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紙魚

Author:紙魚
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長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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Category: 翠滴 1 (全40話)

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翠滴 1-11 秋空  3 (40)最終話
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 「鳴海・・・さん」

 「おはようございます、時見様」

 「ん?享一?」

 鳴海の項に顔を埋めていたいた周が、物憂げにゆっくりこちらを向いた。淫行で蕩けそうな瞳が細められ顔に緩い笑顔を刷く。気だるそうに溜息をつくと、唇や躯から淫蕩な空気が滲み出てくる。

 「享一君、おはようございます。昨日は初夜をすっぽかして、すみませんでしたね
  何か、用ですか?」

 「これは、どう・・・」言葉が続かなかった。

 周は鳴海を抱き込むように座りなおすと、悪びれもせず部屋の真ん中で立ち尽くす享一を見遣った。鳴海はどちらに視線を注ぐでもなく成り行きを傍観するように、薄く笑いを浮かべたまま黙っている。

 「見ての通りです。鳴海と僕はこういう関係です。ああ、きっと君が訊きたいのは、
 君との関係のことですね。君とのことは基弥とゲームで賭けをしました」

 「賭け?」

 「祝言までに、花嫁役のノーマル君をほんとうに落とせるかどうかの賭けです。
 結果は享一君も知っての通り、僕の勝ちです。ねえ、基弥?」

 「ええ。私の負けを認めますよ」


 静かな部屋に周の頬を打ち付ける高い音が響き渡った。
 何の言葉も発さず、享一は部屋を出た。
 階段を走って上がる足音と、上の引き戸を荒っぽく閉める音が聞えて部屋の中に静寂が訪れた。

 「いいのですか?これで」

 「鳴海、もういい。もう、何も言うな」

 鳴海がそっと訊いてきた。周は叩かれた頬を立てた膝の上で組んだ腕の中に沈めたまま答えた。シーツの皺に消えていくその声は、泣いているようにも叫んでいるようにも聞こえた。




 人というのは、本当にショックなことがあると神経や感情が麻痺してしまうものらしい。
 心は、驚くほど何も感じていなかった。部屋に戻り荷物を纏めていると、部屋の引き戸をノックする音がした。
 引き戸を、ノック。 
 なんか、陳腐だ。などと現実感の無い浮遊した頭で考えながら無視していると、勝手に戸が開いた。

 「駅まで送ります」
 「どうして、俺が鳴海さんに送ってもらわなければいけないんですか?」
 「歩けば、軽く2時間はかかるでしょうし、しかもその荷物です」

 荷造りをする手が止まり、返事も返さない。

 「早く、この地から離れたいのではないですか?車を回しておきますから
 意地を張らずにお乗りなさい」そう言って鳴海は部屋を出て行った。


 自分の中の情熱とかそういったものが息絶えていくのを感じた。
もう、なにも感じることは無い。自分が中身が空洞のセルロイドの人形にでもなってしまったかのようだった。振れば、死んで固化した心がカランカランと中で揺れて、乾いた音がするに違いない。
 なのに、なぜ胸が痛むのか?涙が零れ落ちるのは・・・?
 
 人の気持ちは変わる。それでも、想いを打ち明けたいと思った。
そのくせ、周は俺を裏切ったりはしない。頭のどこかでそう信じていた。
 だが、変わるべき心など、最初からどこにも存在しなかった。周は、最初から遊びだったのだ。
男に遊ばれたという惨めな現実だけが残り、その仕打ちをしたのが何度も享一に「惚れた」と打ち明け、享一も心の底から手に入れたいと願った男だという事実が享一を更に打ちのめした。

 「時見様、これをお返ししておきます」

 駅について鳴海から渡されたのは周に取り上げられていた享一の携帯だ。

 「その”様"付けで呼ぶのはやめてください。もう俺はあなた達とは関係が無いし、
 今後、一切関わりを持つ気もありませんから、ご心配なく」
 「ありがとうございます。周様からも、ここでのことは、総てお忘れになっていただきたいと
 伝言を託っております」
 「・・・・周もあんたも、最低だ」

