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紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
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長らくみなさまから頂戴した拍手コメント・メールへのお返事は、別ブログの”もんもんもん”にてさせて頂いていましたが、2016年4月より各記事のコメント欄でお返事させて頂くことにしました。今まで”もんもんもん”をご訪問くださり、ありがとうございました。く



    
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Category: ユニバース(全80話)

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怪物 5
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 自分たちより高く生い茂った薔薇の木が、天上でアーチを造り、月光から二人を隠した。

 唇の狭間を割った舌の先が、内側の柔らかい肉壁を口角へと滑る。
 瞬間、得体の知れぬ感覚が背を這い上がり、ルドガーを力一杯突き飛ばした。

 よろめきもせずノアから離れたルドガーを、冴え冴えとした月明かりが照らす。
 意外なくらい冷静な色で自分を見詰める青い瞳に、ルドガーを睨むノアの目が揺らぐ。
 さっきまでの能天気なルドガーではない。摩天楼の上空で自分に手を伸ばし、マシンと共に墜落した男がそこに立っていた。
 
「ノアは好きな人、いるの?」
 お前に関係ない。そう言いかけた言葉を呑み込み、硬い仕草で頷いた。
 今後のことを考えれば、ここではっきりさせておいた方がいい。

「恋人?」
「そう。だからもう二度と、今みたいな真似はしないでくれ」
「その人、優しい?」
「それ・・は・・・」
 答えるタイミングを外したノアに、無遠慮な質問が重なる。

「君を愛してくれている?ノア?」

「あなたには関係ない」
 
 2人の間を、薔薇の花弁を伴う一陣の強い風が吹き抜け、黒と金の髪を弄ぶ。
 ノアは蒼白な顔で薔薇の陰で佇み、答えられない質問をしたルドガーを憎憎しげに睨んだ。
 
「私は、あなたの護衛として雇われただけです。今後、一切私のプライベートに踏み込まないで頂きたい。正式な着任は明日からですので、今夜はこれで失礼します」

 踵を返し、来た途をひとりで引き返す。
「ノア、待って」
 呼び止めるルドガーの声が背中を追てきった。道らしいものはなく、来たときと同じ薔薇の木々の間を早足ですり抜けるように進んだ。
 無心に歩き続け、気がつけば後を追ってくるルドガーの声も枝を掻き分ける音も消え、ひとり薔薇の木々に囲まれ方向を失っていた。歩を緩めて立ち止まり、屋敷を探して周囲を見渡す。

 生い茂った薔薇が視界を覆い、自分の立ち位置すら掴めない。
 所詮、建物の屋上にある庭園だ。道に迷うなど考えられない。そう考え、とにかく真っ直ぐ行けば須弥山の端にあたるはずだと、今度は普通の速度で歩きはじめだ。

 だが、いくら行けど庭の端には辿り着かない。次第に焦りが出始めた。もう、15分は歩いている。
 立ち止まれば、右手に小さな水路があり、傾いた月が水面に揺れている。数分前にも、水面に映るこの月を見た気がしら。

 これは現実か?
 ふと、夏の心理層に眠る貧しい運河の村を思い出した。時間に封印され永遠に目覚める事のない村。
 これも誰かの心理層の中だとしたら?

 そんなはずはない。
 そう自分に言い聞かせながらも、緊張が高まっていく。
 
 ノアの意識が目ざめた時、目の前には深い森があるだけだった。
 記憶も、荷物も何もなかった。言葉は理解でき話せるのに、頭の中は白紙の状態だった。
 行けども行けども森の中で、木と空と湖以外は何もない。聞こえてくるのは、風の音と雨音。雷鳴とそれに怯えて泣く自分の声。
 自分はこの眠ったような森で、朽ちていくのだと思った。
 たったひとりで死んでいくのだと思っていた。
 
