09 ,2011
怪物 2
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蒼い月の光が、真昼の澄み切った青空のような瞳にひんやりとさめた輝きを与える。
風がなびくと、ルドガーの金の毛先が風に踊った。同時に自分を押し包む薔薇の香が押し流され、また新たな香に包まれた。
「君が、僕を守ってくれるの?」
ルドガーはもう一度、同じ質問をした。今度は主語と目的語の順番が入れ替わって、にわかに“君が?”が強調される。
前日の夜、ルドガーが目にも留まらぬ速さで凶器を振りかざすホーリーを羽交い絞めにするのを見た。
・・・いや、見てはいない。なぜなら、目にも留まらなかったから。
ノアがホーリーの拳銃を蹴り落とす。そのわずかな時間ですべては終わっていた。
憮然とノアがルドガーを見る。
薔薇の庭で佇む金髪の美しい美貌の青年は、まるで昔話に出てくる王子様だ。
黙って月光に晒されるる姿には儚げな憂いすら漂う。黙っていれば、の話だが。
昨夜合った時は会話がズレ続け、意思疎通は無理な相手だと思った。
まさか、この男がアスクレピオス製薬の社主とは。
社主の一族が経営から手を引いたと聞かされていたが、後継者がこれではヴィンセント家も退陣せざるを得なかったのだろう。
目が合うと、ルドガーの整った顔がぱっと嬉しそうに破顔した。
人懐こい真昼の陽光のような屈託のない笑顔が、ルドガー・ヴィンセントの幼いともとれる純朴さと、大らかな性格を滲ませる。ノアはルドガーの笑顔にどう応えていいのかわからず、邪気のない子供のような笑顔からさりげなく視線を逸らした。
だが、この子供みたいに笑う男は、瞬発力に自信がある自分より素早く敵を制圧し、弾丸をかわし、墜落する重さ2tのマシンを軌道修正させる度量と馬鹿力を持つ。
頭の回転は、はずれたところで回っていても、王子さまは滅茶苦茶に強い。
こめかみがキリキリ痛んだ。
果たしてこんな男に、護衛が必要か? リサーチ足らなさ過ぎだと内心で迅にツッコミながら、自分がここにいる事由を思い出す。
そもそも護衛はただの口実で、本来の目的ではない。
ルドガーが社主という冗談のような事実に、重要なそこがスッパリ抜け落ちていた。
自分の目的は、この男の頭の中にダイブし情報を掻っ攫う事なのだ。
口元を引上げ、自信に満ち溢れた笑いを顔に貼り付けた。余裕で頷く。
「全力を尽くして、ヴィンセント様をお守りします」
「ルドガーさま、丁度欠員が出たところですし、よろしゅうございました。迅・クロストもたまには気が利きますな」
聞きなれた名前と、すっかりその存在を忘れていた執事の声に、実際に飛び退りそうなほど驚いた。
振り返ると、ノアを案内した男が畏まり、軽く頭を下げた。見事に外側にカールした白髪が禿げた頭をぐるりと囲んでいるのが妙に可愛いく見えて面白い。
よく見ると、昔見たアニメに出てきたキャラクターとよく似ている。
確か2人の王子が出てきて、エリオット似のキャラクターはその家臣だった。名前も同じエリオットで、変なギャグばかり飛ばすおかしな爺さんだった。
「これで、このエリオットの心配も軽くなりましてございます」
こちらのエリオットは至極真面目に、胸のハンカチーフを取り出し目頭を押えている。
「お生まれになった時から、お体が丈夫でなかったルドガー様が、このように立派に成長されてお戻りになられましたのに、命を狙われるなど・・・。私めは日々生きた心地もせず、やせ細る思いなのでございますよ。私が若ければこのエリオットの命に代えても、ルドガーさまをお守り致しますのに」
データでは、エリオットは40年以上ヴィンセント家に仕えている。
ルドガーが祖父に連れ去られる前とあと。ルドガーの幼少期と今の両方を知る数少ない人間のひとりだ。何か事情を知っていてもおかしくはない。
必要とあらば、エリオットへのダイブもすることになるかもしれない。
白いハンカチを目に当てる老いたエリオットにダイブすることを想像すると、気が咎める。
