07 ,2011
rose fever 12
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<ローズ・フィーバー 12>
「あんたに育ててもらった覚えはないし、拾ってくれって頼んだ覚えもねえ。あんたが勝手に、俺をこの新世界に連れてきたんだろうが」
口汚く罵れば、嗤いを深くした迅が間合いを詰めてきた。
「記憶もない栄養失調の子供が汚染されたフリーエリアでたった一人、どうやって生きていく?感謝されこそすれ、文句を言われるとは心外だな」
迅の腕がノアの両脇をロックする。迅の胸と腕、背中のガラスに閉じ込められ身動きが取れない。キスで点火された熱が身体の奥でゆらりと揺れる。その焔から視線を逸らすように、顔を横に背ける。
「あんたが俺を連れ帰って養子にしたのは、俺の特殊な能力が目当てだったからだ。あんたから受けた援助には、もう十二分に報いている筈だろう。それに・・」
それに?と、迅がこめかみに唇をあてながら聞き返す。
それに・・・。いま、自分は何か大切な事を言いかけた。なのに、明確な言葉を発しようとする矢先で、伝えたいと思った言葉の尻尾をつかみ損ね、答えは揺らめく焔の中で蒸発してしまう。
自分の手のひらに収まる小さな何かの正体。
閉じた瞼の裏に瑞々しい青と眩い金の残像を見た。束の間、心が惑う。
前髪の奥の眉間にしわを寄せ困窮するノアを、冷静な灰色の瞳が見下ろした。
「お楽しみを奪われたのは私だって同じだ。もう少しで、積もり積もった仕事の鬱憤ともども吐き出せたのに。もちろん、責任はお前に取ってもらうつもりだが」
黒い頭髪に埋めた唇から低い笑い声が洩れた。頭蓋に直接伝わる声と、頬から項にかけて移動する唇に欲望が刺激される。密着する皮膚に熱が溜まり、隠微に喘いだ。
「否は許さない」
芯を持ち始めた躰の中心に迅の硬い腿が押し付けられ、一気に体温が上がる。
迅によって与えられる即物的な快感を知る躰は迅の欲望を嗅ぎ取り、呼応するように発情を始める。
躊躇いがちに背中に回ったノアの腕が、迅のシャツに新たな皺を作った。
キーパーが床に脱ぎ散らかした2人分の服を拾い集める頃には、ノアと迅はベッドにその身を沈めていた。
「ギャレットと上手くいかなかったのなら、お前も相当溜まっているのだろう」
ベッドの上で覆いかぶさった迅が絡めた脚で腿の内側を擦り上げる。たったそれだけで、背骨を這う快感が脳天を突き抜けた。
迅を想う事に疲れ、飛び出してから半年が経っている。その間にイブと付き合い始め、欲望を消化できないまま“外勤“の直前に別れた。
生理的な意味では、些細な刺激にもがっつきたいほどに飢えている。
例え、利用されているだけだとわかっていても、自分には迅は切れない。それを情けないと思っても腹立たしく感じても、自分に刷り込まれた迅への思慕が消せないでいる。
悔しい。
飢えを呑み込み、跨る男に言葉を投げつけた。
「世間体とかモラルに無縁のあんたは知らないみたいだから教えてやるけど、普通の父親は息子にこんなことしな・・・!」
言い終わらない内に劣情を握られ声が途切れた。
「たかがこの程度で、こんな状態になりながら大口叩かれても、説得に欠けるな」
「あ・・・ぁ!・・うっ」
続けて無遠慮に荒っぽく擦り上げられ、強すぎる快感に呻きながら捩る肩を、シーツに押さえつけられた。俯いた睫を涙が伝い、シーツに丸い染みをつくる。
「情に絆されて心に完璧なシールドも張れない。甘ちゃんなお前には女は抱けないし、私以外の男とも寝る事もできない」
人というものを根底から信用していない迅は、心理の外側に張ったシールドを崩す事はない。
例え心を開いて相手の本心や企てを知ったところで、自分の為に相手の欲望を利用するだけだ。相手の感情が純粋な愛だと知れば、迅は即関係を切る。
