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紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
拙い文章ですが、お読み頂けましたら嬉しいです。


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長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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Category: 翠滴 1 (全40話)

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翠滴 1-9 漆黒の間  1 (29)
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 ここにいる間だけ?・・・・その先はどうなるのか?

 祝言の日が、目の前に迫っていた。

 もうすぐ、長い夏の休みが終わって、大学が始まる。
 そして、元の生活に戻る。

 期間限定の身体だけの関係。ありえない。
 自分には、手に入れたい理想の家庭がある。答えは出ている。

 式が終わったら、その足でここを出て、大学に戻りここで起こった全てをリセットする。
 そして日常が再開する。それが自分の望みの筈、なのに・・・

 高校の夏休みが終り、ティーンズは東京へと帰っていった。
 2人が一足先に日常へと戻っていったことが、現実が急速に近付いていることを感じさせ更なる焦りをよぶ。


 「享一、どうしたのですか?こんなところで」
 暗い夜の縁側に1人で蹲っていた。
 小煩いカシマシ娘たちの居なくなった屋敷は、静かになって気兼ねが無くなって清々したはずなのに、すごく寂しい。
 少し涼しくなった夜風や微かに聞こえる虫の声も、もの寂しさに追い討ちをかける。

 「ちょっと考え事、してた」艶のある声に、頭も上げずに答える。

 風呂に入ってきたのか、微かにシャンプーの匂いが夜風に混じる。
 ふっと香りが近付いて、周(あまね)に手を取られて立たされると、耳元に誘いの言葉を吹き込まれた。

 「散歩に行きませんか」

 湯で上気した肌が薄っすらとピンクに染まって、濡れ髪が色香をたてる。
 こな些細な変化にも、なんて艶やかなのだろうと見蕩れてしまう。
 周は、『容姿なんてすぐ見慣れて、見飽きるものですから』などと言っていたが、免疫なんて全然つかない。
 周はズルい上に嘘つきだ。

 「どこへ?」
 「外」薄い唇が口角だけを上げて笑う。

 頷いた。

 前に落ち込んだ時も、こうやって周に連れ出されて酒を酌み交わした。周の後について門を出るといきなり目の前に暗闇が広がり、足許がおぼつかず立ち怯んだ。もとよりこのド田舎に街灯と呼べるようなものなど無い。遠くにポツリ、ポツリと電信柱に取り付けられた黄色い光の電燈があるだけだ。
 それは、広い夜の海原の漁火を思わせる。

 闇に踏み出すのを躊躇っていると、その手を周が引いた。手を繋いで、月も出ていない夜の、ともすれば隙間なく纏わりついてくる漆黒の闇の中に2人で分け入った。
 秋の虫の音だけが、煩いくらいに耳についた。

 指で掬えば滴り落ちそうな闇の中を、周に手を引かれながら歩いている。漆黒の闇は前後左右の感覚を奪う。唯一繋いだ手から伝わる周の体温だけが自分と周が繋がっていて、暗闇に独りではない事を教えてくれる。微風に混じるシャンプーの微かな匂いが鼻腔を擽った。

 周の手が温かい、目を閉じてシャンプーの匂いを肺一杯に吸い込む。
 周が好きだ。
 そう思うと、心が滲んで瞳から涙がこぼれた。

 満天の星が潤んだ瞳の中で享一の心の中と同じように、滲んで融けていった。

 
 何も話さず、歩いた。

 電信柱に取り付けられた電燈がポツンとあって、舗装されていない道に円い柔らかい卵色の光を落としている。泣いているのを見られたくなくて、明かりの環の中に入るのを躊躇った。

 「享一?」
 
 光の中に入った周が振り返った。
 手を繋いだまま立ち止まり、翠の瞳が泣いている享一を見詰める。

 周は何も言わない。狡い。こんなところも狡い。
 「残れ」とも、「行くな」とも 「信じてくれ」とも。「帰れ」とも言わない。
 無言で抱きしめ、何も言わず唇を合わせてくる。狡い。


 では、周に引き止められたら、自分はここに残るのだろうか?答えは出ない。もし引き止める言葉を聴いたら、自分は変わるかもしれない。でも、周は何も言わない。「もし」と「でも」を何度も繰り返し、思考が仮想のループを描き始める。

 このル-プを断ち切るかもしれない、唯一の言葉を持つ男は、享一を煽って捕えて『堕ちてこい』と自分の真直ぐな想いを伝え翠の闇の中に誘い込んだまま、その後の判断は享一に委ねている。
 周の手を離した自分の手の中には、方向を示すコンパスなどは無く後ろ髪を引く後ろめたさや、ともすれば色褪せてしまいそうな理想の幸せの形があるのみだ。
 近付くジ・エンドを前に、焦燥感のみが募ってゆく。

 「周さんは、狡い・・」

 周を狡いというのは卑怯だ。本当に狡いのは、自分だ。知ってる。
 信じることを選ぶことを恐れて、一歩が踏み出せない事を周の所為にしている。
 享一を抱きしめる腕に力が入ってキスが深くなった。

