06 ,2010
翠滴 3 月櫻 5 (120)
■R指定要素があります、年齢に満たない方の閲覧はご遠慮下さい。
享一の指先を捕らえる手を、パジャマ代わりの浴衣から伸びた手首に移動させる。更に深く伏せた享一の目蓋が震えた。手首に巻きつく指先で生まれた官能がじわりと合わせた皮膚から浸透し、享一が朱に染まっていくのを楽しむ。
「享一」、と欲情に掠れた艶めく声が鼓膜を突き抜け、享一の羞恥する心に追い討ちを掛ける。
「まだ食べたい?」
料理のほとんどに手がつけられていない。享一が眠っている間に、享一の好みのメニューをデリで買い揃えた。
日ごろの享一は、出されたものは残さない主義だ。
だが、今日という日に凝縮された出来事のひとつひとつが、享一にさまざまな感情を沸き立たせ、胸に支えているに違いなかった。今、この躰に必要なのものは、生命を継続させる食事でも無責任な眠りを誘うアルコールでもないはずだ。
「今日はもう、いっぱいで・・・・せっかく用意してくれたのに、ごめん」
手を周に預けたまま、薄く染まる目蓋の下の黒曜石がテーブルの上を彷徨う。
享一の捕らえられたまま手指の先に、ゆるく下ろされた睫の先に色香が漂い始める。
満足げに目を細めた周が笑みを濃くした。
「残ったものは、冷蔵庫にいれて明朝食べればいい。片付けを頼んでも?」 享一の頭が浅く頷く。
手を離した。解放された手は緩慢に戻っていった。
「食器を片したら母屋の方に」
やっと合わせてきた黒い瞳の中に、恥じらいと戸惑いが交差する。煽られる。
言葉を探す唇を親指の腹で弄び軽く啄ばんでから、部屋を出た。
障子を引き、年季の入った柿渋色の雨戸を開けると一幅の幻想的な絵画が現れる。
瑠璃の混ざる岩群青の夜空に白磁の月が浮かび、薄紅がかった胡粉の白が我が我がと咲き競う。
いつもなら晩春に満開を迎える桜の古木は、自分たちがここに来るのを見計らったかのように横に張った枝いっぱいに花を咲かせている。
不思議だと言った享一の声が頭の中に蘇り、さもありなんと思う。築200年を越すこの屋敷の倍近くを生きる古い桜だ。
密集した花弁の上で月光が雪崩を起こし、大きな古木全体が月の光に煙っている。
その豪奢な淡い光は書院造の広間に敷いた閨にも流れ込んできた。
薄紅の花影に、苔生す幹に抱かれるようにして身を寄せていた享一の姿を見た気がした。
3年前の再会の日、桜に見せ付けるように能舞台の床で享一を抱いた。
これは古の樹齢を誇る桜の意趣返しか。あれ以来、春になると享一はこの桜を見に来たがる。
妬ける。
桜にも、彼らにも。
瀬尾と享一、そして上原由利との間には共有する過去がある。和輝もまたこちらが触れられることの出来ぬ父子という深い絆を持つ。
黄金色の黄昏の中。瀬尾が享一と唇を合わせたのは、ほんの一瞬だった。腫れて優男が台無しになった相貌は、周を一瞥すると全ての激情と葛藤を捻り潰したかのような静かな表情を見せた。
そして薄い笑いを浮かべた。
もとよりキスはおろか、享一に触れる事すら許しがたい。だが瀬尾の顔に浮かんだ自分たちだけの絆を匂わせる優越感が、もっと気に喰わなかった。
畳を踏む乾いた音に振り返る。
暗がりの中、仄かな花明りを映し享一が立っていた。
近付いて見つめると、色めく薄い目蓋を伏せ浅く熱い吐息を吐く。羞恥と期待が綯交ぜになって紅潮する素直な肌が青白い淡い光の中で惹き立ち、きりきりと煽ってくる。
