11 ,2008
翠滴 1-7 スコール 2 (20)
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「うわっ。な、なにするんですか?」
振り向くと周(あまね)が怒った様なような顔で睨んできた。
「君が先でしょう?本当に風邪を引いてしまいますよ
僕はジャケットを着ていたおかげでシャツはそんなに濡れていませんから」
今度はニコッと笑いそう言うと、有無を言わせず享一の背中や頭をゴシゴシと拭きだした。怒られて宥められて世話してもらって、小さな子供にするような態度をとられてなんともバツが悪くて俯き、されるがままに任せた。
「享一」
暫くして 呼び捨てられた自分の名前に、え?っと顔を上げると唇に弾力を感じる。
タオルに頭の両側を挟まれて、思考も何もかも停止した。急に全てが現実味を失い雨音さえも遠くから聞こえる気がして ただ、唇の上を這う周の舌だけがリアルに蠢いている。
コレハナンダ?唇の上の弾力が去って、スースーする。
「呼び捨てで、呼んでイイ?」
周の物言いが、いつもの距離を置いたものでなく、どこか馴々しいものに変わっている。訳がわからず不思議な気持ちで、返事を返せないでいると「享一・・」と、再び唇が下りてきた。
「周さん、あの・・」
言葉が続かず、とにかく頭を両側から固定する周の手を引き剥がそうとした。
「遠慮は無しでしょ。オレ達もうすぐ結婚するんだし?」
いつもの紳士然とした言葉遣いは、なりを潜めて少し乱暴な言葉が いつもは選ばれた言葉のみを繰って紡ぎだす、美しい唇から飛び出して心底 仰天した。
知性と品位を湛えて煌いていた瞳は妖しい光を放ちながら眇められ、口角が上がり獣っぽい笑みが口許に張り付いている。ギャップが激しすぎて、全くの別人を見ているようだ。
これが、さっきまでのスマートで紳士的な男と同一人物かと、信じられない思いで周を見つめた。頭部の両側を挟む手に力が込められていき、その力に相対して身体から力が抜けてゆく・・・巧く声が出なかったが、無理をして絞るように口を開いた。
恐怖を感じていることを知られるのが怖くて、無理をして絞り出した声は震えていた。
「あ、あれは・・・芝居じゃないですか?俺と周さんは、同性だしそんなこと・・・」
「ふぅん。享一はオレに一度も欲情したことがないと?」
「・・・・」
周は優越に口角を上げて、蒼白のまま言葉に詰まり、唖然と固まって動けなくなった享一に事実から目を逸らさせないように、わざと意地悪い目付きで睨めつけ視線をロックした。
享一が初めて周を見た瞬間に享一が恋に落ちた事を、周は見抜いていた。
知らぬは本人、時見 享一のみだ。そして、目の前で自分の劣情を暴露され、耳まで羞恥に染まり動けない男を完全に堕とす為に、自分にドップリ嵌まって恋心を自覚するまで一ヶ月も待ったのだ。
周は自分に心を奪われては否定を繰り返す享一に、気付きながらもそ知らぬふりを通した。
しかし、それもタイムアウトだ。
平凡でガチガチのモラルに縛られた石頭の開眼なんぞ、待っていられるか。
享一がいつまでもダラダラ躊躇するなら、こちらからガッチリ嵌めてやるまでだ。
半年前、偶然N大学の香田教授を訪ねた時、キャンパスで享一を見かけた。
幼少期の面影を強く残した享一は、すぐに本人だとわかった。初めは懐かしいという気持ちから自分の過去を振り返る思いで享一を見ていたが、2度目に同じキャンパスで見かけた瞬間から享一のことが頭から離れなくなっていた。もしかしたら、自分の人生の一番幸せだった頃に、ほんの少しでも関わりを持った、人間だったからかもしれない。その日から、享一は自分の中でなくてはならない存在へと容を変えた。
