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紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
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長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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Category: ユニバース(全80話)

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怪物 7
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「冗談でございますよ」
「・・・・・は?」

 ぽかんと固まったノアを後目に、エリオットは淡々と部屋の説明を始めた。入口と対角にあるドアの前で立ち止まり、そうそうとノアを振り返る。
「お隣はルドガー様のお部屋になっておりますが、この扉は有事以外ではお使いにはなれませんように」
 そして棚から薬品のパックを出して手渡すと、「お大事になさいませ」と言って出て行った。
 
「冗談・・・?」 そうだろうか。
 庭の秘密を打ち明けるように話すエリオットの顔には、冗談を言っているようなそぶりはなかった。
 それとも、ノアの出所を知った上での牽制か。
 聞く者に疚しい所があれば話は真実になり、なければ冗談で終わる。言葉の中に罠がある。
 もちろんノアは前者だ。
 冗談ですと微笑みながら、ノアの中に小さく鋭い薔薇の棘のような憂慮を植えつける辺り。一見従順な使用人に見えて、エリオットが気の抜けない相手であることはノアの中で確定した。

 いまどき珍しい手動式のバスルームでシャワーを浴びると、手首から先がひりひりと痛んだ。
 傷口をコーティングするスプレーを吹き、軽くタオルを巻いてベッドに潜る。温度調節機能のないベッドは、ぴんと張られたシーツの自然な冷たさが丁度いい。
 
 パニックの興奮が消え去らない意識は清冽に覚醒し、ここに来てからの一連の出来事が脳内で駆け巡る。
 過剰なセキュリティに護られた須弥山。製薬会社の研究所にしては、厳重すぎる気がする。
 須弥山はその外観から要塞と形容される事があるが、中身はそれ以上に強固なシステムで護られている。新薬の研究施設だとは聞かされているが、内容は企業機密だと言う。
 この須弥山には、何かある。
 その須弥山の頂きに暮らす、ルドガーとエリオット。世界中から消えたはずの薔薇の庭。
 消息の途絶えたジタン。薔薇の迷路に迷い込んだ者たちの末路は?
 考えれば考えるほど思考だけが冴えて、疲れた身体から乖離していく。

 目を閉じると、自分の脈拍にあわせて傷が痛んだ。
 傷に付着した薔薇の毒が、熱を持ち始め、ゆっくり脳味噌を掻き回し始めた。指の先に軽く触れる唇の感触が、困惑と一緒に蘇る。薔薇に毒などない。わかっていても、この痺れるような熱の理由を他に思いつかない。
 唇を割る舌先の柔らかさがフラッシュバックして、咄嗟に冷たいシーツに唇を押し付ける。

 まさか、キスをされるとは思わなかった。
 しゃべり方も、行動も幼稚に見えるルドガーがするとは思えない、エロティックな大人のキス。
 どうしてルドガーは会って間もない自分に好意を寄せるのだろうか。
 なぜ、薔薇を駄目にした自分を、可哀相だと言うのか。なぜ、辛そうな顔で指の先に接吻けたのか。

 月の傾く庭を、手を繋いで歩いた。
 空の上で自分に伸ばされた時、訳のわからない恐怖を感じたルドガーの手は、ノアの傷を気遣いそっと手を引いた。

 半分眠りかけの重い身体をずらして、姿勢を変える。
 シーツのまだ体温の移っていない場所に足を突っ込んで、息を吐いた。
 ルドガーという男は、本当にわからない。人格がどこかが崩壊しているのか、または軽い多重人格障害の持ち主か。とにかく、子供みたいに一途な青い瞳が鬱陶しい。

 自分の理解を超えた人間の事なんか、いくら考えてもわかるはずがない。なんにしても、明日になれば解任だ。ここを出てゆく前に、ジタンの事を調べなければ。
 信じていたジタンの生死が、自分の中で曖昧になりかけているのが怖い。
 あの執事が変な話をするからだ。思えば、自分はエリオットがずっと苦手だった。
 ずっと・・・・?不可解な言葉がひとつ浮上し、掬って確かめようとした時には、思考も身体も崩れるようにシーツに融け出していた。訪れた睡魔に連れられて、意識はいつもの夢のなかに滑り落ちていく。

