07 ,2010
翠滴 3 月櫻 7 (122)
■R指定要素があります、年齢に満たない方の閲覧はご遠慮下さい。
享一が半身を起こすと、光の粒子が淡い色の浴衣や享一の肌の上から一斉に舞う気がした。
ここ庄谷で大人になった享一と再会した時、あの桜の古木が一斉に花開いた時の様子を思い出した。ひとつひとつの花は可憐であるのに、寄り集まると豪奢で艶やかな色香を醸す。その変化も享一と似ている。
偽りの婚姻であっても、番えるならこの相手しかいない。と祝言の折、享一に"サクラ"と名を与えた。
周の手で殺してくれとまで言った恋人の指先が浴衣の襟に伸びてきた。鎖骨と襟の間に差し込み、肩から落す。帯を解いた浴衣はパサリと乾いた軽い音を立てて落ちた。
温かな手のひらと仄かに桜の香が混ざる冷たい夜気が、程よく筋肉の張り詰めた上半身に触れてくる。
感嘆に似た溜息を漏らしながら、深い愛情と羨望の眼差しを這わせる享一が、下肢の中心で隆と上を向く牡に目を留めると、項まで朱に染め、恥ずかしそうにそっと視線を逸らした。
「周・・・・綺麗だ。本当に手に入れることが出来ただなんて、今でも時々信じられなくなる」
可愛い事を言いながら、遠慮勝ちに鎖骨や硬く盛り上がった胸筋に指の先を滑らせる。
肌に触れる細く節だった指。思いのまま自分の心を鷲づかみにし離さない。
「男に綺麗は、褒め言葉でしょうか?」
「自分だって俺によく言うじゃないか。俺が言うのは女性に向けるような意味じゃなくて、もっと・・・」
「もっと?」
上手く言い表す言葉が見つからないのか、享一が困った顔をする。
こんな仕草の、表情のひとつひとつにゾクゾクと恋心が刺激される。だから、享一の言いたい事がわかっていても助け舟は出さない。
他の者に言われても白けるだけの賛美の言葉も、享一の口から聴くのは心地よい。
「早く教えてください。でないと、侮辱罪で苛めますよ」
「なんだよそれ」 享一が面映そうに笑って手を引こうとするのを逆に捕まえた。笑みが消え、染まる目許から甘い色香を零し始める。表情の変化を楽しみながら捕らえた指に接吻け口に含むと、舌先に薄い爪の先があたる。快感に溺れ理性を失った享一は周の背中に縋り、その爪の先を食い込ませるてくる。
周が享一を最も愛おしいと思う瞬間だ。
自分の背中にのみ残されるべき、愛しい痛み。あの男の背中にもこの痛みをくれてやったのか。
口の中の指に歯を立てた。突然胸に沸き起こった小さく鋭い嫉妬に力加減を忘れた。
「周・・・痛い」 享一の蕩けかけた表情が痛みで醒める。噛んだ場所をいたわるように舐め、指の又に舌を這わせると、唇に艶めく色香を乗せながらも問いかけるような視線を向けてくる。
愛の言葉も、父親の慈愛の言葉も思うままに紡ぐ唇。
腕、足、身体、心・・・・・。
黄昏の中で、瀬尾のアーモンド形の目が挑発するように嗤う。
奇妙な形で自分の中に根を張った男。あの男は、この先も享一を忘れることはない。
背中に手に入らぬ男の爪の甘く苦い記憶を刻んだまま、生きていくのだろう。遠く離れた空の下で享一を想い、父子としての縁を持った和輝の成長を願い、そして時々は自ら命を絶った徳山の事を偲ぶのだろうか。瀬尾は徳山の月命日である一昨日、徳山の妻の許を訪れていた。
享一の指から指輪を抜き、自分の指輪と一緒にシーツの端に置く。
時間を経てようやく2つ揃ったリングに享一が感嘆の息を漏らした。
向かい合う享一の浴衣はかろうじて片側だけが肩先に引っ掛っかり、下肢の肌蹴た裾の翳りに先の吐精で萎えた雄蕊が見える。そこだけしっかりと結ばれたままの帯が却って淫欲をそそる。
発熱する肌に心地よい春の夜風が纏わりついてするりと解けていく。
はっと自分のあられもない姿に気付いた享一が、さりげなく浴衣を掻き合わせ下肢を隠すのを、手首を掴んで止めた。ばつが悪そうに見上げる艶やかな黒曜石の瞳に、己の中で宥め賺し寝かしつけていた獣が蠢き出す。
