05 ,2012
トラブル・トラベル・トラブル 10
手首に絡み付いていた享一の指が離れ、両手のひらで周の手を包み自分の唇を押し付けた。
「周、きょ…は、ごめ……。んぅっ!」
言葉の途中で、享一の手指が離れた。静寂を震わせるモーター音が、また調子を変える。
喘ぎすら失い、白い上着の背中をぐうと仰け反らせ、グラリと傾いた享一の肩を間髪入れずに捕まえた。享一はまるで熱く焼けた手で官能の中枢に触れられたかのように、周の手の中でその肢体を痙攣させる。
酸欠の魚のように浅く喘ぐ享一の肩を、サファイアブルーのマットの上に押し倒す。
享一は周の腕の下で赤い艶花を咲かせた白い胸を上下させ、甘く掠れた啼き声をあげた。
凄艶な媚態に理性が木っ端微塵に弾け飛ぶ。
享一に跨り胸の赤い花に手を掛け、他の男から贈られた婚礼衣装を勢いよく左右に引き裂いた。
呼吸を取り戻したかのように汗に湿った滑らかな胸が息を吸い込む。
艶かしい胸のささやかな花も、鎖骨に散らばる昨夜の名残も見事な淫花へとその色を移す。乱れた吐息は、熱帯雨林の大気に熱を撒き散らした。
俯せにし上着を剥ぎ取った。享一はマットにしがみつき、肌蹴たサロン一枚を腰に纏わりつかせた裸身を辛そうに泳がせた。
体温の上った享一の脇腹や肩甲骨の尖り、背骨に沿って、昨夜自分が付けた鬱血痕がいくつも浮かび上がる。他人が見れば目を背けてしまうような淫らさに、周は満足気に口角を上げて嗤った。
ローターの箱を渡された時、ソニは右手を誓約のかたちで挙げ、「周の執着痕が怖ろしすぎて、清い心でマッサージに勤しんだ事をここに誓います」 と、ふざけたことを言った。
当たり前だ。
永邨周の男に手を出してただで済むとは、ソニだとて予想がつかないわけではなだろう。
昨夜の名残に唇を這わせ、舌で労ってから歯を立てる。享一は今にも瓦解を起こしそうな危機感に張り詰めた声で短く叫んだ。
全て整った肌に「抱いてやる」 と耳打つ。享一は涙で睫毛を湿らせ、戦慄く顎でカクカクと頷いた。
リクライニングベッドの薄いマットから下り、衣服を脱ぎ捨てて行く間、享一はしゃがむような格好でマットに蹲った。サロンに消える右腕は、布の下で脈打つ破裂寸前の劣情を握り締めいている。
「あ…周、はや……はや…く」 あえかな声が躰を侵食する熱に煽られ慄えた。
肩越しに見上げてくる表情も仕草も、なにからなにまで甘さで艷めいている。
「腰を上げろ、享一」
座る体勢から腰を浮かせたことで、モーター音はよりはっきりとふたりの鼓膜に届いてくる。
即座に享一は腰を元の位置に沈めた。
伏せたまま顔を横に振る。
「恥ずかしがっていたら、いつまでもローターは埋まったままですよ。このままでも一向に構いませんが」
享一の羞恥を煽る丁寧な言葉が、とんでもない内容を乗せて滑り出る。
えっ!自身を握ったままの享一は、目が合った瞬間ぱっと躰中に華が咲かせた。
「悪くないですよ、この眺めもね。それとも自分で取り出しますか?」
冷たく見下ろしてニヤリと笑うと、現状を思い出したか怯えたようにおずおずと尻を突き出してきた。
発熱する腿に指を這わせて柔らかい布をたくし上げてゆく。双丘の狭間に咲く蕾は、周を待ちわびそわそわと息衝いている。
悪くないどころか、最高にエロティックで魅惑的だ。
「あっ、あぁ……は、早く……も、もう…ぅ」
開き直りか、はたまた前が限界なのか、切羽詰まった声で周を急かした。
充分に蕩けた蕾を割り、邪魔なおもちゃを取り出して石タイルの床に放る。
