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紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
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長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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Category: ユニバース(全80話)

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ユニバース 8
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 院長室のソファで自己メンテナンスプログラムを走らせていたレイは、隣に沈んだ重苦しい気配に、閉じていた瞼を上げた。膝に肘をついて座ったノアが難しい顔で前を睨む。
「どうしたの?」 
「ジャスが感染した」
「ミズ、ジャスティスは、お腹に赤ちゃんが・・・」
 ノアが頷く。
「ホーリーだ。たぶん、あの時ショウルームいた者は俺たち以外、全員感染していると思う。ウイルスチェックでずっと陰性だったのが、母体の定期検査でいきなり陽性が出たらしい。ダンテも検査では陰性だけど、間違いなく感染してる」
 ”進化”したローズ・フィーバーウイルスは感染してもすぐに陽性反応が出てこない。
 それが新たなパンデミックを起した原因だった。
 聖なる名を持つ悪魔がばら撒いた毒は、足音すら立てずに全世界に広まり浸透していた。 
「レイ、もう一国の猶予もない。行こう」 
 目を合わせて同時に立ち上がった。

「ルドガー様!」
 夜の帳に紛れて中庭に立つ二人の前にエリオットが走ってきた。  
 珍しく取り乱すエリオットの姿に、不穏な予感がする。
「真乃様が、拘束されたようでございます」
「新世界政府の軍に?」
 先手を取られた。
「いえ、セントラルアジアの夏という男です。桐羽様に、返してほしければすぐに迎えに来るよう伝えるようにと。それと、クロストが率いる連隊がこのマレ地区に入りました。ここも、間もなく包囲されます」
 泣き面に蜂とはこのことか。
「エリオット、僕のマシンはどうなってる?」
「指示通り、北外れの廃屋に運んでございますが、クロストの目に触れず辿り着くのは難しいものかと」
「道ならある」
 突然割り込んだ男の声に、3人同時に振り返った。

 地下礼拝堂の祭壇下の床を外すと、人ひとりがようやく通れるくらいの幅の石の階段が出たきた。
 長い間、人が入った形跡のない地底からは埃っぽい匂いを伴った微風が吹いてくる。
「カタコンブです。この修道院には前身になる古い教会があって、その時代からのものなの。マレ区の北西にある小さな教会と地下水路で繋がっています」
「距離にして12キロ。普通なら歩いて3時間って所だが、お前達ならもっと早くにつけるだろう」
「ジタン、いつから正気に戻ってたんだ」
 痩せてよりシャープな男前になった男がニヤリと笑った。

「お前が一回目に来る少し前だ。悪かったな。俺は過去を捨てるつもりだったし、お前に何も応えない方がいいと思っていたんだ。その代わり、ヒントを残してやっただろう」
 憮然と口をへの字に曲げたノアが、呆れて苦笑いする。
「お陰で、散々な目に遭ったけどな」
「ってことで、賭けは俺の勝ちな」
 賭けと言われて、久しぶりにワールド・ボールのチケットを賭けていたことを思い出した。都市伝説となった須弥山の謎を探る。先に有効な情報を手に入れた方が、ワールド・ボールのプレミアチケットを負けたほうからせしめる。
「ずるいぞ。そっちは棄権したようなもんだろ」
「ま、より多くの情報を手に入れた先輩には、敬意を払わなきゃだよな」と、嘯くジタンに
「出来の悪い相方を持って苦労するこっちの身になれ」と、悪態をつく。

「で、ジタンはどうする?間もなくここに迅が来る。よかったら俺たちと行かないか?」 
 レイの顔がひくりと反応した。ジタンを険しい顔で睨む。美貌の男に凝視められたジタンは、眦が吊り上がるレイを揶揄うようにノアの肩を抱き、耳に口を寄せた。
 目の端で、真っ白になったレイの顔を捉え、ジタンは口角だけで笑う。
「やめとくわ。毎日こんなワンコに睨まれても堪んねえし。それに、ここにはまだ用がある」
 そう言うと、ジタンは自分を見つめるローザを見た。
 人の心を渡り歩いてきたスパイは、自分ごとダイブしてもいいと思える相手を見つけたらしい。

 ローザは自分のロザリオに接吻すると、項垂れたレイの首にかけた。
「ヴィンセント様に、どうか神のご加護を」
「ノア、お前も気をつけろよ」
 ニヤリと笑い、抱擁の腕を伸ばすジタンから、レイがノアをさっと取り上げる。
「ノアは、僕の大事な人だから、僕が守り・・・・」 ノアがレイの唇を捻りあげた。
「いひゃい」
 ジタンは腹を抱えてゲラゲラ笑い出した。
「馬鹿、簡単に乗せられんなっ」
「面白れえ。こりゃ骨の髄まで愛されちゃってんな、ノア。しっかり、”守って”もらえよ」

