翠滴 2 rain − 雨 1 (4)
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バチッと目が合って、怜悧な瞳に捕らえられ片岡と2人、慌てて頭を下げる。目の前を通過し、男は他の役員達に促され会議室に消えていった。
「格好イイ〜 何者かな?あのオーラは只者じゃないよな」
「容姿は整っているけど、陰気な感じがマイナスだな」
「おっ、向う張ってんの?イイ男対決?時見惜しいなっ。身長で負け決定じゃん。
しかも、ルックスもお前は可憐系だもんよなぁ。あ、でも俺は時見に一票ね」
「・・・・・バッカバカしい。勝手に言ってろよ、先行くからな」
相手にするまいと歩き出す。その隣に歩を早めた片岡が肩を並べた。
「だって、時見の立ち姿って水仙みたいで、楚々としてて、オレ、気に入ってんだもん」
「水仙って、あの物欲しげに上向いて、口開けて咲いてる、アレかよ」
「アー?ったく、身も蓋もねーな」片岡が苦笑した。
当分の間、背の高い男にはムカつきそうだ。
フレックスで、昨日の事もあり遅めに出社した社内では、
旧臨海地区の再開発工事取得の話で持ち切りだった。総額2000億円の大規模工事で施工会社も大手数社が参加する。享一の会社に来たのは敷地内に立てられる美術館の施工工事だ。総規模からして、大手に混じってウチみたいな準大手が参加出来たのはラッキーというものだろう。
先程の男は、クライアント側の投資会社であるKNホールディングスの開発室長の、神前 雅巳(かんざき まさみ)で施工を依頼された大森建設を視察に訪れたのだということが判り、どうりで専務を筆頭に皆 平身低頭なのだと、納得した。
席に着くと隣ブースの2年先輩の平沢がやってきた。
「時見、今度の計画で、お前の出向が決まったみたいだぞ」
「出向?俺がですか?何処に?」
享一は怪訝な顔で尋ねる。入社半年の学生に毛の生えた程度の社会人モドキが、どこかに出向したとて先方の役に立てるとは思えない。
享一の表情を察したのか
「アトリエ事務所だ。今回の再開発の美術館の設計をする河村圭太のとこらしい。
新人希望ってのは、あちらサイドからの依頼で、リーマン思考に染まってない人間を
寄越せって事だろうな。この手の大規模物件は雑多な仕事も山程あるし、
そっち要員って事だろう。」
つまり、雑用係だ。
アトリエの多くには弟子入り的に入所し、最終的に独立を目指す者が殆どて、同じように[物造り]を目指していても終身雇用を頭の片隅に置いる”会社員”になった享一達とは、スタンスや構え方が全然違う。
河村圭太といえば、ここ数年で名前が出だした若手建築家の一人だ。このところ、国内外で幾つも賞を獲得している。ただ、小規模作品が主だっていると記憶していた。
「随分、小さな事務所も参加するんですね」
「今回の計画はゾーニングされてて、テーマ別だし、河村は海外での評価も高い
実力さえあれば、問題無しということだろう、それに今回のウチの参加もどういう訳か
河村事務所のプッシュがあって、急に取れたらしい」
「時見は、元々アトリエ事務所 志望だったよな」
「ええ」
「チャンスじゃないか。たとえ雑用でも、外から推測するのと、その環境に身を置くのとでは
雲泥の差だ。アトリエの仕事をしっかり見てこいよ」
「はい」
本当は自分の好きな建築家の主宰するアトリエに就職したかったが、実家が母子家庭で現役大学生の弟や大学受験を控える妹の事を考え、享一は給料の安定し地元にも支店のあるゼネコンを選んだ。
アトリエは1人の優れた建築家に附いて、ものづくりを身近で吸収するチャンスの場であると同時に、大体のアトリエが人数が少ないため、1人で多くのことをこなさなくてはならない。
当然、一人前になるのもアトリエ所員の方が断然早い。
アトリエの仕事が見れる、そう思うとワクワクしてきた。
昼前になって、設計室が俄かに騒がしくなる。主に女子社員の興奮したヒソヒソ声が耳につく。
モニターから目を放して声の方向を見やると、あの神前という男が大石部長に連れられて来ていた。
これから仕事を依頼する会社を偵察しているのだろう。
椅子に座ったまま間に立ちはだかった女子の隙間から観察する。
心当たりの無い既視感に、胸の奥のザワザワが 再びざわめき出す。
どこかで、会ったかな?でも、一介の入社して間もない新入平社員と大手銀行の開発室長に接点ははない。
こんな、インパクトの強い人間は一度見たら忘れる筈は無いのに。
ジグソーのピースが上手く嵌らない時みたいに、心に引っ掛かってスッキリしない。
不意に、神前がこちらを向いた。飛跳ねる心臓を抑えて何喰わぬ顔で、モニターに視線を戻す。
「時見、悪いけどこれを建築部の高見さんに渡して来て。で、返事は
夕方までにメールで送るよう伝えといて」
この騒ぎに気付いていないらしい平沢から声を掛けられた。
「はい」
立ち上がると、神前は同じ場所から まだこちらを見ている。平沢からファイルとCDを受け取る間も背中に視線を感じる。気付かないフりで軽く会釈し横を通り過ぎようとした時、神前が小さな声で、何かを呟いた。
「サクラさん・・・?」