軽く添えた指先で手首の内側の一点を圧迫すると、享一の顔が痛みと快感が綯交ぜになった複雑な表情を見せる。
「まだ、これからですよ」 耳許に吐息と共に吹き込むと、期待に潤んだ視線を逃して小さく肯く。接吻けようと顔を近づけと、乱れた吐息が唇にあたり、享一の興奮が伝播してきた。
笑って褒美を与えるように軽く唇を啄ばんだ次の瞬間、掴んだままの手首を強く引っ張った。
バランスを崩した享一が声を上げ、目の前で崩れる。
上半身を捻る形になった背中を掌でシーツに押し付け、解いた自分の帯を拾って後にまわる両手首を素早く纏め縛り上げた。「周・・・!」 我身の自由を奪われるという不測の事態に、享一は不安げに振り返った。
手首をクロスさせて縛ったその指にもう一度指輪を嵌めた。指輪に複雑に搦まったプラチナの蔦が月光を妖しく反射する。
途端に目の前でうつ伏せる男が、完全なる自分の所有物になったような錯覚を起こす。
元々、首輪などよりよっぽど強い絆で主に繋ぐ「所有の証」のようなペアリングは好きではなかった。過去に戯れに付き合った女や男、クライアントたちも自分に「証」の指輪をつけさせたがったが、冷たく拒否してきた。
それが今は、自分から享一に指輪を嵌めさせ、抜けなくする方法は無いかと考える始末だ。
この男を永久に捕まえておくには、どうすればいいのか。
肩からずれた浴衣を引き下げ、薄い筋肉の乗った背中を露にした。後ろ手に縛られ、軽やかな羽根を思わせる肩甲骨の浮き出たちょうど真中あたりに、昨日自分のつけた印が薄く残る。
強く吸うと享一が「あぁ・・・」と甘い声を上げ躰を震わせた。
薄くなりかけていた印が鮮やかな血潮の色を取り戻す。
周の薄い唇に満悦の笑みが浮かんだ。
<< ←前話 / 次話→ >>
目次を見る
翠滴 1―1 →
翠滴 2―1 →
翠滴 3―1 →
享一が半身を起こすと、光の粒子が淡い色の浴衣や享一の肌の上から一斉に舞う気がした。
ここ庄谷で大人になった享一と再会した時、あの桜の古木が一斉に花開いた時の様子を思い出した。ひとつひとつの花は可憐であるのに、寄り集まると豪奢で艶やかな色香を醸す。その変化も享一と似ている。
偽りの婚姻であっても、番えるならこの相手しかいない。と祝言の折、享一に"サクラ"と名を与えた。
周の手で殺してくれとまで言った恋人の指先が浴衣の襟に伸びてきた。鎖骨と襟の間に差し込み、肩から落す。帯を解いた浴衣はパサリと乾いた軽い音を立てて落ちた。
温かな手のひらと仄かに桜の香が混ざる冷たい夜気が、程よく筋肉の張り詰めた上半身に触れてくる。
感嘆に似た溜息を漏らしながら、深い愛情と羨望の眼差しを這わせる享一が、下肢の中心で隆と上を向く牡に目を留めると、項まで朱に染め、恥ずかしそうにそっと視線を逸らした。
「周・・・・綺麗だ。本当に手に入れることが出来ただなんて、今でも時々信じられなくなる」
可愛い事を言いながら、遠慮勝ちに鎖骨や硬く盛り上がった胸筋に指の先を滑らせる。
肌に触れる細く節だった指。思いのまま自分の心を鷲づかみにし離さない。
「男に綺麗は、褒め言葉でしょうか?」
「自分だって俺によく言うじゃないか。俺が言うのは女性に向けるような意味じゃなくて、もっと・・・」
「もっと?」
上手く言い表す言葉が見つからないのか、享一が困った顔をする。
こんな仕草の、表情のひとつひとつにゾクゾクと恋心が刺激される。だから、享一の言いたい事がわかっていても助け舟は出さない。
他の者に言われても白けるだけの賛美の言葉も、享一の口から聴くのは心地よい。
「早く教えてください。でないと、侮辱罪で苛めますよ」
「なんだよそれ」 享一が面映そうに笑って手を引こうとするのを逆に捕まえた。笑みが消え、染まる目許から甘い色香を零し始める。表情の変化を楽しみながら捕らえた指に接吻け口に含むと、舌先に薄い爪の先があたる。快感に溺れ理性を失った享一は周の背中に縋り、その爪の先を食い込ませるてくる。
周が享一を最も愛おしいと思う瞬間だ。
