12 ,2008
翠滴 2 シーラカンス 4 (25)
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周(あまね)が愛人・・・ 圭太は何を言っているのだろうか。
「薫、来てたのか。久し振りだな。シズカ、キールロワイヤル頂戴」
圭太が享一を挟むかたちでカウンター席に腰掛けたが、河村を凝視する享一とは、目を合わせない。河村の前に冷えたキールが出された。薄い紅色の液体の中、小さな気泡が真直ぐ列を描いて上り小さく弾ける。いつまでも黙ったままで顔を向けようとしない河村を諦め、視線を外した。
垂れ込めていた鉛色の厚い雲が去り、夕焼色に染まっていた店内は日没とともに急激に色を失い始めた。空が闇の帳を降ろし照度を落した間接照明が、ぼんやり享一や圭太達の顔を照らす。夜の訪れと共に、バー・シーラカンスはその名の通り深海をたゆう静かで朧な空間へと変貌する。
花隈の目は漆黒の海を見つめる圭太の横顔に注がれたままで止っている。その間で享一は、独り息を殺して海底を彷徨っていた。
圭太は周を知っていた。その事実が享一を混乱させる。
隣に座る圭太から香る馴染みのはずのトワレが、よそよそしい他人の香りに感じられた。
圭太は何をどこまで知っているのか?
落ち着き払い煙草をくゆらせる。圭太に、お互いの知人が一致したという偶然を驚く様子はなかった。やはり、前から周と自分の関係を知っていたとしか思えない。
なぜ、知られてしまったのか?周の話を圭太にした事は無い。言えるはずもない。
自分は周を忘れる為に圭太を利用しているのだから。
犯罪と言われても仕方のない祝言の一件がある限り、張本人である周の口から漏れたとも考えられない。
何故?
「圭太さん、・・・・・周さんをご存じだったんですか」
「ああ。周は俺達のアイドルだったからな」
「は?」
周に冠するにはあまりにかけ離れた言葉に、享一は軽く面食らった。
愛人とかアイドルとか、河村の言っているのは、本当に自分の知っている永邨 周の話だろうか?
「サクラちゃん、今まで圭太が周の知り合いだって、知らなかったの?」
「初めて知りました」
圭太はカウンターに両肘を付き、軽く組んだ指の上から横目で享一の力の抜けた顔を見ていた。ここで薫に会った事を忌々しく思い、心の中で舌打ちをする。まだ、早過ぎる。
不安定に揺れている享一の心が完全に自分に傾き安心出来るまで、周の事は話す気は無かった。舵取りを間違えれば、完全に享一を失う事にもなり兼ねない。
「やっぱり薫が周の祝言のメイクをやったんだな。
あれは・・・あの周の婚姻は、詐欺だよ。"サクラちゃん"」
衝撃に心臓が跳ね上がった。
祝言の偽装がバレると言うことは、自分一人の問題ではない。周はもとより、画策した鳴海や茅乃と美操の双子にも影響か及ぶ。
「どうして・・・・」
声が震えた。
「バレたのかって?」
自嘲ように圭太が視線を寄越す。その視線に、自分が原因である可能性が高いことを悟った。動悸が昂ぶる。自分の顔に焦りと、否定して欲しいという懇願が貼り付いているのを感じる。
圭太は享一と目を合わせたまま、享一の反応を試すように先を続けた。
「享一。初めて俺と寝た時、俺に揺さぶられながら何度も周の名前を呼んだのを覚えてないのか?」
ショックだった。
享一の顔が、驚愕と激しい羞恥で染まる。享一の自覚以上に、周は享一の躰に染付いていた。2年のブランクは享一の中の周への想いを薄めるどころか、寧ろ求める気持ちの強さだけ純度を上げて抽出しただけだった。
顔が熱い、自分で促したとはいえ、そんなプライベートな話を花隈の前でするなんて・・・・
だが、次の圭太の小さく呟いた言葉に享一は自分の身勝手さを思い知った。
「酒に酔っていたとはいえ、失礼だよな」
花隈と河村に、立て続けに秘しておくべき話に触れられて、あまりの羞恥に消え入りたくなる。これでは、自分がどうしようもない淫乱な人間みたいだ。享一は圭太と花隈のどちらの顔も正視出来ず、俯いた。
自分は出会いからして、圭太を利用していたということか。
「アマネ・・・・はじめ女の名前かとも思ったが、あの状況で出るのが女の名前の
はずがない。男で”アマネ”なんて珍しいから、揶揄うくらいの気持ちで雅巳に声を掛けた。
享一、会社で雅巳と会ったんだろう? 雅巳は、直ぐにわかったと言ってたよ」
あの日、神前は自分に会って確かめるために大森建設を訪れたのだ。
「周が身を固めた その相手が男でしかも俺の愛しい恋人だなんて、
まるで質の悪いコメディだ。でも・・・もう終わったと信じていいんだよな?」
カウンターに置かれた享一の手に温かい圭太の手が重なった。圭太の瞳が不安気に僅かに揺れる。狡猾で鋼のような精神力を持つ圭太が、弱った顔を享一に見せ傷付いている。
尊敬し、仰ぐ対象である圭太を大切に想っている。
それは確かなのに。享一は自分の浅はかさや狡さを酷く後悔した。
優しくしないで欲しい。
こんな不安と哀訴が入り交じったような目で見つめられるなら、はっきり詰られ責められた方がまだよかった。
周(あまね)が愛人・・・ 圭太は何を言っているのだろうか。
「薫、来てたのか。久し振りだな。シズカ、キールロワイヤル頂戴」
圭太が享一を挟むかたちでカウンター席に腰掛けたが、河村を凝視する享一とは、目を合わせない。河村の前に冷えたキールが出された。薄い紅色の液体の中、小さな気泡が真直ぐ列を描いて上り小さく弾ける。いつまでも黙ったままで顔を向けようとしない河村を諦め、視線を外した。
垂れ込めていた鉛色の厚い雲が去り、夕焼色に染まっていた店内は日没とともに急激に色を失い始めた。空が闇の帳を降ろし照度を落した間接照明が、ぼんやり享一や圭太達の顔を照らす。夜の訪れと共に、バー・シーラカンスはその名の通り深海をたゆう静かで朧な空間へと変貌する。
花隈の目は漆黒の海を見つめる圭太の横顔に注がれたままで止っている。その間で享一は、独り息を殺して海底を彷徨っていた。
圭太は周を知っていた。その事実が享一を混乱させる。
隣に座る圭太から香る馴染みのはずのトワレが、よそよそしい他人の香りに感じられた。
圭太は何をどこまで知っているのか?
