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紙魚

Author:紙魚
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Category: 筐ヶ淵に佇む鬼は(全16話)

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筐ヶ淵に佇む鬼は 13

 朝靄に霞む舞台の上にそれはあった。
 少年だった章俊と有一が迦陵頻を舞った筐ヶ淵の舞台に、章俊の眼鏡と万年筆、そして各々の家族にあてた遺書が並べて置かれていた。
 発見したのは神職に就いて間もない神主だった。男同士の、しかも顔役の孫と,青年団の次期団長と目されていた青年の心中というショッキングな醜聞に村は騒然となった。
 特に早川への面目が潰れた東郷家は動揺が激しく、章俊の祖父が心労で倒れた。遺書と共に残された舶来製の高価な万年筆は早川から章俊に贈られたものだったと、後日小百合ネエから聞いた。
 章俊は因縁を捨て、一番大切なもの選んだのだ。
 2人の死体は上がらなかった。
 事件性がない上に、底が際限なく泥濘んだ筐ヶ淵を調査する難しさに、警察の捜索は早々に打ち切られた、後は消防団を兼任する青年団が後を引き継いだ。
 このままにしておいてもと、踏ん切りの意味で別々に密葬を済ませた一週間後、水底を攫う網に掛かった章俊の左腕が引き上げられた。
 再び村は騒然となった。
 章俊の腕は肩より下ですっぱり切り落とされており、水底に沈んでいたにもかかわらず、ふやけも腐食もしてなかったという。
 村中がこの事実に震撼し、その後2人の話は禁忌となり誰も口にしなくなった。
 多感な時期に入ったわたしへの配慮もあったのだろう。それまで矍鑠としていた祖母が痴呆を発症し、手が回らなくなった叔母は、わたしを迎えに来るよう父に電報を打った。
 東郷の人間から責められた有一の家族が村を離れるのと前後して、わたしも埼玉の両親のもとに戻る事となった。四郎とは、3年くらいは手紙のやり取りをしたが、いつの頃からか出した手紙が宛先不明で戻ってくるようになった。
 いや、わたしが先に出さなくなったのか。
 祭りの夜の章俊の告白も、怖ろしい伝承も、郷里を離れたわたしの中から急速に抜けていった。 

 ぼんやり頬杖を突きながら、机の上の黒電話を眺める。
 誰かの声が聞きたい気がするのに、どこに向けてダイヤルを回せば良いのかわからない。
 離婚を言い出しながら朝顔の鉢を置いていった嫁。洋楽にトチ狂う息子。老いた両親。四郎。
 ――― お前も早くお逝き。
 あれは章俊の声だった。
 澤村真之は何者なのだろうか。
 なぜ失っていた記憶が、今頃になってこうも鮮明に蘇るのか。
 わたしは抽斗を開けて、一日2箱と決めているハイライトの3箱目に手を伸ばした。
 怖がりな癖に変に自尊心が高く、僭越にも年上の男に初恋をしたちょいとおませな少年も、いまじゃ可愛くもなんともないヘビースモーカーのオッサンだ。
 紫煙を吐き出し目を瞑ると、網膜に焼き付いた章俊の肢体が蘇る。淫らに有一に絡みつき、そのくせ子供のような純粋な眼で幸せそうに笑ってみせるのだ。
 兆し掛けた息子が、シュンと項垂れた。
 章俊は筐ヶ明神に願を掛けた。そして願いは叶ったのだろう。だから、左手を切り落としたのだ。それなのになぜ命を絶ったのか。
 夜風が鳴らす風鈴の音がやけに物悲しく聞こえた。