「周・・・疲れているんじゃなかったのか?」
「疲れている時ほど、欲しくなる。享一も男ならわかるだろう」
享一だけではなく、自分もまた今日起こった諸々の出来事に神経が昂ぶっている。
早く、目の前の恋しい男の身体にこの身を沈めて、自分の中で揺らめく昏い嫉妬の炎を鎮めたい。
庭の桜がざっとざわめいた気がした。
あの桜は享一を虜にする。
目に見えぬ享一の時間さえ独占したいと願うこの身にも、神前と同じく餓えきった獣が住む。
享一が逃がし続ける視線を、両手で頭を掬うように固定し捕らえる。
薬指で項を愛撫すると瞳を閉じて、熱い吐息を吐いた。
妬ける。甘く寄せられた眉も、柔らかくカーヴする睫にも。
「お前は、どうだ。欲しくはないのか?」情欲に染まり、淫靡に綻ぶこの口から聞きたい。
答えなどわかっているだろうと、眼孔の縁を赤く染めた瞳で睨んでくる。
もちろんわかっている。
その上で分別のないガキみたいに、羞恥に潤んだ瞳に向かって頑是無い意地悪をいう。
「享一が疲れてその気にならないなら、今日はこのまま何もせずに寝ても構わない」
手の中の顔が夢から覚めたように唖然と固まる。その顔に向け嫣然と笑う。
どこかにまだ“父親”を引き摺るこの男に、自分を恋しがり欲しがる言葉を言わせたい。
享一の手が周の手を掴みゆっくり下ろさせた。
黒い瞳が真っ直ぐ見上げ自分の浴衣の襟に手をかけ、ゆっくり両サイドに引っ張り胸を開く。
朱に染まった鎖骨が露になり、肌蹴た襟の淡い翳りの中の欲望に色付く胸の尖りが見える。
「俺は・・・周に抱かれたい。もし周が俺にまだ愛想を尽かしていないのなら、抱いて欲しい」
声も襟を握り締める手も睫の先も、羞恥に染まり震えている。扇情的な享一の姿に眩暈を覚えそうになった。享一を抱き寄せ、ゆっくり唇を合わせる。
「あ・・・周、障子を。桜が見ているから」
まるで意思でもあるように明るさを増した桜に、享一の項に埋めたまま濃い色香を湛えた深緑の瞳を流す。その間も享一の浴衣の袷を割り奥へと掌を忍ばせる。硬い肉茎が当たり、這わせた指がしっとりと濡れた。
「享一、下着は?」
耳打ちすると腕の中で体温がぐっと上がる。「や・・・」 逃れようと引いた身体を更に強く抱き込んだ。
「アマネ・・・・障子を・・・ア」 声が甘く縺れる。
「桜には嫉妬させてやればいい」
周はうっそりと嗤い、崩れ落ちる享一の唇を吸った。
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翠滴 1―1 →
翠滴 2―1 →
翠滴 3―1 →
享一の指先を捕らえる手を、パジャマ代わりの浴衣から伸びた手首に移動させる。更に深く伏せた享一の目蓋が震えた。手首に巻きつく指先で生まれた官能がじわりと合わせた皮膚から浸透し、享一が朱に染まっていくのを楽しむ。
「享一」、と欲情に掠れた艶めく声が鼓膜を突き抜け、享一の羞恥する心に追い討ちを掛ける。
「まだ食べたい?」
料理のほとんどに手がつけられていない。享一が眠っている間に、享一の好みのメニューをデリで買い揃えた。
日ごろの享一は、出されたものは残さない主義だ。
だが、今日という日に凝縮された出来事のひとつひとつが、享一にさまざまな感情を沸き立たせ、胸に支えているに違いなかった。今、この躰に必要なのものは、生命を継続させる食事でも無責任な眠りを誘うアルコールでもないはずだ。
