのか。能勢は自分を待ち伏せした河内のような、器の小さな人間ではない。
 安心させるように能勢が裕紀の背中を軽く抱き寄せ、安心させるようにポンポンと叩いた。子共にするみたいな宥め方に気恥ずかしくもあるが、胸に安堵が広がったのも事実だ。
「俺が来ることは、落札した相手も承諾してるて聞いてる。そやから、司はなんも心配せんでええ」
 冬枯の高い木樹に囲まれた冷たい石の道の上で、能勢が唇を合わせてくる。

「わざわざ京都から駆けつけご足労頂いても、オレは譲りませんけどね」
 その声は、まさにいま唇の先端が触れんという、そのタイミング割り込んできた。甘い空気を乱暴に蹴散らした怒気の篭った声に、能勢と同時に振り向いた裕紀は声もなく固まった。その顔を驚きが支配し、冷ややというには冷たすぎる相手の視線に、瞠目した眼の色が絶望に変わる。
 音にならない声で、紅雷と唇を戦慄かせた裕紀を無視し紅雷は続けた。
「オレも、今日はあなたに会っておきたくて、店にここを教えるように言っておいたんです」
 そう言いはじめて表情らしきもの、挑戦的な笑みを紅雷は口端に刻んだ。
 蒼白だった裕紀の顔が紅潮した。ここに来るまで探し求めていた男が、なぜこのタイミングで現れるのか。運命を呪いたくなる。男と抱き合うところなんか、キスするところなんか世界で一番、見られたくない相手だった。
「紅雷。お前がなんで……」 
「なんでオレがここにいるかなんて、決まってるだろ」
 門扉にもたれていた紅雷が、新しい枯葉を踏みながら近づいてきた。
 感の鋭い能勢は、この状況が把握できないまでも裕紀の反応に何かを感知し、狼狽と驚愕に強張る裕紀の腰をさらに抱き寄せる。
「裕紀をオレが落札したからだ」
 言うや伸びてきた紅雷の手が裕紀の肩を掴み、乱暴な仕草で紅雷はもぎ取るように能勢から引き離した。一瞬、頭の中が真っ白になる。次に裕紀を占拠したのは怒りだ。
「お前、なに言ってるんだ? ふざけんなよっ、紅雷! これはお遊びなんかじゃないんだぞ」
「オレは能勢さんと話をつけたいから、裕紀はちょっと黙っててくれ」
 落ち着き払った紅雷の態度に、自分を落札したの本当に紅雷であることを確信した。
 声を荒げ、向かせようと掴み掛る裕紀を隠すように自分の背後に押し、紅雷は露骨に敵意押し出し能勢と真正面から向き合った。
「オレは裕紀の……ああ、あなたは源氏名の 『司』 で呼んでるんでしたっけ。オレは彼の大学時代の友人の汪といいます」
 裕紀との親密度の違いを嫌味っぽく絡めて自己紹介した紅雷に、能勢は冷静な大人の顔を崩さず、「それで?」 と口端を緩める。その眼が紅雷の背後で狼狽する裕紀に向けられ、安心させるようにふわりと細まった。
「紅雷、やめろって。お前、何考えてんだよ」
 紅雷の肘を引っ張ると、邪険に振り払われた。OOO必死な背中
「大学時代の友人が、一千万なんていう大金をただの友人に払うのか?」
「払いますよ、一千万くらい。金で裕紀が買われていくのに、指を銜えて見ていられるわけがない」
 紅雷は、パラネイをくれたのも京都に誘ったのも、この能勢だと感づいたらしかった。
 いくら高給取りでも、まだ20代の青年に一千万円は払える額ではない。友人がオークションにかけられ、感情に流されて突発的に参加したのかもしれないが、そんなことをすれば紅雷まで借金地獄に落ちることになる。そんなことは、絶対にさせない。
