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紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
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長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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Category: 翠滴 2 (全53話)

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翠滴 2 潮騒 3 (28)
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 「簡単な事だな、こうしてしまうと享一は何処にも行けない。いい眺めだ」
 「・・・・・」
 「いつまで経っても、お前の心に巣食う他の男を追い出せないのなら、
 お前のこの身体を俺で満たすまでだ。いままで、俺がどれだけ享一を
 大切に扱ってきたか、今日はこの身体に教えてやろう
 享一のまだ知らない未知の快感を味合わせてやる」

 そう言うと、タートルを脱ぎ去る。わき腹に薄紫の打ち身のような痣を見つけて、目が釘付けになった。よく見れば唇の端にも少量の血液がこびり付いていた。口を開こうとした享一の唇を、河村の指の腹が押さえ、そのまま唇の形が変わるほどに力をこめて弄ぶ。

 「ふふ、コレ?薫と殴り合い。原因なんて野暮は聞くなよ」

 唇から指が去ると河村の顔が近づいてきて口角を上げ酷薄な笑いを浮かべる。縛られた腕の下からまわった河村の掌が享一の髪の毛を鷲づかみにして仰け反らせ半開きなった唇の隙間に舌を差し込んできた。河村の髪を結わえていた紐が解けて髪先が喉や頬を擽る。河村の愛撫に慣れきった享一の躯が、享一の意思とは裏腹に反応し始め次第に息が上がりだす。 

 「圭太さん、ダメだ・・止めて」

 懇願の声が掠れた。

 縛られた腕を頭上に強く押さえ付けられ、享一の弱い場所ばかり選んでキスを落される。
 無意識に頭を背けた。顎の下の柔らかい場所を強く吸われて、喘ぎが漏れた。
 解けた河村の髪の毛の先が、官能を呼起こす熱を孕んで、さらさらと享一を捕らえてゆく。
 
 波の音が聞えた。

 河村の髪が耳朶や項にあたる音なのが、熱を持ち出した肌がシーツを擦る音なのか。潮騒はどんどん大きくなって、河村に馴れ切った躯を容易に官能の波間に引き摺り込もうとする。

 河村の舌が執拗な動きで、淫らな色に染まる胸の尖りを弄び食んだ。その間も河村の指は脇や鎖骨の窪み、耳の下の柔肌を、時に強くそして力を抜いて緩かに弧をかきながら刺激し欲情の熱を埋め込んでゆく。胸の尖りはその都度、形が変るほど強く舌になぶられて躰の深くに潜む快感を揺り起こし、身体を横たえながらにして眩暈を起こしそうだった。

 なんとか、止めさせようと腕を繰出そうとするがその度、頭の上で鉄のシンプルな装飾が軋む音を立て、麻混のネクタイのエッジが作る赤い擦傷が手首に増えた。

 下衣と肌の間に河村の指が滑り込んできた。何度も繰返した感触のはずなのに、全く知らない男の手に触れられたようで、皮膚が粟立ち頭が混乱する。
 呼起こされた快感に、湿り気を帯び 呆気なく反応を起した証しを確めると、河村は低く嘲笑う声を漏らした。下衣を一気に剥がされ、躯中を羞恥に赤く染めて顔を背けた。

 「脚・・・・・開けよ享一」
 もう、河村は笑っていなかった。焦れて焼け焦げた黒い闇だけが河村の目を支配している。河村にこんな顔をさせているのは自分だ。享一は一度、河村の顔を見上げると諦めたように瞳を閉じ、言われた通りに脚を広げる。冷めた声が頭上から降ってきた。

 「淫乱なんだな、享一は。心の中では別の男を抱きながら、
 俺の愛撫に反応して、俺を受け入れる」

 淫乱・・・・。ああ、そうなのだと思う。
 過去に自分の事をそう思った事があった。自分にはあの父親の血が流れているからと。あの時、目の前にいたのは・・・・確かめようとゆるりと目蓋をひらくと、天井のトップライトを透して下弦の月が冴え冴えと輝くている。あの夜、漆黒の闇の海を恋焦がれた男と手を繋ぎ、戯れながら月の光から逃れた。

