12 ,2008
翠滴 2 溢れる水 4 (20)
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夜半、降り出した雨は本降りになってフロントガラスを激しく叩いている。
”GLAMOROUS”のオープニングセレモニーは概ね成功だ。
当然だろう。ブランド、企画、プロデュース、ハードから招待客に至るまで、総てが一流だ。
2次会が跳ねて、次に流れようと誘う声をなんとか振り切り、愛車に乗り込んだ。
早く帰りたい。そして確めたい。その一心で首都高速を飛ばす。
高速のカーブ曲がり、15階の自分の部屋に灯が点いていないのを確認すると
落胆を抑えられず、溜息が漏れた。
「享一…」
泣いていた。
大きく見開かれた瞳から止め処なく涙が溢れ、頬の上を零れていく。
享一が他の男に恋慕を抱いて涙しているというのに、プールから反射する揺らめく光の中で立ち尽くすその姿を、零れる涙の一粒一粒を、途方もなく綺麗だと思った。
享一は、自分が泣いている事に気が付いていないのか、それを拭おうともしない。自分の弱さを隠そうともせず、感情をコントロール出来ずに打ちひしがれ傷付く純粋な子供のようなその姿に、俺の心臓は再び打ち抜かれた。
今頃、自分のアパートのベッドで泣いているのだろうか?
享一の周への想いの深さを見せつけられた気がして、強引に手の中に自分の部屋の鍵を押し付けた。
今すぐ会って、抱き締めて、想いも理性も自由すら…何もかも奪い取って自分だけのものにしてしまいたい。そんな考えが自分の中にも潜んでいる事に気付いて、背中が強張った。
「これじゃ、雅巳と変わらない」
自嘲が漏れる。恋とは、どうしてこう愚かなものなのか。
マンションの1~2階の一角を占めるアトリエに寄り、部屋の合鍵を取ってマンション裏手のエントランスに回る。自分で設計しといて言うのもなんだが、アトリエとマンションエリアを直接繋ぐドアがなぜ無いのか、不便この上ない。
部屋の扉の前で指の間のディンプルキーを見ながら、また溜息が漏れる。享一は俺を野宿させるつもりだったのだろうか?
「アイツめ、月曜から残業攻めにしてやる」
無念さを紛らわすように独り言を呟き、玄関に入った河村の目が見開かれた。
アイボリーの大理石の広い三和土に自分のものでは無い靴が、邪魔にならぬよう隅に並んでいる。逸る気持ちを抑え、リビングに入ると、やはり明りはついていない。常夜灯代わりの間接照明が正面の壁だけを照らし、室内に仄暗く柔らかい光を投げる。
入口に背を向けるように 鍵型に配置したソファの正面にゆっくり回り込んだ。長いソファの一番端に、座った格好のままで享一は眠っていた。
背凭れに頭を預けた顔には、泣いていた形跡が色濃く残る。
起さないようにそっと唇を合わせたつもりだが享一は薄く瞼を上げた。
「享一、来てくれて嬉しいよ」
視線がおどおどと彷徨って自分の手の中に落ちた。享一の掌には河村の渡した鍵が握られ、球状をしたシルバーのキーホルダーが間接照明の光を鈍く反射している。
「鍵が手の中で…熱くなって…」
意識が朦朧としているらしい。意味のないようなあるような言葉をシドロモドロに口にする。享一は、泣いていた名残の赤く腫らして潤んだ瞳を伏せ俯いた。
「嬉しいよ」
壊れ物を扱うように緩く享一を抱きしめる。いま、この腕に力を入れると享一を壊してしまいそうだ。両手の掌で享一の顔を掬うようにして挟み上を向かせると、ソファに片膝を載せてゆっくり唇を重ねた。
夜半、降り出した雨は本降りになってフロントガラスを激しく叩いている。
”GLAMOROUS”のオープニングセレモニーは概ね成功だ。
当然だろう。ブランド、企画、プロデュース、ハードから招待客に至るまで、総てが一流だ。
2次会が跳ねて、次に流れようと誘う声をなんとか振り切り、愛車に乗り込んだ。
早く帰りたい。そして確めたい。その一心で首都高速を飛ばす。
高速のカーブ曲がり、15階の自分の部屋に灯が点いていないのを確認すると
落胆を抑えられず、溜息が漏れた。
「享一…」
泣いていた。
大きく見開かれた瞳から止め処なく涙が溢れ、頬の上を零れていく。
享一が他の男に恋慕を抱いて涙しているというのに、プールから反射する揺らめく光の中で立ち尽くすその姿を、零れる涙の一粒一粒を、途方もなく綺麗だと思った。
享一は、自分が泣いている事に気が付いていないのか、それを拭おうともしない。自分の弱さを隠そうともせず、感情をコントロール出来ずに打ちひしがれ傷付く純粋な子供のようなその姿に、俺の心臓は再び打ち抜かれた。
今頃、自分のアパートのベッドで泣いているのだろうか?
享一の周への想いの深さを見せつけられた気がして、強引に手の中に自分の部屋の鍵を押し付けた。
今すぐ会って、抱き締めて、想いも理性も自由すら…何もかも奪い取って自分だけのものにしてしまいたい。そんな考えが自分の中にも潜んでいる事に気付いて、背中が強張った。
「これじゃ、雅巳と変わらない」
自嘲が漏れる。恋とは、どうしてこう愚かなものなのか。
マンションの1~2階の一角を占めるアトリエに寄り、部屋の合鍵を取ってマンション裏手のエントランスに回る。自分で設計しといて言うのもなんだが、アトリエとマンションエリアを直接繋ぐドアがなぜ無いのか、不便この上ない。
部屋の扉の前で指の間のディンプルキーを見ながら、また溜息が漏れる。享一は俺を野宿させるつもりだったのだろうか?
「アイツめ、月曜から残業攻めにしてやる」
無念さを紛らわすように独り言を呟き、玄関に入った河村の目が見開かれた。
アイボリーの大理石の広い三和土に自分のものでは無い靴が、邪魔にならぬよう隅に並んでいる。逸る気持ちを抑え、リビングに入ると、やはり明りはついていない。常夜灯代わりの間接照明が正面の壁だけを照らし、室内に仄暗く柔らかい光を投げる。
入口に背を向けるように 鍵型に配置したソファの正面にゆっくり回り込んだ。長いソファの一番端に、座った格好のままで享一は眠っていた。
背凭れに頭を預けた顔には、泣いていた形跡が色濃く残る。
起さないようにそっと唇を合わせたつもりだが享一は薄く瞼を上げた。
「享一、来てくれて嬉しいよ」
視線がおどおどと彷徨って自分の手の中に落ちた。享一の掌には河村の渡した鍵が握られ、球状をしたシルバーのキーホルダーが間接照明の光を鈍く反射している。
「鍵が手の中で…熱くなって…」
意識が朦朧としているらしい。意味のないようなあるような言葉をシドロモドロに口にする。享一は、泣いていた名残の赤く腫らして潤んだ瞳を伏せ俯いた。
「嬉しいよ」
壊れ物を扱うように緩く享一を抱きしめる。いま、この腕に力を入れると享一を壊してしまいそうだ。両手の掌で享一の顔を掬うようにして挟み上を向かせると、ソファに片膝を載せてゆっくり唇を重ねた。
「これじゃ、雅巳と変わらないな」
自嘲してるあたり、エロエロ狂人なあの方とは全く違う。こういうとこが好きです。染み渡るような河村氏の優しさに、今は流されてもいいんじゃない?と思ってしまいます。
でも、あまり良い人だと後で享一クンが辛くなるかな..( ̄~ ̄;) ウーン