08 ,2011
首輪 下
驚いたことに、坂倉は若手の国会議員だった。
出会った頃は、出馬に備えての金を掻き集めていた時期で、そのなけなしの資金を俺に託したのだと言った。
だが、真相なんて怪しいものだ。坂倉の実家は法曹界の名門だ。金に困るなど、考えられない。
最近になって、3年前の不自然な株の暴落も、実は坂倉が仕組んだ罠ではなかったのかと疑い始めている。大体、真っ当な人間が悪徳ヤミ金並みの利子を要求するものか。
最初、坂倉に感じたダークな印象は、坂倉が政治家だったと知った後も払拭するどころか、殊更濃度を増して黒光りしている。
弱い喉笛に歯を立てられて全身の力が抜けると、喉元で押し殺した笑い声が上がった。
「まるで、あんたのほうが畜生みたいだ・・・・・」
「お前の飼い主は俺だ。俺が畜生だと言うなら、ペットのお前はそれ以下だ。なら、もっとそれらしく振舞えよ」
口許に皮肉な笑みを貼り付けた坂倉が、自分のネクタイを引き抜き、首輪に括り付ける。犬みたいにぐいと首を引かれ、屈辱に顔が熱くなった。
「ほら、やれよ。いつもみたいに手を使うなよ」
坂倉の躰に添わせるように身を沈め床に膝を突く。
目前のズボンの前たてに顔を近づけ、歯でファスナーを挟んで下ろし、鼻先と舌で坂倉の牡を探った。いつになく横暴な坂倉の態度に腹が立ち、不貞腐れながら上質の生地を掻き分ける。
「礼仁」
「・・・・っ!!」
いきなり後ろにネクタイを引っ張られ、喉が声にならない悲鳴を上げる。首輪を再度吊り上げられ、苦しさに涙目になった顔を坂倉と合わせさせられた。。
「どうやらお前は完済が近づいた嬉しさで、自分の立場を忘れかけているらしいな。反抗的なペットには躾け直しが必要だ」
坂倉の一振りで、自分の意思とは関係なく躰がベッドに乗りあがる。ネクタイが坂倉の手を離れ、喉を解放された反動で咳き込む躰に、コートを脱ぎ捨てた坂倉が跨った。
自分を見下ろす坂倉の眼に、あの夜、自分を追って公園に現れた坂倉の顔が重なる。
坂倉から逃げていたはずなのに、なぜか顔を見た瞬間恋しい人にでもあったかのように、泣きそうになった。
「あともう少しで、俺から離れられるな。嬉しいか?礼仁」
乱暴に重なった唇の下で噛まれた唇が切れた。口腔に錆の味が広がり、侵入してきた坂倉の舌がそれを舐めねぶる。味がなくなれば舌を絡められ、抜けそうなほどに強く吸い上げられた。
息が揚がり、頭の芯が蕩け、躰は坂倉の愛撫に溺れはじめる。
いつ頃から、心も躰も坂倉に馴染んでしまったのか。
淫らに赤みを増す胸の凝りを捏ねられ、脇腹を愛撫される快感に仰け反りながら、ぼやけた頭の隅で考える。もしかしたら公園に坂倉が現れたあの時にはもう、この男に囚われてしまっていたのかもしれない。
「ん・・ぅ・・・・郁朗」
強すぎる快感に抗いの手を伸ばすと、荒々しく手首をシーツに押さえつけられた。
獣のような俺の飼い主。この男が好きだ。
離れたくない。
「ア・・・ッ!!」
心が恋情を認めた瞬間、坂倉の触れる場所が急激に熱くなった。下肢を割る手のひらも、下腹を滑る唇も苦しくなるほどの快感を生み、体内で膨らむ熱を容赦なく掻き混ぜる。
触れ合う快感の先端が腫れ物のように熱を持ち、弾けそうになる。
「あ・・・・あ、ぁ・・・」
ローションでぬるついた指が秘部を割る感覚に、感じ過ぎて頭がおかしくなりそうになる。躰ごと悦楽の果てまで墜ちていきそうな感覚に怖くなって、坂倉の背中に爪を立ててしがみ付いた。
「礼仁?礼仁、俺を感じるのか」
息の荒い声に、同じく乱れた息を吐きながら頷いた。揺れる目尻から快感の涙がこぼれる。体内で一気に熱の華が開いた。覚えの無い強い快感に全身が戸惑い、墜落する指先が滑らかに張った坂倉の背中の隆起に喰い込む。
「ああ・・・・墜ちる。いくろ・・・郁朗。ア・・・ア」
「礼仁・・・レイ」
接吻けられるのと同時に貫かれた。反り返った背中を痛いくらい抱締められる。
首輪のタグが肩から滑り落ち、シャラシャラと喉元で微かな音が鳴った。
「まだ稼ぐつもりか?」
朦朧とした意識で、情交の余韻の波間を漂う頭に言葉は何テンポも遅れて届く。坂倉に抱き寄せられ、髪を撫でられるあまりの気持ちよさに沈みそうになる意識を、無理からに引き揚げた。
「・・・うん、なに?」
「いい加減、金集めは諦めて、俺のものになっちまえよ」
細いチェーンで首輪と繋がったタグを坂倉が持ち上げた。タグの横に、ダイヤのついたシンプルな指輪がぶら下がっている。自分の目が大きく見開いていくのを感じた。
「返済後は首輪じゃなく、指輪で縛ろう・・・とか?」
「そういうことだ」
絆を縛る2つの輪。しかし、首輪と指輪ではその意味合いは、月とスッポンほどに違ってくる。
坂倉が俺を愛してる?坂倉の目が、真剣に俺の横顔を見詰めている。頬が熱い。
だが・・・と思う。
「途中で放り出すのは俺の信条に反するし、後々恩に着せられても堪んないから。返済が終わって、あんたと対等になったら、考えてやらないでもないけど?」
いままで散々な目に遭わされてきたんだ。これくらいの意地悪は許されるだろう?