「紅雷、頼むからこの権利は能勢さんに譲ってくれ」
  紅雷のコートの背中を捕まえて、頭を下げた。
「断る」
「紅雷!」
 声音と気配で、裕紀が頭を下げていることはわかっていたはずだ。紅雷の返事は拒絶の一言だけだった。
「なるほど、君は司を……いや、裕紀を救うために落札したと、そういうことやな?」
 裕紀と形を結んだ能勢の唇が、その音を味わうように言葉をついだ。
「金のどうのという問題やない。友人の君が心配するのは当然かもしれんが、私は本気で裕紀を大事に思うてるし、ずっと側に置いておきたいと本気で願うてるで」
 能勢の言葉に、胸にじわりと熱いものが込み上げる。その高さの分だけ罪悪感が凝るのは、背中を向けるこの男に心をもって行かれているからだ。
「オレがここに来たのは、裕紀の友人としてではありません。落札者としてここに来たんです」
「紅雷、もういい加減にしろ。 なんてことをしたんだ。そんな大金、お前に払えるわけないだろう!」
 首だけで紅雷が振り返る。灰色の寒空を凝縮したような冷たい目だった。
「一千万なら安いもんだ。買ってやるよ裕紀。お前を丸ごと。爆買いは中国人のお家芸だからな」
 お前は、馬鹿だ。眼球の奥が熱くなる。
「どこに行く? 買ったのはオレだぞ」
 能勢に目で合図し、立ち去りかけた腕を紅雷に掴まれた。
「勝手なこと言ってんじゃねえよ。こんなんは無効だからな」
「無効もなにも、落札者はオレはだ。お前、前に言ったよな。金を払えばオレにでも自分を売るって。オレは金を払った。勝手なこと言ってるのは裕紀の方だろう?」
 自分の吐き捨てた言葉に頭を殴られた。言質にとられた言葉は、自分が金さえ出せば誰でも買えるお安い男だということを、能勢に再認識させたに違いない。
 紅雷は俯いた裕紀の肩を掴んで引き寄せ、能勢に向かせた。情けなさと羞恥が綯い交ぜになって、能勢の顔がまともに見れない。
「能勢さん、帰っていただけませんか。裕紀のことは諦めてください。京都にも行かせません。それを知っていただきたくて、今日はあなたに来てもらったんです。」
 紅雷との遣り取りを黙って聞いていた能勢が、不意に白い息を吐いた。
「なるほど、ええでしょう」
 能勢の返事に全身の力が抜けた。
「裕紀、パネライを能勢さんに返してくれ」
 もう反論も弁解する気力も起こらなかった。
 裕紀と能勢が呼ぶ。その能勢の優しい声にほんの少し救われた。
「俺はな、裕紀君のことはまだよう知らんけど、司のことはよう分とったつもりや。そやから、そんな顔はせんでええ。ほなら、時計は返してもらおか」
 腕から時計を外して能勢に返した。
「すみません。こんなことになるなんて。またのご指名をお待ちしていますから」
 そう頭を下げた裕紀に、能勢が耳打ちする。
「愛情の原因は、この人なんやな」
 下に向けた目がかっと見開いた。鎌倉で能勢は、裕紀の奉仕に愛情を感じたと言った。
 瞬時に耳朶まで真っ赤に染めた裕紀に、能勢が低く笑う。
「もういいですか?」 
 紅雷の尖った声に、能勢がええでと答える。
「司、もう俺が君を指名することはない。司はもう消えてしもたからな、そういうことなんやろ」
 後半の確認するような言葉は紅雷に投げられ、受け止めた紅雷は黙って頷いた。