 あの朝、目の前に迅が現れるまで。

 迅があの森から連れ出し、新たに与えてくれた新しい世界。
 薔薇の香のするウイルスが愛しい人を殺す、恐ろしい世界。合成の食べ物を食べ、一箇所にたくさんの人が集まって住む。他人の頭の中を覗いてパワーゲームに勝つ、狂った世界。ダンテやジャスのように自分を思ってくれる人がいる、優しい世界。
 迅が与えてくれたこの世界しか、自分の生きる場所はない。
 
 追い払うことの出来ない甘い匂いに、息が苦しくなる。薔薇の匂いが閉じていた意識の蓋をこじ開けるのを感じた。。
 突然、血に濡れたジタンの顔が浮かび、続いて口元を引き上げながら虚ろな目を向けるホーリーの生気の失せた顔が浮かぶ。 
「ジタン・・・」
 この須弥山で消息を絶ったジタン。
 ジタンもこの庭で薔薇の匂いを嗅いだのだろうか。そして・・・。
「いやだ」
 棺から流れ出す大量の血液。
 血と同じ色の薔薇の花が、目の前で揺れる。

 迅のくれた世界を薔薇が壊してゆく。この呪わしき花を、みながそうしたようにすべて取り除かなければ。
 薔薇は、この世界にあってはいけない花なのだ。

 突発的に薔薇を素手で引きちぎっていた。
 手当たり次第掴んでなぎ倒す。手のひらや、袖から出た手首が薔薇の棘で傷だらけになった。
 ノアにもがれて捨てられた枝から花弁が大量に散り、ノアの靴は足下のまだ咲ききらない薔薇の花を踏みにじる。
「迅・・・・ジン!!」

 無意識に迅の名前を叫びながら、狂ったように薔薇の苗を引き抜く身体を、背後から捕まえられた。

「ノア・・・・やめて!ノアっ!!」
「放せっ。この花が世界を壊す前に全部抜かなければ」
「違うよ!ノア、ローズフィーバーと薔薇は関係ない!やめて・・・・薔薇が可哀相だ」
 腕の中で足掻き続けたノアの動きが止まった。
「あ・・・」

 ルドガーの声に我に返り、憑き物が落ちたように掴んでいた薔薇の枝を手放す。
 うす紫に近いピンクの大輪の薔薇が、ノアの足元に落ち花弁をいちまい額から外した。
 見回せば、無残に引き抜かれちぎられた薔薇の残骸が、足元を埋めていた。 手首から先についた傷の痛みが実感となって、罪悪感と一緒にノアを襲う。
 
 長い腕が胸と肩に巻きつき、背中を抱く。荒れた呼吸で上下する背中にルドガーの体温が重なり、次第に興奮も収まっていった。
 自分の起こしたパニックによって、引き起こされた惨状に愕然とした。

「ごめんね、ごめんね。ひとりにして」

 全身から力が抜け、視界が霞む。
 初めての庭で1人にして悪かった。ルドガーはそう謝っただけだ。
 なのに、頬を温かいものが伝う。ルドガーの言葉の何が自分の琴線に触れたのかわからないまま、涙はノアの頬を濡らし続けた。

 ルドガーが、涙の止まらなくなったノアの傷だらけの手を自分の手で包み、血の滲んだ指先に唇をあてる。
 そして呟いた。

「君はもっと可哀相だ」

「・・・・・・」



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Comments

(◎ω◎) きゃぁあああっ
凄い! 押し寄せる波のような素敵展開!

1日おきに更新を遂げていたのですね。 不覚にも気付かずに読み逃してました。
ああ~。
「君はもっと可哀想だ」って、お花の王子様が言ったOo。。( ̄¬ ̄*)ぽあぁん

薔薇の庭で迷子のシーン、今までの意識下に入る、それぞれのシーンとは趣が違うのだけれど、すべてのシーンが重なって手に汗を握りました。

ノアがパニックに陥るのも、納得!
そこに来て優しく慰めてくれるルドガ―!
震えが来ました(私に!)

