11 ,2008
翠滴 1-8 オーディナリィ・ラヴ 1 (24)
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翠の雫が落ちて、心の中に波紋が広がる
どんどん広がって、見る事の出来ない暗闇の中まで水面は、波打ち震える。
目が覚めると、白い天井が目に飛び込んできた。
天井も壁も真白で、床には磨かれた大理石が貼られ、シンプルでセンス良く統一された家具が映り込んでいる。明かりは間接照明のみで、照度が抑えられ柔らかく居心地の良い空間を作っていた。
自分がいるのは、ダブル幅よりも大きなベッドの中で、まどろむ感じが気持ちが良くて、出るのがイヤになってしまいそうだ。床から天井までの大きな掃き出し窓の前には白いコルビジェのソファが置いてあり、その素材に、ああ・・特注品だなとぼんやり思う。
両腕を頭の後ろに回し、リラックスしたように美しいプロポーションの身体を優雅に投げ出してクッションに預けている人は、眠っている訳ではなさそうだ。ガラスのローテーブルの上には、作業途中と思われる立ち上げたままのモバイルPCやら書類のような紙類が散乱している。
絡まった過去やら気持ちや出来事を、解き明かす暗号のように、心に引っかかっている短い単語を小さな声で口に乗せてみる。パスワードが合っていれば総てが詳らかになって一本の線で繋がる予感があった。
「シュウ君?」
「周と書いて、あまね。女みたいな名前だから、周りにはシュウって呼ばせてた」
薄く瞼を上げた周が答えた。ああ、やはり繋がったと1人で納得する。
あのボーイスカウトでのキャンプの日、夏の雨が降っていた。
小中合同で、2人一組で参加したしたゲームで中学生のシュウとコンビを組んだ。小5だった俺の度重なるミスでゲームは惨敗だった。
課せられた罰ゲームは、勝者の言うことを何でも聞くという王様ゲームみたいなものだったと思う。
勝者はえらくマセたクソガキで、、「チュウしろ」だの「抱きつけ」だの囃し立てた。
あっという間に他の奴等も便乗して、「キスッ」「キースッ」と連呼し一緒に囃し立て出した。怖くなって泣き出した俺にシュウは、
「キョウイチ、泣いちゃダメだ。あいつら喜ばすだけだから」
と、囃し立てる奴等を振り返って、不敵に笑った。
シュウの子供らしからぬ挑戦的な笑みに賑やかだった声はピタッと止んで、場はシーンと静まりかえった。雨の音に混じって誰かが喉を鳴らして、唾を飲み込むゴクッという音まで聞こえた。
シュウ君は俺の背中に手をまわし、顎に手を添えて上を向かせてキスをした。
俺の口に・・・。俺は更に泣いた。
「あの時は負けてゴメン」
「あの手のゲームで負けたこと無かったから、無敗伝説にピリオドを打たれて
最初は腹が立ったけど、役得だったし許してやる。キスで泣かれたのにも
ヘコんだけどな。これも、泣き顔が可愛かったから許す」
子供のときの話じゃん。謝る俺も俺だけど、許すとのたまう周もどうだろう・・幼かった日の面影を探そうとするが、名前を思い出しただけでも「奇跡」であの日のシュウ少年の顔は朧だ。
確かなことは、ただ1つ。
「瞳の色が違う」
組んでいた腕を解いて、ゆらりと声の主が立ち上がった。
全く何から何まで優雅な動作で 美しい男がベッドの端に片方だけ上げて座る。
「カラーコンタクト イジメ防止だ。透明だけど、享一もコンタクトだろ?」
そういって眼前まで顔を近づけて目を見開く。翠の中の黒い瞳孔が真直ぐ俺を映している。その眼差しだけで、ザワッと胸騒ぎを覚え、赤面し俯いた。イジメ防止・・そういえば、T市に一緒に行った時にも、そんな事を言って黒いカラーコンタクトをはめていた。・・・ってことは、今も?誰から・・?