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06

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広くて長い 10
<10>

 オークションが再開した。
 能勢から送られた時計の値を知った裕紀も、いまや能勢の落札を確信している。
 来るべき日に着けていこうと心に決め、腕時計は箱に戻した。腕時計を嵌めた裕紀を能勢が見れば、それが申し出への返事だと能勢は気付くはずだ。
 ―― 「また俺から逃げるのか?」
 そう逃げ出すのだ、自分は。
 会社までやってきた紅雷とファミレスで決裂したあの夜以降、1日と開けず届いていたメールや電話はぴたりと来なくなった。
 友人に裏切られ付き纏うなとまで言われて、プライドが傷つかない人間はいない。
 紅雷の最後の表情を思い出す度、大きく心が揺さぶられて苦しくなる。明け透けに心の動揺を映す子共みたいな目は今にも泣きそうだった。
「泣きたいのは俺だ」
 散々、懐いて構い倒してきても、ひとこと好きだと告白すれば友情は終わる。同性に好きだと言われて気味悪がりはしても、はいそうですかと笑って受け入れるヘテロはいない。
 自分がそうだったからわかる。
 いや、紅雷なら自分を傷つけないように上手く振ってくれて、その後も友達でいようとしてくれるのかもしれない。
 水道の蛇口を捻ってコップを満たし、シンクにもたれたまま喉に流し込む。
 ワンルームの床にカーテンの隙間から射し込む月の光が短い線を引く。眠れない夜が、ここのところずっと続いている。
 水の入ったコップを手に持ったままベッドに戻り、抜け殻の自分のベッドを見下ろした。
「友情って、なんだ?」
 紅雷はきっと友人がゲイだと知っても態度を変えたりはしない。自分には受け入れられないとしても、相手に態度を変えないように気遣い、友人関係を続けていく努力をする。
 友達だから。
 自分が紅雷に望んでいる関係は、もはやそんなハリボテの関係ではない。
 キスをしたい、手を繋ぎたい。いや、もっとだ …… もっと欲望は深い。
 手のひらで、舌で紅雷の体温を確かめ、鳩尾に接吻けたい。輪郭のくっきりした男らしい唇を舐め、躯の中で最も熱い場所を絡め、涼やかな瞳が劣情に煽られ苦しげに眇められた貌を見たい。
 同居時代に見た記憶の中の紅雷の裸体を、客にするのと同じ淫らな行為で犯してゆく。
 自分の精液で汚れたシーツを冷然と見下す。
「狂ってる」

 日本中が師走に突入していた。
 街を歩けば至る所でツリーを目にし、テレビを付ければ番組は年末特番に切り替わっている。巷にあふれるクリスマスと正月が渾然一体になって、ただでさえ気忙しい人々を、なお急き立てる。
 スーパーやデパート、レストランからの加工肉の注文が増えるこの時期、裕紀の会社も目の回る忙しさだ。外回りの時間が増えた分、事務仕事は残業に回る。
 さすがに体力の限界を感じ、クラブの仕事はストップしていた。
 そんな折、佐野から連絡が入った。
「落札者が決定したぞ」
 1日中、納品先を駆けずり回って残業をこなし、コンビニ弁当片手に部屋に戻ったばかりだった。飯にするか、それとも冷えた躯を風呂で温めるか、洗濯機も回しておかないと。スマホを耳にあてながら、狭い部屋を歩きまわる。
「あっちの都合で、エッチデーは年明けにして欲しいそうだ。用心深いのか潔癖なんだか、当日まで司には客を取らせるなって言われてるんだよな」
 履行日をエッチデーと呼ぶ身も蓋も無い佐野の表現に苦笑しつつ、バスタブの栓を捻り、弁当を電子レンジに放り込み、洗濯機に洗剤をセットした。
「まあその間のデート料は払ってくれるらしいからいいけど。よかったな、司。ちょっと癖は有りそうだが、太客になるのは間違いない相手だからしっかり下準備しとけよ」
 佐野が下卑た声で笑う。なりそうじゃなくて、能勢は既に立派な太客だ。佐野は仕事は出来る、性格もまあまあ。こういう下品なところさえなければ、もう少し好感が持てるのだが。会話する度、残念な気持ちにさせてくれる男だ。
「もっと稼ぎたいなら、司のロストバージンってタイトルで、ネットで有料配信……」
 付き合いきれず、話の途中で通話を切った。
 弁当のフタを取って箸を割って、あ……短く声を上げる。
「落札価格を聞くの忘れた」

 大晦日から元旦にかけた一泊で帰省した。
 そこそこ大柄だった父親は、見る影もなくやせ細り、別人のようだった。事故で脊髄に損傷を負い、うつ病の症状も出ている。もう仕事は無理だろうと医者からいわれた。
 リストラに事故。親のくせに息子を借金地獄に突き落として、この上まだ負担を強いてくるのか。家族の足を引っ張るくらいならいっそ死んでくれと、心の中で悪態を吐きながら医者に頭を下げた。
 それでも、病室のベッドに眠る父親の、痩けた顎や額に、苦労の滲む深い皺が刻まれているのを見つけた時は、不覚にも涙が出そうになった。
 母親に仕事の内容は伏せ、京都に移ることを話した。帰省は難しくなるが送金の額を増やせることを伝えると、力が抜けたのか長い長い息を吐いた。そして、ありがとうと泣いた。苦労させてごめんねとも。
 