どのような形でもいいから傍におきたい。その想いで徹底的に調べ上げ あちらこちらに罠と伏線を張り苦労して手繰り寄せた享一は、その真直ぐで素直な性格と可憐ともいえる容姿をもって、強烈な磁力で周を惹きつけた。享一が恋に落ちるのと同時に、周も自分の立場を忘れて、身を焦がすような、その癖 享一を想うだけで、泣きたくなるくらいの幸福感を感じてしまう程の、どうしようもない恋の深みに落ちた。
上原由利の妊娠騒動では危惧があったものの、お陰で享一はハートブレイカーというベストな状態で手に入った。そして、被り慣れた知的な人格者の仮面を被り続け、享一を油断させ翻弄していたのに、初恋の告白では嬉しくて危うくその場で押し倒しそうになった。
誰かを堕とすのに、これだけ我慢と時間、手間隙を掛けたのは初めてだ。
だが、享一を手に入れるためなら労力や時間なんぞ、ちっとも惜しくは無い。
周は愉悦に浸った微笑を浮かべた。
享一は”欲情”という言葉に、自分が周に感じその都度、強制的に消去していった感情の正体を否応なく認識させられてしまうと、たじろぎ、オロオロと何も言えず目を瞠ったまま 力なく頭を左右に振った。
「嘘つけ。お前が只今 発情してますって顔でオレを見てるの何度も見たけど?」
わざと嘲るように笑う。正直な反応を示し鳩が豆鉄砲を食らったように狼狽え、逃げ場を失った享一の、あどけない素直な表情がが可愛くて、楽しくて仕方が無い。
「発情って・・・そんな・・」

↑↑↑ 『7 ate 9』の いとい滋さまより、このシーンのイラストを頂きました。
クリックで、大きな画像を見ることが出来ます。
※イラストの版権及び使用権は、いとい様に属しますので
申し訳ございませんが、無断転写はお断りさせて頂いております。
「うわっ。な、なにするんですか?」
振り向くと周(あまね)が怒った様なような顔で睨んできた。
「君が先でしょう?本当に風邪を引いてしまいますよ
僕はジャケットを着ていたおかげでシャツはそんなに濡れていませんから」
今度はニコッと笑いそう言うと、有無を言わせず享一の背中や頭をゴシゴシと拭きだした。怒られて宥められて世話してもらって、小さな子供にするような態度をとられてなんともバツが悪くて俯き、されるがままに任せた。
「享一」
暫くして 呼び捨てられた自分の名前に、え?っと顔を上げると唇に弾力を感じる。
タオルに頭の両側を挟まれて、思考も何もかも停止した。急に全てが現実味を失い雨音さえも遠くから聞こえる気がして ただ、唇の上を這う周の舌だけがリアルに蠢いている。
コレハナンダ?唇の上の弾力が去って、スースーする。
「呼び捨てで、呼んでイイ?」
周の物言いが、いつもの距離を置いたものでなく、どこか馴々しいものに変わっている。訳がわからず不思議な気持ちで、返事を返せないでいると「享一・・」と、再び唇が下りてきた。
「周さん、あの・・」
言葉が続かず、とにかく頭を両側から固定する周の手を引き剥がそうとした。
「遠慮は無しでしょ。オレ達もうすぐ結婚するんだし?」
いつもの紳士然とした言葉遣いは、なりを潜めて少し乱暴な言葉が いつもは選ばれた言葉のみを繰って紡ぎだす、美しい唇から飛び出して心底 仰天した。
知性と品位を湛えて煌いていた瞳は妖しい光を放ちながら眇められ、口角が上がり獣っぽい笑みが口許に張り付いている。ギャップが激しすぎて、全くの別人を見ているようだ。
これが、さっきまでのスマートで紳士的な男と同一人物かと、信じられない思いで周を見つめた。頭部の両側を挟む手に力が込められていき、その力に相対して身体から力が抜けてゆく・・・巧く声が出なかったが、無理をして絞るように口を開いた。
