08 ,2010
翠滴 3 緑青 2 (125)
自分達を覆う竹笹の影が揺れる。
数歩先で竹林の陰は途切れ、容赦ない日差しが空気を焼いている。その向こうに静かなたたずまいの離れが濃い影を落とす。半分ほど開いた茶室のにじり口前に活けられた紫の桔梗が差し色のように鮮やかに浮き立つ。
享一は周を正面から見据えた。
「俺は帰らない」
「享一・・・」
濡れたような鮮やかな深緑が自分を見つめている。シェイプされたグラマラスのスーツに落ちた木漏れ日が周の迷う心を表すように肩でゆれた。
「俺は周をもっともっと知りたい。そして愛し合うだけでなくよき理解者でもありたい。僭越かもしれないし、これは俺の我儘かもしれない。けれど、闇の部分も含めて俺にももっと永邨 周を背負わせてくれないか」
繋いでいた手がぐいと引かれ、光がゆれる広い胸に抱きこまれた。
肋骨が軋むくらい強く抱きしめられ気持ちが通じ合う喜びに酩酊する。
それなのに、
「俺の全てを知れば、享一は苦い思いをする事になるかもしれない、いや間違いなくそうなる。だから・・・」
耳元の声は感嘆と嘆願でわずかに震えている。周のこんな声を聞いたのは初めてだ。
周の胸を押し身体を引き離した。ゆるぎない光を宿した黒い瞳が周を射る。
「周は俺に腹を括れと言ったな。なら、周も俺と生きるために腹を括ってくれ」
語気を強め、左手を翳す。
肉付きの戻った指に、しっくりと馴染んだ指輪が清らかな白い光を放つ。
「俺は覚悟はできているし、今となっては知らないでいることの方がよっぽど俺は辛い・・あ・・・」
翳した手首を摑まれ、言葉を綴る唇を塞がれた。巧みに蠢く舌に唇をこじ開けられ、誘われるままに舌を絡める。周はキスが上手い。
深い接吻けに身を委ね、ゆらゆらと緩慢にゆれる光と影の狭間で抱き合う。
「今すぐ抱きたい・・・」
呟いた周の低い声に、ズクンと身体の芯に熱が生まれるのと同時にこれから起こる事への緊張や戸惑いが覚悟に変る。
この男を守りたい。
「あ、ホンマや!!アマネが来てる」
突然背後からした甲高い子供の声に全身が強張った。飛びのくように周から身を離し、聞き覚えのある関西弁のする方を振り向く。
和輝の保育園の友だちだった喬純は、母屋の勝手口から転がるようにして走ってきた。
「これは喬純(たかすみ)坊ちゃん、お久しぶりです」
「アマネ、なんでもっと遊びに来てくれへんの?」
「大人は何かと忙しいんです」
坊ちゃん?
周は憮然と挨拶をし、享一は真っ赤になりながら2人のやり取りに目を白黒させる。
そういえば喬純は和輝が失踪した時、公園の隣が自分の家だと言っていなかったか。
あの時は気が動転していて、まともに喬純の言葉に取り合っていなかった。
苗字も聞いたかどうだかさえ覚えていない。
つまり、喬純のいう”じいちゃん”は、高波氏ということになる。軽く眩暈を覚えた。
「アマネあのな、僕”碁”覚えてん。後でイッキョク相手してくれへん?」
「今度は碁ですか?チェスはもう飽きたんですか」
和輝と同じ学年と言う事は小学一年生だ。チェスに碁?
世に言う英才教育というやつだろうか?
「みんな弱いねんもん。僕が勝たれへんのは、じいちゃんとアマネだけやわ。あれぇ?」
生意気でちょっと悔しげな物言いが可愛くて、噴き出してしまいそうになった。
きっと大人たちはみなわざと負けてやっているのだろう。
で、高波氏と周は負けてやらないのだ。どうやら負けず嫌いなのは二人の共通点らしい。
子供をビシッと打ち負かして澄ましている周を想像したら妙に可笑しくて、肩を震わせ笑いを噛み殺していると眉間に皺を寄せた周にギロリと睨まれた。
喬純の方も享一に気付いたか、まじまじと見上げて来た。
今更逃げるわけにもいかず「やあ、こんにちは」と笑いかけると、「あっ」と合点がいったように目を見開き何度も瞬きをする。
「キョウちゃんや!なんでこんなとこおんの?和輝も一緒?和輝な、保育園の卒園式も来んかったし、どないしたん?僕な、めっちゃ和輝に会いたいねん。和輝どこおんの?」
興奮し早口で質問を投げかけながら、その目は和輝の姿を探している。
忙しない喬純の小さな肩に手を載せる。
ふっと手のひらに懐かしい感覚が蘇り、享一の顔に柔らかい笑みが浮かんだ。
「あのね和輝君はNYのお母さんと一緒に住むことになってね、こっちには戻らないんだ」
「アマネ、ほんま?」 なぜかその問いは、澄んだ瞳と共に周に向けられた。
「喬純、目上の人を呼び捨てにするんやないで」
張り上げている訳でもないのに、びんと響く太い声に喬純が首をすくめて振り返る。
享一も釣られるように喬純の現れた勝手口に目を向けた。
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
みなさま、暑い日が続きますがいかがお過ごしでしょう。
更新が飛び飛びな上、華の無い地味な内容ですみません(TωT)
昨日、家の模様替えでナットを探す相方に「攻めばっかで、受けがひとつもないのね~」と
普通に発言しそうになった自分が怖かったです( ̄ロ ̄;)
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>昨日、家の模様替えでナットを探す相方に「攻めばっかで、受けがひとつもないのね~」と
普通に発言しそうになった自分が怖かったです( ̄ロ ̄;)
いいなあ、そういう紙魚さん。
言ってみればよかったのに(爆)
忙しい中更新ありがとうございました。