09 ,2011
怪物 11
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「北ジャンクションにいたんじゃなかったのか」
エアフライの位置を示す青い光は、確かにジャンクションの入り口付近で点滅していた。
「別に俺が乗ってなくたって、通信機ひとつで、いくらでも操作できるさ。現に、お前もコロッと騙されただろう」
トキの手がノアの上着の下に潜り込み、胸や脇腹を手荒く弄ったあと、ノアのホルダーから銃を引き抜いた。
「白けるな。もっといい反応してみせてくれよ」
トキが更に口を近づける。吐息と一緒に唇が耳殻を掠め、ぎりっと横目でトキを睨む。
「俺の心を読もうとしても無駄だ。人の心理を好きに読み取れるのが、自分だけだと思うなよ」
「どこかで聞いたようなセリフだな。夏もここに来ているのか?」
「さあ、どうかな」
自分を襲った4人が東洋系だったことを思い出し、己の迂闊さに奥歯をかみ締める。
「お前、男とだってやるんだってな。確か、劉桂にも男娼って触れ込みで近付いたんだっけ。劉桂もわかって嵌められてやるなんて物好きだと思ったが、実際にお前に会ってみてなんとなく理解できた気がしたよ」
銃口が明らかに性的な意図をもって項を這う。顎の下の柔らかい肉に食い込んで、ノアの顔を持ち上げた。
夏 劉桂(カ・ルウケイ)は、セントラルアジアの次世代を担うといわれる、若き重鎮だ。
夏の率いる団体・龍膽(ロン・イー)は、アスクレピオスと同じくローズ・フィーバーの研究に力を入れている。数ヶ月前、ノアは龍膽の情報を盗むため、セントラルアジアに潜入し夏の深層心理へのダイブを実行した。
だが、セントラルアジアでの成功は、夏によって巧みに張り巡らされた罠だった。
ノアは偽の情報を掴まされた上、オルガスムスを得る事によって発動する、時限装置のような仕掛けを心理層の中に植えつけられた。
幾重にもガードし大切にしていた記憶を利用された屈辱感は、トラウマとなって深くノアの心に沈んでいる。
身じろいだノアの脇腹に、トキがノアから奪った銃が押しつけられた。
「おっと、動くな。質問するから、簡潔に答えてくれよな」
夏がトキを選んだのは、人の頭の中を読めるノアへの対策のつもりだろう。
「クロストに飼われているお前が、なんでわざわざ偽名を使って須弥山に潜り込む?」
「狙いは、ローズ・フィーバーウイルスか?それとも、もうひとつの方?」
ウイルス?ワクチンと言葉を違えているのだろうか。
ダイブ時の情報流出を避けるため、ノアたちダイバーには重要機密事項は教えられていない。だが、すっかりノアがなにもかも知っていると思い込んでいるトキの言葉で、須弥山が何の研究施設かということが、ノアの中で瞬時に輪郭をもった。
迅は、新薬開発のデータごと消えたルドガーの祖父について調べろといった。
その新薬が、ローズ・フィーバーに関係していたとしたなら、ルドガーが祖父と過ごしたラボに、ワクチン開発の足がかりが残されている事になる。
ローズ・フィーバーの研究施設で幼少期を祖父と過ごしたルドガー。
世界は美しい花の名前を冠した悪魔に侵され、朽ち果てようとしている。
ルドガーこそが、終焉に向かうこの世界を救う唯一の鍵を握る。
思いもしなかった真相が足元から這い上がってきて、ぞくりと臓腑が反応した。
研究所とルドガー。須弥山にはこのふたつが揃っている。
夏が須弥山に目をつけていると言う事は、相当な情報が相手に流れているということだ。だがトキの様子では、いまひとつ核心には踏み込めていないと見えた。
トキの言う、もう「ひとつの方」というのがわからない。
「な、お前知ってんだろう。俺にも教えてくれよ。ローズ・フィーバーウイルスが急に変異したわけをさ。アクスレピオスが須弥山でやってる研究って何?」
「アクスレピオスは製薬会社だ。ワクチンの研究に決まってるだろう」
いきなりトキが笑い出した。
