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紙魚

Author:紙魚
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Category: 筐ヶ淵に佇む鬼は(全16話)

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筐ヶ淵に佇む鬼は 12
     ❁後半に性的描写が入っています。苦手な方はご注意下さい。


 唇に感じた高熱で我に返った。
 小さな灰皿は吸い殻で溢れている。地面で踏んて火を消し、新しい煙草をと覗いたハイライトは空だった。わたしは捻り潰した煙草のケースを、溜め息と一緒に夜事務所のゴミ箱に放り込んだ。
 空には星。戦後の復興も遠いあの頃に見上げた空に比べ、随分と数が減った気がする。
 道端の縁台で夕涼みをしている大工の棟梁たちに将棋を誘われたが、丁重に流して自分のデスクに戻った。
 新しい煙草を出そうとして抽斗を開け、また溜息を付く。
「なんで今頃……というか、何で俺は忘れていたんだ」
  

「俺が殺したんや」
 章俊の言葉に、わたしは横面を思い切り張られたような衝撃を覚えた。
「なんやって? 何でそんな大それたことを」
 大きくなった有一の目を月の光が照らす。
「これでもまだ、俺の側におりたい言うんか?」
 自虐的な口調で吐き捨てた章俊を、有一は怒りと悲しみが渾然となった眼で睨みつけた。
「わかったら、はよお帰り。もう、ここへは来たらあかんで」
 がらりと優しい口調に変え、諭すように言った。
 耳慣れた言葉は、わたしにも投げかけられたものだと、わたしには分かった。章俊はわたしがここにいることを、知っていたのだ。
 男の姿は章俊に気を取られた一瞬の間に消えていた。
 抱えていた秘密を口にしたことで気が抜けたのか、章俊は和らいだ声で 「元気でおってな」 と、ぽつんと言う。
 いつからか儚さを纏うようになった背中を凝視るわたしの目は熱くなって、鼻の奥が痛くなった。
「四郎は兄貴のお前に憧れとるんや、優しいしたりや」
「待てや、アキ」
 立ち去さろうとする章俊を、有一が背中から抱きしめた。
「それでもや。それでもアキ、俺はお前といたいんや」
「有一、限界やねん」
 肩も両腕も長く逞しい腕に捉えられ、章俊は苦しげに息を吐いた。
「もう、堪忍してんか」 消え入りそうな声で訴える章俊に 「俺かて人殺しや」 と有一が呻いた。
「俺かて、捕虜の護送車から逃げる時、見張りの男を殴り殺して逃げた。人殺し言うんやったら、俺かて同じや」
 章俊はゆっくり首を振る。
「違う、有一。戦争で人を殺すんは殺人って云わへん。誰もが、仕方なしに」
「どこも違わん! 俺はお国のためとか、大義のためにあの男を殺したんやない。もう一度お前に会うために、それだけのために、あいつを殺して逃げたんやっ」
 激情を迸らせた有一は、章俊の両肩を掴んで自分に向けさせると、畳み掛けるように続けた。
「俺は自分の欲のために、敵国の兵士を殺したんや。それでも、俺を人殺しやないていうんか?」
「有一、それはちがう。戦争ではみんな生きるために」
「なにも違わん!」
 身体を捻って逃げようとする章俊の頭を両手で捕まえると、噛み付くようにして唇を重ねた。
「俺はお前を、誰にも渡さん」
 瞠目した章俊の横顔が、月光を揺らして戦慄く。
「早川に行くというなら、アキを殺して俺も死ぬ」
「おぉ……」 つと涙を零した章俊を、有一はもういちど抱きしめた。
 これまでと違い、章俊の指の束が有一の背中を掻き抱く。
 有一に朔之介を追い払って欲しかっただけなのに。わたしは敗北感すら感じられない程に放心し、強く抱きあう二人のシルエットから目が離せないでいた。
 有一の肩に額を埋めた章俊が、頭をずらしてわたしの方を向く。細くすかした窓枠の隙間から覗くわたしを、狙い定めたように真っ直ぐ見た。
 眼鏡の奥の瞳に哀憐を浮かべながらも、章俊は幸せそうに微笑んだ。章俊のこういう顔を見るのは久し振りだった。思えば章俊がこんな風に笑う時、隣にはいつも有一の姿がなかったか。
 その唇が小さく動いた。
 ――― はよお帰り。
 口許の黒子の艶めかしさが、わたしを惑乱させる。
 章俊の唇に操られたように部屋から出たわたしは、肩を落とし奥の障子から裸足で外に出た。玄関の草履を取りに庭を横切り、章俊の部屋の窓の前を通り掛かる。わたしが開けた隙間がそのままになっていることに気付き、締めに行こうか躊躇った時だった。
 前ぶれもなく部屋の灯りが消え、わたしは足を止めた。庭に章俊たちの姿はない。
 甘い匂に引き寄せられる昆虫のように、わたしは窓の方にふらふらと歩いた。
 中から覗いた隙間を、外から覗き見る。わたしは視界に飛び込んできた裸身の背中に息を呑んだ。
 硬そうな筋肉のついた背中には、上半分を覆うケロイド状の大きな傷があった。傷は、摺りガラスに拡散された仄昏い月明かりの中で、緋牡丹の花が開いたみたいに爛れ咲いていた。
 先に裸体になった有一に、一枚ずつ服を脱がされた章俊が、一糸纏わぬ姿で有一の背中の艷花に接吻ける。屋敷に籠り、陽に焼けていない白い横顔が、口を開き舌と唇で背中の傷を愛しそうに舐めた。
 有一にされるまま、正面のベッドに押し倒された章俊は、眼鏡を外した有一に甘く笑いかけた。
 見つめ合う2人の壮絶なまでの色っぽさに、わたしは溜め息を漏らしそうになった。
 次第に有一の与える愛撫に章俊が息を乱し始めた。
「アキ、全部俺に奪わせてくれるか?」
「奪って、何もかも。有一の思うままに、このまま殺して命奪ってくれても構へん」
 息も絶えだえに、接吻を繰り返しながら言葉を繋ぐ。
 大きく開いた脚の間に有一を招き入れ、性器を貪られて背中を撓らせる。喘いだ章俊の喉が苦しげに闇を啜る音に、わたしの未発達な性が痛いほどに反応した。
 有一が持ち上げた章俊の脚を更に押し広げ、後孔に口をつけた時、わたしは男同士が睦み合うということの業の深さを感じずにはいられなかった。
 あられもない姿を晒しながら、乱れる章俊はゾクゾクするほど艶かしかった。乳嘴を有一の口に含まれ、有一の手が下肢の奥で蠢く度、章俊はわたしの脳髄を溶かす甘く掠れた声で鳴いた。 
「ゆ……有一、もうええから。もう充分やから、来て」
「あかん、まだきつい。もっと解した方がええ」
「構へん、構へんから」
 顔と同じ白い腕を有一の頬に伸ばす。
 有一が限界まで広げた章俊の脚の間に、剣の如く反った自身をあてがった。凶器の切っ先が章俊に切り込んだ瞬間、章俊は瓦解した。
「ぁあ……、ああ……はっ」
 有一に貫かれ、仰け反る章俊の腰を有一が鷲攫みにし、埋まった楔を繰り返し何度も打ち込む。薄闇を掻く足の爪の先が有一に衝かれる度に激しく揺れ、艶かしい残像がわたしの網膜に張り付いた。
 猛獣の猛々しさで自分を屠る有一に 「もっと、有一、もっと」 と、口走りながらしがみ付く。有一は章俊の上半身を抱え上げると、じりじりと自分の膝の上に落としていった。
「ひぅ……! う……ぅん」
 顎を跳ね上げ背中を仰け反らせた章俊の頭が、不意に脱力し有一の肩に落ちた。
 細かく痙攣する睫毛がゆるりと開き、蕩け切った瞳をのぞかせる。
 有一の肩に頭を乗せたまま、あてもなく彷徨っていた瞳が、窓の隙間から覗くわたしの顔で止まった。はっと息を呑むわたしに、章俊は子供に向けるには妖艶すぎる笑みを浮かべて嗤った。
 眼だけで悩殺される。
 そんなスリリングな経験は、残念ながら中途半端に長い自分の人生の中で、未だあの一回きりだ。