ルドガーのために涙し、目元を染めた老人の顔が自分の琴線に触れるのを感じた。エリオットは主人であるルドガーを、心より慈しみ、大切にしている。
ノアの思惑など知る由もないエリオットは、歳を取ると涙脆くていけませんと自分の感傷を詫びながらハンカチを丁寧に畳みポケットに戻した。
ルドガーがエアフライで400M落ちをやったと知ったら、エリオットはきっと卒倒するだろう。
自分の仕える主人が、どれだけ無鉄砲で強力なのか知らないらしい。
横目でルドガーを見れば、老人の憂慮などどこ吹く風で薔薇を手折っている。これでは、エリオットの心配が尽きることないだろう。
「ですが、ルドガーさまも少しは外出を控えてくださいませんと。護衛の者たちも身体が持ちません。現に・・・」
「エリオット」
小言に変わりだしたエリオットの言葉を、ルドガーの声が遮る。これから護衛に就く者としては、”現に・・”のその先の方が気になるところだが。
腕の中一杯になった薔薇の花の香を楽しみながら、ルドガーが横目でノアをみる。
アスクレピオスでの出来事を言うなという牽制の意味もあったかもしれない。
単に自分に流された青い視線に一瞬絡め取られ、はっとした。
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蒼い月の光が、真昼の澄み切った青空のような瞳にひんやりとさめた輝きを与える。
風がなびくと、ルドガーの金の毛先が風に踊った。同時に自分を押し包む薔薇の香が押し流され、また新たな香に包まれた。
「君が、僕を守ってくれるの?」
ルドガーはもう一度、同じ質問をした。今度は主語と目的語の順番が入れ替わって、にわかに“君が?”が強調される。
前日の夜、ルドガーが目にも留まらぬ速さで凶器を振りかざすホーリーを羽交い絞めにするのを見た。
・・・いや、見てはいない。なぜなら、目にも留まらなかったから。
ノアがホーリーの拳銃を蹴り落とす。そのわずかな時間ですべては終わっていた。
憮然とノアがルドガーを見る。
薔薇の庭で佇む金髪の美しい美貌の青年は、まるで昔話に出てくる王子様だ。
黙って月光に晒されるる姿には儚げな憂いすら漂う。黙っていれば、の話だが。
昨夜合った時は会話がズレ続け、意思疎通は無理な相手だと思った。
まさか、この男がアスクレピオス製薬の社主とは。
社主の一族が経営から手を引いたと聞かされていたが、後継者がこれではヴィンセント家も退陣せざるを得なかったのだろう。
目が合うと、ルドガーの整った顔がぱっと嬉しそうに破顔した。
人懐こい真昼の陽光のような屈託のない笑顔が、ルドガー・ヴィンセントの幼いともとれる純朴さと、大らかな性格を滲ませる。ノアはルドガーの笑顔にどう応えていいのかわからず、邪気のない子供のような笑顔からさりげなく視線を逸らした。
だが、この子供みたいに笑う男は、瞬発力に自信がある自分より素早く敵を制圧し、弾丸をかわし、墜落する重さ2tのマシンを軌道修正させる度量と馬鹿力を持つ。
頭の回転は、はずれたところで回っていても、王子さまは滅茶苦茶に強い。
こめかみがキリキリ痛んだ。
果たしてこんな男に、護衛が必要か? リサーチ足らなさ過ぎだと内心で迅にツッコミながら、自分がここにいる事由を思い出す。
そもそも護衛はただの口実で、本来の目的ではない。
ルドガーが社主という冗談のような事実に、重要なそこがスッパリ抜け落ちていた。
自分の目的は、この男の頭の中にダイブし情報を掻っ攫う事なのだ。
口元を引上げ、自信に満ち溢れた笑いを顔に貼り付けた。余裕で頷く。
「全力を尽くして、ヴィンセント様をお守りします」
「ルドガーさま、丁度欠員が出たところですし、よろしゅうございました。迅・クロストもたまには気が利きますな」
聞きなれた名前と、すっかりその存在を忘れていた執事の声に、実際に飛び退りそうなほど驚いた。
振り返ると、ノアを案内した男が畏まり、軽く頭を下げた。見事に外側にカールした白髪が禿げた頭をぐるりと囲んでいるのが妙に可愛いく見えて面白い。