「ルドガー様、桐羽様も、どうかご無事で」
 階段を折りかけた男の足がぴたりと止まって振り返る。
「あ、そうだ。僕ね、”レイ”になったから」
 何のことかわからず、ポカンと口を開けた3人が、高らかに自分の名前を布告する男を見る。
「ノアがくれた名前だよ。レイだよ、ちゃんと覚えて。レ・イ。僕は、もうルドガーじゃないからね」
 エリオットは瞳を瞬かせていたが、目尻に寄せた皺の数を増やして微笑んだ。
「レイ様ですか。いいお名前です。では、お気をつけていってらっしゃいませ。レイ様」
 エリオットは旅立つふたりにいつもの慇懃な挨拶をし、ニヤついたジタンに寄り添うローザは祝福の笑みをくれる。こんな事態でありながら、柔らかいものに心が満たされた。
「余計なこと言ってないで、行くぞ!」
 立ち去りがくなる気持ちを抑え、先に階段に飛び込んだノアは、レイの首根っこを引っ張った。

 小さなライトが暗闇に光を投げかける。
 狭い通路を飾る装飾のように、夥しい数の人骨が積み上げられていた。
 カタコンブは古い時代の地下墓地だ。
 頭蓋骨、胸骨、大腿骨・・・部位に分けられ積まれた骨は乾燥しきって、薄ら埃が積もっている。
 後をついて来る足音が不意に止まった。振り返るとレイが何かを手に持って立っている。
 頭蓋骨だ。
「レイ、急げ」
 骨をそっと戻したレイは、次の瞬間にはノアの頭を捕らえていた。飛弾を余裕で避けるアンドロイドには、ノアの動きなど止まっているに等しい。
 切なげな瞳がゆっくり近付き、唇が重なる刹那、ノアは顔を逸らした。
 項に触れる吐息が、息を呑んだ拍子に止まる。
 無言で身体を離して歩き出したノアの後を、少し遅れてレイの足音が追った。

 水路に出たところで、遠く背後からバーンという衝撃音が響いてきた。
 地下礼拝堂の分厚い木のドアが破られたらしい。
「来たぞ」
「ノア、ライトを消して」
 身構えて振り返ったノアの手からライトが取り上げられる。ノアの躰を抱き上げると、レイは闇の中を疾走した。

 大きな布を取り去ると、バイク型エアフライ WING3001がその流線型の優美な姿を表した。
 ナイトブルーのボディに、マシンの速さを強調する銀のライン。
 月光の差し込む廃屋の中で、マシンは主人が来るのを静かに待ちわびていたようだった。
「ノア」
 振り返った唇を、レイが奪う。
 マシンに重なったふたりの影が落ちた。
  


   
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  ■最後までお読み頂き、ありがとうございます♪(*^▽^*)
   伊達男、ジタン。オッサンでした(笑)
   髑髏を見詰めるレイ。ちょっと寂しそう?
 

  ■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当にいつもありがとうございます。
  拙文しか書けない私、書いていく励みになります。
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Comments

Re: もうこれは映画です。
鍵コメントさま、こんばんは~

だんだん、ストーリーをというより、二人の行動を追うので
いっぱいいっぱいになって来ました(;^_^A

> 暗い堅昆布?(笑)(カタコンブ)を通るシーンの映像は、冒険ロマンスさながらです。
・(≧▽≦)わははは!!
久しぶりに、鍵コメさんの空耳アワーを聞いた気がします♪
みなさんは、きっとカタコンベの方が耳に馴染でおられると思うのですが
もっちゃりとした響がいいなあって。そっかー、このもっちゃり感は昆布の粘り
だったんですね(ちがう

> 今回も楽しませていただきました~。
・いつも、ありがとうございます~(*^▽^*)
鍵コメさんの新しいお話は進んでおられますか?
楽しみにお待ちしています♪

コメント&ご訪問、感謝です。
ハラハラ・ドキドキなのに ワクワク・ウキウキさせられるーー!
ガガガ━(ll゚д゚ll)━ン!!
すご~い、凄すぎる!この緊迫感!躍動感!
ガガガ━Σ(ll゚ω゚(ll゚д゚ll)゚∀゚ll)━ン!!!

もう何を書いても 無駄なコメな気がする
死なない程度に 息詰めて 読んでま~す♪(笑)
紙魚さまに拍手~♪パチ☆(p´Д`q)☆パチ☆(´pq`)☆パチ♪...byebye☆



けいったんさま、ようこそです!!

> ハラハラ・ドキドキなのに ワクワク・ウキウキさせられるーー!
・ありがとうございます!!
躍動感、ありますでしょうか?
SFなのに、修道院でののんびりシーンが続いたので
さすがに動かさにゃ・・・と思ってしまいました。

> もう何を書いても 無駄なコメな気がする
・そんなことないです~~。
BLの萌え激減中ですが、どこかで補充したいと思いますので
息をしながら(笑)、お付き合いくださいませ~

コメント&ご訪問、ありがとうございます(*^▽^*)

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