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紙魚

Author:紙魚
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長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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Category: 翠滴 1 (全40話)

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翠滴 1-10 宵闇の舞  4 (36)
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 酌人である雄蝶雌蝶を務める、美操と茅野が周と俺を挟んで両端に座ると宴席中にどよめきが上がった。チラッと横目で見ると背筋を伸ばしその顔を真っ直ぐに前を向けて座っている。目にも艶やかな衣装を身に纏い、姿勢を正し感情を殺し座るその姿が却って二人の凄艶の美貌を際立たせ、まるで愛でられる為だけに作られた究極の一対の人形のように思えた。その横顔は、やはり兄と似ていると思い、そっと隣に視線を泳がせた。

 そこには目も眩みそうな程、美しい男が座っている。完璧な形をした横顔に穿たれた切れ長の目に収まる翡翠の瞳は深い色に沈み、何を見るではなく彼方を彷徨っており、享一は気になって視線を戻せなくなる。不意にその瞳が滑らかな動きで移動し享一をとらえて、優しさを湛えた微笑に細められ享一は心臓を射抜かれた。

 「サクラさん、キョロキョロしないの。お兄様の花嫁として毅然としてしていてくださいな」

 小声で注意された。周(あまね)とは少し距離を置いて座っていたが、花嫁の介添えもする茅乃はすぐ隣に座っている。角隠しの陰から茅乃を見ると、しゃんとしろと目で合図を送ってきた。
まるで、小姑だと思いながらも、尤もな事を言われた訳で、『えい、ままよ』とばかりに俯けていた顔をあげた。刺すよな視線が一変して、再びどよめきが起こって「これはまた、美しい」や「なんと絢爛な・・」「一幅の絵のようだ」などの声が上る。花嫁が男だとバレる心配はなさそうで、一先ず安心した。ここまで完璧に仕上げてくれた花隈に感謝だ。

 入室してから終始俯けていた顔を上げ、初めて宴の会場を目の当たりにした。
変わった印象の挙式だった。大半を仕事関係の人間が占めるのか、女性が極端に少ないのだ。20人程の招待客に、女性は3人だけ。しかも年配で留袖を着ているので目前に広がる光景は黒くて殺風景で、まるでカラスの宴会みたいだと思った。以前、従兄弟の結婚式に出席したことがあるが、女性の色鮮ややかなドレスや着物の装飾でもっと色彩が溢れていて華やかだったのを思い出す。あの時の挙式に較べると、あまりにも掛け離れていて、地味なものだった。


 「高砂や」が謡の人たちによって演奏され、三々九度が美操達によって執り行われる。
周が白い杯の中のお神酒を乾し、その杯が享一に差し出される。神聖で厳粛な雰囲気の中その無防備に仰け反らせ酒を咽下する周の喉に性的なものを感じて躯の芯が熱くなり少し俯く。その杯を手に取り、周も口をつけた白い杯の滑らかな磁器に口をつけた時、磁肌の感触に周の唇の艶かしさが蘇って、客人たちに見つからないように、杯の縁をそっと舌で舐った。

 唇を離して周との間に置かれた三宝に戻す時、周が目を見開いて自分を見ているのと目が合た。それに流し目だけで妖艶に笑ってやる。周は、目の縁を赤く染め、欲情を孕んだ複雑な表情を返してきた。してやったりと、ほんの少しだけ、優越に浸った。

 どうやら、あの父親を内包している俺は、疾うに常軌を逸しているのかもしれない。

 「サクラさん」

 偽名を呼ばれて我に返った。
目の前に50半ばと思われる紋付姿の男が座っていた。体格のよい整った顔の男だ。

 「この度はおめでとう。はじめてお目にかかります。周の伯父の騰真です」

 伯父と名乗られて、思わず声を出して挨拶をしそうになったが、自分が極度の上り症で喋らないキャラだったのを思い出して、慌てて会釈だけを返した。

 「周には、再三、サクラさんを紹介するように申し付けてきたのですが、なかなか
 会わせてはもらえず、とうとう本日の対面となったことをお許し願いたい」

 俺は、ただ頷いた。こういう時には、喋れないという設定はありがたい。

 「それと、入籍の事ですが、懐妊し無事出産が終わってからという条件を飲んで
 頂いた事には本当にありがたく、申し訳なく思いますが、貴女もこの家に入るの
 ですから、これも永邨の為と堪えて下さい。元気な跡継ぎを期待していますよ」