自分の背中にのみ残されるべき、愛しい痛み。あの男の背中にもこの痛みをくれてやったのか。
口の中の指に歯を立てた。突然胸に沸き起こった小さく鋭い嫉妬に力加減を忘れた。
「周・・・痛い」 享一の蕩けかけた表情が痛みで醒める。噛んだ場所をいたわるように舐め、指の又に舌を這わせると、唇に艶めく色香を乗せながらも問いかけるような視線を向けてくる。
愛の言葉も、父親の慈愛の言葉も思うままに紡ぐ唇。
腕、足、身体、心・・・・・。
黄昏の中で、瀬尾のアーモンド形の目が挑発するように嗤う。
奇妙な形で自分の中に根を張った男。あの男は、この先も享一を忘れることはない。
背中に手に入らぬ男の爪の甘く苦い記憶を刻んだまま、生きていくのだろう。遠く離れた空の下で享一を想い、父子としての縁を持った和輝の成長を願い、そして時々は自ら命を絶った徳山の事を偲ぶのだろうか。瀬尾は徳山の月命日である一昨日、徳山の妻の許を訪れていた。
享一の指から指輪を抜き、自分の指輪と一緒にシーツの端に置く。
時間を経てようやく2つ揃ったリングに享一が感嘆の息を漏らした。
向かい合う享一の浴衣はかろうじて片側だけが肩先に引っ掛っかり、下肢の肌蹴た裾の翳りに先の吐精で萎えた雄蕊が見える。そこだけしっかりと結ばれたままの帯が却って淫欲をそそる。
発熱する肌に心地よい春の夜風が纏わりついてするりと解けていく。
はっと自分のあられもない姿に気付いた享一が、さりげなく浴衣を掻き合わせ下肢を隠すのを、手首を掴んで止めた。ばつが悪そうに見上げる艶やかな黒曜石の瞳に、己の中で宥め賺し寝かしつけていた獣が蠢き出す。
軽く添えた指先で手首の内側の一点を圧迫すると、享一の顔が痛みと快感が綯交ぜになった複雑な表情を見せる。
「まだ、これからですよ」 耳許に吐息と共に吹き込むと、期待に潤んだ視線を逃して小さく肯く。接吻けようと顔を近づけと、乱れた吐息が唇にあたり、享一の興奮が伝播してきた。
笑って褒美を与えるように軽く唇を啄ばんだ次の瞬間、掴んだままの手首を強く引っ張った。
バランスを崩した享一が声を上げ、目の前で崩れる。
上半身を捻る形になった背中を掌でシーツに押し付け、解いた自分の帯を拾って後にまわる両手首を素早く纏め縛り上げた。「周・・・!」 我身の自由を奪われるという不測の事態に、享一は不安げに振り返った。
手首をクロスさせて縛ったその指にもう一度指輪を嵌めた。指輪に複雑に搦まったプラチナの蔦が月光を妖しく反射する。
途端に目の前でうつ伏せる男が、完全なる自分の所有物になったような錯覚を起こす。
元々、首輪などよりよっぽど強い絆で主に繋ぐ「所有の証」のようなペアリングは好きではなかった。過去に戯れに付き合った女や男、クライアントたちも自分に「証」の指輪をつけさせたがったが、冷たく拒否してきた。
それが今は、自分から享一に指輪を嵌めさせ、抜けなくする方法は無いかと考える始末だ。
この男を永久に捕まえておくには、どうすればいいのか。
肩からずれた浴衣を引き下げ、薄い筋肉の乗った背中を露にした。後ろ手に縛られ、軽やかな羽根を思わせる肩甲骨の浮き出たちょうど真中あたりに、昨日自分のつけた印が薄く残る。
強く吸うと享一が「あぁ・・・」と甘い声を上げ躰を震わせた。
薄くなりかけていた印が鮮やかな血潮の色を取り戻す。
周の薄い唇に満悦の笑みが浮かんだ。
<< ←前話 / 次話→ >>
目次を見る
翠滴 1―1 →
翠滴 2―1 →
翠滴 3―1 →
□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
みなさま、ご無沙汰しておりました。
私事から、長い間更新を中断し申し訳ありませんでした。
みなさんのお言葉に甘え、日常に明け暮れていましたら前の更新から16日。
気付けば世間も子供も夏休み・・・・もっと時間が無くなるぅ~~~~
これではイカンと、連載再開に向けてここ数話を読み直し、あまりの雑文に愕然とした次第ですΣ( ̄ロ ̄lll)