享一は、小さな淫魔の余韻に苛まれながらも、それでも安堵の息を洩らしてマットの上に崩れ落ちた。
「も……死ぬかと思った」
「死ぬのはまだ早い。今はこちらの方が限界なのでね」
「え?」
腰の両側を捕まえると、驚いた気配が背中に波が走る。まだるこしい快感を溜め込んだ躰で周を受け止めれば、自分はどうなるか。予感に怯んだ享一が小刻みに首をふる。
「アマネ、まだ早……」
「早くと急かしたのは、享一です」
優しい声で宥めたにも拘らず、言い訳を口走りながら逃げを打った享一を捕まえた。
氷とともに盛られたフルーツに手を伸ばし、ねっとりと熟れたマンゴーの果肉を指で潰す。花蕾に塗りたくると、享一の足の爪の先までがびくりと揺れた。
「ひっ……冷た…!」
ヌルリとはりつく果肉の冷たさに固くした蕾を、限界にまで猛った欲望で破り、一気に奥まで突き立てた。
官能にまみれた悲鳴を上げ、膝立ちでびんとしなる背中を抱きしめる。腕の中の享一を支えながら腰を落とし下から突き上げた。
手荒く揺らされ、衝撃で享一の手が離れた劣情を捕まえ後ろとは別のリズムで追い上げた。
悦楽に全てを委ね、快感に跳ねる若鮎のような躰を更に締め付け、最奥を抉る。後ろ手に周を抱く享一の爪が周の肩に食い込んだ。
絶え絶えに聞こえていた声は途切れ、享一は周に沿わせた躰を仰け反らせ動きを止めた。
濃密な熱帯雨林の森を雨が濡らす。
大粒の雨は、ダイニングを囲む池の水面を白くけぶらせている。
昨日とは打って変わった雨模様に、微熱が燻ったままの躰の奥底までが、しっとりと濡れてゆく気がした。
民族衣装を着た女性がコーヒーをカップにサーブすると、雨の匂いにコーヒーの香りが混ざった。
搾りたてのフレッシュジュース。オランジェリーソースの掛かった半熟卵をのせたマフィン、トマトとマッシュルームの入ったオムレツにはトリュフのスライスが飾られている。
享一はマンゴーの入ったサラダを、さりげに正面に座る周の方に押しやった。
出されたものは残さない主義が、この旅行ではどうにも貫徹できてない。パッションフルーツ特有の濃厚な匂いが自分から立ち上ってくるようで、どうにもいたたまれない気持ちになった。
「おはよう、周。こちらの席に腰掛けても?」
と、享一に顔を向けて尋ねながら、尻はちゃっかり椅子の中に収まっている。風光明媚な雨模様の水上ダイニングに現れたソニは、雨雲から覗く太陽のように晴れやかな笑顔を向けてきた。
不遜な行動も、行儀の悪さもなぜかソニがやると、「仕方ないな」的に片付いてしまう。持って生まれた魅力か、得な男だと享一は呆れこそすれ追い払ったりはしない。
「誰が座ってもいいって言った。それに、なぜ享一に訊く?」
「そりゃ、周に訊いたりしたら駄目っていうだろう?」
ふんぞり返って、薄紫の睡蓮が水面に揺れるホテルの主のような顔で堂々と足を組むソニを、熱帯雨林の濃厚な鮮緑をその瞳に映すした翠の眼が鬱陶しそうに睨む。
「当然だ。躾のなっていない目障りな野獣は、さっさと調教師のところにでも戻ればいい」
「お言葉だね。調教師ってさ、兄さんのこと?」
口許を満足気に吊り上げて、思わせぶりに笑う。
「実は、その調教師からの伝言を伝えにきたんだ。兄さんは体調が優れないから、申し訳ないけど見送れないってさ」
「昨夜は、至って元気そうに見えたが?」
嫌味をいう周に、ソニは愉しそうに声で笑った。
「お前みたいな猪突猛進型のケモノに懐かれれば、アグンも身が持たないな」
「それはお互いさま、だよね?」
愉快そうに顔を上に向け、横目で享一を見る。事情の呑み込めていない享一は、まさかの会話の内容に、頬を紅潮させ目を白黒させている。
