12 ,2008
煩悩スクランブル 4
←(3)
玄関ドアのすぐ内側でキスをした。
帰って灯りも点いていない暗い室内に、互いの唇を噛み合いながら舌を絡める濡れた音だけがしている。長いキスを終えて、スイッチに手を伸ばす。リビングとダイニングが一体になった室内に柔らかな明かりが点く。
「お前、泣いてんの?」
真理の頬が涙で濡れていた。眉根を寄せ、堪えるようにして流す涙は、赤ん坊を見ても小動物を見ても何の感情も起こらないオレにすら庇護欲を催させる。真理が小さく鼻を啜った。
「今朝はゴメン。ハルがライブに来てくれて本当に嬉しかった」
「うん・・・背中、大丈夫か?」
「平気」
見かけによらず、抱き応えのある真理の身体が腕の中に納まる。
「今日、ハルに言われた事ずっと考えてた」
「・・・・」、えーと、何だっけ?
「ハルに嫌われちゃったんなら、本当に出家しちゃってもいいかなって」
ハァァァ?
「真理?ちょっと、待てよ!」
これは、ちゃんと顔見て話すべしと、肩をつかんで真理の顔を覗き込む。
オレ、ちゃんと真理に惚れてるって、気づいたのに。こんな急展開アリかよ?
真理は、泣き笑いの顔を向けてきた。
「でもね、クラブでハルの顔を見たら、ぶっ飛んじゃったの。
ハルと、離れるなんて出来ない。ハルが他の誰かのものになっちゃうなんて
耐えられないもん・・・寺の子なのに、僕って人より煩悩の数が多いのかな?」
涙をためた睫が切なげに揺れる。
オレは、もう一度その身体を今までになかった愛おしさを感じながら抱きしめた。
ついさっきまで、クラブのフロアでライトを浴びマイク片手に身を躍らせていた真理は、カラコンを嵌めた瞳を挑発するように真直ぐ前に向けて、唇から魂を迸らせていた。
ビートに低く甘い声を絡め、聞くものを違う次元へと掻っ攫ってゆく真理を見て、オレは 真理ほど輝いている奴を見たことがないと思った。
ああ、オレって、ホントに惚れちゃってる?
ライブの最後に”happy birthday”が合唱されて驚いた。
今日は真理の誕生日だった・・・らしい。知らなかった。
真理はオレに関する数字なら、出生時の目方まで知ってるというのに。
かなわねえ。
その真理が、今、オレの目の前で、オレと離れたくないと泣き、涙に濡れた瞳を向けて訊いてくる。オレが本当に乱れたところを見たいのは、この顔かもしれない。
「ハル、僕のこと嫌い?」
マイリマシタ・・。
「・・・ス・・・・・・好き・・・・?」 なんだ、この疑問符。
真理相手だとなんか素直になれねえのよ。ツマんねー年上のプライドってヤツ?
「嬉しい!ね、ハル、ゴハンは?食べてないんでしょ。今から一緒に食べよ?」
腕を引かれた。テーブルに手付かずの夕食が並ぶ。
ここで何で急に、ご飯なの?
やっぱ、お前ポイントがズレてねぇ?・・・へんてこで、可愛すぎるぞ。
「真理、プレゼントなにがいい。ネットなら今からでも覘けるぞ?」
「嬉しいな。でも”後で”もらうから、今はいいよ」
普段は人一倍疑り深いオレなのに、なんでこの時、真理の言葉を深読みしなかったのか・・・
今朝のブツの箱に巻きついた赤いリボンの警告を、なぜ汲み取らなかったのか?
零れ落ちるシャワーの湯の下で、またキスをする。
「ハル、僕、覚悟を決めた。どうしても、ハルとひとつになりたいもん」
「え?本当にいいのか?」
「うん、もう手段なんか選んでいられない。
どうしてもハルとひとつになりたい。深く繋りたいんだ」
頬を染めて、ウルウルと潤んだ、キラキラのオメメが祈りを捧げる天使の如くオレを見つめる。
あろう事か、オレは感動してしまった。
あれだけ、自分の『牡』に拘った真理がオレの為に自分の信条を曲げると言う。
「先にロフトに上ってて。僕、もう少しだけ食器とか片付けて行くから」
バスローブを着た天使が、はにかんだ笑顔で言う。
ベッドに大の字で倒れ込んだ。これから起る事を考えると頭がギンギンに冴えそうなものなのに、頭の中がボンヤリする。身体も少し熱い。階下の灯が消え階段を足音が上がってきた。
その時になって初めて異変に気が付いた。
重い頭はそのままで、足元に立った真理を見上げる。
興奮に頬を染め、欲望に濡れる瞳でまっすぐにオレを見下ろすエロい天使の顔。
何でこいつの奸計に気付かなかったの?オレの、バカバカバカバカ・大バカ野郎ーーーっ!
