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紙魚

Author:紙魚
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06

Category: 翠滴 3 (全131話)

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Comment: 12  Trackback: 0

翠滴 3 緑青  4  (127)

 「秘密主義はそちらの十八番だろう」
 昏い闇の艶をその顔に刷きながら周が言い放つ。
 「時見もまた、とんでもない男に魅入られたものだな」
 これもまた穏やかさを反転させた凄みのある顔で嗤った。

 「仕事は手を抜かない。それが我が社のモットーだが、さすがにあの仕事は胸が痛んだものでね」
 「犯罪紛いの事も平気でやってのけるその胸に、まだ痛みを感じる場所が残っていたとは心外だな」
 「俺のはすべて合法さ。俺の心臓はノミの心臓よ。剛毛の生えたお前らのとは違って、デリケートに出来てんだ」
 獣を思わせる池田の目に、茶室のにじり口に活けられた桔梗が映る。涼やかな紫にふっと表情を和らげると、周に視線を戻した。

 「同じ犯人だと思わせるため瀬尾の一件を徹底分析して模倣しだが、仕上がった時見の部屋は悲惨で吐き気がしたぜ。荒れた部屋の中で脅える時見の姿をスコープで見ているのは、正直堪えたね」
 「それで?」 片方だけ細めた周の白けた流し目が池田を一瞥し、すっと離れた。
 先に行かせた享一が気になるのか、それとも何かを嗅ぎ取っのたか。その眼はチラチラと離れを見ている。池田は悪戯めいた笑いを浮かべた。

 「慰めてやりたくなった・・・・と言ったら?和輝を見つけたときの時見の泣き顔も最高に可愛かったし、あんな顔を見せられるとアレの時はどんな顔で啼くのか。大いに興味が湧くな」
 日本刀の切れ味を持つ翠の眼球が、池田に真っ向から切っ先を突きつける。

 「相変わらず美し過ぎる男だな。惚れ惚れする。一体その翠の目で何人葬った?」
 「ご希望なら墓標にもうひとつ名前を刻んでやろうか?」
 不敵に嗤う瞳の奥で、冷たい白刃がギラリと閃く。

 「神前も結局は、お前を最後まで手放せず我が身を滅ぼした。なんのかんの言って、あんたのビジネスのセンスを磨いたのは奴だ。瀬尾にわざと情報を掴ませたり、セコい手も使う悪党だったが、髪の先ほどくらいは同情してやってもいいような気もするね」
 「そんなクソみたいな同情は、されるほうが迷惑だ。ここに神前がいたらそう言うさ」
 「ここに奴がいたら、お前のその下品な物言いを聞いて卒倒するんじゃないのか?」
 池田の腕が言い終わるか否かのタイミングで周の手首を素早く背後で拘束し、反撃できないよう身体を密着させた。
 「・・・・で、神前にお仕置きされるんだろう?」

 唇が触れそうなほど至近距離にある池田の顔を、冷静な翠の瞳が見ている。
 「離せ。痛い目に遭うぞ」 雄雛を思わせる凛々しい顔を、禍々しくも妖美な嗤いが覆う。
 上背こそ周が少し勝っているが、格闘技で鍛えた池田とは体躯で差がある。
 「いいね。俺が勝ったら、またペアで親父の絵のモデルでもお願いするかな。それとも、時見とデー・・」 今にも池田の唇が触れようとした刹那、ほんのわずかに周の身体が揺れた。

 唸り声を上げて蹲る池田を、薄笑いを浮かべた傲岸な顔が見下ろす。傾いた日差しが竹林の陰を侵食し、池田のグレーのワイシャツの背中に照りつけている。
 上体を引いた周の目に、半分開いた茶室のにじり口に活けられた桔梗が映った。

 突然、周の腕が池田の胸倉を掴み、信じられない力で引き上げた。
 「あの離れには享一の他に誰かいるのか?」
 「・・・ったく、綺麗な面して相変わらず物騒な男だな」
 脂汗を浮かべ苦痛に顔を歪めながらも、池田は周の手を払う。それから、細く息を吐きながら額に落ちた前髪をかき上げ、意地悪げに笑って付け足した。