愛情はない。自分のためだけに誰かを抱く。
その迅の自分勝手な欲望は皮肉にもノアの欲望をも満たし、一度は迅の元を去ったノアを精神面とは違った部分で繋ぎとめていた。
他人とはいえ父子という形をとった2人が道を踏み外す。この半年、この倒錯した時間を一度も求めなかったかと言えば全くの嘘になる。
ジョーカーを握ったままの自分の世界はどんどん狂っていく。
自制を失ったいま、もう誰にも止めることは出来ない。
流されそうな快感に抗い、自分に覆いかぶさる胸を押し返した。
「溜まってるのがわかっているんなら、今日は先にやらせて・・・」
上半身を起こした迅が自分を見下ろしながら薄く笑う。
灰色の瞳には、欲望と呼ぶには冷たい温度の炎が緩く揺らめくのみだ。いつだって迅の本心はわからない。
「俺を抱こうなんて大それた奴は、世界広しといえどお前くらいなものだな」
「世界は狭いよ。迅」
ポジションを交代し、締った背中に手のひらを滑らせ狭間に透明な液体を垂らす。
お前くらいなもの・・・。
もし、その言葉に言葉通りの感情が含まれていたのなら、あの日突然目の前に現れたこの世界は、もっと違って見えたのかもしれない。
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<ローズ・フィーバー 12>
「あんたに育ててもらった覚えはないし、拾ってくれって頼んだ覚えもねえ。あんたが勝手に、俺をこの新世界に連れてきたんだろうが」
口汚く罵れば、嗤いを深くした迅が間合いを詰めてきた。
「記憶もない栄養失調の子供が汚染されたフリーエリアでたった一人、どうやって生きていく?感謝されこそすれ、文句を言われるとは心外だな」
迅の腕がノアの両脇をロックする。迅の胸と腕、背中のガラスに閉じ込められ身動きが取れない。キスで点火された熱が身体の奥でゆらりと揺れる。その焔から視線を逸らすように、顔を横に背ける。
「あんたが俺を連れ帰って養子にしたのは、俺の特殊な能力が目当てだったからだ。あんたから受けた援助には、もう十二分に報いている筈だろう。それに・・」
それに?と、迅がこめかみに唇をあてながら聞き返す。
それに・・・。いま、自分は何か大切な事を言いかけた。なのに、明確な言葉を発しようとする矢先で、伝えたいと思った言葉の尻尾をつかみ損ね、答えは揺らめく焔の中で蒸発してしまう。
自分の手のひらに収まる小さな何かの正体。
閉じた瞼の裏に瑞々しい青と眩い金の残像を見た。束の間、心が惑う。
前髪の奥の眉間にしわを寄せ困窮するノアを、冷静な灰色の瞳が見下ろした。
「お楽しみを奪われたのは私だって同じだ。もう少しで、積もり積もった仕事の鬱憤ともども吐き出せたのに。もちろん、責任はお前に取ってもらうつもりだが」
黒い頭髪に埋めた唇から低い笑い声が洩れた。頭蓋に直接伝わる声と、頬から項にかけて移動する唇に欲望が刺激される。密着する皮膚に熱が溜まり、隠微に喘いだ。
「否は許さない」
芯を持ち始めた躰の中心に迅の硬い腿が押し付けられ、一気に体温が上がる。
迅によって与えられる即物的な快感を知る躰は迅の欲望を嗅ぎ取り、呼応するように発情を始める。
躊躇いがちに背中に回ったノアの腕が、迅のシャツに新たな皺を作った。
キーパーが床に脱ぎ散らかした2人分の服を拾い集める頃には、ノアと迅はベッドにその身を沈めていた。
「ギャレットと上手くいかなかったのなら、お前も相当溜まっているのだろう」
ベッドの上で覆いかぶさった迅が絡めた脚で腿の内側を擦り上げる。たったそれだけで、背骨を這う快感が脳天を突き抜けた。
迅を想う事に疲れ、飛び出してから半年が経っている。その間にイブと付き合い始め、欲望を消化できないまま“外勤“の直前に別れた。
