03 ,2012
ユニバース 15
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空が青さを取り戻すまでには、まだ時間がある。
少しでも眠っておきたいという思いは、レイの姿を見た途端、吹き飛んだ。
一旦止まった足が、レイに向かって歩き出す。
月光を頼りに歩く足元は、ともすればふらつき、気を抜くと倒れそうだった。ダイブで消耗しきった躰から、たっぷりと血液を進呈してきた。
夏は、真乃に変異を繰り返すウイルスに有効なワクチンを開発させると言った。
失敗しても、真乃さえ抑えておけば、抗体であるノアがセントラル・アジアに再び戻ってくる。つまり真乃は担保というわけだ。
世界中を薔薇の毒に染め、想像を絶する速さで世界を蝕んでゆくウイルスを阻む。
それが出来るのなら、血の最後の一滴まで差し出しても構わない。誰の影響で、自分はこんな素直な善人になってしまったのか。
自嘲の溜息をひとつ吐き、戻した視線の先に立つ男。
頼りない明かりの下でも、その男が泣きそうな顔をしているのがわかる。
進化するのはウイルスだけではない。人型の中に埋め込まれた自律回路は、日々新しい感情を見つけ、より繊細に複雑に人に似せて心の裾野を広げてゆく。穢れることはない心は、不条理に消される自分の運命(さだめ)を呪うことも、憂う事もない。
純粋な破壊欲を持ったまま大人になってしまったルドガーと、自分を愛するための心を与えられなかったレイ。ふたつの純粋は愛しくて悲し過ぎる。
「顔色が悪いよ。どうして、そんなに疲れた顔してふらついているの?」
男は長い脚でノアに近付き、目の前で止まった。泣きそうだった表情の消えた眉間にわずかな歪みが生まれている。
ノアは、沈黙が男の猜疑を煽ってゆくのを黙って見守った。やがて、いつまでも言い訳をしないノアを見下ろす蒼い月光を溜めた瞳が、赤みを帯びて眇まった。
衝撃は突然襲い掛かかってきた。
荒々しく硬い石の床に押し倒され、背中を強く打ち付け激しく噎せ返った頭を、両手で抑えつけられた。引きつけを起す唇をキスで塞がれて、苦しさに頭を振って呻く。
圧倒的な人を超えた力と、容赦のない扱い。なす術も無く、思うままに唇を貪られた躰から先に抵抗の力が抜けてゆく。
男の腕が長袍(チャンパオ)を捲くり、長い指が下衣に掛かった。
「レイ、やめろ!」
古い屋敷は、伝統様式を凝らし風雅に見せているが、その実、屋敷の隅々までが綿密に監視されている。ふたりの行為は衆目環視に曝されているのと、なんら変りはない。並外れて鋭い五感を持ち、微弱な電磁波も逃がさないアンドロイドが気付かないはずはない。
「レイ・・・!!」 下衣が引きおろされ、冷たい夜気に晒された肌が驚いたように慄えた。
一気に羞恥の階段を駆け上がり、かっと全身に熱が灯る。
それなりに危ない橋も渡ってきたノアの腕力は、見た目以上に強い。だがレイにとっては、人間の力など力のうちに入りもしない。
やにわに長い腕を持つレイの両手が長衣の裾を掴み、勢いよく左右に開いた。
水面に渡る乾いた絹を裂く音が、ノアの鼓膜と胸の奥を震撼させた。
露になった肌に触れる冷気と鳳凰の染められた絹布を押し退けて、レイの手のひらが素肌の上を這いまわる。ノアの制止の声を無視して、温かい舌が胸の薄紅をぬるりと舐め、軽く歯を立てて噛む。
「ん・・・・・はっ・・・・ァ」
ゾクリと駆け上がる怖気ともつかない快感に、背中がしなった。スタンドカラーの残骸が残る鎖骨に、言葉の代わりに温かい滴がぽたぽたと落ちた。
真乃を呪いそうだった。どうして、ここまで人に似せておきながら、運命を憂うことを自分を愛すること許さなかったのだと。
泣きながら自分に跨り、襟を引き千切る男の首に腕を回し、光と大気の窒素で生きる、愛しくも美しい怪物を掻き抱いた。
仰け反る頭の隅で、せめて音声を拾われないようにと声を殺した。
月光に輪郭を縁取られたレイが躰を起し、ノアの腕を解く。
理性的なレイの瞳に、どこか釈然とせぬ思いを抱きながらも安堵の溜息をつく。解放された上半身を起しかけたノアの躰がびくりと慄え、再度石の床に沈められた。
「レ・・イ!・・・は・・・ぅっ」
剥き出しの腹を淫猥な舌に抉られ、放埓の声が漏れる。