 「いつもこんなくだらない卑劣な遊びをやってんのかよ?
 人の心を弄んで、何が楽しいんだよ。なんで、周は・・・」

 鳴海と二人、駅前のロータリーで向かい合っていたが、享一は言葉に詰まると俯いて踵を返し駅のホームに消えていった。頬を濡らす涙がいじらしくもあり、また憎らしくもある。
 享一の消えた方向に向かって、鳴海は独りごちる。

 「なんでって・・・・、君を守る為じゃないですか。愛の力なんて、詰まるところ
 この程度ということでしょうかね 時見クン?」

 周は、時見 享一という人間を愛したが故に、サクラという新たな枷を嵌められ,神前からは二度と逃げられない。まさか、愛人として自分と一緒に新婦まで要求されるとは思っていなかった、周の完全なる誤算だ。所詮、神前が一枚も二枚も上手だったという事だ。

 屋敷に戻りジャガーから降りると、田園や山々の長閑な空気を震撼させるガラスを割る高い音が響いた。音の大きさからして、周の部屋の嵌め殺しのガラス窓に違いない。

 「周っ!!」

 鳴海が運転席のドアを荒々しく閉め、屋敷に向かって走り出す。その後ろを真っ赤なZが爆音を上げて走り去った。慌てて戻り門の外に走り出た。遥か彼方で砂埃を上げながらフェアレディが駅の方向へと勢いを上げて曲がっていく。

 「随分と、・・・可愛くなったものですね」

 間に合うはずは無い、周の運転をもってしても、後5分で駅に着くのは不可能だ。
周もそんなことは、百も承知のはずだ。
だが、鳴海自身、「でも、もしかしたら」と考える自分に気が付き、自嘲しながら溜息をひとつ漏らした。

 どこまでも高い空が、季節が変わったことを自分達に教えていた。

                         
-fin-


 

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テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学

Comments

はじめまして!
ミートン・メートンです。
ここまで、昨夜から一気に読み進めました!
すごく良かったです!!
紙魚さんの文章力、すごいですね!!
尊敬します!!
翠滴。
その後どうなったのかすごく気になります。
まだ続いているのでしょうか・・?
個人的には、周も良いのですが、鳴海が好きだったりします・・・。フフッ・・・。
また寄らせて貰います(*^_^*)
ミートン・メートンさま!!はじめまして(^O^)
 このような辺境ブログに、よくぞおいでくださいました(ペコリ
実は、「愛の夢」ぐらいから、ミートン・メートンさまのところに
時々おじゃまさせて頂いてます!!!コメも残さず、
読み逃げでした ス、スミマセン!!!

 翠滴を一気読みされたのですか?
このような拙い文で、お恥ずかしいです~!!!
紙魚の必殺技(?)、誤字脱字、変換違いに勘違いの洪水に
ミートン・メートンさまのオメメも、さぞかしお疲れになったのでは・・・?(゜Д゜;) 
こちらにも、ホットタオルを持って、馳せ参じたい気分でございます!!

 翠滴 2部は今日から更新始めました。
腹に邪を抱く純な男・鳴海は露出減ですが、
よろしかったら、またお寄りくださいマセ~☆
紙魚も「篠永君シリーズ」を制覇しに伺いま~す(*^o^*)
別れちゃった~~~(泣
ウワァ~~~~(号泣
享ちゃん可哀想ーーー周もっと可哀想ーーーー!!
うっううっ…。

すごい面白かったですし、
表現がとても冴えていて美しいと思いました。
今は悲しいからちゃんとコメ書けないよう。。。。

続編、読みます。
泣かないで~
 BLにあるまじきラスト・・・

 りりさま、泣かないで~。 
2人はきっと、超合金の鎖で結ばれているはず・・・(・・・

 あの、恐るべきリアルタイム更新の日々を思い出すので、
ラスト数話は今でも恐くて読み返しも出来ません~~。トラウマだわ。
内容すら忘却の彼方・・・恐るべし物語終盤のタタリ?(笑)

 書き溜め、進んでいません。根がグウタラなので
5時間あったら、4時間遊んでしまう人種です。
しかも、書くの遅いし・・・いつもこんな感じです。
リアルタイム更新の出来る書き手さんを心底リスペクトします。
来週後半に訪れるブラックホールが怖いよお。

只今、えろ魔人の降臨待ち~♪来るかな?