「あそこ、行ってみませんか?」
 現地視察で共に訪れた澤村が眼で指した先には、筐ヶ明神の鳥居があった。
 帰省の折、平井口まで訪れたのも数えるほどで、ましてや筐ヶ淵まで足を伸ばしたのは、30年前のあの祭の日以来だった。
「随分荒廃していますし、行ってもつまらないですよ」
 筐ヶ明神は、この30年のうちに参拝するものもなくなり、すっかり寂れていた。鳥居は朱色が日に焼けて薄汚れた肌色に変色し、風雨に晒されて垂れ下がった七五三縄はひと風吹けばそれだけで落ちそうだった。参拝路も、本殿に続く階段にも落ち葉が堆積して、雑草が生え放題だ。
 子供の頃に感じた、陰鬱で神秘的な気配はすっかり褪せ、打ち捨てられた場所特有のうら寂れた虚無感のみが漂っていた。藍色が混ざった筐ヶ淵の深碧の水だけが今も変わらず、豊富な水量をたたえ、水面に山の端を浮かべている。
 返事のない澤村に重ねて声を掛けた。
「わたしはここの出身なんです。行っても古い神社の他は何もないですよ。それより駅前でなにか冷たいものでも飲みませんか」
 いくら昔と様子が変わっても、長居したい場所ではない。
 澤村が現れたあの日から、わたしの胸の中に何かが棲み着いてしまった。それは病とでも言いたくなるような切ない痛みを伴い、わたしを苦しめた。
 正直、章俊と瓜二つの澤村には会いたくなかった。
 だがこれは、ビジネスだ。契約が成立すれば、あのしょぼい店ももう少し見栄え良くすることも出来るし、擦り切れ間近の応接セットも買い換えて、光熱費を気にせず思う存分クーラーもつけられる。
 そう、わたしの欲望はコンパクトなのだ。
「澤村さん?」 問いかけたわたしは、はっとした。
 横顔をわたしに向けていた澤村は 「行ってみましょう」 と頷くと、筐ヶ淵をぐるりと廻る参拝路をひとりで歩き出した。わたしは溜息し、気後れしながら後に続いた。
 澤村が見ていたもの。それはかつて、章俊が寂しげに凝視めていた能舞台だった。
 やはり澤村は章俊と何らかの関係が。と、わたしは澤村の手首を見る。
 数日前、澤村の左手首の内側に見つけた筐ヶ明神の徴は、今日は高価そうな腕時計のベルトに阻まれて見えなかった。
 平井口までは、わたしの車で来てそこからは歩いてきた。10年落ちの中古車にはエアコンがない。
 澤村は灼熱のドライブにも文句も言わず、サイドドアに肘をついて吹き込む風に気持ちよさそうに目を細めていた。
 そしてわたしは運転しながら、手首の徴を確認したくて澤村を何度も盗み見た。

「あ、やめといたほうがいいですよ」
 長年放置された舞台は、さすがに老朽化が進み淵にせり出した部分が微妙に傾いている。
 舞台に上がりかけた澤村をわたしは引き止めた。
「床が傾いています。上に載るのは危ないですよ」 と、指差すわたしに、澤村は 「ああ」 とだけ答えた。
 それだけかよ。まったく最近の若者は、と思いかけて自らを自戒する。
 頭の固い親父だと倅に言わせないためにも、わたしは幾つかの禁句を自分に課していた。例えば、女みたくリバティ・プリントのシャツは着るなとか、ジーンズの膝は破るなやら、ネッカチーフを首に巻くな、などなど。
 クスクスと澤村が笑い出した。
「……心配性なんですね」 
 今、相変わらずって言わなかったけか? 目を瞬かせるわたしを無視して澤村は鳥居の方に歩いていった。わたしが頭をひねっている間に賽銭箱をよけて鳥居の前に立つ。
「これはなんですか? 邪魔だな」
「あ、それは!!」 
 一呼吸、遅かった。澤村が触れた七五三縄は、その時を待っていたかのように風化した縄をはらりと地面に落とした。
「どうしたんですか?」
「あ、いや……この辺りには古い言い伝えがありまして…ですね」
 縄はもう長い間、張り替えられていなかったのだろう。地面に落ちた途端ほろりと解れた。
 ―――人ならざる者が通る鳥居。鳥居に掛けられた七五三縄を、祖母は結界と表現した。
「へえ、面白そうですね。行ってみましょうよ」
「あ……澤村さん」
 高そうな澤村の革靴が落ちた七五三縄を踏みしだいて、軽い足取りで階段をのぼってゆく。
 澤村のしなやかな白シャツの背中に、斑に落ちた木漏れ日にわたしは目を細めた。
「涼しくて気持ちいいですよ」
 振り返って笑い、そのままスタスタと上がってゆく。
 なんてことはない。と、古ぼけた伝承を真に受け、怯えていた自分を心の中で笑い飛ばした。
 足を踏み入れると、涼しいというより、ひんやりとした空気がわたしを包んだ。吹き出していた汗が引き
 鼻息ひとつで自分の中に残る怖気を吹き飛ばすと、わたしは早足で澤村を追いかけた。
 階段を登りつめ、先に到着していた澤村と肩を並べて立つ。
「あれ、これだけ?」 素直な感想がポロリと零れた。
 鎮守の森に囲まれた猫の額の平地にぽつんと立つ筐ヶ明神の本殿は、拍子抜けするほどちっぽけな社だった。
 高さは1M弱、幅もわたしが手を広げたより狭い。奥行きはもう少しある。
 わたしは腕を組んで、本殿を見下ろした。
 神主以外、鳥居より中に入ることは許されてなかった。神主がなくなった時も、鳥居を潜ったのは警察の人間だけで、発見者のわたしも村人も中には入らなかった。皆、この本殿を見れば、きっとわたしみたいに肩透かしを食らった気分になるはずだ。
 章俊は、利益に神社の大きさは関係ないと言っていたが、わたしには <ご利益、祟り、とっくの昔に完売御礼!> の札がぶら下がっているように思えて仕方がなかった。
 中を覗けば安置された鏡の後ろに、墨で3本の縦線を書いた10センチ四方の紙が貼ってある。
 その場に不釣り合いなくらい真白で、自然と目についた。屈んで覗きこむと、墨の黒さもまだ鮮明で、どう見ても最近、そこに貼られたばかりに見えた。
 筐ヶ明神の筐(かたみ)は竹を編んだ籠のことで、斜線が縦に3つ並ぶ徴は編まれた竹を表す。
 鳥居の額束にも、錆びた灯籠にも同じ徴が記されている。縦に並ぶ徴は見たことがなかった。それなのに、不思議と既視感を感じてわたしは片眉を上げた。
「それは、檻の印。封印の呪」
「え?」
「本殿がこないにこんまくて、がっかりやった?」
 聞き覚えにある抑揚に、心臓が跳ね上がった。
「でもな、ご利益に神社の大きさは関係ないんとちゃうやろか」
 澤村が、いや彼と同じ顔の男が嫣然と笑っていた。