舌先が強く肌を擦る度、熱波が肌の上で薙がれて雄蕊をダイレクトに直撃する。
ノアへの返事代わりとばかりに、空を掻く膝から脚の付け根に向かって撫で上げる手に、両脚をぐいと広げられた。中心の劣情をぬるりと呑み込まれ、静寂を切羽詰った声が突き抜ける。
あざとい動きをする舌と、ゆるゆると肌を愛撫する手に追い立てられ、上り詰め、あられもない声と共に口の中へと逐情する。
力が抜けた目を見開いているノアに、レイは大人びた冷たい嗤いで口許を歪める。
ぐったりとしたノアを軽々と抱き上げ、龍が透かし彫りされた石廊の壁を流し見る。次の瞬間、自分と腕の中の半裸のノアを映した監視スコープを壁ごと蹴り壊すと、瓦屋根の影の中から姿を消した。
ノアが放り込まれたのは、小さな離宮を思わせる真乃の軟禁されている離れのベッドの中だった。
布切れになったチャンパオを纏わりつかせ、広いベッドの上で後ずさるノアにぎこちなく首を傾げ、綺麗な微笑みを浮かべる。美しければ美しいほど、冷淡さが強調される無機質な瞳にノアの本能が竦んだ。
レイが無言のままゆっくり、片方ずつ膝をベッドに乗せ上がってくる。
「・・・・レ・・イ?」
いつもはボルトで封じておきたいくらいに、しゃべりだしたら止まらないレイの口は、最初の一声以来、言葉を発していない。大人びた表情と、冷たい目つき。まるで知らない男のようだ。
「レイ、まさか真乃のメンテナンスで何かされたんじゃないのか?」
自分の子を殺すのか詰ったノアの罵りに、真乃は激しく狼狽していた。
ノアの問いに、どこか破綻してしまった人を思わせる虚ろな表情でレイが笑う。
ぞっとした。言葉を呑み込んだノアの唇を、人間より細やかで気品のある動きをする指が玩ぶ。
「ここに、ね」 ようやく短い言葉が出て、また途切れる。
自分の唇は嬲らせたままレイの口許を凝視め、次の言葉を待つ。人並みの体温を持つレイの指先に、唇が凍えていく気がした。
指は存分に唇を捏ねると、顎に滑りおりる。
首、鎖骨、胸・・・ずくずくと皮膚を溶解する熱が移動してゆく。何度も舌で抉った臍の下指が止まり、強く押した。
「はぅ・・・っ」
皮膚の奥に埋め込まれた熱が、指の下の深い場所で爆ぜ、とっさに身を捩った。
「ここに、夏みたいに、僕もスイッチを仕込みたいな」
伏せた肩口に唇を寄せたレイが、温度のない声で強請ってくる。
剥き出しの下肢から腋の下まで。10本の意図的な指先が、起伏の少ない躰のラインを撫であげる。
「レイ、待・・・あっ」
うつ伏せた躰は感電したみたいにひとつ慄え、レイの指に応えた。
浮き上がった肩甲骨のエッジを舌でなぞり、真ん中の背骨にキスを落して話し出す。
「起爆の種をこの躰の植え付けるんだ。君が僕以外の誰かといけないことをしたら、発芽してウイルスみたいにこの躰を内側から溶かしてく。君を養分にして咲かせる花は、さぞ可愛くて綺麗だろうな」
身の毛もよだつようなアイデアに、端正な顔が愉悦の笑みを作った。
「僕が消えた後も、種は君の裡(なか)で生き続けて、君を僕に縛り続ける」
そうしたいなと、笑う。
「やればいい」
ノアの言葉に笑いが消えたレイの首に、腕をのばした。
背中に手指を這わせる。フェムト細胞による再生で、ノアがつけた爪痕が消えたとレイが嘆いたのは一昨日だった。青い涙の透明さが鮮明に蘇り、ぎゅっとレイを抱き寄せた。
「そうしたいなら、やればいい。俺は構わない」
突然、乱暴に引き剥がされた。
捕まれた両腕の付け根を、ベッドに強く押し付けられ腕や鎖骨が軋んだ。今にも骨がバラバラに砕けそうな痛みで開ききったノアの目にレイが映る。
平常を取り戻したレイの顔が、怒りと悲しみを綯い交ぜにしてノアを睨んでいた。
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空が青さを取り戻すまでには、まだ時間がある。
少しでも眠っておきたいという思いは、レイの姿を見た途端、吹き飛んだ。
一旦止まった足が、レイに向かって歩き出す。
月光を頼りに歩く足元は、ともすればふらつき、気を抜くと倒れそうだった。ダイブで消耗しきった躰から、たっぷりと血液を進呈してきた。
夏は、真乃に変異を繰り返すウイルスに有効なワクチンを開発させると言った。
