11 ,2011
Love or world 13
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魅惑ローションが自社製品だとは知らなかった。
薬品製造部門の営業としていかがなものだろう。と、いや違う。自分が主張したいのはそんなことではないのだと頭を抱える。
大体、おかしいだろう。
素っ裸でいたのは自分のせいではないのだ。全ての罪は金髪碧眼男にあるというのに、なぜ自分が直立不動で気をつけますと言わなければいけならないのか?
ノアは新しく淹れてもらったお茶を啜り、不条理と茶の美味さに唸った。
自分の荷物から掌にすっぽりと収まるサイズの黒い箱を取り出す。目の前に翳し虹彩を認証させると、箱はその表面に幾つかのサインを浮き上がらせた。ログインのサインを指先で弾くと、サインは空中に浮き上がり起動し始める。
そこでまた茶を啜った。
確かに、おめでとうございますとエリオットなら言うと思った。
だが、それは能天気な金髪碧眼男にであって、自分が言われる謂れは・・・・
「あ・・・・」 伸び放題の前髪を掻き揚げる手が止まる。
目は相変わらずポータブルコンピューターが映す文字を追いながら、10日ほど前のやり取りを思い出した。これか、と口角を吊り上げる。
エリオットは、ノアがルドガー側についたと確信が出来たなら、ジタンの居場所を教えると言った。
「なるほど、おめでとうございますね」
だが次の瞬間、ナニを見ておめでとうなのかを思い出し、耳まで染めながらまた頭を抱えた。
ジタンとは、ノアがアスクレピオスの間諜として籍を置いたその日から、ノアのアドバイザー兼パートナーとして組んできた。お互い顔を合わせレば、くだらない冗談を言い合い、プライベートな話は殆どしなかった。だが、時に相手に生命の手綱を預けるという人の精神世界にダイブする危険な仕事は、互いの中に言葉では言い表せぬ信頼を築いたと思う。
仕事を辞めるにしても、ジタンのことは放っておく訳にはいかない。
木製の机の上には光のキーボードが出現して、次に小さな正方形のスクリーンが行儀よくマシンの上で羅列する。前から順に指で飛ばして移動させ、丁度いい大きさになるように指で指示をだしてゆく。ものの数秒で、目の前には12枚のスクリーンがノアの使いやすい位置に並び、ノアは片っ端から目を通していった。
個人のアドレスには大量のDMとダンテからのメールが2通。うち1通はホログラムメールだ。両方とも日付は3週間前だ。再生するとホログラムのダンテがしゃべり出す。
ノアの本業をダンテは知らない。ノアが営業の仕事で出張中だと思っている。健康を気遣う優しい言葉と、いつもの軽いジョークが酷く懐かしい。
そろそろメッセージが終わるかと思ったその時、ホログラムの中にジャスが飛び込んできた。
『ハイ、ノア!サプライズよ。私たち結婚する。ついにベビーが出来たの!』
言った途端、ホログラムの2人とノアから同時に歓声上がった。
『でね、ノア、あなたにお願いがるの』 愛嬌のある浅黒いベビーフェイスに、母親の慈愛と余裕の深い笑みを刻みジャスはノアを見る。
『あなたにベビーの名付け親になって欲しいのよ』
ノアの口が唖然と開き、そのままホログラムの前で固まった。
ホログラム映像のジャスはショウルームでの出来事を詫び、エアフライの試乗を約束して最後にもう一度、ノアに「ベビーの名前をお願い」と欲しいと頼んだ。もう1通のメールは今から一月後に控えた結婚式の招待状だった。
泣きたくなるような幸福感に胸が満たされていた。
以前の自分だったなら、2人に子供が出来たことで逆に淋しさを覚えていたかもしれない。
迅がくれた世界がノアの全てだった。ノアなりに愛してきたし、執着もしていた、。
だが、フリーエリアで発見された子供に向けられるのは好奇心と畏怖であり、愛情や思いやりはノアにとっていつも遠い存在だった。いつしか期待することに疲れ、他人に対して砦を築いてしまった心は、人の幸せを羨んだり妬ましく思う気持ちばかりが勝っていた。
結局、自分の心は、あの暗く深い森の中から一歩も出ていなかったのだ。
胸に溢れる幸福感は、柔らかな金色に染まっている。夏空のように鮮やかな青い瞳をした男の存在は、ノアに新しい世界の扉を開かせた。
仕事用のアドレスにはアスクレピオスからの経費申請の催促に混ざり、迅からのメールも何通かあった。躊躇った後、ニュースチャンネルに切り替えた。
200を越える画面が空中で重なったり前後したりしながら、次々と現れる。どうやら内容はどれも同じらしく、そのひとつを指先で拡大し音声を入れる。
興奮で早口になったニュースキャスターの言葉に、ノアは耳を疑った。
血走った目に濃い疲労を浮かべたキャスターは、ローズ・フィーバーの爆発的流行、パンデミックを訴え続けていた。
感染から発症までの進行の度合いが以前に比べて格段に早い。