「可愛いな……とても5歳も上だなんて思えない」
「え?ってことは、24?」
「今は3だけど。ねえ、そこなオッサンなんかやめて、ピチピチの僕に乗り換えませんか?トキミ様」
言いながらソニは瞠目する享一のサラダを手繰り寄せ、マンゴーを摘んで口に放り込む。
甘い匂いに脳みそが頭蓋の中でどろっと蕩け、世界が雨音と甘い匂いに支配され享一はげっそりとこめかみを押えた。
もうひとつと手を伸ばしたソニの腕を、周が捕まえた。
切れ味の良い日本刀の冴を見せる翠の眼光が冷たくソニを貫く。
「あれ…なんで?」
「アグンに出来ないなら、俺がお前を躾け直してやろうか」
静かに冷笑する周の周囲を、どす黒い怒りの陽炎が立ち昇る。ソニは軽い身のこなしで立ち上がった。
「おおっと、恐っ。命があるうちに、退散するかな。ではトキミ様、今度は日本で」
差し出した手を、周が叩き落とした。「図々しい」 と一蹴され、ソニはまた笑った。
波の音がする。
開いた窓から潮風が流れこんできた。寄せては返す波音が、バカンスに訪れた旅行者たちを波打ち際に誘う。
けど、今はまだシーツの波間に漂っていたい。
気怠い躰を横たえるマットが、ひとり分の重みで沈み、長い指が髪をかき混ぜてくる。
「享一、朝食が届いたぞ」
さらりと乾いた潮風に運ばれてくるコーヒーの芳しい匂いに、自然と笑が零れた。
本当のバカンスが今日から始まる。
― the end ―
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■最後までお読み頂き、ありがとうございます♪(*^▽^*)
素肌にマンゴーは、絶対痒くなると思いますので、真似されませんよう(笑)
拍手のお礼ページから出発したこのお話、今回でおしまいです。
Kさまの「周×享一」のリクエストと、Hさまの「舌打ち」リクエストでにお答えさせていただいたのですが
みなさまも楽しんで頂けましたでしょうか?
次のお話が書けるまで、明日でブログ村のランキングはお休みしようと思います。
村からお越しの方は、更新があれば新着コーナーで出ますので、ぜひまたお越しくだいませ。
紙魚
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当にいつもありがとうございます。
拙文しか書けない私、書いていく励みになります。
■ブログ拍手コメントのお返事は、*こちら*にさせていただいております♪
素肌にマンゴーは、絶対痒くなると思いますので、真似されませんよう(笑)
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紙魚
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と、私の嗜好は どうでも いいけどね!(*⌒∇⌒*)テヘ♪
享一が周によって 媚態を繰り広げる様子は、秘かに覗いている私でさえ生唾ゴックンですぅ。☆。.:*||柱||q・ω・〃)ポッ*:.。☆
「”ねっとり”熟れたマンゴーの果肉を潰し、享一の花蕾・・・」の所は、
享一の体液と果汁が混ざり 放ってるであろう濃厚な妖香に クラクラ~となりそう。
今回も 紙魚さまの描かれる艶やかで妖しい世界へと招待して下さって すっごく嬉しかったです!
また いつか 周と享一に会わせて下さいね♪
完結 お疲れ様です。いつも素敵な作品を ありがとう♪
♪サンキュッ (v^-^v)♪...byebye☆