失敗しても、真乃さえ抑えておけば、抗体であるノアがセントラル・アジアに再び戻ってくる。つまり真乃は担保というわけだ。
世界中を薔薇の毒に染め、想像を絶する速さで世界を蝕んでゆくウイルスを阻む。
それが出来るのなら、血の最後の一滴まで差し出しても構わない。誰の影響で、自分はこんな素直な善人になってしまったのか。
自嘲の溜息をひとつ吐き、戻した視線の先に立つ男。
頼りない明かりの下でも、その男が泣きそうな顔をしているのがわかる。
進化するのはウイルスだけではない。人型の中に埋め込まれた自律回路は、日々新しい感情を見つけ、より繊細に複雑に人に似せて心の裾野を広げてゆく。穢れることはない心は、不条理に消される自分の運命(さだめ)を呪うことも、憂う事もない。
純粋な破壊欲を持ったまま大人になってしまったルドガーと、自分を愛するための心を与えられなかったレイ。ふたつの純粋は愛しくて悲し過ぎる。
「顔色が悪いよ。どうして、そんなに疲れた顔してふらついているの?」
男は長い脚でノアに近付き、目の前で止まった。泣きそうだった表情の消えた眉間にわずかな歪みが生まれている。
ノアは、沈黙が男の猜疑を煽ってゆくのを黙って見守った。やがて、いつまでも言い訳をしないノアを見下ろす蒼い月光を溜めた瞳が、赤みを帯びて眇まった。
衝撃は突然襲い掛かかってきた。
荒々しく硬い石の床に押し倒され、背中を強く打ち付け激しく噎せ返った頭を、両手で抑えつけられた。引きつけを起す唇をキスで塞がれて、苦しさに頭を振って呻く。
圧倒的な人を超えた力と、容赦のない扱い。なす術も無く、思うままに唇を貪られた躰から先に抵抗の力が抜けてゆく。
男の腕が長袍(チャンパオ)を捲くり、長い指が下衣に掛かった。
「レイ、やめろ!」
古い屋敷は、伝統様式を凝らし風雅に見せているが、その実、屋敷の隅々までが綿密に監視されている。ふたりの行為は衆目環視に曝されているのと、なんら変りはない。並外れて鋭い五感を持ち、微弱な電磁波も逃がさないアンドロイドが気付かないはずはない。
「レイ・・・!!」 下衣が引きおろされ、冷たい夜気に晒された肌が驚いたように慄えた。
一気に羞恥の階段を駆け上がり、かっと全身に熱が灯る。
それなりに危ない橋も渡ってきたノアの腕力は、見た目以上に強い。だがレイにとっては、人間の力など力のうちに入りもしない。
やにわに長い腕を持つレイの両手が長衣の裾を掴み、勢いよく左右に開いた。
水面に渡る乾いた絹を裂く音が、ノアの鼓膜と胸の奥を震撼させた。
露になった肌に触れる冷気と鳳凰の染められた絹布を押し退けて、レイの手のひらが素肌の上を這いまわる。ノアの制止の声を無視して、温かい舌が胸の薄紅をぬるりと舐め、軽く歯を立てて噛む。
「ん・・・・・はっ・・・・ァ」
ゾクリと駆け上がる怖気ともつかない快感に、背中がしなった。スタンドカラーの残骸が残る鎖骨に、言葉の代わりに温かい滴がぽたぽたと落ちた。
真乃を呪いそうだった。どうして、ここまで人に似せておきながら、運命を憂うことを自分を愛すること許さなかったのだと。
泣きながら自分に跨り、襟を引き千切る男の首に腕を回し、光と大気の窒素で生きる、愛しくも美しい怪物を掻き抱いた。
仰け反る頭の隅で、せめて音声を拾われないようにと声を殺した。
月光に輪郭を縁取られたレイが躰を起し、ノアの腕を解く。
理性的なレイの瞳に、どこか釈然とせぬ思いを抱きながらも安堵の溜息をつく。解放された上半身を起しかけたノアの躰がびくりと慄え、再度石の床に沈められた。
「レ・・イ!・・・は・・・ぅっ」
剥き出しの腹を淫猥な舌に抉られ、放埓の声が漏れる。
舌先が強く肌を擦る度、熱波が肌の上で薙がれて雄蕊をダイレクトに直撃する。
ノアへの返事代わりとばかりに、空を掻く膝から脚の付け根に向かって撫で上げる手に、両脚をぐいと広げられた。中心の劣情をぬるりと呑み込まれ、静寂を切羽詰った声が突き抜ける。
あざとい動きをする舌と、ゆるゆると肌を愛撫する手に追い立てられ、上り詰め、あられもない声と共に口の中へと逐情する。
力が抜けた目を見開いているノアに、レイは大人びた冷たい嗤いで口許を歪める。
ぐったりとしたノアを軽々と抱き上げ、龍が透かし彫りされた石廊の壁を流し見る。次の瞬間、自分と腕の中の半裸のノアを映した監視スコープを壁ごと蹴り壊すと、瓦屋根の影の中から姿を消した。