え、え、え?
すみません……
すみませんちょっとわからなくなりました……
鳴海さんとまえに周と抱き合ってたかれは同じひとですか?
別人ですか?

これは最終話といっても、完全な最終話ではない、ですよね?
どうもまだよくわからないところがあれこれと……
あーすみませんごめんなさいー!!
続編があるのなら続編にいかないとですねこれは。
7月さま♪
 ひぃ~!!!コメレスが異常に遅くなって、スミマセン~~~!
ずっと使っていたノートPCがダウンしてデスクトップに変えたんですけど
こちらも、調子が悪くて・・m(_ _)m
周と抱き合っていたのは鳴海です。。(コレ書くとなんかハズかしい・・)
神前は名前のみで、実態ではずっと出ていなかったので・・・

あまり楽しくない終わり方で、すみません
翠滴は1部と2部に分かれていますが、上下という呼び方をしたほうが
正しい気がします。よろしかったら、引き続きお付き合いくださいませ。
コメント、ありがとうございました.._〆(゚▽゚*)

Re: わかっていても…(T^T)
 Mさま、ようこそ、ようこそです♪

 わぁぁぁぁっ!Mさまに読まれてしまった・・・はずかしい~~~~ぃ
 やっ、もう処女作なので~~言い訳・言い訳~(や、今も拙文のままなんですけど・・・汗
 オメメはお疲れになってはいませんでしょうか??

 それに、勿体無いお褒めの言葉!をありがとうございます。
 もう、額に入れて飾っておきたいくらいです。

>一気に読むと、きっと這い上がれない・・・・
 それは、私のセリフです!!
 Mさまの素敵世界にハマりながら、読み逃げを繰り返すこの不届き物をお許しください~~っ 

>そんな事をしたらきっと明日は屍(爆)
 Mさまが屍にならなくて、ホントよかった(笑)
 最近、10時過ぎると一気に眠気が襲ってくる私です。
 でも、明日の宴には、相方の目を盗み(笑)なんとか参加したいと思いますので
 よろしくお願いします(*´∀`*)

 コメント&ご訪問、感謝です!
鍵コメ、Kさま♪
 Kさま、ようこそです!

 本当にお忙しそうですね。。。w(*゚o゚*)w

> やっと翠滴1読み終わりました!!遅くてすみません(;´Д`A ```
 ・イエイエ~私もかなり読むのが遅いので、伺うたびに5話~分くらいづつを拝読しています。
今はメイン3人の3ぴーのRシーン・・・・(*ノェノ)キャー 
どうなるの~~??って・・・・先がすぐに読める幸せを噛み締めています♪
 夏の企画ものも同時に拝読していたのですが、私も子供の夏休みで気ぜわしく
最終話を残してドキドキの状態でマテ。健康に悪いです。
 私もつい、次をクリックをするのは仕方ないと、次話のタイトルだけ見て
自分を慰めています(笑)タイトルを見て、次がまた読めると思うと嬉しかったり。。

 右目はもう治りましたか?(*´д`*)
PCの画面って眼にテキメンに来ますよね。
文字の大きなテンプレに替えたいと思う今日この頃です。
どうか、お大事にして下さいね。

 コメント&ご訪問、ありがとうございます!
 私も、まだまだ伺いますよ~~~(ニヤリ。
はじめまして
こんばんは。
天使の箱庭のkikyouと申します。
以前からAさまとかに「いいわよ~」と聞いていたのですが、なかなかゆっくりと読む暇がありませんで・・・

1話からここまで一気に読み上げてしまいました。
じっくり、ねっとり読み進め、途中で「今まで知らずに勿体無い事をした」と後悔しながらも、一気に読める幸運も同時に感じていました。

周と享一のそれぞれの熱い想いに心が痛むようです。
周も享一を守るために傷つき、
享一は愛するが故に傷つき・・
どうなって行くのでしょう。
あ~早く続きが読みたい・・・