 佐野から履行日を知らせるメールが入ったのは東京に戻った翌日、1月2日のことだった。
「明日って、まだ正月だよな?」 
 少なくとも正月の三ヶ日は無いだろうと思っていた。
 場所は例のVIP用の客室がある外国人向けのレジデンスだ。決心し覚悟も決まっていたが、いざ明日といわれるとさすがに緊張した。
 サービスは売るが、躯は売らない。
 塵みたいなプライドで高尚ぶっていた自分が青臭いガキだった。
「これまで数えきれない数の男の欲望を満たしてきた。自分の中にこびりついて離れない抵抗感を、何を今更と自分を叱咤し、土気色の父親の顔を思い起こす。金の心配がなくなるのだからよかったじゃないかと鼓舞する心がきりりと痛む。
 自分を売ったのか? 責めるような紅雷の言葉は、今も胸に突き刺さったままだ。
 この痛みを愛しく思うくらいは許してどうか欲しい。

 寒々しい薄曇りの空の下、冬枯の欅の並木を歩いた。
 レジデンスへの最短コースではなく、遠回りする自分の往生際の悪さに自分でも呆れつつ、つと立ち止まって肺いっぱい冷えきった真冬の空気を吸い込んだ。
「なにをやってるんだ、俺は」
 夏に河内に襲われた公園に、紅雷は現れた。ならば、住んでいるのも公園に近い場所かもしれない。気がつけば公園の周辺をぐるりと周るコースを取って歩いていた。
 偶然会えたとしても、どうにもならないことはわかっている。お互い、後味の悪さが残るだけだ。
 なにをやっているんだと、もう一度繰り返し腕に巻いたパネライを見た。
 約束の時間まであと5分もない。
 能勢は時間に几帳面で、どちらかと言うと早めに来るタイプだ。少し歩調を早めなければ、能勢を待たせてしまうことになる。
 少し戻り、レジデンスに一番近い道に折れる。すると街の雰囲気は少し変わり、大きな家ばかりが目につき出す。住宅地としては都内でも地価の高い場所なのだと、佐野が自慢気に話してくれたことがある。。
 一歩、また一歩と、レジデンスが近づくにつれ、手首に巻いたパネライの重みが増すような気がして、外したくなる。それで京都に行くメリットだけを考えようと務めた。
 能勢は洒脱で頭が切れ、自分にはない包容力がある。シーズン毎に美しい作品を生み出す、伝統工芸の作家の貌も持つ。能勢のような男を他に見たことがない。
 京都に行けば、公私で能勢のサポートをすることになり、もう不特定多数の男を相手にすることもない。何より自分の借金がなくなるのは大きい。
 父親の治療費と、事故の賠償金は働きながら返していけばいい。
「いい事だらけだ」 
 
 いつもの格式張った正面の門ではなく、レジデンスへと公園と挟まれた脇道に入った。私道らしく、車一台分ほどしかない古い石畳の片側を、公園の枯木立が迫る。公園の何処かで鳴く高い鳥の声も、もの寂しい雰囲気に追い打ちをかけ引き返したくなってくる。
 スマホを取り出し、佐野が描いてくれた大雑把な地図を呼び出した。
「東西逆だし。下手な地図だな」
 やがて長く続く塀の奥に、青銅色の柵と、跳ね上げ式のカーポートの黒い扉を確認して安堵したところを、背後から声を掛けられた。

「能勢様もいま着かれたところだったんですね。お待たせしたのではなくてよかったです」
 軽く会釈して笑った裕紀の手首に能勢の目が釘付けになる。そして 「司…」 と、徐ろに顔を上げた能勢は切羽詰まった眼をして言った。 
 「すまん、俺は君を落札できんかった」


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04

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広くて長い 9

<9>

 能勢に教えてもらったパスワードを使って、HPのオークションサイトを開いてみた。能勢が言った通り、エラーのロゴと短い謝罪文だけで、再開についての案内などはない。
 喜々としながらオークションを開催した割に、サーバーが復旧するまで待てと、佐野は悠長なことを言った。
 もし今、オークションを中止にしたいと言えば、聞き入れてもらえるだろうか。
 ふとそんなこと考え、即座に頭の中で取り下げる。自分に選択の余地は無い。