 「そう言えば、時見はここに来る前に親父と何か約束をしていたみたいだぜ」
 怪訝な顔で池田を見ていた周の瞳が大きく開き、表情が固まる。
 身を翻し、享一の後を追って周が離れに飛び込むのをみ見届けると、池田は軽く肩を竦めた。

 ピッキングの話を、周はそつなくかわしたように見えたが、ポーカーフェースに浮かんだ悔恨の色を見逃してはいない。
 ピッキングという罠を仕掛け、恐れをなした時見に自分を頼らせるのが周の狙いだった。ところが、ようやく姿を見せた時見の口から出たのは、周が望んでいた言葉ではなかった。
 時見に仕掛けた盗聴器から聞こえてきたのは、瀬尾隆典の命乞いだった。
 笑える。直後、怒りが嵩じた周は心血注いだ自分の愛車のフェアレディZをオシャカにした。

 「自爆したっちゅうか、つまりアホやな」 
 時見に恐怖を植えつけるのは周の本意ではなかったのだろうが、それだけ周も追いつめられていたという事だ。
 「ほんま、可愛なったもんや」

 日に焼け付く数奇屋の銅板葺の屋根から陽炎が立ち昇る。
 銅版に吹いた緑錆は古来より毒だと信じられていた。目に鮮や過ぎる翠が人々にそう信じさせたのだろうか。
 そういえば自分の父親も周を描く時、好んで緑青の色を使っていた。鉱物を含む顔料は長い間使っていると皮膚から浸透し、指の形を換えてしまう。取り憑かれたように周を長年描き続けた父親も、岩絵の具を混ぜる左の指が不自然な形で曲がっている。

 どれだけ劣悪な境遇にあろうと度肝を抜く豪胆さと美しい毒を手に、涼しげな瞳で渡り歩く男。そんな男の唯一のアキレスだった男はいま、周に釣り合うべく成長しようとしている。


 「さあて、喬純の宿題でも見てやるか」 




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翠滴 2―1 →
翠滴 3―1 → 

□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ

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Comments

緑青
サブタイトルが出てきましたね、池田とアマネは、ペアでモデルを!!
そして池田は、たいそう享一がお気に入りの様子!!
こわい、こわい~。
享一の怯える姿って、強い男には堪らないのですね―!

そんな享一も成長している。
最終回の雰囲気が漂ってきてビクビクです。
終わらないで―!!
> ピッキングという罠を仕掛け、恐れをなした時見に自分を頼らせるのが周の狙いだった。

小学生の好きな子いぢめと同じレベルだ。
そう思うと周ってかわいい。

そのうち享一君に追い越されるね。
こんばんは
蒸し暑い日々が続いていますが 更新感謝です!

なんだか周さんは 享一獲得の為 色々とお堀を埋めていたのね。
時間があれば 1章から 又読み返したいわあ!と 昨今思います。この御話は 主役だけではなく 癖の在る各総キャラも大好きです。

応援しています! チュッ!
紙魚さま、THANK YOU 便所待っち☆(VERY MUCH)
((@)o(@))...更新ですねー!目を パッチリと開けて しっかりと 見届けさせて頂いてます~~♪

なるほど 周と池田は、過去に 絵のモデルとしての繋がりも あったんですねッ! 見たーい、見たーい! いつか 紙魚さまが 描いて下さるのを 密かに期待してますね~
どんな 約束をしたのか、茶室での様子も気になります(≦q≦)...ジィ...byebye☆ 
す・すみませんーーーm(_ _;)m
朝になって 再度 訪問して 自分で 身の置き場も無いほどの 失態に 心臓が 縮み上がりました。
何て おバカで お下品なタイトルをーー!! 自分の バカで 下品さに 嫌気がさします。
ハイ・テンション・マックス過ぎて 子供の頃 親戚のおじさんに 教えて貰った クダラナイ おやじギャグを 紙魚さまの世界で やっちゃうなんて・・・
ほんとに(´`ii)_ _ii)すみません...(´`ii)_ _ii)すみませんでした...
こんな おおバカヤロウですが、これからも 宜しくです。ほんとに 反省してます。
Re: 緑青
Re: 緑青
 アドさま、こんばんは♪