「ざけんなよ。そんなもんなら、厚い壁に囲まれた要塞でコソコソやらず、堂々と胸を張ってやりゃあいいだろう」
トキの笑いが、突然止んだ。銃口がゴリッと側頭をおす。
「須弥山・・・・いや、ブラックキューブが最新設備を備えた兵器工場だってことは、とっくにわかってんだよ」
正面に回ったトキの顔には、「人生は楽しむものだ」と言った時の、朗らかな楽天家の面影はなかった。きつく吊り上がった一重の冷徹な眼差しを向け、ひたと銃口でノアの眉間を狙う。
ノアの頭の中はトキが放った言葉で混乱していた。
耳慣れない最新兵器という単語が、何度も鼓膜を滑り落ち、自分の中に受け入れる事ができない。人を救うワクチンではなく、人を殺す兵器をアスクレピオスは造っている。
衝撃に脳内が混迷し、言葉が出ない。
「クロストは、お前の前にも鼠を一匹潜り込ませたよな。クロストの奴は、ルドガーの何を探ってる?」
「ジタンを知っているのか!?」
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「北ジャンクションにいたんじゃなかったのか」
エアフライの位置を示す青い光は、確かにジャンクションの入り口付近で点滅していた。
「別に俺が乗ってなくたって、通信機ひとつで、いくらでも操作できるさ。現に、お前もコロッと騙されただろう」
トキの手がノアの上着の下に潜り込み、胸や脇腹を手荒く弄ったあと、ノアのホルダーから銃を引き抜いた。
「白けるな。もっといい反応してみせてくれよ」
トキが更に口を近づける。吐息と一緒に唇が耳殻を掠め、ぎりっと横目でトキを睨む。
「俺の心を読もうとしても無駄だ。人の心理を好きに読み取れるのが、自分だけだと思うなよ」
「どこかで聞いたようなセリフだな。夏もここに来ているのか?」
「さあ、どうかな」
自分を襲った4人が東洋系だったことを思い出し、己の迂闊さに奥歯をかみ締める。
「お前、男とだってやるんだってな。確か、劉桂にも男娼って触れ込みで近付いたんだっけ。劉桂もわかって嵌められてやるなんて物好きだと思ったが、実際にお前に会ってみてなんとなく理解できた気がしたよ」
銃口が明らかに性的な意図をもって項を這う。顎の下の柔らかい肉に食い込んで、ノアの顔を持ち上げた。
夏 劉桂(カ・ルウケイ)は、セントラルアジアの次世代を担うといわれる、若き重鎮だ。
夏の率いる団体・龍膽(ロン・イー)は、アスクレピオスと同じくローズ・フィーバーの研究に力を入れている。数ヶ月前、ノアは龍膽の情報を盗むため、セントラルアジアに潜入し夏の深層心理へのダイブを実行した。
だが、セントラルアジアでの成功は、夏によって巧みに張り巡らされた罠だった。
ノアは偽の情報を掴まされた上、オルガスムスを得る事によって発動する、時限装置のような仕掛けを心理層の中に植えつけられた。
幾重にもガードし大切にしていた記憶を利用された屈辱感は、トラウマとなって深くノアの心に沈んでいる。
身じろいだノアの脇腹に、トキがノアから奪った銃が押しつけられた。
「おっと、動くな。質問するから、簡潔に答えてくれよな」
夏がトキを選んだのは、人の頭の中を読めるノアへの対策のつもりだろう。
「クロストに飼われているお前が、なんでわざわざ偽名を使って須弥山に潜り込む?」
「狙いは、ローズ・フィーバーウイルスか?それとも、もうひとつの方?」
ウイルス?ワクチンと言葉を違えているのだろうか。
ダイブ時の情報流出を避けるため、ノアたちダイバーには重要機密事項は教えられていない。だが、すっかりノアがなにもかも知っていると思い込んでいるトキの言葉で、須弥山が何の研究施設かということが、ノアの中で瞬時に輪郭をもった。
迅は、新薬開発のデータごと消えたルドガーの祖父について調べろといった。
その新薬が、ローズ・フィーバーに関係していたとしたなら、ルドガーが祖父と過ごしたラボに、ワクチン開発の足がかりが残されている事になる。