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  こんにちは。あと少しなのですが、リアルがバタついていまして更新がとびとびになりそうです。すみません><
 

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Comments

その はんなりとした上品な言葉!!
澤村→章俊→澤村→章俊→澤村→章俊・・・??
もう 訳が分かんない~~<(|||。。)>アタマカカエル・・・・・・
彼は、何者なの!?

そして 本当に 章俊と有一は、心中したの?
あの腕は、章俊の腕のはず・・・汗 ━━(il`・ω・´;) ━タラァーリ...

夏風邪で 胃腸をやられ、熱は39度超えて 久々のダウンをしてた私!
家族が一日中いる土日曜日を 何とか乗り切り、やっと峠を越え 今は微熱と頭痛のみ。
紙魚さまも、リアルがご多忙とのこと、くれぐれも お体に無理の無い様に お過ごし下さいませ。
夏風邪、恐るべし~~~..・ヾ(。>д<)シ こえぇぇぇ...byebye☆
けいったんさま、ようこそです(*^▽^*)

体調を崩されていたのですね、微熱と頭痛!お加減はいかがでしょうか?
ここのところ気温も安定しないですし、体調にも負担がかかりますね。
夏風邪、侮れないです~~。…なのに私の心配まで><。

> もう 訳が分かんない~~<(|||。。)>アタマカカエル・・・・・・
・ああ、けいったんさんを悩ませてしまった……っ!
わかりにくくて、すみません~! いよいよラストでマトメ(?)に入りますが
どうか投石は禁止の方向でお願いしますm(_ _;)m

> そして 本当に 章俊と有一は、心中したの?
> あの腕は、章俊の腕のはず・・・汗 ━━(il`・ω・´;) ━タラァーリ...
・怖いですね~。怖い話ファンタジーなので、あまり深く考えずに
ラストに突入していただけるとありがたいです。

コメント&ご訪問、ありがとうございます!
どうか一日も早く全快されますよう…お大事にされてください!
(*゚-゚o【─+゚*。─暑中見舞い─。*゚+─】o゚-゚*)
暑い日が続いておりますが、紙魚さまは お元気にお過ごしですか?

紙魚さまと同じく 10%以上の節電の関西在住の私、エアコン・TV・照明は勿論 最近はPCも日中はOFFで過ごしてました。
だけど 頑張って節電に勤しんでおりますが、朝の9時には室内温度31度となれば もう限界~~_ノフ○ グッタリ

お互いに この暑さに負けない様に 気合(?笑)で乗り切りましょうね!
O(: `ω´)乂(`ω´ :)O キアイイレロォ!!...byebye☆
Re: (*゚-゚o【─+゚*。─暑中見舞い─。*゚+─】o゚-゚*)
けいったんさま、暑中お見舞い申し上げます~♪

わ~~!!お久しぶりです!
毎日、半端無い暑さですよね。
朝から30度超えは温度計見た瞬間、魂持ってかれそうになります。
この熱さで計画停電を実施されていたら、冗談抜きで倒れていたかもしれません(笑)
節電も屋内で熱中症ではシャレにならんと、我慢も程々に付けています。
けいったんさんも、体調が傾く前にエアコンはつけてくださいね。

> お互いに この暑さに負けない様に 気合(?笑)で乗り切りましょうね!
・37度超えたら、暑さに気合ごとつぶされそうですが(笑)

無理し過ぎない程度に、暑さとうまく付き合って爽やかな秋を迎えたいものです。
2~3日中に「筐ヶ淵~」の続きUPいたします。どうぞ、また覗いてやってくださいね。

暑中見舞いをありがとうございます。
けいったんさんもどうか体調に留意され、ご自愛されてください。

  紙魚

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