> サブタイトルが出てきましたね、池田とアマネは、ペアでモデルを!!
 ・やや・・・というかかなり強引な持っていき方でm(。・ε・。)mスイマソ-ン

> そして池田は、たいそう享一がお気に入りの様子!!
> こわい、こわい~。
 ・パパ友っていうのかな~?いってもいいのかな。。
ファミリーバランスでは和輝も帰国して喬純と同じ学校に通っていますし
父兄会で嵐が吹き荒れる?かも。
 
> 享一の怯える姿って、強い男には堪らないのですね―!
 ・余計、いぢめたくなっちゃう(笑)

> そんな享一も成長している。
> 最終回の雰囲気が漂ってきてビクビクです。
> 終わらないで―!!
 ・今朝、短編が浮かんで一日そのことばかり考えていたんですけど、
いざ時間ができて書き出して見たら脳内で思い描いた精彩はどこかに消えてました。
Mさんみたく忘れるのも悲しいけど、覚えててつまんないってわかったときは
ムナシイノヨ~~。
ほかの事考えずに翠滴を書けって啓示ですね(;^_^A

「縄手品」完結おめでとうございます。
ピンポンダッシュでしたので、明日またコメしに伺いますね。

 コメント&ご訪問、ありがとうございます!
Route M さま♪
 Route Mさま、こんばんは。

> > ピッキングという罠を仕掛け、恐れをなした時見に自分を頼らせるのが周の狙いだった。
>
> 小学生の好きな子いぢめと同じレベルだ。
> そう思うと周ってかわいい。
 ・かわいい(笑)
いぢめにしてはかなり悪質です。訴えたら享一は勝てちゃいます。
でも、秋蘭にヘリを爆破された春英さんのように
真実を知ったとしてもきっと享一も訴えないと思います。
恋愛がらみのいぢめは”拗ね”なのね。愛ゆえナノネ。

> そのうち享一君に追い越されるね。
 ・享一はマジメ君なので、周に同化しようとがんばるんだと思います。
でも素質がねえ。。。

 コメント&ご訪問、ありがとうございます!
ああやはり周さまだ!
周さま!
色んなところで享一を取り返すために小細工をはりめぐらせて!
さっすがだ!
絶対に逃さない、逃れられない。
ここまで深い愛情を注がれて
やっぱり享は幸せだと思います。
ラストスパートなのかな?
終わっちゃったら、観潮楼のお題なんかをやりたくなってくれるかな~?
なんてちょっと期待も・・・・
でも翠滴が終わっちゃうのは寂しい!
鳴海の話とか、神前の別話とかも読みたいな!
早く夏休み終わるといいですね・・・
Re: こんばんは
 k.kさま、こんばんは。

> 蒸し暑い日々が続いていますが 更新感謝です!
 ・暑いですよね~~。
クーラーをつけっぱなしが身体によくないと我慢していると
身体の表面がナメクジのように溶けてきます(キモイ・・・すみませんこんな表現で・汗

> なんだか周さんは 享一獲得の為 色々とお堀を埋めていたのね。
 ・そのお堀に自らがハマって、自業自得ですね(笑)

> 時間があれば 1章から 又読み返したいわあ!と 昨今思います。この御話は 主役だけではなく 癖の在る各総キャラも大好きです。
 ・わ~~~。嬉しいです!!初期の『翠滴』はもっと軽いノリだったような・・・
初心忘れる・・・と思いたまに読み直したりしますけど、直したくて直したくて
仕方なくなります。いろんな意味で戻るな危険です(笑)

ここに出て来る人物は、みな何かしら癖がありますね。。
たぶん、享一がいちばんニュートラルなのではないかと思います。

> 応援しています! チュッ!
 ・ぷふふ。待っていたわよk.kさん。でわ、こちらからも遠慮なく
  ブ…(´З`)チュ~ッ!!