やがて、顔を離し口の端をキュッとあげて嬉しそうに笑うと瞳を指差しながら、
「喧嘩なら負ない自信があったのに。イジメに遭うんじゃないかって母親の過剰なる
危惧のおかげで、子供の時からずっと世話になってる」
享一は、額に納まる美しい女性の写真を思い出した。
照れているのか、少し上目遣いになり母親を語る周の顔は、ちょっと子供っぽくてキュートで可愛くさえ思えてしまう。
また、胸の辺りで小さな色ガラスの破片がきらきらと輝り出した。
翠の雫が落ちて、心の中に波紋が広がる
どんどん広がって、見る事の出来ない暗闇の中まで水面は、波打ち震える。
目が覚めると、白い天井が目に飛び込んできた。
天井も壁も真白で、床には磨かれた大理石が貼られ、シンプルでセンス良く統一された家具が映り込んでいる。明かりは間接照明のみで、照度が抑えられ柔らかく居心地の良い空間を作っていた。
自分がいるのは、ダブル幅よりも大きなベッドの中で、まどろむ感じが気持ちが良くて、出るのがイヤになってしまいそうだ。床から天井までの大きな掃き出し窓の前には白いコルビジェのソファが置いてあり、その素材に、ああ・・特注品だなとぼんやり思う。
両腕を頭の後ろに回し、リラックスしたように美しいプロポーションの身体を優雅に投げ出してクッションに預けている人は、眠っている訳ではなさそうだ。ガラスのローテーブルの上には、作業途中と思われる立ち上げたままのモバイルPCやら書類のような紙類が散乱している。
絡まった過去やら気持ちや出来事を、解き明かす暗号のように、心に引っかかっている短い単語を小さな声で口に乗せてみる。パスワードが合っていれば総てが詳らかになって一本の線で繋がる予感があった。
「シュウ君?」
「周と書いて、あまね。女みたいな名前だから、周りにはシュウって呼ばせてた」
薄く瞼を上げた周が答えた。ああ、やはり繋がったと1人で納得する。
あのボーイスカウトでのキャンプの日、夏の雨が降っていた。
小中合同で、2人一組で参加したしたゲームで中学生のシュウとコンビを組んだ。小5だった俺の度重なるミスでゲームは惨敗だった。
課せられた罰ゲームは、勝者の言うことを何でも聞くという王様ゲームみたいなものだったと思う。
勝者はえらくマセたクソガキで、、「チュウしろ」だの「抱きつけ」だの囃し立てた。
あっという間に他の奴等も便乗して、「キスッ」「キースッ」と連呼し一緒に囃し立て出した。怖くなって泣き出した俺にシュウは、
「キョウイチ、泣いちゃダメだ。あいつら喜ばすだけだから」
と、囃し立てる奴等を振り返って、不敵に笑った。
シュウの子供らしからぬ挑戦的な笑みに賑やかだった声はピタッと止んで、場はシーンと静まりかえった。雨の音に混じって誰かが喉を鳴らして、唾を飲み込むゴクッという音まで聞こえた。
シュウ君は俺の背中に手をまわし、顎に手を添えて上を向かせてキスをした。
俺の口に・・・。俺は更に泣いた。
「あの時は負けてゴメン」
「あの手のゲームで負けたこと無かったから、無敗伝説にピリオドを打たれて
最初は腹が立ったけど、役得だったし許してやる。キスで泣かれたのにも
ヘコんだけどな。これも、泣き顔が可愛かったから許す」
子供のときの話じゃん。謝る俺も俺だけど、許すとのたまう周もどうだろう・・幼かった日の面影を探そうとするが、名前を思い出しただけでも「奇跡」であの日のシュウ少年の顔は朧だ。
確かなことは、ただ1つ。
「瞳の色が違う」
組んでいた腕を解いて、ゆらりと声の主が立ち上がった。
全く何から何まで優雅な動作で 美しい男がベッドの端に片方だけ上げて座る。
「カラーコンタクト イジメ防止だ。透明だけど、享一もコンタクトだろ?」
そういって眼前まで顔を近づけて目を見開く。翠の中の黒い瞳孔が真直ぐ俺を映している。その眼差しだけで、ザワッと胸騒ぎを覚え、赤面し俯いた。イジメ防止・・そういえば、T市に一緒に行った時にも、そんな事を言って黒いカラーコンタクトをはめていた。・・・ってことは、今も?誰から・・?
やがて、顔を離し口の端をキュッとあげて嬉しそうに笑うと瞳を指差しながら、
「喧嘩なら負ない自信があったのに。イジメに遭うんじゃないかって母親の過剰なる
危惧のおかげで、子供の時からずっと世話になってる」
享一は、額に納まる美しい女性の写真を思い出した。
照れているのか、少し上目遣いになり母親を語る周の顔は、ちょっと子供っぽくてキュートで可愛くさえ思えてしまう。
また、胸の辺りで小さな色ガラスの破片がきらきらと輝り出した。
その勝者くんは。
○○○とか△△△とかあれとかこれとか。
どんなボーイスカウトだ。