 刀や、鋤を模した不思議な形の古銭のレプリカはつくりも雑で、型押しのバリが縁に残っている。緑色の樹脂に虫が入った琥珀(のレプリカ)もよく見れば小さな気泡が入っている。
 いかにもバラマキ用の品々だが、土産物屋で買えばそれなりにボラれるのだろう。紅雷なら、中国人同士でその心配もなさそうだが。
 縁起物の蝙蝠が貼りついた緑の玉を電灯に翳す。
 紅雷に、「これだけは本物だから」 と太鼓判を押された透かし彫りの球体は3層構造になっているようで、一番小さな球体の中に透明なガラスの破片のようなものが入っている。
 本物だと言った時の熱のこもった目。もっと別の意味で本物と言っていたように思えるのは自分の思い過ごしか。対して、冷ややかな笑みひとつで象牙を偽物に変えた紅雷を思い出すと、いまも背中をぞくりと何かが駆け上がって来る。
 玉を箱に戻した。
 きっと紅雷は職場の同僚にも同じようなものを配っているのだろう。
「全員、微妙な顔だな」 乾いた笑い声は部屋の中に吸い込まれて消えた。
 紅雷の言う中国人の義理堅さなど、欲しくない。ではなにを自分は望んでいるというのか。
 幸田に 「裕紀」 と名前を呼ばれながら抱締められた時に感じた、頭の芯の痺れるような感覚。官能に呑まれ、東夷と幸田の名前を呼ぶつもりで無意識に口にした名前は幸田のものではなかった。
 紅雷と一緒に暮らした1年間を、自分がどう過ごしていたのか思い出せない。どうすれば、あの頃の、ただの友人だった時代に戻れるのだろうか。
 大切な友人を友情を、風俗で身についた経験が穢してゆく。
 たった一度、感じた熱が清廉な想いを破壊し、狂った欲望をどんどん増長させてゆく。違う、そうじゃないと、何度自分に言い聞かせても、汚れた恋情は夢の中に何度も紅雷を呼び寄せた。
 何があっても力になると言ってくれた、大切な親友。もしこの汚れた感情を知られたら…。
 侮蔑の眼を自分に投げる紅雷を想像し、ぞっと背中が恐怖で慄えた。

 もう会わない方がいい。そんなことはわかっている。この感情を封印すれば、きっといつかは元の友人関係に戻れる日が来る。
 目の奥が熱くなった。駄目だ、駄目だ、本心は今も会いたい。
 消えてなくなるどころか、想いは濃度を増して、紅雷の事を考える時間は増える一方だ。切なくて、苦しくて、満たされない。
「男を好きになるとか、想定外…だろうよ」 
 しかも相手は旧友ときた。細く長い息を吐いて、夜の間に沈んでゆく。
 こんな夜に限って、指名が入ってこない。

 床の上に置きっぱなしになっていた紙袋を引き寄せ、中から箱を取り出しリボンを解いた。
 黒い革のベルトに黒の文字盤。Paneraiと刻印された腕時計には能勢の携帯番号が記した小さなカードが添えてあった。
 ―― 耳障りのええ返事だけを待ってる
 時計を箱から取り出し、代わりに紅雷の土産を中に詰めた。そして佐野に借りたゲイビの入ったミニキッチンの吊り戸棚に突っ込んだ。
 その夜はもう、食品衛生責任者のテキストを開かなかった。