 ずっと耳の奥で鳴っていた潮騒がいきなり止んだ。

 アマネ・・・・・許してくれ。心の中の、周の幻に許しを請う。

 再び閉じた瞳からとめどなく涙が溢れ、声を上げまいと息を殺す。躯は、脚の間にいる河村の侵入を受け止めようと強張りながらその時を待っている。もう、なにも聞こえなかった。息の詰まりそうな沈黙に鼓膜が圧迫され、時間さえも間延びしたように感じる。

 小さな吐息をひとつ、聞いた気がした。

 腕が引っ張られる感覚に続いて、拘束されていた腕が急に自由になった。
 驚いて目を開けると、手首を戒める河村がネクタイを解いている。

 「・・・・・圭太さん?」
 「俺が欲しいのは、心の中に他の誰かを抱いたままのお前じゃない
 俺が手に入れたいのは、俺を尊敬し奉る男じゃなく俺に触れられて 
 甘い雫を零しながら打ち震える 時見 享一だ
 情や力で支配して手に入れるのは、俺の信条に反する」

 河村は享一の手首に出来た擦り傷を確かめた後、手を離しベッドから降りると脱ぎ捨てたタートルを身に着ける。なんと声を掛ければよいのか分らず、身を起こし無言で俯いた。
 河村が床に落ちたネクタイを拾って享一の目の前に差し出した。
 戸惑いながら手にする。
 
 「それはお前に、買ったものだ」

 驚いてネクタイに目を落とす。一見黒っぽいが、よく見ると絹と麻の綺麗な色の糸が、軽快なパターンで織り込まれている。タグには”GLAMOROUS”とナイトブルーの絹糸で刺繍がしてある。斬新で美しい。芸術品と呼べる品だと思う。
 その顎下に手が伸びてきて俯いた顔を持ち上げられる。河村と目が合った。

 「・・・・・・・・・」
 「周は恋敵だからな、それが唯一の俺の餞だ。それと、事務所を去ることは許さない。
 俺はお前を誘惑しつづけて、再びお前を堕す。そのチャンスはもらう権利が俺にはある筈だ」

 言い放ち、自分の捕らえた顔を見下ろしてくる河村の端麗な顔に月光が落ちて冷たく冴える。魔王の威厳を放つ建築界のプリンスは絶対服従を望み、受け入れる言葉のみを所望する。過剰なまでの自信と魅力、この強引さに惹かれていた。
 自分の中で爆ぜ続ける光の破片がなければ、失恋の痛手を引きずる自分に忍耐強く手を差し伸べてくれた圭太に、間違いなく全てを委ねていたと思う。

 「・・・・圭太さん、俺は・・・」
 「今日みたいな容赦は二度としない。覚えておけよ」
 
 河村がコートを羽織った。享一の顔が困惑から問いかけるものへと変わる。
 「静のところに行く。鍵はいつものところへ入れといてくれ」

 ”いつもの”、という言葉に二人が共有した時間が確かに存在したという事実が、やるせない痛みを伴って心を締め付ける。河村の出て行った部屋で、享一は自分の血液の付いたネクタイを片手で握り締め項垂れた。


 一睡もせず朝を迎えると、享一は河村のセカンドハウスを出てた。
 まだ薄暗い町を、ひとり足早に通り過ぎ、その足で代官山に向かった。
 
 

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 □□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
 
 
 年末のバタバタどさくさに紛れるように更新した「潮騒3」かなり、手を入れ直しました。もう既に前の記事を読まれた方が大半だと思いますが、このままですと先に進めない気がして書き込みを決意しました。記事を2度読む羽目になってしまった方、ほんとうにごめんなさいm(_ _)m

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