01 ,2009
翠滴 2 AZUL 2 (30)
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「僕が、というか僕たちが周と始めてあったのは、
周が高校に入学した年でね、あの時のインパクトは今も忘れないよ」
そうい言われ、享一も周と初めて庄谷の屋敷で会った時の衝撃を思い出した。、ただでさえ、人を惹き付ける強烈な魅力を持つ周に、誘惑を秘めた視線で捕らえられ、目も心も根こそぎ『永邨 周』という男に奪われた。あの時の周を思い出すと今でも鼓動が高まり、胸の中で甘美な爆発が起こる。
花隈は一旦立ち上がり、享一と自分に濃いコーヒーを淹れサーブすると、花隈の知る”永邨 周”を語りだした。
その夜、花隈は神前 雅巳(こうさき まさみ)らとともに神前の主催するベンチャー会社のプロデュースしたナイトクラブを訪れていた。バーが主体の店だが、料理の味も悪く無い。
神前という男は、端麗な顔と洗練された物腰のお陰で、一見 性格がよく頭の柔らかい人間に見えるが、その実 完璧主義で冷酷な一面を持っており、相当頭の切れる男だった。
幼い頃から帝王学を叩き込まれた神前が、大学在学中に起こしたベンチャー会社は、見かけの風貌と仕事に対する冷徹さが功を奏して順調に成長を遂げていた。
神前は何気に店内にチェックを入れながら、内装に文句をつける河村の言葉に、大人しく耳を傾けている。その神前も、不思議と河村だけは学生時代から馬が合うようで、2人でもよく会っているらしかったが、花隈は神前の裏表が激しく底の見えない昏さがどうにも、好きになれなかった。
深夜0時過ぎ。少年が友人と共に店に入ってきた瞬間、クラブ中の客の視線が集中した。少年は初めてこの手の店に来たのか物珍しそうに店内を見回しては、自分に注がれる好奇や羨望のまなざしを気にするでもなく軽やか足取りで混雑する店内をすり抜ける。
蠱惑的なオーラを、無防備にだだ漏れ状態で撒き散らしながらグリーンのカラコンを嵌めた瞳が空席を探して店内をさまよい、時々友人を振返り短く言葉を交わしては薄く笑う。
撫でるように視線を移すその視線は、こっそり2人に注目するギャラリーの胸を片っ端から掻き乱していった。
店の奥のVIP席に座っていた花隈も、まだ若く場慣れしていないとわかる無防備なその姿に、魅惑と危うさを感じ、目が放せないでいた。
「ふぅん。凄い上玉がいたもんだな。かなり若そうだけど」
「ああ、神がレシピを間違えて創っちまったんだな、ありゃ」
隣りに座る圭太が短い口笛を吹き、その隣に座る同窓の平井が感嘆の声を漏らす。
呼び止められたのか、少年のしなやかな歩みが不意に止った。
連れの友人が困惑気味な表情で狽え、落ち着いてはいるものの少年も迷惑気に顔を顰めている。
声を掛けたらしき男の手が止まった少年の腕に掛り、少年が憮然と振り払うと、座っていた男が立ち上がった。若い遊び人風の男で、酔っているのか日焼けした浅黒い顔に穿たれた目は血走って澱んでいる。成り行きを面白がった同じテーブルの3人の男たちが冷やかしを入れる。
男は下卑た笑いを浮かべ、動かない少年の顎を手で捕らえると、無表情の少年の唇に自分のそれを近づけた。店内のあちこちから口笛や「うそぉ!」「誰か助けてやれよ」などのどよめきが上がる。
立ち上がりかけた花隈を、河村が制する。
「止めるなよ、薫。面白いことになりそうじゃない。それに、こっから駆けつけても、もう間に合わないぜ」
唇が重なるその瞬間、少年はニヤリ嗤った。
少年の指先がひらりと舞ったかと思うと、今にも唇を重ねようとしていた男が声も無くそのまま崩れ落ちた。残りの男たちが色めきたって、立ち上がると少年はは友人を後ろに押しやり、男たちから繰り出される拳を事も無げにするすると躱し、相手の懐に入ったかと思うと、撫でるような仕草で相手を仕留める。
優雅で鮮やかな動きに目を奪われ、気付いたときには椅子やテーブルが被害を受ける事も無く、4人の男がうつ伏していた。
少年の視線がチラっとこちらを向いて、何かに気付いたかのように目を見開くと、先と同じ軽い足取りで花隈達の席までやってきた。秒速で心臓を鷲づかみにする はにかんだ笑顔を浮かべ、さっきの乱闘など、どこへやらという風情で丁度2人分空いている席を指差しながら無邪気に訊いてきた。