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます♪

バチッと目が合って、怜悧な瞳に捕らえられ片岡と2人、慌てて頭を下げる。目の前を通過し、男は他の役員達に促され会議室に消えていった。
「格好イイ〜 何者かな?あのオーラは只者じゃないよな」
「容姿は整っているけど、陰気な感じがマイナスだな」
「おっ、向う張ってんの?イイ男対決?時見惜しいなっ。身長で負け決定じゃん。
しかも、ルックスもお前は可憐系だもんよなぁ。あ、でも俺は時見に一票ね」
「・・・・・バッカバカしい。勝手に言ってろよ、先行くからな」
相手にするまいと歩き出す。その隣に歩を早めた片岡が肩を並べた。
「だって、時見の立ち姿って水仙みたいで、楚々としてて、オレ、気に入ってんだもん」
「水仙って、あの物欲しげに上向いて、口開けて咲いてる、アレかよ」
「アー?ったく、身も蓋もねーな」片岡が苦笑した。
当分の間、背の高い男にはムカつきそうだ。
フレックスで、昨日の事もあり遅めに出社した社内では、
旧臨海地区の再開発工事取得の話で持ち切りだった。総額2000億円の大規模工事で施工会社も大手数社が参加する。享一の会社に来たのは敷地内に立てられる美術館の施工工事だ。総規模からして、大手に混じってウチみたいな準大手が参加出来たのはラッキーというものだろう。
先程の男は、クライアント側の投資会社であるKNホールディングスの開発室長の、神前 雅巳(かんざき まさみ)で施工を依頼された大森建設を視察に訪れたのだということが判り、どうりで専務を筆頭に皆 平身低頭なのだと、納得した。
席に着くと隣ブースの2年先輩の平沢がやってきた。
「時見、今度の計画で、お前の出向が決まったみたいだぞ」
「出向?俺がですか?何処に?」
享一は怪訝な顔で尋ねる。入社半年の学生に毛の生えた程度の社会人モドキが、どこかに出向したとて先方の役に立てるとは思えない。
享一の表情を察したのか
「アトリエ事務所だ。今回の再開発の美術館の設計をする河村圭太のとこらしい。
新人希望ってのは、あちらサイドからの依頼で、リーマン思考に染まってない人間を
寄越せって事だろうな。この手の大規模物件は雑多な仕事も山程あるし、
そっち要員って事だろう。」
つまり、雑用係だ。
アトリエの多くには弟子入り的に入所し、最終的に独立を目指す者が殆どて、同じように[物造り]を目指していても終身雇用を頭の片隅に置いる”会社員”になった享一達とは、スタンスや構え方が全然違う。
河村圭太といえば、ここ数年で名前が出だした若手建築家の一人だ。このところ、国内外で幾つも賞を獲得している。ただ、小規模作品が主だっていると記憶していた。
「随分、小さな事務所も参加するんですね」
「今回の計画はゾーニングされてて、テーマ別だし、河村は海外での評価も高い
実力さえあれば、問題無しということだろう、それに今回のウチの参加もどういう訳か
河村事務所のプッシュがあって、急に取れたらしい」
「時見は、元々アトリエ事務所 志望だったよな」
「ええ」
「チャンスじゃないか。たとえ雑用でも、外から推測するのと、その環境に身を置くのとでは
雲泥の差だ。アトリエの仕事をしっかり見てこいよ」
「はい」
本当は自分の好きな建築家の主宰するアトリエに就職したかったが、実家が母子家庭で現役大学生の弟や大学受験を控える妹の事を考え、享一は給料の安定し地元にも支店のあるゼネコンを選んだ。
アトリエは1人の優れた建築家に附いて、ものづくりを身近で吸収するチャンスの場であると同時に、大体のアトリエが人数が少ないため、1人で多くのことをこなさなくてはならない。
当然、一人前になるのもアトリエ所員の方が断然早い。
アトリエの仕事が見れる、そう思うとワクワクしてきた。
昼前になって、設計室が俄かに騒がしくなる。主に女子社員の興奮したヒソヒソ声が耳につく。
モニターから目を放して声の方向を見やると、あの神前という男が大石部長に連れられて来ていた。
これから仕事を依頼する会社を偵察しているのだろう。
椅子に座ったまま間に立ちはだかった女子の隙間から観察する。
心当たりの無い既視感に、胸の奥のザワザワが 再びざわめき出す。
どこかで、会ったかな?でも、一介の入社して間もない新入平社員と大手銀行の開発室長に接点ははない。
こんな、インパクトの強い人間は一度見たら忘れる筈は無いのに。
ジグソーのピースが上手く嵌らない時みたいに、心に引っ掛かってスッキリしない。
不意に、神前がこちらを向いた。飛跳ねる心臓を抑えて何喰わぬ顔で、モニターに視線を戻す。
「時見、悪いけどこれを建築部の高見さんに渡して来て。で、返事は
夕方までにメールで送るよう伝えといて」
この騒ぎに気付いていないらしい平沢から声を掛けられた。
「はい」
立ち上がると、神前は同じ場所から まだこちらを見ている。平沢からファイルとCDを受け取る間も背中に視線を感じる。気付かないフりで軽く会釈し横を通り過ぎようとした時、神前が小さな声で、何かを呟いた。
「サクラさん・・・?」
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