変異を起こしたウイルスは驚異的なスピードで広がり、日を追う毎にその感染者数を増やしている。空気感染はしないと信じられていたウイルスは定説を迷信に変えてしまった。
地域や人種も関係ない。世界中が驚異にさらされていた。
ノアは全く別の世界から連れてこられた異邦人のように事態をまくし立てるキャスターを茫然と見つめた。
ルドガーを狙い、ノアに銃口を向けた殺人鬼は、熱病を発症し無惨な遺体で発見された。
殺人鬼ホーリーが残した、ジタンのベージュのジャケットは何を意味するのか。
弾かれたように立ち上がると、ノアは部屋を飛び出した。
「ノア!」
呼び止められ、振り向いた身体を温かい腕で抱きしめられた。
「もう、起きてたんだね。大丈夫?一緒に起きるつもりだったのに、目が覚めたら・・・」
愁眉が情けないハの字に落ち、その先は言葉ではなく、抱擁と頬ずりで伝えてきた。
大丈夫かと訊かれ、連なって掘り起こされる記憶と躰の芯に残るだるさに、頬や耳が発火しそうなくらい熱くなる。
「一回起きただろう。それによく寝ていたし・・・」
「一緒に起きたかったんだ。でもいい。こうやって会えたから」
すぐに機嫌を直した男は笑いながら接吻けをせがんだ。自分の中に様々な変化をもたらす男。心を解放し、気持ちの趣くままに広い背中に腕を巻きつけ唇を合わせた。
腕の中の存在が愛しい。
淋しげな黄昏色に染まった世界は、いま鮮やかに色づき息づき始めている。
「好き。大好き」
遅い午後の陽射しがアーチ型の高い窓から差込み長い廊下にレースのような影を落とす。
ふと自分たちが部屋の外にいることを思い出し、ルドガーから身を離す。廊下の奥に視線を走らせ誰もいないのを確かめてから、くわばらと心で唱えた。
「ノア、急いでたみたいだけど、どうしたの?」
「ああ、エリオットを探してて。ルド、見なかったか?」
え?と目を瞬かせながらルドガーがノアを見る。いや、正しくはノアの後ろを。
「わたくしなら、ここにおりますが?」
「よかったね、見つかって」
すぐ背中でした声と、事情を知らない能天気な笑顔にサンドされ、ノアは固まった。
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魅惑ローションが自社製品だとは知らなかった。
薬品製造部門の営業としていかがなものだろう。と、いや違う。自分が主張したいのはそんなことではないのだと頭を抱える。
大体、おかしいだろう。
素っ裸でいたのは自分のせいではないのだ。全ての罪は金髪碧眼男にあるというのに、なぜ自分が直立不動で気をつけますと言わなければいけならないのか?
ノアは新しく淹れてもらったお茶を啜り、不条理と茶の美味さに唸った。
自分の荷物から掌にすっぽりと収まるサイズの黒い箱を取り出す。目の前に翳し虹彩を認証させると、箱はその表面に幾つかのサインを浮き上がらせた。ログインのサインを指先で弾くと、サインは空中に浮き上がり起動し始める。
そこでまた茶を啜った。
確かに、おめでとうございますとエリオットなら言うと思った。
だが、それは能天気な金髪碧眼男にであって、自分が言われる謂れは・・・・
「あ・・・・」 伸び放題の前髪を掻き揚げる手が止まる。
目は相変わらずポータブルコンピューターが映す文字を追いながら、10日ほど前のやり取りを思い出した。これか、と口角を吊り上げる。
エリオットは、ノアがルドガー側についたと確信が出来たなら、ジタンの居場所を教えると言った。
「なるほど、おめでとうございますね」
だが次の瞬間、ナニを見ておめでとうなのかを思い出し、耳まで染めながらまた頭を抱えた。
ジタンとは、ノアがアスクレピオスの間諜として籍を置いたその日から、ノアのアドバイザー兼パートナーとして組んできた。お互い顔を合わせレば、くだらない冗談を言い合い、プライベートな話は殆どしなかった。だが、時に相手に生命の手綱を預けるという人の精神世界にダイブする危険な仕事は、互いの中に言葉では言い表せぬ信頼を築いたと思う。
仕事を辞めるにしても、ジタンのことは放っておく訳にはいかない。
木製の机の上には光のキーボードが出現して、次に小さな正方形のスクリーンが行儀よくマシンの上で羅列する。前から順に指で飛ばして移動させ、丁度いい大きさになるように指で指示をだしてゆく。ものの数秒で、目の前には12枚のスクリーンがノアの使いやすい位置に並び、ノアは片っ端から目を通していった。
個人のアドレスには大量のDMとダンテからのメールが2通。うち1通はホログラムメールだ。両方とも日付は3週間前だ。再生するとホログラムのダンテがしゃべり出す。
ノアの本業をダンテは知らない。ノアが営業の仕事で出張中だと思っている。健康を気遣う優しい言葉と、いつもの軽いジョークが酷く懐かしい。
そろそろメッセージが終わるかと思ったその時、ホログラムの中にジャスが飛び込んできた。
『ハイ、ノア!サプライズよ。私たち結婚する。ついにベビーが出来たの!』