 「僕は、享一に惚れました。他には何も無い。これだけでは駄目ですか?」
 「そんな話し方、やめろよっ!」

 周の腕を振り解いて闇の中へ逃れた。卵色の明かりの中に周がぽつんと独り佇む。
「享一」周の美しい顔に電燈の光が落ちて陰影を濃くする。なぜかその顔は心許なげで泣いているみたいに見えた。

 「享一、姿を見せて」闇に向かって、投げられる声。初めて聞く頼りなげな響きにはっとする。差し出された手を取って明かりの環の中に入った。

 「ごめん」声には出さず、『独りにしてゴメン・・』となぜか心の中で続けた。
 再び繋がれた手が引かれ「帰ろう」と合図する。瞳で頷いた。

 繋いだ手を一旦離され、スローモーションのような動作で「闇に紛れる前に」と、もう一度抱きしめられた。
 周が髪に指を差込み、ゆるやかに愛撫しながら耳元に口を寄せると声に出さずに呟く。

 『アイシテイル』

 抱き込まれ周の肩に頭を預けた形の享一には、愛の言葉を載せた唇も声も何も知る事はできない。
 言葉は濃厚な闇に吸い込まれて消えた。



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 いつも、お読みいただき、ありがとうございます!!
今回、予告指定してたサブタイトル変えました。アタクシ、ここまで来て後悔しています(´A`;)
サブタイトルつけなきゃよかったって。。最初は便宜上だったんですけど
ここんトコ、いいのが浮かびません。ん~、止めちゃおっかな。それも中~途半端かな。
思案中です(-д-;)う~ん。ちなみに、今回のタイトルは「漆黒の間(はざま)」でっす♪
皆さま数日前から、ぐ~っと寒さが増してきました。どうぞご自愛くださいませ(LOVE!)


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テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学

Comments

ピンク?
読んでるあいだに変わった~
ですよね?
あれ?
まあいいですが(笑)

紙魚さんほんとサブのことでこまってますね~
でもこれまでつけられたサブタイトル、みんなすてきな印象的なものですよ。
サブがあると小説がより忘れがたいものになると思います。
ただ、長編になればなるほど、つぎはどんなのつけようってほんとに四苦八苦するでしょうね。

「外」
どこにいくのかと問われて、こう短く答えたくだりが好き!
すてきな文章。
ピンクですね。
 なんでだろ~~?
きれいな色だけど、読み難い!!
直し方わからないんで、放って置きますヽ(´ー`)ノオテアゲ~

ハイ、困ってます。サブタイトル。。。
2部終盤の今も悩みの種です。でも、ついてないとどこで何書いたか
憶えてられないんです。イエ、ついていても忘れてる。。大丈夫かアタシ?


おお、直ってる
横文字は止めようと書いていた紙魚さんの「オーディナリー・ラブ」終わりました(イジワル)サブタイトルがあると、ああ、あそこの!って後でわかりやすいですよね。
おまけに紙魚さんのタイトルはどれもステキです。
「O・L」(あ、略したら働く女性に!)は、周と享一のLOVEの始まり。
漆黒の狭間はこれから読みますが、真っ暗な中での『アイシテル』の独白がありますね。
伝わって無いのが切ないです。
「O・L」での地下室での周と享一の毎晩の抱擁と激しい行為くらくらしました。
最新の更新も読む贅沢モノです。
Re: おお、直ってる
 おお、アドさま、こちらにも♪ようこそです♪♪

> 横文字は止めようと書いていた紙魚さんの「オーディナリー・ラブ」終わりました(イジワル)サブタイトルがあると、ああ、あそこの!って後でわかりやすいですよね。
 ・横文字は使わない・・・そんな誓いを立てたこともあったけな~
 2~3章では完全に自爆していますv。もともと、語彙も貧困なのに無謀というものでした(笑)

> おまけに紙魚さんのタイトルはどれもステキです。
 ・ありがとうございます!!でも、私はアドさんのイカしたタイトルのセンスにやられてる真っ最中ですので~~

> 「O・L」(あ、略したら働く女性に!)は、周と享一のLOVEの始まり。
> 漆黒の狭間はこれから読みますが、真っ暗な中での『アイシテル』の独白がありますね。
> 伝わって無いのが切ないです。
 ・周は煽るだけ煽って、最後の選択は享一にさせます。今でもその姿勢はかわらない・・・汗
 お陰でストーリーがなかなか進みません=3

> 「O・L」での地下室での周と享一の毎晩の抱擁と激しい行為くらくらしました。
 ・え?激しかったですか?私は、直接的な表現が苦手なので結構ソフトだと思いますよんv20禁書けるアドさんからするとウチはかなり温いかも~~(笑)

> 最新の更新も読む贅沢モノです。
 ・文体がくどくなってるのが、ばればれですね(爆

 今日の深夜、紙森さんのSSをUPできます。
 また覘いてくださいねん♪

 連コメ、うれしっす!!

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