真理の羽織っただけのローブの前はストンと下まで開いていて、真ん中では天使のカンバセを裏切る立派なものがそそり立ってる。その右手にはピンクのスリコギが、左手にはチューブのついた太い注射器のようなものと例の赤いリボンが握られている。俯き加減で微笑み頬を染める表情は天使そのものだが、上目遣いの瞳には計算高い悪魔の笑みと、溢れんばかりの欲望がネットリとぐろを巻いている。
「真理っ。テメェ・・・盛りやがったな?」
「ハルったら、晩ごはん食べてなかったんだもん、
お迎えは嬉しかったけど、内心はちょっと焦っちゃった」
オメェの歌う姿に感動した、オレの気持ちはどうしてくれるってのよ?
そうか、お前は手段を選ばないって言ったんだっけな? こんチクショウッ!!
膝を立ててオレの身体跨った真理が、オレの首に赤いリボンを巻き、チョウチョ結びをする。
「・・・・・・・」
「18歳の決意・・・ふふ。”襲ってでも、ハルとひとつになる”覚悟をしたの。
ハルさ、僕の誕生日知らなかったでしょう?」
ごめんなさい。すみません。申し訳ござりませぬ。そこは謝る、素直に謝る。
「だからね、ハルからのプレゼントは僕が勝手に決めさせてもらっちゃった」
ちょっと待て。
真理はオレの首に結んだリボンを、プレゼントのラッピングを開けるようにはらりと解いた。
「こ・・・の、堕天使、ヤロウ・・・・・」
「僕、仏教徒だもーん。いつもハルが言う通り、ちゃんと残さず、
きれいに食べてあげる。じゃ、おテテとおテテを合わせて」
フザケルナぁぁーーーーッ!!実際は、もう口も動かない。
合掌した煩悩天使は極上の笑みで小首を傾げニッコリ笑った。
いただきまぁす。
・・・FIN ・・・
玄関ドアのすぐ内側でキスをした。
帰って灯りも点いていない暗い室内に、互いの唇を噛み合いながら舌を絡める濡れた音だけがしている。長いキスを終えて、スイッチに手を伸ばす。リビングとダイニングが一体になった室内に柔らかな明かりが点く。
「お前、泣いてんの?」
真理の頬が涙で濡れていた。眉根を寄せ、堪えるようにして流す涙は、赤ん坊を見ても小動物を見ても何の感情も起こらないオレにすら庇護欲を催させる。真理が小さく鼻を啜った。
「今朝はゴメン。ハルがライブに来てくれて本当に嬉しかった」
「うん・・・背中、大丈夫か?」
「平気」
見かけによらず、抱き応えのある真理の身体が腕の中に納まる。
「今日、ハルに言われた事ずっと考えてた」
「・・・・」、えーと、何だっけ?
「ハルに嫌われちゃったんなら、本当に出家しちゃってもいいかなって」
ハァァァ?
「真理?ちょっと、待てよ!」
これは、ちゃんと顔見て話すべしと、肩をつかんで真理の顔を覗き込む。
オレ、ちゃんと真理に惚れてるって、気づいたのに。こんな急展開アリかよ?
真理は、泣き笑いの顔を向けてきた。
「でもね、クラブでハルの顔を見たら、ぶっ飛んじゃったの。
ハルと、離れるなんて出来ない。ハルが他の誰かのものになっちゃうなんて
耐えられないもん・・・寺の子なのに、僕って人より煩悩の数が多いのかな?」
涙をためた睫が切なげに揺れる。
オレは、もう一度その身体を今までになかった愛おしさを感じながら抱きしめた。
ついさっきまで、クラブのフロアでライトを浴びマイク片手に身を躍らせていた真理は、カラコンを嵌めた瞳を挑発するように真直ぐ前に向けて、唇から魂を迸らせていた。
ビートに低く甘い声を絡め、聞くものを違う次元へと掻っ攫ってゆく真理を見て、オレは 真理ほど輝いている奴を見たことがないと思った。
ああ、オレって、ホントに惚れちゃってる?
ライブの最後に”happy birthday”が合唱されて驚いた。
今日は真理の誕生日だった・・・らしい。知らなかった。
真理はオレに関する数字なら、出生時の目方まで知ってるというのに。
かなわねえ。
その真理が、今、オレの目の前で、オレと離れたくないと泣き、涙に濡れた瞳を向けて訊いてくる。オレが本当に乱れたところを見たいのは、この顔かもしれない。
「ハル、僕のこと嫌い?」
マイリマシタ・・。
「・・・ス・・・・・・好き・・・・?」 なんだ、この疑問符。
真理相手だとなんか素直になれねえのよ。ツマんねー年上のプライドってヤツ?
「嬉しい!ね、ハル、ゴハンは?食べてないんでしょ。今から一緒に食べよ?」
腕を引かれた。テーブルに手付かずの夕食が並ぶ。
ここで何で急に、ご飯なの?