よく見ると、昔見たアニメに出てきたキャラクターとよく似ている。
確か2人の王子が出てきて、エリオット似のキャラクターはその家臣だった。名前も同じエリオットで、変なギャグばかり飛ばすおかしな爺さんだった。
「これで、このエリオットの心配も軽くなりましてございます」
こちらのエリオットは至極真面目に、胸のハンカチーフを取り出し目頭を押えている。
「お生まれになった時から、お体が丈夫でなかったルドガー様が、このように立派に成長されてお戻りになられましたのに、命を狙われるなど・・・。私めは日々生きた心地もせず、やせ細る思いなのでございますよ。私が若ければこのエリオットの命に代えても、ルドガーさまをお守り致しますのに」
データでは、エリオットは40年以上ヴィンセント家に仕えている。
ルドガーが祖父に連れ去られる前とあと。ルドガーの幼少期と今の両方を知る数少ない人間のひとりだ。何か事情を知っていてもおかしくはない。
必要とあらば、エリオットへのダイブもすることになるかもしれない。
白いハンカチを目に当てる老いたエリオットにダイブすることを想像すると、気が咎める。
ルドガーのために涙し、目元を染めた老人の顔が自分の琴線に触れるのを感じた。エリオットは主人であるルドガーを、心より慈しみ、大切にしている。
ノアの思惑など知る由もないエリオットは、歳を取ると涙脆くていけませんと自分の感傷を詫びながらハンカチを丁寧に畳みポケットに戻した。
ルドガーがエアフライで400M落ちをやったと知ったら、エリオットはきっと卒倒するだろう。
自分の仕える主人が、どれだけ無鉄砲で強力なのか知らないらしい。
横目でルドガーを見れば、老人の憂慮などどこ吹く風で薔薇を手折っている。これでは、エリオットの心配が尽きることないだろう。
「ですが、ルドガーさまも少しは外出を控えてくださいませんと。護衛の者たちも身体が持ちません。現に・・・」
「エリオット」
小言に変わりだしたエリオットの言葉を、ルドガーの声が遮る。これから護衛に就く者としては、”現に・・”のその先の方が気になるところだが。
腕の中一杯になった薔薇の花の香を楽しみながら、ルドガーが横目でノアをみる。
アスクレピオスでの出来事を言うなという牽制の意味もあったかもしれない。
単に自分に流された青い視線に一瞬絡め取られ、はっとした。
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最後までお読み頂き、ありがとうございます♪(*^▽^*)
台風が去ったせいでしょうか。
今日は涼しくて過ごしやすかったです。ほっ。
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当にいつもありがとうございます。
拙文しか書けない私、書いていく励みになります。
■ブログ拍手コメントのお返事は、*こちら*にさせていただいております♪


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400M落ちに何食わぬ(?)顔をし、暴漢を難なく抑えた彼と、浮世離れした空間で、浮世離れした日常を過ごす彼の、どちらが本当の彼なのか。どちらも本当の彼なのか。
擬態か本性か気になるところです。ただの「お花ちゃん」でないことだけは確かでしょうけど、これから先の展開がとても楽しみです♪
でも「性格がお花ちゃんで最強」ってのも萌えますよね。
(だから、「お花ちゃん」って何だよ・笑)
ずいぶん涼しくなって、エアコン要らずになってきましたね。
昼間の職場はさすがにエアコンを点けないわけにはいかないのですが、夜に帰宅する時なんて半袖ではちょっと寒かったです。
でも油断大敵、何たって日本一ヒートアイランドな地域ですから、案の定、来週は暑さが戻るみたいです。
これからしばらく体調管理の難しい季節になりますね。
今夜、ちょこっとメール致します。
ではでは♪