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紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
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*お知らせ*
長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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 <SS> - 願 -
                  - 願 -

 「享一君とケンカしたんですか?」

 声の方に目を向ると、静が対面式のキッチンカウンターの向こうから問い掛ける視線が投げて寄越された。

 静が作ってくれたウォッカマティーニに口をつけた。
 専用のグラスではなくタンブラーになみなみと注がれたマティーニを嚥下すると、
 トロりとした液体が喉を焼きながら下りてゆく。

 「シズカ、ウォッカが多すぎる。どうしてお前って仕事を離れると、
 こうもアバウトなんだ?」
 静は困ったような照れたような顔をして、希少品のフロマージュとプロシュートを惜しげもなく盛った硝子の皿を、ローテーブルの上に置く。
 河村の顔が伺うように静の顔を見上げる。

 「シズカ、これ商売用だろう?」
 「圭太さんは、うちのお得意様ですし、大サービスです」
 鳶色の澄んだ瞳が細まって笑う。意在言外で、『今日は特別に・・・・』 と顔に書いてある。
 こういう細やかで柔らかい対応が、シーラカンスのような大人な雰囲気の店に 
 合っているのだと思う。

 「悪いな、いきなり押し掛けて」
 「全然・・・、久し振りに圭太さんに昔の愛称で呼ばれて、高校時代に戻ったみたいで嬉しいですよ」
 「お前、中坊の時から薫にくっついてたもんな。あん時はムサい髭も無くて、白眉の美少年て感じで可愛かったのに、今じゃ、バカ兄貴とお揃いの髭面だよ」
 片眉を上げて、わざとらしく溜息をつく。

 薫の話題が出ると静の顔が鬱ぎがちに曇った。かつての美少年は今も充分に美人で、軽く伏せた瞼の縁を飾る睫毛を僅かに震わせている。その表情に今し方、部屋に置いてきた恋人が重なり胸が軋んだ。

 「今日は兄貴がすみませんでした」

 頭を下げ、そのまま固まっている静に懐かしい感情が過ぎった。
 自分は何も悪くはないのに、あまりにも申し訳なさそうにする。静は昔からそうだった。控えめで、なんに対しても自分に非を感じ、自ら貧乏くじを引く。
 いつまでも変らぬ、弟のような幼馴染みの仕方のない癖に溜息と微かな笑みが漏れた。

 「シズカが今、薫の顔見たら、謝んのは俺の方だって、きっと怒りたくなると思うけどな」
 静は複雑な笑いを浮かべ
 「いえ、今日のは兄貴が悪い。圭太さんに向かって、あんな風に享一君の気持ちを断言する物言いをするなんて・・・デリカシーがなさ過ぎました。いつもはあんなんじゃないのに・・・・」思い詰めたように口を閉ざす。

 顎に手を伸ばして静の髭を軽く引っ張った。静が吃驚した顔をして、弾かれたように上体を引く。
 「シズカ、この顎髭落とせよ。お前はデブい薫と違って美男子なんだからさ。その方がシーラカンスのオーナーも喜ぶし、客も増える・・・・て、これ以上ファンは要らないか」

 「圭太さん、享一さんを、諦めるんですか?」
 話題を変えようとした河村に、静は先の質問を剥き出しにして再び口にした。
 職業柄というよりは性格か、静が人のプライベートに、こと恋愛事に首を突っ込んでくるのは珍しい。兄の言動を余程気にしているのか、切迫した鳶色の瞳が揺れている。自分にとっても弟のような存在である静の動揺に、安心させてやりたいと思う柔らかい気持ちが湧き強張っていた心が弛む。

 「まさか、享一を諦めるつもりは毛頭ないよ。薫が口にしなくても、遅かれ早かれアイツは、動かしようのない自分の気持ちに気付いたと思う。俺はね、そういう享一の全てが欲しい。無理強いやゴリ押しで手に入れるんじゃダメなんだ。雅巳と周がいい例だろう?」
 「なあんてな・・・・・実は俺も、もう少しで道を踏み外しそうでヤバかったけどね」
 「え・・・?」

 自嘲気味な科白に、静が固まるのを感じた。
 「マジで、監禁しそうになった・・・って言ったらお前、引く?」
 冗談っぽく上目遣いに笑って答えると、静も安心したように静かに笑う。
 「圭太さん、人が悪いな。一瞬、真に受けそうだった」
 ただ、お互い目が笑っていない。先に河村が視線を落とした。
 無言で空になったタンブラーを傾ける。
 氷が澄んだ高い音を立てた。