やっぱ、お前ポイントがズレてねぇ?・・・へんてこで、可愛すぎるぞ。
「真理、プレゼントなにがいい。ネットなら今からでも覘けるぞ?」
「嬉しいな。でも”後で”もらうから、今はいいよ」
普段は人一倍疑り深いオレなのに、なんでこの時、真理の言葉を深読みしなかったのか・・・
今朝のブツの箱に巻きついた赤いリボンの警告を、なぜ汲み取らなかったのか?
零れ落ちるシャワーの湯の下で、またキスをする。
「ハル、僕、覚悟を決めた。どうしても、ハルとひとつになりたいもん」
「え?本当にいいのか?」
「うん、もう手段なんか選んでいられない。
どうしてもハルとひとつになりたい。深く繋りたいんだ」
頬を染めて、ウルウルと潤んだ、キラキラのオメメが祈りを捧げる天使の如くオレを見つめる。
あろう事か、オレは感動してしまった。
あれだけ、自分の『牡』に拘った真理がオレの為に自分の信条を曲げると言う。
「先にロフトに上ってて。僕、もう少しだけ食器とか片付けて行くから」
バスローブを着た天使が、はにかんだ笑顔で言う。
ベッドに大の字で倒れ込んだ。これから起る事を考えると頭がギンギンに冴えそうなものなのに、頭の中がボンヤリする。身体も少し熱い。階下の灯が消え階段を足音が上がってきた。
その時になって初めて異変に気が付いた。
重い頭はそのままで、足元に立った真理を見上げる。
興奮に頬を染め、欲望に濡れる瞳でまっすぐにオレを見下ろすエロい天使の顔。
何でこいつの奸計に気付かなかったの?オレの、バカバカバカバカ・大バカ野郎ーーーっ!
真理の羽織っただけのローブの前はストンと下まで開いていて、真ん中では天使のカンバセを裏切る立派なものがそそり立ってる。その右手にはピンクのスリコギが、左手にはチューブのついた太い注射器のようなものと例の赤いリボンが握られている。俯き加減で微笑み頬を染める表情は天使そのものだが、上目遣いの瞳には計算高い悪魔の笑みと、溢れんばかりの欲望がネットリとぐろを巻いている。
「真理っ。テメェ・・・盛りやがったな?」
「ハルったら、晩ごはん食べてなかったんだもん、
お迎えは嬉しかったけど、内心はちょっと焦っちゃった」
オメェの歌う姿に感動した、オレの気持ちはどうしてくれるってのよ?
そうか、お前は手段を選ばないって言ったんだっけな? こんチクショウッ!!
膝を立ててオレの身体跨った真理が、オレの首に赤いリボンを巻き、チョウチョ結びをする。
「・・・・・・・」
「18歳の決意・・・ふふ。”襲ってでも、ハルとひとつになる”覚悟をしたの。
ハルさ、僕の誕生日知らなかったでしょう?」
ごめんなさい。すみません。申し訳ござりませぬ。そこは謝る、素直に謝る。
「だからね、ハルからのプレゼントは僕が勝手に決めさせてもらっちゃった」
ちょっと待て。
真理はオレの首に結んだリボンを、プレゼントのラッピングを開けるようにはらりと解いた。
「こ・・・の、堕天使、ヤロウ・・・・・」
「僕、仏教徒だもーん。いつもハルが言う通り、ちゃんと残さず、
きれいに食べてあげる。じゃ、おテテとおテテを合わせて」
フザケルナぁぁーーーーッ!!実際は、もう口も動かない。
合掌した煩悩天使は極上の笑みで小首を傾げニッコリ笑った。
いただきまぁす。
・・・FIN ・・・
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最後までお読み頂きありがとうございました。
圧縮が完了しましたので、更新!ポチッ\(≧▽≦)丿
速攻、フザケルナーーーーッ!!と声が飛んできそうです(汗
当初の予定はSSだったのに、いつの間にか短編に・・
圧縮中、ラストを2通り作ってみて・・・(純愛タイプ)と(チョッピリえろタイプ)
紙魚は当然のごとく後者を選択(キラキラ☆
みなさま、どうぞ、軽~く、読み流してくださいマセ。

最後までお読み頂きありがとうございました。
圧縮が完了しましたので、更新!ポチッ\(≧▽≦)丿
速攻、フザケルナーーーーッ!!と声が飛んできそうです(汗
当初の予定はSSだったのに、いつの間にか短編に・・
圧縮中、ラストを2通り作ってみて・・・(純愛タイプ)と(チョッピリえろタイプ)
紙魚は当然のごとく後者を選択(キラキラ☆
みなさま、どうぞ、軽~く、読み流してくださいマセ。

気に入りました。
そして、ハルの「フザケルナーーッ!」(笑
私がハルの立場だったら連呼しますねw