落ち着き払い煙草をくゆらせる。圭太に、お互いの知人が一致したという偶然を驚く様子はなかった。やはり、前から周と自分の関係を知っていたとしか思えない。
なぜ、知られてしまったのか?周の話を圭太にした事は無い。言えるはずもない。
自分は周を忘れる為に圭太を利用しているのだから。
犯罪と言われても仕方のない祝言の一件がある限り、張本人である周の口から漏れたとも考えられない。
何故?
「圭太さん、・・・・・周さんをご存じだったんですか」
「ああ。周は俺達のアイドルだったからな」
「は?」
周に冠するにはあまりにかけ離れた言葉に、享一は軽く面食らった。
愛人とかアイドルとか、河村の言っているのは、本当に自分の知っている永邨 周の話だろうか?
「サクラちゃん、今まで圭太が周の知り合いだって、知らなかったの?」
「初めて知りました」
圭太はカウンターに両肘を付き、軽く組んだ指の上から横目で享一の力の抜けた顔を見ていた。ここで薫に会った事を忌々しく思い、心の中で舌打ちをする。まだ、早過ぎる。
不安定に揺れている享一の心が完全に自分に傾き安心出来るまで、周の事は話す気は無かった。舵取りを間違えれば、完全に享一を失う事にもなり兼ねない。
「やっぱり薫が周の祝言のメイクをやったんだな。
あれは・・・あの周の婚姻は、詐欺だよ。"サクラちゃん"」
衝撃に心臓が跳ね上がった。
祝言の偽装がバレると言うことは、自分一人の問題ではない。周はもとより、画策した鳴海や茅乃と美操の双子にも影響か及ぶ。
「どうして・・・・」
声が震えた。
「バレたのかって?」
自嘲ように圭太が視線を寄越す。その視線に、自分が原因である可能性が高いことを悟った。動悸が昂ぶる。自分の顔に焦りと、否定して欲しいという懇願が貼り付いているのを感じる。
圭太は享一と目を合わせたまま、享一の反応を試すように先を続けた。
「享一。初めて俺と寝た時、俺に揺さぶられながら何度も周の名前を呼んだのを覚えてないのか?」
ショックだった。
享一の顔が、驚愕と激しい羞恥で染まる。享一の自覚以上に、周は享一の躰に染付いていた。2年のブランクは享一の中の周への想いを薄めるどころか、寧ろ求める気持ちの強さだけ純度を上げて抽出しただけだった。
顔が熱い、自分で促したとはいえ、そんなプライベートな話を花隈の前でするなんて・・・・
だが、次の圭太の小さく呟いた言葉に享一は自分の身勝手さを思い知った。
「酒に酔っていたとはいえ、失礼だよな」
花隈と河村に、立て続けに秘しておくべき話に触れられて、あまりの羞恥に消え入りたくなる。これでは、自分がどうしようもない淫乱な人間みたいだ。享一は圭太と花隈のどちらの顔も正視出来ず、俯いた。
自分は出会いからして、圭太を利用していたということか。
「アマネ・・・・はじめ女の名前かとも思ったが、あの状況で出るのが女の名前の
はずがない。男で”アマネ”なんて珍しいから、揶揄うくらいの気持ちで雅巳に声を掛けた。
享一、会社で雅巳と会ったんだろう? 雅巳は、直ぐにわかったと言ってたよ」
あの日、神前は自分に会って確かめるために大森建設を訪れたのだ。
「周が身を固めた その相手が男でしかも俺の愛しい恋人だなんて、
まるで質の悪いコメディだ。でも・・・もう終わったと信じていいんだよな?」
カウンターに置かれた享一の手に温かい圭太の手が重なった。圭太の瞳が不安気に僅かに揺れる。狡猾で鋼のような精神力を持つ圭太が、弱った顔を享一に見せ傷付いている。
尊敬し、仰ぐ対象である圭太を大切に想っている。
それは確かなのに。享一は自分の浅はかさや狡さを酷く後悔した。
優しくしないで欲しい。
こんな不安と哀訴が入り交じったような目で見つめられるなら、はっきり詰られ責められた方がまだよかった。
ご訪問いただき、ありがとうございます(*^_^*)
聞けば、地雷を踏まれてしまったとか・・・(ニヤリ
キリリクありましたら、教えてください~♪、、とはいっても、
どうも重くて暗めな、うちのブログ(←最近キガツイタ・・
リクがなくても、ぜ~んっぜん、オッケ~です。
もうもう、ご来訪いただけるだけでうれしいです。
ありがとうございます\(*´▽`)o゚★,。・:*:・☆゚マタキテネ~