次話も楽しみだけど、今回を味わい尽くしたいです。 ブラボー!
アドさま、ようこそです(*^▽^*)

ユニバにもやっとBLチックな展開になってきました♪
そうなんです、一日おきに更新。書いて出しの醍醐味(恐怖)を味わっています(笑)
初心にかえって(←)スピード向上をと思っているのですが、
文も内容も一緒に初心者に戻っちゃってる気がする今日この頃です(ダメぢゃん、私

> 「君はもっと可哀想だ」って、お花の王子様が言ったOo。。( ̄¬ ̄*)ぽあぁん
 ・ノアくん、お花ちゃんに言われちゃいましたね。
(暫定的ですけど)立場が逆転って結構好きでしたり・・・(//▽//)

> 薔薇の庭で迷子のシーン、今までの意識下に入る、それぞれのシーンとは趣が違うのだけれど、すべてのシーンが重なって手に汗を握りました。
 ・今回はダイブではなく、ノアの思考なのですが、これまでのドライな表現とは違った
 ノアの気持を中心に語る世界観でしたので感情移入していただき易かったかもしれません。

> 次話も楽しみだけど、今回を味わい尽くしたいです。 ブラボー!
 ・ありがとうございます!!
 拍手、そしてご指摘もありがとうございました。
 今回、初携帯更新を試みたのですが、私には無理・・・と判明いたしました↓↓

コメント&ご訪問、ありがとうございます!
ノアが「迅」と呼ぶだけで、きゅんとします。
正規のカップリングに萌えが、よもや主役絡みに発動されるとは、す、すみません。
多分、お花ちゃんが正しいお相手になるのだと推察されますが、ノアの中で大きな存在である迅様(様?)を、ルドガー君がどのように蹴散らして、その位置に立つのか、その他の謎もどのように解明されていくのか、すごく先々が気になります。
たとえキス程度の、ほんの少しのラブなシーンでも甘やかで、くらくらしました。
続きは楽しみですが、おかげで自分のは全然進みません(ダメぢゃん)
紙森さま、ようこそ♡

私も、ノアが迅っ!て口走るたび、ノアが可愛く思えます(きゅん!
なんでしょうねえ、この症状は(笑)

さて、お花ちゃんはどうしたら迅ちゃま(ちゃま?)を叩き落せんのでしょう?
体当たりではダメですね。緩い頭をフル回転させてがんばるのか、
それとも泣き脅しか(もっといい手はないのか?

> たとえキス程度の、ほんの少しのラブなシーンでも甘やかで、くらくらしました。
 ・今まで甘いシーンが皆無だったので、ちょこっとしたシーンでも引き立ちますv

> 続きは楽しみですが、おかげで自分のは全然進みません(ダメぢゃん)
 ・そ、それはダメです!!
 書きましょう! 書いてください~!
 とにかく少しでも毎日書くをモットーに、文章の良し悪しはさて置いて続行中です。
 紙森さんもご一緒にいかがでしょうか?

コメント&ご訪問、ありがとうございます!
「君はもっと可哀相だ」...ルドルガーの言葉

それは 誰と比べてなの?
そう感じるのは 何故なの?

幼い頃の感性を損なわずに そのまま育った様なルドルガーが、ノアに向ける 純真無垢な感情&疑問
下手な小細工も効かないだけに ノアも腹を括って 純粋な心で向き合うしかないのかな...
(-""-;)んー
でもそうしたら ダイブ出来なくなっちゃうよね~
困った!(*TдT)(TдT*)ネー...byebye☆


 
けいったんさま、こんばんは♪

> 「君はもっと可哀相だ」...ルドルガーの言葉
 ・ノアに引き抜かれた薔薇より可哀相・・・その向こうにある気持は、
まだノアにはわかりませんね。
ルドガーの本性(?)は徐々に明らかになっていきますので、
ノアが気の毒なくらい振り回されて大変になるのはこれからです。

> (-""-;)んー
> でもそうしたら ダイブ出来なくなっちゃうよね~
 ・やりますよーんvノアに跳んでもらわないとお話が進まんのです(笑)

コメント&ご訪問、ありがとうございます♪

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