「すみません。ここ、あいてますか?」
的を得たような、間の抜けたような質問に花隈たちが唖然としていると、
「構わないよ。君たちにはソフトドリンクを持ってこさせるから、そこに座って反省したまえ。俺はちょっと、後処理に行ってくる」
後半は河村に耳打ちして神前が席を立った。
その後ろ姿を、怪訝な顔で見送る少年に神前の関係のある店だと告げると、美しい眉根を寄せ、申し訳なさそうな顔をしたのが印象的だった。
その時になって、永邨 周(あまね)と名乗る少年の翠の瞳が裸眼である事に気が付いた。
「で、あの男になんていわれたの?」
ニヤニヤと好奇心を剥き出しにした河村が訊くと、周は爽やかに笑いながらも、表情とは裏腹の凶暴な色を翠の瞳にチラつかせ答えた。
「キスしたら一晩保護者の代わりをしてやるって言うから、断っただけなんです。僕は子供じゃないし、頭の悪い保護者は願い下げだって言ったら、怒ってしまって」
オレンジジュースのグラスに口をつけながら、悪びれた風も無くあっさり言ってのけ、赤味がかったイタリア産オレンジジュースの味を絶賛した。
物珍しそうに再び店内を見回す周の顔は、格闘の興奮が残っているのか頬が薄らと高揚に染まり、翠の虹彩が興奮と好奇心にきらきら輝いて、ちょっと見蕩れてしまうくらいに美しい。
周は心配げに自分を見つめる花隈と目が合うとニッと笑った。
花隈は、凶暴さと冷静さの相反する二つのものをその内側に内包し、端然と座る美しい少年に感嘆する一方で、一抹の危うさみたいなものを感じた。
店の裏から戻ってきた神前に気がつき、花隈は座るように声を掛けようとして、ふと思いとどまった。神前は少し離れた場所で突っ立ったまま、複雑に揺らめく昏い瞳でじっと周を見ている。
妙な胸騒ぎを覚えた。
花隈は後々まで、その時の食い入るように周を見詰める神前の顔を忘れることが出来なった。
「僕が、というか僕たちが周と始めてあったのは、
周が高校に入学した年でね、あの時のインパクトは今も忘れないよ」
そうい言われ、享一も周と初めて庄谷の屋敷で会った時の衝撃を思い出した。、ただでさえ、人を惹き付ける強烈な魅力を持つ周に、誘惑を秘めた視線で捕らえられ、目も心も根こそぎ『永邨 周』という男に奪われた。あの時の周を思い出すと今でも鼓動が高まり、胸の中で甘美な爆発が起こる。
花隈は一旦立ち上がり、享一と自分に濃いコーヒーを淹れサーブすると、花隈の知る”永邨 周”を語りだした。
その夜、花隈は神前 雅巳(こうさき まさみ)らとともに神前の主催するベンチャー会社のプロデュースしたナイトクラブを訪れていた。バーが主体の店だが、料理の味も悪く無い。
神前という男は、端麗な顔と洗練された物腰のお陰で、一見 性格がよく頭の柔らかい人間に見えるが、その実 完璧主義で冷酷な一面を持っており、相当頭の切れる男だった。
幼い頃から帝王学を叩き込まれた神前が、大学在学中に起こしたベンチャー会社は、見かけの風貌と仕事に対する冷徹さが功を奏して順調に成長を遂げていた。
神前は何気に店内にチェックを入れながら、内装に文句をつける河村の言葉に、大人しく耳を傾けている。その神前も、不思議と河村だけは学生時代から馬が合うようで、2人でもよく会っているらしかったが、花隈は神前の裏表が激しく底の見えない昏さがどうにも、好きになれなかった。
深夜0時過ぎ。少年が友人と共に店に入ってきた瞬間、クラブ中の客の視線が集中した。少年は初めてこの手の店に来たのか物珍しそうに店内を見回しては、自分に注がれる好奇や羨望のまなざしを気にするでもなく軽やか足取りで混雑する店内をすり抜ける。
蠱惑的なオーラを、無防備にだだ漏れ状態で撒き散らしながらグリーンのカラコンを嵌めた瞳が空席を探して店内をさまよい、時々友人を振返り短く言葉を交わしては薄く笑う。
撫でるように視線を移すその視線は、こっそり2人に注目するギャラリーの胸を片っ端から掻き乱していった。
店の奥のVIP席に座っていた花隈も、まだ若く場慣れしていないとわかる無防備なその姿に、魅惑と危うさを感じ、目が放せないでいた。
「ふぅん。凄い上玉がいたもんだな。かなり若そうだけど」
