07 ,2011
rose fever 13
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<ローズ・フィーバー 13>
指で途をつける間、硬く筋肉の張る背中に接吻け脇に歯を立て、額を背骨の上に置く。
自分に背を向ける男からはどんな些細な感情すら何も伝わってこない。
何も。
腫れ物のように熱を孕んだ欲望で隘路を割る瞬間、息を詰めた迅の背中に緊張が走った。
それでも迅の中は、その瞳とは裏腹に温かい。自分の欲望が迅の中で出口を求めて熱くうねり膨らんでゆく。
その中心にポッカリと空洞が開いていた。胸に居座る虚しさを打ち消したくて、投げ出された迅の手指に指を絡ませる。
迅、ジン・・。
無言で迅が灰色の虹彩を自分に滑らせる。臥せた躰に欲望を打ちつけながら、絡ませた迅の手の甲に唇をあてた。
はじめてこの手に触れられたのはいつだったか。
自分と繋がり、引っ張ってくれる大きな手に導かれ世界が動き出した。
迅と初めて出会ったとき、俺は自分の全てを失っていた。
ごつごつとした大きな木の根っこの間で目覚めた時、周りには誰もいなかった。
深い緑に囲まれた水辺の風景の中を、人の姿を求めて何時間も裸足で歩いた。
誰もいない、何も動かない。曇天の空に自分に迫る、圧倒的な深緑の森。恐怖はなかったが、酷い空腹に本能は生命の危機を感じていた。
突然、目の前を横切った青い蝶に驚いてあげた自分の声が、世界で聞いた最初の音だった。
空腹は感じても、どうやってそれを満たせばいいのかわからない。
自分の事も、周りの事も全くわからなかった。
ここがどこなのか、なぜひとりでいるのか。
名前も、年も。 自分は・・・・誰?
湖と思しき水面には、鬱蒼とした森の深緑を背景に見たこともない子供が映る。
黒い瞳、髪。夜みたいな子供だと、第三者的な他人の目でそう思ったことを今でも覚えている。
保護されたのは、湖の畔で覚醒してから5日目くらいの朝のことだった。
その間、森の中を彷徨い続け、木や草の実、木々の新芽を食べて飢えを凌いだ。
空も白みかけた早朝。草の上で眠りこけていた自分の前に、つま先から頭の先まで白い能汚染防護スーツに身を包んだ男達が現れた時には度肝を抜かれた。
あの時、素早く逃げ出した自分を捕まえてくれていなかったら、自分はあの森で野垂れ死んでいたかもしれない。
男たちの言葉は理解できた。だが、答えられる質問は何一つなかった。
自分の記憶は覚醒してからの5日間分しかないのだから、どこから来たのか、なぜここにいるのか訊かれても答えようがない。
満足のいく返答の出来ない子供に業を煮やした大人たちは、素早く血液と身体の検査をし、この森で何も食べていないかと尋ねてきた。
ゴーグル越しに検分する鋭い視線に何かヤバさを感じて、木の実や新芽の事は黙っておく。
頭をクシュッと誰かの手が撫でた。グローブを外した大きな手が温かい。
『嘘は、いかんな』
声には出していない。
頭の中に差し込む声に、弾かれたように背後の男を見上げた。オレンジ色のゴーグルを隔てた灰色の目が、何かに気付いたように大きくなる。それが全ての始まりだった。
撤収を決めた大人たちについて森を歩いた。
ろくに栄養を摂っていなかった子供の足は、ともすれば遅れがちになる。
汚染を警戒して自分に触れたがらない大人の中で、ひとりだけ手を差し出してくれたのがオレンジのゴーグルの男。迅だった。
迅は素手で繋いだ手を引っ張ってくれ、岩場など歩きにくい場所は負ぶってくれる。ゴワゴワと硬い能汚染防護スーツの背中より、大きな迅の手と繋ぎたくて、険しい道も平気な顔をして歩いた。
『 ノア・・・・』
『なんだ、何か言ったか?』
自分を負ぶったゴーグルの男が立ち止った。他の誰も2人の会話に気がつかない。
お互い声には発していなかったからだ。
『 僕の名前、ノアだと思う』
『 思い出したのか?』
『 よくわからない。けど、この言葉だけ頭に残ってるから・・・』
ノア、夜色のノア。 と、誰かが髪を撫でながら耳元で囁く。
耳ざわりのいい、音の端っこが少し掠れた低い声。
迅の背中で揺られるうちに眠りに落ち、次に目が覚めたのは新世界の病院のベッドの中でだった。
「ふ・・・。あ・・・・ぁ!」
波が押し寄せ、目の前の薄く汗の膜が張る背中にうつ伏せる。
あれから12年。
あの日、自分を負ぶってくれた背中は、この12年で庇護者のものから別のものへ変わり、指を絡め押さえつける手は、今や自分とさほど変わらない大きさになった。
自分の手の中から抜こうとした手を抜かせまいと間を狭めて捕まえ、力を篭めて強く握る。
だが、迅の手指がそれに応えてくれる事はない。
虚しさばかりが、絡めた指の隙間に詰ってゆく。
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<ローズ・フィーバー 13>
指で途をつける間、硬く筋肉の張る背中に接吻け脇に歯を立て、額を背骨の上に置く。
自分に背を向ける男からはどんな些細な感情すら何も伝わってこない。
何も。
腫れ物のように熱を孕んだ欲望で隘路を割る瞬間、息を詰めた迅の背中に緊張が走った。
それでも迅の中は、その瞳とは裏腹に温かい。自分の欲望が迅の中で出口を求めて熱くうねり膨らんでゆく。
その中心にポッカリと空洞が開いていた。胸に居座る虚しさを打ち消したくて、投げ出された迅の手指に指を絡ませる。
迅、ジン・・。
無言で迅が灰色の虹彩を自分に滑らせる。臥せた躰に欲望を打ちつけながら、絡ませた迅の手の甲に唇をあてた。
はじめてこの手に触れられたのはいつだったか。
自分と繋がり、引っ張ってくれる大きな手に導かれ世界が動き出した。
迅と初めて出会ったとき、俺は自分の全てを失っていた。
ごつごつとした大きな木の根っこの間で目覚めた時、周りには誰もいなかった。
深い緑に囲まれた水辺の風景の中を、人の姿を求めて何時間も裸足で歩いた。
誰もいない、何も動かない。曇天の空に自分に迫る、圧倒的な深緑の森。恐怖はなかったが、酷い空腹に本能は生命の危機を感じていた。
突然、目の前を横切った青い蝶に驚いてあげた自分の声が、世界で聞いた最初の音だった。
空腹は感じても、どうやってそれを満たせばいいのかわからない。
自分の事も、周りの事も全くわからなかった。
ここがどこなのか、なぜひとりでいるのか。
名前も、年も。 自分は・・・・誰?