 ふたりが心中したのは、それから幾日も経たない8月の早朝だった。



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  ■最後までお読み頂き、ありがとうございます♪(*^▽^*)
   時間が前後していますが、大丈夫でしょうか?
   濡れ場は必要ないかなと思いつつ、R18を騙っている手前、短いながらも入れてみました❁
   次話から時代が戻り、真相が明らかになっていきます。
  

  ■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当にいつもありがとうございます。
  拙文しか書けない私、書いていく励みになります。
  ■ブログ拍手コメントのお返事は、*こちら*にさせていただいております♪

テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学

Comments

鍵コメントさま、ようこそです!

> 美し過ぎる~><
・わー、ありがとうございます!!
とんでもないです、勿体無いコメント嬉しいです!

> この二人には、幸せになってほしかったなあ~~。
・私も書いていくうちにこの2人には幸せになってもらいたいと思いました。
何にこの仕打、なんてことするんだ!自分!!

はい、次話から現代(昭和50年半ばくらい)に戻ってゆきます。
ファンタジーなので、みなさんに納得して頂けるか…
ビクビクしながらも、ラストに突入していきたいと思います。

コメント&ご訪問、ありがとうございます!!
鍵コメントさま、ようこそ!

> エロいなぁ。
・ありがとうございます(でいいのか・笑)
今回、Rなしでもいいなと思ったのですが、R18を謳っている手前、
やはりちょびっとくらい入れねば(挿ではない)ならんと仕込んでみました。
不自然さを感じず、サラリと読んでいただけたのならよかったです♪

> 次からはいよいよ怖い真相に迫っていくわけですね?
> 楽しみだなぁ、こう言う怖さ、大好きなので。
・はい(ドキドキ)
なんやってええええ!?って、読まれた方に叱られそうな気がして、ラストを考えると
心臓がバクバクしてきます。
更新は相変わらずの書いて出しなんですが、短編だと気が楽なので
珍しく一日置き更新を続行しています。
そろそろ魔のラストコーナーに入ってきたので、若干雲域が妖しくなりつつあったり…

> 「匂う」だけじゃ済まんっちゅーに(笑)。
・匂うだけでも充分です。BLに、する?(笑)

コメント&ご訪問、ありがとうございます!

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