恐怖を感じていることを知られるのが怖くて、無理をして絞り出した声は震えていた。
「あ、あれは・・・芝居じゃないですか?俺と周さんは、同性だしそんなこと・・・」
「ふぅん。享一はオレに一度も欲情したことがないと?」
「・・・・」
周は優越に口角を上げて、蒼白のまま言葉に詰まり、唖然と固まって動けなくなった享一に事実から目を逸らさせないように、わざと意地悪い目付きで睨めつけ視線をロックした。
享一が初めて周を見た瞬間に享一が恋に落ちた事を、周は見抜いていた。
知らぬは本人、時見 享一のみだ。そして、目の前で自分の劣情を暴露され、耳まで羞恥に染まり動けない男を完全に堕とす為に、自分にドップリ嵌まって恋心を自覚するまで一ヶ月も待ったのだ。
周は自分に心を奪われては否定を繰り返す享一に、気付きながらもそ知らぬふりを通した。
しかし、それもタイムアウトだ。
平凡でガチガチのモラルに縛られた石頭の開眼なんぞ、待っていられるか。
享一がいつまでもダラダラ躊躇するなら、こちらからガッチリ嵌めてやるまでだ。
半年前、偶然N大学の香田教授を訪ねた時、キャンパスで享一を見かけた。
幼少期の面影を強く残した享一は、すぐに本人だとわかった。初めは懐かしいという気持ちから自分の過去を振り返る思いで享一を見ていたが、2度目に同じキャンパスで見かけた瞬間から享一のことが頭から離れなくなっていた。もしかしたら、自分の人生の一番幸せだった頃に、ほんの少しでも関わりを持った、人間だったからかもしれない。その日から、享一は自分の中でなくてはならない存在へと容を変えた。
どのような形でもいいから傍におきたい。その想いで徹底的に調べ上げ あちらこちらに罠と伏線を張り苦労して手繰り寄せた享一は、その真直ぐで素直な性格と可憐ともいえる容姿をもって、強烈な磁力で周を惹きつけた。享一が恋に落ちるのと同時に、周も自分の立場を忘れて、身を焦がすような、その癖 享一を想うだけで、泣きたくなるくらいの幸福感を感じてしまう程の、どうしようもない恋の深みに落ちた。
上原由利の妊娠騒動では危惧があったものの、お陰で享一はハートブレイカーというベストな状態で手に入った。そして、被り慣れた知的な人格者の仮面を被り続け、享一を油断させ翻弄していたのに、初恋の告白では嬉しくて危うくその場で押し倒しそうになった。
誰かを堕とすのに、これだけ我慢と時間、手間隙を掛けたのは初めてだ。
だが、享一を手に入れるためなら労力や時間なんぞ、ちっとも惜しくは無い。
周は愉悦に浸った微笑を浮かべた。
享一は”欲情”という言葉に、自分が周に感じその都度、強制的に消去していった感情の正体を否応なく認識させられてしまうと、たじろぎ、オロオロと何も言えず目を瞠ったまま 力なく頭を左右に振った。
「嘘つけ。お前が只今 発情してますって顔でオレを見てるの何度も見たけど?」
わざと嘲るように笑う。正直な反応を示し鳩が豆鉄砲を食らったように狼狽え、逃げ場を失った享一の、あどけない素直な表情がが可愛くて、楽しくて仕方が無い。
「発情って・・・そんな・・」

↑↑↑ 『7 ate 9』の いとい滋さまより、このシーンのイラストを頂きました。
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※イラストの版権及び使用権は、いとい様に属しますので
申し訳ございませんが、無断転写はお断りさせて頂いております。
こっちの新周はめちゃくちゃかっこいいぞ。
モノローグまで新周バージョンに変わったのには驚いた。
このふたり、サブタイトルのとおり、この大雨のなかで抱き合うんでしょうか?
はードラマチック!!!