10 ,2010
In the blue.On the island. 2
ペントハウスに戻ると玄関ホールの石の床に周の靴が並んでいた。
もともと外国人用に造られたこの住宅の玄関には、靴を脱ぐための敲きがない。なんとなく廊下の手前あたりで靴を脱ぐのが暗黙の了解になっている。自分の靴を周の横に並べると享一は少し考えてリビングに向かった。
こんな宵の口と呼べる時間に、2人が顔をあわせるのは何週間ぶりだろうか?もしかしたら何ヶ月ぶりかも知れないと、疲れた頭でここ数ヶ月を振り返る。
リビングを覗くと周はおらず、テラスのプールで青く発光する水を掻き分け泳いでいた。全解放された室内に周がターンする水の音が響いていると、一瞬ここはどこだろうかと思う。
携帯とキーケースをまとめてアイスの紙袋と共にキッチンの上に置き、汗とアルコールの匂いを流しにバスルームに向かう。アイスを冷凍庫に入れようかと迷ったが、ドライアイスで固まりすぎたアイスは風呂から戻って周に声をかける頃には食べ頃になっているだろうと、そのまま置いておく事にした。
着ているものを脱ぎ捨て、湯の下に立てば3週間分の疲れが湯と共に流れてゆく。ボディソープの泡で汗を流してさっぱりすると、酔いも手伝ってか心地よい倦怠感が押し寄せ欠伸が出た。
週末だという現実が緩んだ気持ちに拍車を掛ける。
ベッドに直行したい気持ちを抑え、枝豆とアイスを周に食べさせてからと、Tシャツとハーフパンツを身につけバスルームを出た。
テラスのリクライニングチェアーに腰掛け、泳ぐ周を眺める。
周が泳ぐ姿を見るのは好きだ。
本人は自己流だと言っていたが、長い腕で水を掻き分け悠然と泳ぐ姿は、教本に出てきそうな享一の型にはまったフォームとは違ったダイナミックさがある。
周の均整の取れた躯体が青く光る水面を割り何度もターンを繰り返すのを飽きもせずに眺めた。
徐々に強くなってきた風が、プールの水面に波を立て始める。
享一は立ち上がって水際に近づいた。そろそろ上がらせないと、風に体温を奪われ風邪をひかせてしまうかも知れない。
「アマネ・・・・」
声を掛けるとターンに差し掛かった周が止まって振り返る。反応から、自分が見ていたことに気がついていたなと思う。どことなく怪訝な含みのある目で見上げられ、思わず言葉が止まった。
「えーと、ただいま。同期の片岡から枝豆を貰ってるし、アイスも買ってきてるけど・・・・そろそろ、上がらないか」
「・・・・・・」
周は別にコメントを返すでもなく、プールの縁にもたれ黙って見上げている。
なんか機嫌が悪そうだ。
「あの・・・・周?」
やっぱり、反応がない。愛想の欠片もない冷やかな翠の視線は言葉以上に胸を突き刺す。胸の内で脂汗が噴出した。
この男を食い物で懐柔しようなど、やはり浅すぎたか・・・
「な、そろそろ上れよ。風が強くなってきたし、濡れたまま外にいたら風邪ひくし」
やや歯切れ悪く言いながら手を差し出すと、やっと口を開いてくれた。
「享一、コンペは? 今からまた会社に戻るのか?」
思っていたよりも温かい周の手が享一の手のひらに重なった。そんなことを気にしていたのかと、笑みが零れた。
「コンペは、終わったよ。今日が提出日だったんだ」
大人しく享一に引かれていた腕の動きがピタリと止まる。やや据わり気味だった周の顔にニッコリともニヤリともつかない表情が浮かんだ瞬間、繋がった腕を有無を言わせぬ力で引っ張られた。
叫び声を上げる間もなく、享一の身体はデッキを離れ水飛沫を上げながらプールの底に沈んだ。享一の身体が水中で態勢を変え、水底を泳いで浮上する。
額に張り付いた前髪を掻き揚げながら、黒い瞳が周を睨みつけた。
「なにすんだよっ! 俺は、シャワー浴びたばっかなんだぞ」
「おかえり享一。アイスのフレーバーは?」
「は・・・? アイスのフレーバー? バニラだけど」 声を尖らせながら答えてやる。
ひと掻きで距離を詰めた周が、微笑みながらへの字に曲がった唇に接吻けた。
「でかした」
周の舌先が、アイスを味わう真似をしながら享一の唇を舐める。”不機嫌”はどうやら解消されたらしい。
何が『でかした』なのか、深い意味も考えず享一も笑ってキスに応えて胸をなで下ろした。
濡れた唇を割る甘い舌を受け入れ、嵐の前兆に波立つプールで抱き合う。
疲労と大気に篭る熱を蓄積した躰に、水の冷たさが気持ちいい。綺麗に筋肉の張った周の滑らかな背中に腕を回し、うっとりと接吻けを味わっているとゆっくり体が傾いてゆく。青い世界に沈みながら唇を貪り合う。重なった唇の隙間からゴボゴボと気泡が上がってゆく。
いい加減、肺の中の酸素が減った頃、突然Tシャツを引っ剥がされ放り出された。
縁につかまって立ち上がり酸欠の魚のように大口を開けて息を吸い込んだ。
その腕を引かれる。
「どうせ濡れたんだ、一緒に泳ごう」
ゼイゼイと肩で息をする享一を、余裕の笑みを浮かべて周が見下ろす。
「久し振りに、享一が泳ぐ姿が見たい」
同じだけ水中にいたのに、周は呼吸ひとつ乱れていない。高校時代は水泳の選手だったという、享一のプライドが痛く傷ついた。胸の奥の闘争心に、周の揶揄いを含んだ笑いが着火する。
「それとも、運動不足で泳ぎ方を忘れたとか・・・?」
「はぁ!? 誰に向かって言ってんだよ?」
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
手直しをしていて、1話に伏線を張っておくのを忘れた事に気がつきました。
うーん、どこかでフォローできるかな?
こういうシワ寄せが後半に影響して、どんどん長くなっていくのですね・・・アウッ・・・。
コメレス&メルレスが、遅れています。すみませんm(_ _)m
それではまた明日。
おやつの時間にお会いしましょう。
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当に、いつもありがとうございます。
ほんの拙文しか書けませんが、書いていく励みになります。。


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イエーイ!
疲れ果てた享一タンを、更に疲れさせるアマネさま。
フレーバーがバニラと聞いて「でかした」って…。
ゴージャスなペントハウスで一体どんな夜が待っているんでしょう。
紙魚さんの張り忘れた伏線の復元も(。◣‿◢。)ニヤリッ どんな~~。
享タンの性欲も疲れとともに増しますようにー!