そんなこんなで、更新が更に遅くなってしまいました。
お気づきの方もおられと思いますが、前の2話にかなり手を入れました。
流れをスムースにするため、無理から押し込んでいた部分を切り抜き、今回の更新分に組み込みました。
もし、この文は読んだ気がするゾ・・・と思われましたら、まさにその通りですm(_ _)m
だからと言って、「格段に素敵♪」になった訳では無い・・・ところが悲しいところでございます凹
リアルでの生活は落ち着きを見せたものの相変わらずで、毎日が気忙しい上に子供が夏休み入り、
自分の時間がやせ細って行きます(;^_^A
苦手なRシーン(残り1話)は書き終えてありますので、
なんとか完結に向けてポツポツとでも書いてUPしていければいいなあ~と思います。
『翠滴』は、エピローグ的なものを残すのみとなりました。
ほんの数話でで終わるのか、いつもの悪い癖で引っ張ってしまうのかわかりませんが、
最後までお付き合い頂けると幸いです。
その後の瀬尾と和輝に纏わる「私のツボ直撃!!二次小説」も紙森 けいさまより頂いておりますので、
そちらの方も近々UPさせていただきたいと思います。
紙魚
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当に、いつもありがとうございます。
ほんの拙文しか書けませんが、書いていく励みになります。。
■拍手のリコメの閲覧は、サイト左上の”もんもんもん”の
ブログ拍手コメ・メールのお返事か、もしくは*こちら*からお越しくださいませ。
ランキングに参加しています
お手数ですが、踏んでやってくださいませ。
↓↓↓


みなさま、ご無沙汰しておりました。
私事から、長い間更新を中断し申し訳ありませんでした。
みなさんのお言葉に甘え、日常に明け暮れていましたら前の更新から16日。
気付けば世間も子供も夏休み・・・・もっと時間が無くなるぅ~~~~
これではイカンと、連載再開に向けてここ数話を読み直し、あまりの雑文に愕然とした次第ですΣ( ̄ロ ̄lll)
そんなこんなで、更新が更に遅くなってしまいました。
お気づきの方もおられと思いますが、前の2話にかなり手を入れました。
流れをスムースにするため、無理から押し込んでいた部分を切り抜き、今回の更新分に組み込みました。
もし、この文は読んだ気がするゾ・・・と思われましたら、まさにその通りですm(_ _)m
だからと言って、「格段に素敵♪」になった訳では無い・・・ところが悲しいところでございます凹
リアルでの生活は落ち着きを見せたものの相変わらずで、毎日が気忙しい上に子供が夏休み入り、
自分の時間がやせ細って行きます(;^_^A
苦手なRシーン(残り1話)は書き終えてありますので、
なんとか完結に向けてポツポツとでも書いてUPしていければいいなあ~と思います。
『翠滴』は、エピローグ的なものを残すのみとなりました。
ほんの数話でで終わるのか、いつもの悪い癖で引っ張ってしまうのかわかりませんが、
最後までお付き合い頂けると幸いです。
その後の瀬尾と和輝に纏わる「私のツボ直撃!!二次小説」も紙森 けいさまより頂いておりますので、
そちらの方も近々UPさせていただきたいと思います。
紙魚
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当に、いつもありがとうございます。
ほんの拙文しか書けませんが、書いていく励みになります。。
■拍手のリコメの閲覧は、サイト左上の”もんもんもん”の
ブログ拍手コメ・メールのお返事か、もしくは*こちら*からお越しくださいませ。
ランキングに参加しています
お手数ですが、踏んでやってくださいませ。
↓↓↓


私も何かと自分の時間がなくてこの先が自信がないですが、
げきるかぎり頑張ります。
書き直したんですね、後でじっくり読み返して見ます。
取り急ぎ、お帰りなさいのポチリンコ☆