 「圭太さん・・・」
 「シズカ、酒のおかわり作って」
 静は何も言わず、タンブラーを持ってキッチンに立った。
 今頃、享一はどうしているだろうか?今は、幾ら飲んでも酔えそうにない。




 静かな部屋に、微かな寝息が聞こえる。
 静はソファで眠る河村に毛布をかけると指先でそっと河村の頬を撫ぜた。
 河村が前から指摘するように自分には髭が似合わないことはわかっている。
 強い酒に思考を奪われ、ようやく眠りに落ちた河村に言い聞かせるように呟く。
 「俺が髭を剃らないのは願掛けしているからだよ、圭太さん。大切な人がいつか自分を見つけてくれたら、その日が来たら、髭は落とします」

 他の男に焦がれる唇に想いを込めて自分の唇を重ねる。
 どうか、この願いが届きますように。



***ふたりのこの後の物語り***
  ↓ ↓
 深海魚
 目次 

  □□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
 


「潮騒3」に手を入れました。すみません(汗
見直しもろくに出来ず、バタバタと更新したのが悔やまれます。
元が元だったので、改善にも限度がありストーリーも変わっていませんが、
興味のある方はご覧下さい。


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Comments

Kさま、はじめまして~(*^o^*)
 Kさま、コメントをありがとうございます。
わ~~~~っ!!スミマセン、スミマセン!!!
正月早々、Kさまの気分を どんよりさせてしまって・・・・
書いているわたし自身が重圧を感じて時々、唸り声をあげています。
プロットのラストのハピエをひたすら目指して、書き進む以外に2人もわたしも
救われる道はないくらいの気持ちで、のた打ち回りながら書いています。

 享一は、人の心は変わっても仕方がないと思っていますが、それだけに
自分は一途でありたい、そうあろうと思っています。
お互いの、今はすれ違っている相手を思いやる気持ちや、信念みたいなものが
徐々に絡まり一つに纏まっていく様を表現できれば良いな~。

ここから、ラストに向けて一気に行きたいところなのですが、悲しいかな
なかなか、記事が書ける状況になりません。
ジリジリと更新していきますので、ラストのハピエを見に
また遊びに来ていただけると、嬉しいです♪
ありがとうございました♪
ああっ・・ココにも、自分の想いを胸に秘めている人が居たのですね・・。
一方通行の想い・・。
切ないですね・・。

遅くなりましたが、
あけましておめでとうございます!!
今年も、よろしくお願い致します。
《翠滴》楽しみにしておりま~す!!
ミートンメートンさま、あけましておめでとうございます♪
 はい、こんなところにもこっそり切ない人が・・・
もう、こんなんばっかりやん~~!!! 
もう、ここって不幸サイト??ってなぐらい、
めでたい話がありません。。。トホホ

 ミートンメートンさま、
こちらこそ、本年もよろしくお願いします(ペコリ
そちらにも、またあそびに行きますのでよろしくです♪

もしずっと恋心がむくわれなかったら
静はひげだるまになるんですか?
静さんて受けなんですよね……
でも美形らしいし♪
ひげだるまでも熊男でもなんでもいいわ。
美男の髭面というのは格好いいよね。
静さんて性格的におっとりしてそうなのに、髭……
うーん。いっしょうけんめい想像してます(笑)
Re: もしずっと恋心がむくわれなかったら
 7月さま、こちらにも!ようこそでっす!

> 静はひげだるまになるんですか?
 ・(爆)~や、職業柄、鬚は揃えていると思いますので、だるまさんにはならないと思います。

> 静さんて受けなんですよね……
> でも美形らしいし♪
 ・なんで、こんな設定にしちゃったんだろう~~
 翠滴で初めて出した時は、まさかメインで書くことになると思わず、超アバウトな容貌にしてしまいました。後悔先に立たず。
 しかも5話前後で終わる筈が、ねちねちと30話付き合ってしまいました。

> 美男の髭面というのは格好いいよね。
 ・残念ながら静は、ワイルド系ではなく千細くん。
 鬚は、微妙です(笑)

> 静さんて性格的におっとりしてそうなのに、髭……
> うーん。いっしょうけんめい想像してます(笑)
 ・鬚面の乙女・静は私のキャパを軽く超えてますので、よろしかったらひとつねがいしま~す←オイ!

  連コメ&ご訪問、ありがとうございました。

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