ローズ・フィーバーの研究施設で幼少期を祖父と過ごしたルドガー。
世界は美しい花の名前を冠した悪魔に侵され、朽ち果てようとしている。
ルドガーこそが、終焉に向かうこの世界を救う唯一の鍵を握る。
思いもしなかった真相が足元から這い上がってきて、ぞくりと臓腑が反応した。
研究所とルドガー。須弥山にはこのふたつが揃っている。
夏が須弥山に目をつけていると言う事は、相当な情報が相手に流れているということだ。だがトキの様子では、いまひとつ核心には踏み込めていないと見えた。
トキの言う、もう「ひとつの方」というのがわからない。
「な、お前知ってんだろう。俺にも教えてくれよ。ローズ・フィーバーウイルスが急に変異したわけをさ。アクスレピオスが須弥山でやってる研究って何?」
「アクスレピオスは製薬会社だ。ワクチンの研究に決まってるだろう」
いきなりトキが笑い出した。
「ざけんなよ。そんなもんなら、厚い壁に囲まれた要塞でコソコソやらず、堂々と胸を張ってやりゃあいいだろう」
トキの笑いが、突然止んだ。銃口がゴリッと側頭をおす。
「須弥山・・・・いや、ブラックキューブが最新設備を備えた兵器工場だってことは、とっくにわかってんだよ」
正面に回ったトキの顔には、「人生は楽しむものだ」と言った時の、朗らかな楽天家の面影はなかった。きつく吊り上がった一重の冷徹な眼差しを向け、ひたと銃口でノアの眉間を狙う。
ノアの頭の中はトキが放った言葉で混乱していた。
耳慣れない最新兵器という単語が、何度も鼓膜を滑り落ち、自分の中に受け入れる事ができない。人を救うワクチンではなく、人を殺す兵器をアスクレピオスは造っている。
衝撃に脳内が混迷し、言葉が出ない。
「クロストは、お前の前にも鼠を一匹潜り込ませたよな。クロストの奴は、ルドガーの何を探ってる?」
「ジタンを知っているのか!?」
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■最後までお読み頂き、ありがとうございます♪(*^▽^*)
いやいや、今日はネコちゃんはいませんね。
また色気のないシーンに戻っています。
この2日ほど、嬉しいことが立て続けにありまして、BL書いててよかったと
噛み締めています。ああ、アマでもヘタレでもBL書きでよかった~~~
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当にいつもありがとうございます。
拙文しか書けない私、書いていく励みになります。
■ブログ拍手コメントのお返事は、*こちら*にさせていただいております♪
いやいや、今日はネコちゃんはいませんね。
また色気のないシーンに戻っています。
この2日ほど、嬉しいことが立て続けにありまして、BL書いててよかったと
噛み締めています。ああ、アマでもヘタレでもBL書きでよかった~~~
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拙文しか書けない私、書いていく励みになります。
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まさか トキが、夏の仲間(手下?)だったなんて~
ダイブを失敗し 時限爆弾まで 御土産にくれた夏劉桂
また 謎キャラな人物の登場で ノアは、どうなっちゃうのか 心配。。。(´・ω・`)ショボーン
それに 迅もノアに隠してた事が判明するし、ルドルガーは、お花を従えながら思考不明くんだしーー!
ノア、貴方に 真の姿を見せ 真実を教えてくれるのは 誰なのか!
それは 今後の乞うご期待だぁ~( ≧▽≦)b
紙魚さま、いい事があったの?
だからでしょうか...作品が ノリノリ~生き生きしている様な気がします(o^∀^o)b
作者さまが、絶好調なのは 読者もHAPPY~♪
(嬉´∀`)y─┛。゚.o。HAPPY。o.゚。┗─y(´∀`嬉)...byebye☆