 コメント&ご訪問、ありがとうございます♪
Re: 紙魚さま、THANK YOU 便所待っち☆(VERY MUCH)
 けいったんさん、こんばんは♪

 うむう。新しいワードですね。普段使いで口から飛び出してきそう(//^▽^//)

> ((@)o(@))...更新ですねー!目を パッチリと開けて しっかりと 見届けさせて頂いてます~~♪
 ・はい、珍しく次の記事を持っていましたv でも、次は・・・・( ̄ε ̄;|||・・・

> なるほど 周と池田は、過去に 絵のモデルとしての繋がりも あったんですねッ! 見たーい、見たーい! いつか 紙魚さまが 描いて下さるのを 密かに期待してますね~
 ・うおお。そういう声を頂くと頭の中で妄想が爆走します~。
周のレンタル時代のお話デス(読みたい人っているんだろうか??

> どんな 約束をしたのか、茶室での様子も気になります(≦q≦)...ジィ...byebye☆ 
 ・一足先に離れに向かった享一。中で一体何が進行しているのか。。。
明日は家人がお出かけなので、久しぶりの書きチャンスですヾ(T∇T)ノ
なるべく早くUPできるよう精進いたします。

 コメント&ご訪問、ありがとうございます☆
Re: す・すみませんーーーm(_ _;)m
 けいったんさん、再度いらっしやいませ♪

> 朝になって 再度 訪問して 自分で 身の置き場も無いほどの 失態に 心臓が 縮み上がりました。
> 何て おバカで お下品なタイトルをーー!! 自分の バカで 下品さに 嫌気がさします。
 ・や、狙ってたんだとばかり(笑)
最初すぐにはピンとこなくて、少し眺めてなるほど~~と(遅い!

> ハイ・テンション・マックス過ぎて 子供の頃 親戚のおじさんに 教えて貰った クダラナイ おやじギャグを 紙魚さまの世界で やっちゃうなんて・・・
 ・どこかで使おうと今度は私が狙ってます(ニヤリ。
文中で使ってたら笑ってやってねv

> ほんとに(´`ii)_ _ii)すみません...(´`ii)_ _ii)すみませんでした...
> こんな おおバカヤロウですが、これからも 宜しくです。ほんとに 反省してます。
 ・え~?ベタベタで面白かったのに。
こちらこそ、これからもよろしくで~す(*^▽^*)

 コメント&再度のご訪問、ありがとうございます!!
Re: ああやはり周さまだ!
 ふらふらとコメレスを書いていたらRinkさんが・・・\(*^▽^*)/コンバンハ

> 周さま!
> 色んなところで享一を取り返すために小細工をはりめぐらせて!
> さっすがだ!
> 絶対に逃さない、逃れられない。
 ・逃がしませんよ~物語の冒頭でも周さんそう言っていましたもの(古!

> ここまで深い愛情を注がれて
> やっぱり享は幸せだと思います。
 ・幸せなのか・・・?やっぱり周は立派なストーカーのように思えてきました。
享一は飛んで火に入る・・・ですね。

> ラストスパートなのかな?
> 終わっちゃったら、観潮楼のお題なんかをやりたくなってくれるかな~?
> なんてちょっと期待も・・・・
 ・企画も気になりつつ、横目でチラ見しているこの状況。
今考えている短編が使えそうなら・・・と思ったら季節が・・がく。

> でも翠滴が終わっちゃうのは寂しい!
> 鳴海の話とか、神前の別話とかも読みたいな!
> 早く夏休み終わるといいですね・・・
 ・途中で投げているあの話とか、キリリクとか(いつのだよ
嬉しい二次とか・・・終わっても、当分の間は『翠滴』に浸っていそうです。

子供にとって楽しく嬉しい夏休みですので、終わってほしいと願うのも
酷いかなと思いつつ、残りの日々を指折り数えているのは私です(苦笑。

 コメント&ご訪問、ありがとうございます♪

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