「束原さん、前に会社の前に来てた人、下に来てますよ」
「え、誰?……あ、下に?」 
 同僚の女の子の耳打ちに、得意先との電話を切ったばかりの裕紀の目が大きくなる。
「待ち合わせですか?」
シマちゃんは入社2年目の経理の子だ。私服姿なのは、帰りがけに紅雷を見つけて戻ってきてくれたからなのだろう。シマちゃんがわざわざ戻ってきた理由は、好奇心にキラキラ輝く瞳を一目見ればわかった。
「ああ、もうそんな時間か」
 それらしく時間を確認するふりをして立ち上がった。
 紅雷と会う約束なんかした覚えはない。会おう、飲みに行こうという紅雷の誘いは、年末は忙しいからというのを理由に尽く断っている。
「その腕時計、カッコいいですね。前から思ってたんですけれど、束原さんって持ち物のセンスいいですよね」
「そうでもないよ。これだって景品だし」 
 お世辞を偽りで受け流し、外回りの上っぱりを羽織ってさり気なく隠す。
「ああそうだ、この伝票だけど経理処理行きのやつなんだ。着替ちゃってるとこを悪いけど、出しといてもらっていいかな?」
 間を置いて、いいですよと答えたシマちゃんが、エレベーターに向かう裕紀を追いかけてきて並んだ。伝票ファイルを抱えてはいるが、歩調を合わせたパンプスは、紅雷のいる1階までついてきそう気配だ。
「あの人、束原さんの大学時代の友達なんですか? いい感じの人ですよね。この前は束原さんのこと睨んでて、凄く怖かったけど、今日は目が合ったらちょこって挨拶してくれたんですよ。格好いいんだけど可愛いっていうか」
 どうやらシマちゃんも、仁王立ちで待ち伏せする紅雷を目撃したひとりらしい。
「伝えとくよ、既婚者だけどね」
「そうなんですか? ちぇっ!」
 あまりに正直な反応に、思わず吹き出してしまった。眉をハの字にして唇を尖らせるシマちゃんを残し、笑いながら一人でエレベーターに乗り込んだ。
「裕紀!」
 歩道を行き交うOLがチラチラと視線を送る中、裕紀の姿を見つけた紅雷が人待ち顔をぱっと綻ばせ、ガードレールから身を起した。
「ちょっと来い」
 近寄ってきた紅雷を斜向かいのカフェまで引っ張っていき、最奥の席に落ち着いた。
 ランチが売りで昼は激混みの店内も、この時間は閑散としている。狙い通り、ウエイターがブレンド2つを運んでくると、店の奥は個室状態になった。

「目立つんだよ、お前は。…ったく、昔は地味な奴だと思ってたのに」
「オレは昔と何も変わってないけど。別に金髪になったわけでもなし、着るものは多少マシになったけど、デカいだけでいまも地味な方だと思うけどな」
 両腕を軽く広げ、自分自身を見下ろして 「ごく普通だ」 と付け加える。
「お前が言うと嫌味になるから言うな」
 同じタイミングでブレンドに口をつけ、同時にソーサーに戻すと、もうカップを持ち上げることはない。これがランチタイム以外で、この店が閑古鳥が鳴く理由だ。紅雷が 「不味い。驚くほど不味い」 と小声で呟く。「こんなに不味いのに店が潰れないなんて、さすが東京だな」 と笑った目許に心臓がチリチリと焦げ付いた。
「……で、今日は何時まで仕事やるんだ?」
 どうやら、裕紀の仕事が終わるまで待つ気らしい。
「年末は忙しいから飲みは無理だって、俺は言ったしメールにも書いたよな?」
 裕紀は露骨に顔を顰めてみせた。
「じゃあ、週末は? この前言ってた映画、上映期間が延長してまだやってんだ」
「土曜日は仕事、日曜日はアッチの仕事で埋まってるから無理」
「夜も週末もじゃ、働き過ぎだろ」
「貧乏暇無しなんだよ。年始はどうしてもクラブの仕事が減るし、稼げる時にしっかり稼いどかねえと……」
 苛々と前髪を掻き上げた手首に紅雷の目が留まる。隠すより早く、紅雷が口を開いた。
「時計変えたんだ?」
「ああ、これな。この前のボーナスで買ったんだ」
またしても偽りをすらすらと口に乗せる。自分が真っ正直な人間だとは思わなかったが、ここまで衒いなく嘘がつける自分を薄気味悪く感じた。
「見せてもらっても?」
取り立てて目立つデザインではない。どちらかと言うと地味で素っ気ないくらいなのに、人の目を惹き自分に嘘をつかせる。こんなことなら付けてくるんじゃなかったと、後悔ししつつ手首から外して紅雷に渡した。
「これいくらするか知ってる?」
 俯き時計のケースをひっくり返した紅雷が、探るような上目使いで訊いてきた。
 あまり聞いたことのないブランドだ。紅雷の腕に嵌まる物々しいブライトリングに比べれば随分と簡素に見える。そう安物っぽくもないと思うし、せいぜい5~6万くらいか。いや能勢の選ぶ時計なら、もう少し値が張るかもしれない。
「240万円。20代の社員に、こんな高価な時計が買えるほどのボーナスをくれるなんて、食肉を扱う会社ってよっぽど儲かるんだな」
 飛び出しそうになった目玉で、紅雷から無言で返された腕時計をガン見した。
 カーブした四角いケースにスモールセコンド。至ってシンプルで、裏がシースルーになっているところはちょっと珍しいかもしれない。
「そんなけ稼ぎがあるんなら、副業なんかしなくても奨学金は簡単に返せるんじゃないのか」
「ニ…セモノかも」
「パネライのラジオミール 1940シリーズ 間違いなく本物だ。こんな本気の貢物、誰に貰った?」
「お前には関係ないだろう」 
 紅雷に貢物と責める口調で決めつけられ、それが的を得ていることで余計に腹が立った。
 