 そういうことなのか、と更に頷く。チクリと胸を刺す罪悪に救いを求めて隣を向くと、鼻白んだ顔で成り行きを聞いていた周が、享一と目を合わせると和んだように笑みを返した。

 「お義父さま、能楽師の方がお呼びですわ」

 「ああ、そうか。では、周とサクラさんのこの慶びの宴に、舞を献上しましょう」

 絶妙のタイミングで美操が呼びにきて騰真氏は席を立つと、能舞台に上がり祝いの舞を披露してくれた。舞台の松の模様の描かれた金屏風を背景に、篝火の薄暗い光の中、翁の面をつけた騰真氏の舞う姿は厳かで幻想的であり、冷笑したことなど忘れこの素晴しい幽玄の世界を表現した演出を心の中で賞賛した。
 優雅に舞う騰真氏の姿に、不図、美操が騰真氏を”お義父様”と呼んだのが気になった。ということは、あの遺影の美しい女性は、騰真氏の妻ということになるのか?それとも、ティーンズが単に養女なのか?
やはり、かなり複雑な家系らしい。


 「周君っ!!」

 泣き縋るような声に驚いて、思考を中断し声の方を見ると、周の前に紋付を着た顔にニキビの跡が残る若い男が座って、周の手を撫ですさりながら握っていた。

 「本当に結婚しちゃうんだね。君が幸せになるなら仕方ないけど・・・僕は、僕は
 君の事を忘れないからねっ。・・・いつでも遊びに来て。でも・・・急すぎるよ。ううっ」

 男は声を途切らせ咽び泣く。

 「辰村様、ありがとうございます。辰村様から受けたご恩に報いますよう
 幸せになりますので、ご安心ください」

 本格的に泣き出した男に周が優しく語りかけた。
 床に俯せ泣き崩れた男を、父親らしき人物が連れに来て男は自分の席に戻っていった。
その後も、訳ありな感じの男達が次々祝辞を述べに来る。ある者は酒を酌み恨み言っぽい事を口にし、ある者は結婚後の夫婦の在り方なんぞを説いていった。周から手を付いて頭を下げ、礼を言った男もいた。

 年齢はまちまちで20代後半から、60代前半まで入れ替わり立ち代りやってきたが、皆一様に、享一の事はチラッと見るだけで周にのみ、話しかけていた。
 極度の上り症という設定が行き届いているせいだろうか? それとも、サクラは身寄りがないという設定になっていると聞いていた。どこの馬の骨かもわからない女が名家に乗り込んできたとでも思っているのだろうか?

 それにしても、普通は会釈ぐらい、寄越しそうなものだが。気持ちいいくらい無視されている。
仕事先の人間にしても、皆ちょっと雰囲気が違っている気がした。
周とは、どういう関係なんだろう。

 やがて、見覚えのある姿が周の前に座った。周から流れ来る穏やかだった気配がすうっと硬く冷たいものに変わっていくのを感じる。相手は、享一とぶつかりかけ、そして周を渡り廊下で見つけた時、一緒にいた男だ。
 あの時、怒気を迸らせながら手を上げ構えた周の姿は、どう考えてもこの男を殴ろうとしていたようにしか思えなかった。


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 いつも読んでくださる皆さま、ふらっと立ち寄ってくださって最後まで読んでくださった
皆さま、ほんとうにありがとうございますm( _ _ )m
翠滴1章も残すところ、3~4話となりました。当初の予定では30話ぐらいまでで終わる
予定でしたが未熟者のアタクシ、とうとうこんなに引っ張ってしまいました☆(ウリャ!!

 ここまで続けて来れたのも、ポチポチと応援していただき、何度も足を運んでくださる
皆さまのおかげと日々、感謝、感謝です(ペコリ
ひっそり・こっそりが合言葉のNight gate、これからもひっそり・こっそりUPしますので
もうしばらく、お付き合いくださいマセ。

                      2008/11/18   紙魚


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テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学

Comments

和の挙式
わたしにはとても書けない世界です!

それにしても、洋にくらべて和だとなんだか重みがあるようで、じっさいの式でもかなりプレッシャーがありそうですよね。
もう引き返せないという感じが……
7月さま(^O^)
 今回この記事を書くにあたって、色々資料を見たりしていると
和の挙式の魅力を再認識してしまいました。
厳かな分、覚悟とか決意というものが重みを持ってきますよね。

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