湖と思しき水面には、鬱蒼とした森の深緑を背景に見たこともない子供が映る。
黒い瞳、髪。夜みたいな子供だと、第三者的な他人の目でそう思ったことを今でも覚えている。
保護されたのは、湖の畔で覚醒してから5日目くらいの朝のことだった。
その間、森の中を彷徨い続け、木や草の実、木々の新芽を食べて飢えを凌いだ。
空も白みかけた早朝。草の上で眠りこけていた自分の前に、つま先から頭の先まで白い能汚染防護スーツに身を包んだ男達が現れた時には度肝を抜かれた。
あの時、素早く逃げ出した自分を捕まえてくれていなかったら、自分はあの森で野垂れ死んでいたかもしれない。
男たちの言葉は理解できた。だが、答えられる質問は何一つなかった。
自分の記憶は覚醒してからの5日間分しかないのだから、どこから来たのか、なぜここにいるのか訊かれても答えようがない。
満足のいく返答の出来ない子供に業を煮やした大人たちは、素早く血液と身体の検査をし、この森で何も食べていないかと尋ねてきた。
ゴーグル越しに検分する鋭い視線に何かヤバさを感じて、木の実や新芽の事は黙っておく。
頭をクシュッと誰かの手が撫でた。グローブを外した大きな手が温かい。
『嘘は、いかんな』
声には出していない。
頭の中に差し込む声に、弾かれたように背後の男を見上げた。オレンジ色のゴーグルを隔てた灰色の目が、何かに気付いたように大きくなる。それが全ての始まりだった。
撤収を決めた大人たちについて森を歩いた。
ろくに栄養を摂っていなかった子供の足は、ともすれば遅れがちになる。
汚染を警戒して自分に触れたがらない大人の中で、ひとりだけ手を差し出してくれたのがオレンジのゴーグルの男。迅だった。
迅は素手で繋いだ手を引っ張ってくれ、岩場など歩きにくい場所は負ぶってくれる。ゴワゴワと硬い能汚染防護スーツの背中より、大きな迅の手と繋ぎたくて、険しい道も平気な顔をして歩いた。
『 ノア・・・・』
『なんだ、何か言ったか?』
自分を負ぶったゴーグルの男が立ち止った。他の誰も2人の会話に気がつかない。
お互い声には発していなかったからだ。
『 僕の名前、ノアだと思う』
『 思い出したのか?』
『 よくわからない。けど、この言葉だけ頭に残ってるから・・・』
ノア、夜色のノア。 と、誰かが髪を撫でながら耳元で囁く。
耳ざわりのいい、音の端っこが少し掠れた低い声。
迅の背中で揺られるうちに眠りに落ち、次に目が覚めたのは新世界の病院のベッドの中でだった。
「ふ・・・。あ・・・・ぁ!」
波が押し寄せ、目の前の薄く汗の膜が張る背中にうつ伏せる。
あれから12年。
あの日、自分を負ぶってくれた背中は、この12年で庇護者のものから別のものへ変わり、指を絡め押さえつける手は、今や自分とさほど変わらない大きさになった。
自分の手の中から抜こうとした手を抜かせまいと間を狭めて捕まえ、力を篭めて強く握る。
だが、迅の手指がそれに応えてくれる事はない。
虚しさばかりが、絡めた指の隙間に詰ってゆく。
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ノアが この12年間に繰り返したであろう迅への 思慕と葛藤
ノアの心を知りながら 応えてくれない その癖 いつまでも 揺さぶり続ける男、迅
迅は 何を 考えているの?
謎に包まれ 野心があり フェロモンがムンムンだぁ~
迅さまぁ~(ノ≧▽≦)ノ~❤~『☆ L□∨Ε ☆』゚~❤~シッシッヾ(▼皿▼)フン!
熱帯夜どころか 熱帯朝・熱帯昼と 一日中 参る暑さ
扇風機に 首にはアイスノンで 冷たいものを ガブ飲みで 夏痩せどころか 夏太りになりそう~汗 ━(il`・ω・´;) ━タラァァ~ン...byebye☆