「仕事に戻る」 
 膠着する空気に耐えられず、席を立つと紅雷も立ち上がった。
「俺は忙しいんだ、どけ」
 口を固く結んで押し黙り、岩のように行く手に立ち塞がった紅雷を睨みつける。退けよと繰り返すと、切れ長の眼がすうっと細まった。静かに沈む漆黒の虹彩に捕えられ、進退が取れなくなる。
「再会したあの夜みたいに、また俺から逃げるのか?」
 ぱんと横面を張られたような衝撃に、思わずよろめいた。
 河内に襲われ助けてもらったあの再会の夜、自分を呼び止めた紅雷から逃げようとした。紅雷は気付いていたのだ、落ちぶれた自分を見られたくなくて逃げようとした、卑屈で姑息な自分に。
 全身が屈辱で熱くなる。脈拍が乱れてまともに息もできなくなり、目の前が滲んでぶれた。
「年が明けたら、俺は京都に行く」
 もう紅雷の顔も正視することが出来なかった。俯いた視線は、板張りの床に立つ紅雷のオックスフォードシューズを凝視めた。
「京都?」
 一瞬、僅かに怯んだ紅雷の声が、すぐに確信したかのように鋭くなった。
「旅行…とかじゃなさそうだな。仕事はどうするんだ。食品衛生責任者の資格は? 取るんじゃなかったのか」
「仕事は、新しい仕事先を見つけた。収入も増えるし、借金も返せる」
 固まった首を無理矢理上げると、揺らぐこと無く自分を見据えた紅雷の眼とぶつかった。逃げるような、そんなみっともない真似はもうしない。突き刺すような視線と刺し違える覚悟で見返すと、受け止めた言葉を噛み砕くように紅雷の頬に力が籠もる。
 不意に紅雷の目が見開かれた。

「売ったのか? ……自分を」

 言葉の衝撃に薙ぎ倒されそうになる。
 眇まる紅雷の目、怒りに戦慄く広い肩。それらが侮蔑を滲ませる瞬間が、すぐそこに来ていた。
「それが仕事だからな。なんで今更、そんな目で俺を見る? 知ってて旧交を深めようとしたのは紅雷、お前の方だ」
 ぎらついた怒りが紅雷からふいに消えた。眇めた目蓋を慄えさせ、いつもは大人然とした顔が泣くのを堪える子共のような表情に変わる。
「もう一度、親友に戻りたい。いやあの頃よりもっと……と、そう願ったのは、オレだけだったっということか」
紅雷の双眸から、熱っぽさのようなものが潮のように引いて行く。代わりに悲しげな色で満たし目が力なく笑った。眼の奥が熱くなって、鼻がツンとする。落ちた紅雷の肩に手を伸ばしそうになるのを拳を握って。
すぐ謝れば、きっとまだ間に合う。優しい紅雷のことだから、怒りはしても許してくれる。消え去ろうとする友情に追い縋って、引き止めて。だがその後は、どうなる?
 紅雷が好きだ。
 過去に友達だったというそれだけで、堕ちてしまった友人の力になろうと必死で手を伸ばすこの男に、恋してしまった。友情という流れを変えてしまった自分に、流れゆくその先はない。
 だから深く呼吸をひとつ吐いて、流れにとどめを刺した。
「金さえ出せば、誰にでも…そう、お前にだって俺は自分を売る。俺はそういう男だ。お前も、もうわかってんだろ」
 壊れてゆく。紅雷も自分も友情も。
「友達ごっこはもう終わりだ。わかったら金輪際、電話もメールもしてくるな」
 腕を押すと、あっけないほどに紅雷は道をあけた。


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