 潮風の渡る草原の中に白い棺がある。
 黄昏の空は高く、自分は金色の雲が棚引く。景色は何も変ってはいない。
 だが夢の中の自分は子供で、花に埋もれて横たわるの人物を恋しがって泣いていた。泣きながら草の上にしゃがみ、白い箱を恨めしそうに睨んでいた。
 絶対、離れない。自分はこのままここで死んでもかまわない。そんな子供らしからぬ強い覚悟が垣間見えて、胸が痛んだ。

『・・・・・ゥワ、可哀相に』 

 不意に、耳元で声がした。
 咄嗟に振り返ったが、背後にも広がる草原には誰もいない。潮の混ざった風が草をなぎ、ノアの黒髪を弄る。
 子供の自分は消え、だだっ広い草原に大人の自分だけが立っている。

 名前を呼ばれた気がする最初の部分だけが聞き取れなかった。
 いくら耳を澄ませても、もう耳殻をこする風の音しか聞こえない。
 似た声の人物を知っていた。泣きそうな顔で可哀相といい、指の先に接吻けた男の声とよく似ていた。



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  ■最後までお読み頂き、ありがとうございます♪(*^▽^*)

めずらしく偏頭痛で、今日は朝から全てを放棄状態です。
また台風ですね。前回の台風で被害を受けた地域に、二次災害とか
起こらなければよいのですけど。


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Comments

気になって、そして段々と惹かれていくわけですね。
あの初めて会った時から、惹かれはじめていたとも言えるんじゃないでしょうか。

片頭痛なのは、巨大な低気圧が接近しているせいでは?
私は最近、台風や台風並の低気圧が接近すると、頭痛が起こります。
お大事に~♪
紙森さま、おはようございます

初対面で強烈なインパクトを残されて、勘違い?(笑)
本人にそのつもりがなくても、すっかり洗脳(?)されている模様です←

> 片頭痛なのは、巨大な低気圧が接近しているせいでは?

ありがとうございます。機能と打って変って、痛みはほとんど解消されました。
低気圧の接近!!母にも同じ事をいわれましたw(*゚o゚*)w
そういえば飛行機で上昇する時、気圧の変化で頭痛がするってありますねー。
そう考えると、人間も地球の一部なんだあって思います。壮大だなあ(笑)

コメント&ご訪問、ありがとうございました!!
ルドルガー、エリオット執事、迅、そして夏劉桂...と、正体の掴めない人たちばっかりで ノアの心を不安にさせるばかりですね。

ノアの心を癒し包んでくれる人が、この中に居るのかしら?
(エリオット執事は、除外でしょうけど(笑))

過去の声と重なる似た声の持ち主
これって 意味深だなぁ~(。-`ω´-)ンー...byebye☆
Re: タイトルなし
けいったんさま、ようこそです!

一気に気温が下がって、流石の灼熱地帯も朝は肌寒いくらいで
気持いいですね(*^▽^*)

> ノアの心を癒し包んでくれる人が、この中に居るのかしら?
> (エリオット執事は、除外でしょうけど(笑))

ノアは本当に得体の知れない連中に囲まれていますが
どの面子も「癒し」には程遠い感じの人たちばかり。
逆に心落ち着かなくさせる不安要因みたいなひとばっかです(;^_^A
(あ、エリオットは除外ですか?そうかあー←
私個人的ひは夏とか好きですけど・・・
普段は冷酷な野獣なのに、何気にノアの気を引こうとカワユイ事
やってしまうとことか書いてみたいです(≧▽≦)
すみません。一人で萌え語りをやってしまいましたΣ( ̄▽ ̄;)

コメント&ご訪問、ありがとうございます。

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