言った途端、ホログラムの2人とノアから同時に歓声上がった。
『でね、ノア、あなたにお願いがるの』 愛嬌のある浅黒いベビーフェイスに、母親の慈愛と余裕の深い笑みを刻みジャスはノアを見る。
『あなたにベビーの名付け親になって欲しいのよ』
ノアの口が唖然と開き、そのままホログラムの前で固まった。
ホログラム映像のジャスはショウルームでの出来事を詫び、エアフライの試乗を約束して最後にもう一度、ノアに「ベビーの名前をお願い」と欲しいと頼んだ。もう1通のメールは今から一月後に控えた結婚式の招待状だった。
泣きたくなるような幸福感に胸が満たされていた。
以前の自分だったなら、2人に子供が出来たことで逆に淋しさを覚えていたかもしれない。
迅がくれた世界がノアの全てだった。ノアなりに愛してきたし、執着もしていた、。
だが、フリーエリアで発見された子供に向けられるのは好奇心と畏怖であり、愛情や思いやりはノアにとっていつも遠い存在だった。いつしか期待することに疲れ、他人に対して砦を築いてしまった心は、人の幸せを羨んだり妬ましく思う気持ちばかりが勝っていた。
結局、自分の心は、あの暗く深い森の中から一歩も出ていなかったのだ。
胸に溢れる幸福感は、柔らかな金色に染まっている。夏空のように鮮やかな青い瞳をした男の存在は、ノアに新しい世界の扉を開かせた。
仕事用のアドレスにはアスクレピオスからの経費申請の催促に混ざり、迅からのメールも何通かあった。躊躇った後、ニュースチャンネルに切り替えた。
200を越える画面が空中で重なったり前後したりしながら、次々と現れる。どうやら内容はどれも同じらしく、そのひとつを指先で拡大し音声を入れる。
興奮で早口になったニュースキャスターの言葉に、ノアは耳を疑った。
血走った目に濃い疲労を浮かべたキャスターは、ローズ・フィーバーの爆発的流行、パンデミックを訴え続けていた。
感染から発症までの進行の度合いが以前に比べて格段に早い。
変異を起こしたウイルスは驚異的なスピードで広がり、日を追う毎にその感染者数を増やしている。空気感染はしないと信じられていたウイルスは定説を迷信に変えてしまった。
地域や人種も関係ない。世界中が驚異にさらされていた。
ノアは全く別の世界から連れてこられた異邦人のように事態をまくし立てるキャスターを茫然と見つめた。
ルドガーを狙い、ノアに銃口を向けた殺人鬼は、熱病を発症し無惨な遺体で発見された。
殺人鬼ホーリーが残した、ジタンのベージュのジャケットは何を意味するのか。
弾かれたように立ち上がると、ノアは部屋を飛び出した。
「ノア!」
呼び止められ、振り向いた身体を温かい腕で抱きしめられた。
「もう、起きてたんだね。大丈夫?一緒に起きるつもりだったのに、目が覚めたら・・・」
愁眉が情けないハの字に落ち、その先は言葉ではなく、抱擁と頬ずりで伝えてきた。
大丈夫かと訊かれ、連なって掘り起こされる記憶と躰の芯に残るだるさに、頬や耳が発火しそうなくらい熱くなる。
「一回起きただろう。それによく寝ていたし・・・」
「一緒に起きたかったんだ。でもいい。こうやって会えたから」
すぐに機嫌を直した男は笑いながら接吻けをせがんだ。自分の中に様々な変化をもたらす男。心を解放し、気持ちの趣くままに広い背中に腕を巻きつけ唇を合わせた。
腕の中の存在が愛しい。
淋しげな黄昏色に染まった世界は、いま鮮やかに色づき息づき始めている。
「好き。大好き」
遅い午後の陽射しがアーチ型の高い窓から差込み長い廊下にレースのような影を落とす。
ふと自分たちが部屋の外にいることを思い出し、ルドガーから身を離す。廊下の奥に視線を走らせ誰もいないのを確かめてから、くわばらと心で唱えた。
「ノア、急いでたみたいだけど、どうしたの?」
「ああ、エリオットを探してて。ルド、見なかったか?」
え?と目を瞬かせながらルドガーがノアを見る。いや、正しくはノアの後ろを。
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■最後までお読み頂き、ありがとうございます♪(*^▽^*)
やっぱり(オイ!)更新がとんでしまいました。
覗いてくださった方、申し訳ありません~~!
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当にいつもありがとうございます。
拙文しか書けない私、書いていく励みになります。
■ブログ拍手コメントのお返事は、*こちら*にさせていただいております♪

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私は ちっとも分かんないけど..._| ̄|● ガックリ
ねぇ~ねぇ~ノア、エリオットに 何を聞くつもりなの(〟-_・)ン?
ルドガーが側に居たら ちょっと 邪魔だよね~
(・∞・)nnn お邪魔虫...byebye☆