生理的な意味では、些細な刺激にもがっつきたいほどに飢えている。
例え、利用されているだけだとわかっていても、自分には迅は切れない。それを情けないと思っても腹立たしく感じても、自分に刷り込まれた迅への思慕が消せないでいる。
悔しい。
飢えを呑み込み、跨る男に言葉を投げつけた。
「世間体とかモラルに無縁のあんたは知らないみたいだから教えてやるけど、普通の父親は息子にこんなことしな・・・!」
言い終わらない内に劣情を握られ声が途切れた。
「たかがこの程度で、こんな状態になりながら大口叩かれても、説得に欠けるな」
「あ・・・ぁ!・・うっ」
続けて無遠慮に荒っぽく擦り上げられ、強すぎる快感に呻きながら捩る肩を、シーツに押さえつけられた。俯いた睫を涙が伝い、シーツに丸い染みをつくる。
「情に絆されて心に完璧なシールドも張れない。甘ちゃんなお前には女は抱けないし、私以外の男とも寝る事もできない」
人というものを根底から信用していない迅は、心理の外側に張ったシールドを崩す事はない。
例え心を開いて相手の本心や企てを知ったところで、自分の為に相手の欲望を利用するだけだ。相手の感情が純粋な愛だと知れば、迅は即関係を切る。
愛情はない。自分のためだけに誰かを抱く。
その迅の自分勝手な欲望は皮肉にもノアの欲望をも満たし、一度は迅の元を去ったノアを精神面とは違った部分で繋ぎとめていた。
他人とはいえ父子という形をとった2人が道を踏み外す。この半年、この倒錯した時間を一度も求めなかったかと言えば全くの嘘になる。
ジョーカーを握ったままの自分の世界はどんどん狂っていく。
自制を失ったいま、もう誰にも止めることは出来ない。
流されそうな快感に抗い、自分に覆いかぶさる胸を押し返した。
「溜まってるのがわかっているんなら、今日は先にやらせて・・・」
上半身を起こした迅が自分を見下ろしながら薄く笑う。
灰色の瞳には、欲望と呼ぶには冷たい温度の炎が緩く揺らめくのみだ。いつだって迅の本心はわからない。
「俺を抱こうなんて大それた奴は、世界広しといえどお前くらいなものだな」
「世界は狭いよ。迅」
ポジションを交代し、締った背中に手のひらを滑らせ狭間に透明な液体を垂らす。
お前くらいなもの・・・。
もし、その言葉に言葉通りの感情が含まれていたのなら、あの日突然目の前に現れたこの世界は、もっと違って見えたのかもしれない。
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「ラヴァーズ」のリンク切れをメールでお知らせくださったR(L?)さま
いつもお読みくださっているとのこと、ありがとうございます(*^▽^*)
前に翠滴のサイドストーリーを、一旦ブログから下ろした事があったのですが、
どういうわけか、「ラヴァーズ」だけ戻し忘れていたようです。
即行、戻しましたので、お時間の空いた時にでもどうぞ覗いてやってくださいませ~。
ご指摘、感謝です!
紙魚
いつもお読みくださっているとのこと、ありがとうございます(*^▽^*)
前に翠滴のサイドストーリーを、一旦ブログから下ろした事があったのですが、
どういうわけか、「ラヴァーズ」だけ戻し忘れていたようです。
即行、戻しましたので、お時間の空いた時にでもどうぞ覗いてやってくださいませ~。
ご指摘、感謝です!
紙魚
早々にご指摘頂きまして、ありがとうございました!
吹き出されましたか(笑)
以前にリクエストがありまして、男の子なら征服欲が・・・と言うご意見に
ご尤もだなあと共感しましたので入れました。
ちょっとストレートすぎたかしらんと思いつつ、この2人の関係だと
これくらいでいいのかなと。。
でも、リバシーンはこれ一回きりになりそうです。
イイオトコと言ってくださり、ありがとうございます。
コメント&ご訪問、感謝です!