自分の所が落ち着いたらまた後ほど出没させて頂きます。

本当に心に沁みるお話ありがとうございました。
Re: はじめまして
 kikyouさま、はじめまして(≧∀≦)

kikyouさまといえば、「裏大奥」や「天使が~」の…きゃーーーっ!!
まさに天上人のようなお方です~~゚(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*!!!☆
kikyouさまの萌を抽出したようなキラキラ輝く文章に魅せられて、お邪魔してはホケホケと読み耽っております~~
このような超・辺境ブログにようこそいらっしゃいました!(しかも休止中(/ω\;)イヤン

> 以前からAさまとかに「いいわよ~」と聞いていたのですが、なかなかゆっくりと読む暇がありませんで・・・
 ・Aさま~~。アノAさまですね、きっと(笑)
書くと読むを同時進行していますと、本当に生活がタイトになってしまいますね。
せっかく貴重な時間を割いてご訪問くださっているのに、この先読み進められて、がっかりさせてしまったら・・・と思うとはらはらします。

> 1話からここまで一気に読み上げてしまいました。
 ・もうもう、お恥ずかしいばかりです~~。
翠滴を書くまで、小説など書いたことがなかったので、知らない強さでUPしてしまいました(恥

> どうなって行くのでしょう。
> あ~早く続きが読みたい・・・
 ・互いを想いながら傷ついていく二人ですが、同じく想うことで這い上がる強さも手に入れていきます。
この話は、2章の終わりが完結です。
3章は、後半かなり重め(ドロドロ~~・笑)です。ご注意くださいませ。

拍手を覗いたら、たくさん頂いていました。kikyouさまでしょうか?
もしそうでしたら、ありがとうございます。

> 本当に心に沁みるお話ありがとうございました。
 ・こちらこそ、癖のある拙文にめげずお読みくださり、本当にありがとうございます。

 コメント&ご訪問、大感謝です!!
紙魚さん、お久しぶりです。
翠滴1、読み終えました。
少しずつ少しずつ読んできたので、こんなに遅くなってしまいましたが、
読み終わるのが勿体ないほどのしっぽりと潤った美しい世界で、もう、堪能しまくりました。
なんでしょうね。
色っぽさと艶っぽさはもう、最高値です。
いえ、そんなにBL小説を読んで来ているわけではないですが、本当に素敵でした。
猥雑感がなく、どこまでも清潔で神秘的で。
そして、せつないですね。
物語をずっと支配してリードしてきたように思われた周も、そういう枷を付けられた苦しい存在だったとは。
で、で、ずっと気になってたんですよ。
鳴海の位置。あの人がただの脇役のはずがない。
彼が、黒幕だったりしますか?
だとしたら、この後もさらにいろいろありそうで、楽しみです。
また、ゆっくりになりそうですが、お邪魔させてください。^^
limeさま、ようこそです(*^▽^*)

わ~い♪ お久しぶりです!
翠滴1をお読み下さったのですね、ありがとうございます!!

> 色っぽさと艶っぽさはもう、最高値です。
・今、ギャーとか、どひゃーとか叫びたくなりました。
ありがとうございます~~!もうこの言葉を額に入れて飾っておきたいくらいですっ。

> 物語をずっと支配してリードしてきたように思われた周も、そういう枷を付けられた苦しい存在だったとは。
・完璧に見える周の闇は「翠滴」の根幹であり、ラストまで影を引きずります。
limeさんに楽しんでもらえるといいなあ。
鳴海は、悪い奴じゃあないのですよ。ただね、ちょこっと青い血の流れる策士なんです(笑)
スピンオフの「鳴海」を読んで頂ければ、彼のスタンスがわかってもらえるかと思います。

私も、「keep ont」を噛み締めながら拝読しています。
登場人物たちの抱えるジレンマや苦悩、優しさに、はっとしたり切なくなったり……
どのキャラクタも好きにならずにはいられません。
さらりと読めてしまう簡潔な文章なのに、奥が深くて胸にジワリと沁みます。
それこそ読み終えるのが勿体無く思えてきます。
まだ読み終わらないという楽しみを大事にしながら残りを拝読しますね。

素敵なコメントをありがとうございました!
コメント&ご訪問、感謝です。

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