ノアが放り込まれたのは、小さな離宮を思わせる真乃の軟禁されている離れのベッドの中だった。
布切れになったチャンパオを纏わりつかせ、広いベッドの上で後ずさるノアにぎこちなく首を傾げ、綺麗な微笑みを浮かべる。美しければ美しいほど、冷淡さが強調される無機質な瞳にノアの本能が竦んだ。
レイが無言のままゆっくり、片方ずつ膝をベッドに乗せ上がってくる。
「・・・・レ・・イ?」
いつもはボルトで封じておきたいくらいに、しゃべりだしたら止まらないレイの口は、最初の一声以来、言葉を発していない。大人びた表情と、冷たい目つき。まるで知らない男のようだ。
「レイ、まさか真乃のメンテナンスで何かされたんじゃないのか?」
自分の子を殺すのか詰ったノアの罵りに、真乃は激しく狼狽していた。
ノアの問いに、どこか破綻してしまった人を思わせる虚ろな表情でレイが笑う。
ぞっとした。言葉を呑み込んだノアの唇を、人間より細やかで気品のある動きをする指が玩ぶ。
「ここに、ね」 ようやく短い言葉が出て、また途切れる。
自分の唇は嬲らせたままレイの口許を凝視め、次の言葉を待つ。人並みの体温を持つレイの指先に、唇が凍えていく気がした。
指は存分に唇を捏ねると、顎に滑りおりる。
首、鎖骨、胸・・・ずくずくと皮膚を溶解する熱が移動してゆく。何度も舌で抉った臍の下指が止まり、強く押した。
「はぅ・・・っ」
皮膚の奥に埋め込まれた熱が、指の下の深い場所で爆ぜ、とっさに身を捩った。
「ここに、夏みたいに、僕もスイッチを仕込みたいな」
伏せた肩口に唇を寄せたレイが、温度のない声で強請ってくる。
剥き出しの下肢から腋の下まで。10本の意図的な指先が、起伏の少ない躰のラインを撫であげる。
「レイ、待・・・あっ」
うつ伏せた躰は感電したみたいにひとつ慄え、レイの指に応えた。
浮き上がった肩甲骨のエッジを舌でなぞり、真ん中の背骨にキスを落して話し出す。
「起爆の種をこの躰の植え付けるんだ。君が僕以外の誰かといけないことをしたら、発芽してウイルスみたいにこの躰を内側から溶かしてく。君を養分にして咲かせる花は、さぞ可愛くて綺麗だろうな」
身の毛もよだつようなアイデアに、端正な顔が愉悦の笑みを作った。
「僕が消えた後も、種は君の裡(なか)で生き続けて、君を僕に縛り続ける」
そうしたいなと、笑う。
「やればいい」
ノアの言葉に笑いが消えたレイの首に、腕をのばした。
背中に手指を這わせる。フェムト細胞による再生で、ノアがつけた爪痕が消えたとレイが嘆いたのは一昨日だった。青い涙の透明さが鮮明に蘇り、ぎゅっとレイを抱き寄せた。
「そうしたいなら、やればいい。俺は構わない」
突然、乱暴に引き剥がされた。
捕まれた両腕の付け根を、ベッドに強く押し付けられ腕や鎖骨が軋んだ。今にも骨がバラバラに砕けそうな痛みで開ききったノアの目にレイが映る。
平常を取り戻したレイの顔が、怒りと悲しみを綯い交ぜにしてノアを睨んでいた。
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■最後までお読み頂き、ありがとうございます♪(*^▽^*)
ふと気付けば、一週間くらいあっという間に過ぎている今日この頃。振り返れば6日ぶりの更新、、、すみません。
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当にいつもありがとうございます。
拙文しか書けない私、書いていく励みになります。
■ブログ拍手コメントのお返事は、*こちら*にさせていただいております♪

ふと気付けば、一週間くらいあっという間に過ぎている今日この頃。振り返れば6日ぶりの更新、、、すみません。
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ノアが、レイに何か引っかかりを感じたのね?
私も 感じたよ~~┏(゚ェ゚) ?
だって だって この雰囲気のレイは、須弥山で見た事 あるも~ん(`・ω・´)ノ ァィ
真乃パパは、やっぱり レイをーー!うぁ゙ぁ゙ぁ゙Σ≡=-(●p>□q)・。゚・。byebye☆