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紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
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長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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Category: ユニバース(全80話)

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怪物 13
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 深い森の底で、ずっと誰かが迎えに来てくれるのを待っていた。
 そして今も待っている。
 けど、きっともう自分はどこにも行くことはない。
 そう、自分を迎えに来るのは、大量の血を流しながら息絶えるのを待ちわびている死神だ。

 熱い。

 薔薇の毒が体内を廻る。
 血液に混ざり足の先から、膝の裏、腹、胸、背中。項も唇も睫毛の先までも焼いてゆく。
 着ているものを全て脱いで、躰を冷やしたいと思うのに指一本持ち上げる事ができない。

 あの月の庭で薔薇を散らした夜、凶器のような鋭い棘から感染したに違いなかった。
 月光に揺れる美しい花。触れるものに死の熱い接吻を与える馨しい匂い。
 薔薇の熱に侵された血液が、体内で沸騰する。

 ボコッと音を立てて血液の中で生まれた泡は、金色の気泡となる。
 またひとつ。そしてまた・・・・・。
 たくさんの気泡が、自分の躰から生まれ、皮膚を貫け歪に形を変えながらゆっくり上昇してゆく。
 
 キャンドルの揺らめく光をうけてグラスがさんざめいていた。豪奢な黒いベルベットのドレープの向こうには、摩天楼の光が散らばる。
 肌を重ねては解き、指を絡め滅多に感情を表に出さない灰色の瞳と、何度も見詰め合った。あんなに柔らかで優しげな迅の瞳を見たのは、何年ぶりだっただろうか。
 迅に戻って来いと言われて、舞い上がるくらい嬉しかった。
 格好つけず、何もかも放り出してあの時、迅の元に帰ればよかったのだ。
 迅の大きな手にもう一度、撫でられたい。
 
 開けているのか、閉じているのかわからない自分の目から涙が零れた。
 沸騰した血から生まれた涙は、外に出た途端冷たくなってほんの少し肌を冷やす。
 誰かがその涙を拭った。
 直前まで氷でも触っていたかのように冷たい手だ。
 指先が触れた肌が束の間、熱を忘れる。

・・・・・ノア、可哀相に。
 ノアと呼ぶ声に甘い響きがあった。
 この声には聞き覚えがある。低くて、声の端っこにほんの少し欠けたような掠れがある。

 涙を拭った手が、顔中を撫で、柔らかく肌を包み、髪を梳いて耳の下で止まった。
 口許に落とされた唇が、熱に沸騰し悲鳴をあげる身体を優しく慰めてくれる。
 とても気持ちがいい。
 頬にあたる吐息も、顔を包む手のひらも、時折触れる腕も甘露の冷たさを持つ。
 もっと、もっと触れてほしい。そう思う反面、もう触れないでくれと思う。
 薔薇の毒を、ウイルスを感染させてしまう。

 着衣を剥がれる感覚があり、冷たい腕に全身を包まれた。
 冷たい肌が、熱に熟れた躰を抱き寄せる。
 ダメだ。駄目だ・・・・迅。
 落胆するような吐息が項に落ちて、強く抱きしめられた。

「大丈夫だから。いまはたくさん眠って」
 明確な声が鼓膜を優しく震わせる。
 声の暗示に掛かったように、不思議な安堵感に包まれ眠気が訪れた。


 まず目に入ったのは、白い天井のレリーフだった。
 あめ色の廻り縁が縁高い取る天井、クラシカルな部屋の大きなベッドに寝かされていた。
 ベッドの四隅を飾る柱と、ヘッドボードに太いロープのような彫刻が施されている。貴重な芸術品に寝かされている気分だ。
 初めて見る部屋だが、薔薇の匂いで誰の部屋かはすぐにわかった。そして、自分の下半身が吹っ飛んでなくなったか、不随になったということも。 
 
 自分を締め上げるルドガーを狙ってトキが構えた銃は、銃口が上がりきらずルドガーの腹を逸れノアの脇腹を打ち抜いた。
 自分の銃だ。威力は自分がいちばんよくわかっている。
 生きている事を、呪わずにはいられない。
 
「気がついたんだね」
 視界に摘みたての薔薇と、空色の瞳が飛び込んでくる。
 顔を逸らしたい。なのに、それすらも出来ない自分から一番目を背けたいと思う自分がいた。




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  □お知らせです□

  この度、卯月屋文庫の紙森さまより、「翠滴Ⅲ」の後半で出てきました
  アレクと瀬尾の二次小説SSをいただきました。
  以前に紙森さまから戴きました、『眠りの海で青い魚は恋をする』の後のお話です。
  紙森さまの書かれる文章の、細やかな心の動きや、行間から漂う上品で質の良い
  エロティシズムはわたくしの憧れです。
  こちらでは、明日の17:00に更新させていただきます。





  ■最後までお読み頂き、ありがとうございます♪(*^▽^*)
  


  押し出してしまった・・・・。
  誤字脱字、気が付かれましたら教えてください。
  
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  拙文しか書けない私、書いていく励みになります。
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Comments

Re: 可哀想に…。
鍵コメントさま、ようこそです~~

> ど、どうしましょう?
・大事な下半身が・・・(笑)
BLでは不可欠な場所ですもの、困ると思います(お花と迅が・・・

ルドガーは献身的な看病でポイントを稼ぐべし、ですので
このあとは、せっせとがんばってもらわねば・・・そしてまた嫌われたり。
私はトキのその後も気になるのですが。。どうなったんだろう(笑)

> でも、その前に紙森さまですね、きゃっほーヾ(´∀`〃)ノ~♪
・はい、紙森ワールドによるアレク瀬尾CPです。二人の関係に激萌えしている私です♡
無事、お目に掛けれるようになってよかったです(嬉
相談に乗ってくださり、本当にありがとうございました。

コメント&ご訪問、感謝です!!

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