坂倉の真剣な顔が一転して、不敵な面構えでニヤリと笑った。
「いいさ。それでも」
次の日、大学から戻ってPCの電源を入れた俺は愕然とした。
前日、売り注文をつけた筈の株がちゃっかり残っていて見事な大暴落を遂げている。
・・・・そして、確信した。
「やりやがったな。あの、腹黒代議士野郎!」
首許でシャラと、笑うように軽やかな音が鳴った。
― fin ―

※イラストの版権及び使用権は『桐埜屋』の mk さまにあります。
無断での転写、お持ち帰りはお断りさせていただきます。
上 / 中

首輪は今回を持ちまして完結です。
みなさま、最後までお付き合いくださり、ありがとうございます(*^▽^*)
「首輪」は、美麗イラストサイト『桐埜屋』さまにて募集されておりました、お題SSに参加させて頂いた短編です。
筆の遅い私は、企画ものへの参加は見合わせることが多いのですが、
投稿期限が決められていないのと、絵師さまから提示されたお題を自分で選んで書くという
システムが面白く、是非にと書かせていただきました。
企画自体のテーマがエロスと言う事もあり、苦手な分野克服も兼ねてトライしました。
勢い込んで参加した割には拙いエロスではありましたが、お読みくださったみなさまに
少しでも楽しんでいただけたのであれば嬉しく思います。
次の更新時期をお伝えできないのが心苦しいのですが、ユニバース2<怪物>なのは確かです。
あまりにウケてないので、続けるのもどうかしらん?とは思いましたが、続けます(笑)
ゆとりができれば、コメディ調の短いのとか翠滴のスピンオフとかも書きたいなあ。
では、みなさま立秋も過ぎて残暑となりましたが、気温はまだまだ盛夏の勢いでございます。
どうぞ体調にご留意され、残りの夏を元気に乗り切ってください。
紙魚
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当に、いつもありがとうございます。
拙文しか書けない私ですが、書いていく励みになります。
■ブログ拍手コメントのお返事は、*こちら*にさせていただいております♪
みなさま、最後までお付き合いくださり、ありがとうございます(*^▽^*)
「首輪」は、美麗イラストサイト『桐埜屋』さまにて募集されておりました、お題SSに参加させて頂いた短編です。
筆の遅い私は、企画ものへの参加は見合わせることが多いのですが、
投稿期限が決められていないのと、絵師さまから提示されたお題を自分で選んで書くという
システムが面白く、是非にと書かせていただきました。
企画自体のテーマがエロスと言う事もあり、苦手な分野克服も兼ねてトライしました。
勢い込んで参加した割には拙いエロスではありましたが、お読みくださったみなさまに
少しでも楽しんでいただけたのであれば嬉しく思います。
次の更新時期をお伝えできないのが心苦しいのですが、ユニバース2<怪物>なのは確かです。
あまりにウケてないので、続けるのもどうかしらん?とは思いましたが、続けます(笑)
ゆとりができれば、コメディ調の短いのとか翠滴のスピンオフとかも書きたいなあ。
では、みなさま立秋も過ぎて残暑となりましたが、気温はまだまだ盛夏の勢いでございます。
どうぞ体調にご留意され、残りの夏を元気に乗り切ってください。
紙魚
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私は好きですよ~。
いろいろな面で妄想が止まりませんもの(笑)。
頭の中、例によって絶賛妄想祭り中(主に誰かさんで・笑)。
BL臭が薄いって点なら私も負けてませんから、ぜひぜひ続けてくださいませ。