「ああ、神がレシピを間違えて創っちまったんだな、ありゃ」
隣りに座る圭太が短い口笛を吹き、その隣に座る同窓の平井が感嘆の声を漏らす。
呼び止められたのか、少年のしなやかな歩みが不意に止った。
連れの友人が困惑気味な表情で狽え、落ち着いてはいるものの少年も迷惑気に顔を顰めている。
声を掛けたらしき男の手が止まった少年の腕に掛り、少年が憮然と振り払うと、座っていた男が立ち上がった。若い遊び人風の男で、酔っているのか日焼けした浅黒い顔に穿たれた目は血走って澱んでいる。成り行きを面白がった同じテーブルの3人の男たちが冷やかしを入れる。
男は下卑た笑いを浮かべ、動かない少年の顎を手で捕らえると、無表情の少年の唇に自分のそれを近づけた。店内のあちこちから口笛や「うそぉ!」「誰か助けてやれよ」などのどよめきが上がる。
立ち上がりかけた花隈を、河村が制する。
「止めるなよ、薫。面白いことになりそうじゃない。それに、こっから駆けつけても、もう間に合わないぜ」
唇が重なるその瞬間、少年はニヤリ嗤った。
少年の指先がひらりと舞ったかと思うと、今にも唇を重ねようとしていた男が声も無くそのまま崩れ落ちた。残りの男たちが色めきたって、立ち上がると少年はは友人を後ろに押しやり、男たちから繰り出される拳を事も無げにするすると躱し、相手の懐に入ったかと思うと、撫でるような仕草で相手を仕留める。
優雅で鮮やかな動きに目を奪われ、気付いたときには椅子やテーブルが被害を受ける事も無く、4人の男がうつ伏していた。
少年の視線がチラっとこちらを向いて、何かに気付いたかのように目を見開くと、先と同じ軽い足取りで花隈達の席までやってきた。秒速で心臓を鷲づかみにする はにかんだ笑顔を浮かべ、さっきの乱闘など、どこへやらという風情で丁度2人分空いている席を指差しながら無邪気に訊いてきた。
「すみません。ここ、あいてますか?」
的を得たような、間の抜けたような質問に花隈たちが唖然としていると、
「構わないよ。君たちにはソフトドリンクを持ってこさせるから、そこに座って反省したまえ。俺はちょっと、後処理に行ってくる」
後半は河村に耳打ちして神前が席を立った。
その後ろ姿を、怪訝な顔で見送る少年に神前の関係のある店だと告げると、美しい眉根を寄せ、申し訳なさそうな顔をしたのが印象的だった。
その時になって、永邨 周(あまね)と名乗る少年の翠の瞳が裸眼である事に気が付いた。
「で、あの男になんていわれたの?」
ニヤニヤと好奇心を剥き出しにした河村が訊くと、周は爽やかに笑いながらも、表情とは裏腹の凶暴な色を翠の瞳にチラつかせ答えた。
「キスしたら一晩保護者の代わりをしてやるって言うから、断っただけなんです。僕は子供じゃないし、頭の悪い保護者は願い下げだって言ったら、怒ってしまって」
オレンジジュースのグラスに口をつけながら、悪びれた風も無くあっさり言ってのけ、赤味がかったイタリア産オレンジジュースの味を絶賛した。
物珍しそうに再び店内を見回す周の顔は、格闘の興奮が残っているのか頬が薄らと高揚に染まり、翠の虹彩が興奮と好奇心にきらきら輝いて、ちょっと見蕩れてしまうくらいに美しい。
周は心配げに自分を見つめる花隈と目が合うとニッと笑った。
花隈は、凶暴さと冷静さの相反する二つのものをその内側に内包し、端然と座る美しい少年に感嘆する一方で、一抹の危うさみたいなものを感じた。
店の裏から戻ってきた神前に気がつき、花隈は座るように声を掛けようとして、ふと思いとどまった。神前は少し離れた場所で突っ立ったまま、複雑に揺らめく昏い瞳でじっと周を見ている。
妙な胸騒ぎを覚えた。
花隈は後々まで、その時の食い入るように周を見詰める神前の顔を忘れることが出来なった。
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
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いよいよですね、周と神前の関係がはっきりしていくのですね。
ずっと凄く気になっていた部分です。
神前の恐ろしいくらいの執着とか、その意味も分かってくるのでしょうか?
凄くドキドキしながら、次話を楽しみに待っております。