「今日はもう、いっぱいで・・・・せっかく用意してくれたのに、ごめん」
手を周に預けたまま、薄く染まる目蓋の下の黒曜石がテーブルの上を彷徨う。
享一の捕らえられたまま手指の先に、ゆるく下ろされた睫の先に色香が漂い始める。
満足げに目を細めた周が笑みを濃くした。
「残ったものは、冷蔵庫にいれて明朝食べればいい。片付けを頼んでも?」 享一の頭が浅く頷く。
手を離した。解放された手は緩慢に戻っていった。
「食器を片したら母屋の方に」
やっと合わせてきた黒い瞳の中に、恥じらいと戸惑いが交差する。煽られる。
言葉を探す唇を親指の腹で弄び軽く啄ばんでから、部屋を出た。
障子を引き、年季の入った柿渋色の雨戸を開けると一幅の幻想的な絵画が現れる。
瑠璃の混ざる岩群青の夜空に白磁の月が浮かび、薄紅がかった胡粉の白が我が我がと咲き競う。
いつもなら晩春に満開を迎える桜の古木は、自分たちがここに来るのを見計らったかのように横に張った枝いっぱいに花を咲かせている。
不思議だと言った享一の声が頭の中に蘇り、さもありなんと思う。築200年を越すこの屋敷の倍近くを生きる古い桜だ。
密集した花弁の上で月光が雪崩を起こし、大きな古木全体が月の光に煙っている。
その豪奢な淡い光は書院造の広間に敷いた閨にも流れ込んできた。
薄紅の花影に、苔生す幹に抱かれるようにして身を寄せていた享一の姿を見た気がした。
3年前の再会の日、桜に見せ付けるように能舞台の床で享一を抱いた。
これは古の樹齢を誇る桜の意趣返しか。あれ以来、春になると享一はこの桜を見に来たがる。
妬ける。
桜にも、彼らにも。
瀬尾と享一、そして上原由利との間には共有する過去がある。和輝もまたこちらが触れられることの出来ぬ父子という深い絆を持つ。
黄金色の黄昏の中。瀬尾が享一と唇を合わせたのは、ほんの一瞬だった。腫れて優男が台無しになった相貌は、周を一瞥すると全ての激情と葛藤を捻り潰したかのような静かな表情を見せた。
そして薄い笑いを浮かべた。
もとよりキスはおろか、享一に触れる事すら許しがたい。だが瀬尾の顔に浮かんだ自分たちだけの絆を匂わせる優越感が、もっと気に喰わなかった。
畳を踏む乾いた音に振り返る。
暗がりの中、仄かな花明りを映し享一が立っていた。
近付いて見つめると、色めく薄い目蓋を伏せ浅く熱い吐息を吐く。羞恥と期待が綯交ぜになって紅潮する素直な肌が青白い淡い光の中で惹き立ち、きりきりと煽ってくる。
「周・・・疲れているんじゃなかったのか?」
「疲れている時ほど、欲しくなる。享一も男ならわかるだろう」
享一だけではなく、自分もまた今日起こった諸々の出来事に神経が昂ぶっている。
早く、目の前の恋しい男の身体にこの身を沈めて、自分の中で揺らめく昏い嫉妬の炎を鎮めたい。
庭の桜がざっとざわめいた気がした。
あの桜は享一を虜にする。
目に見えぬ享一の時間さえ独占したいと願うこの身にも、神前と同じく餓えきった獣が住む。
享一が逃がし続ける視線を、両手で頭を掬うように固定し捕らえる。
薬指で項を愛撫すると瞳を閉じて、熱い吐息を吐いた。
妬ける。甘く寄せられた眉も、柔らかくカーヴする睫にも。
「お前は、どうだ。欲しくはないのか?」情欲に染まり、淫靡に綻ぶこの口から聞きたい。
答えなどわかっているだろうと、眼孔の縁を赤く染めた瞳で睨んでくる。
もちろんわかっている。
その上で分別のないガキみたいに、羞恥に潤んだ瞳に向かって頑是無い意地悪をいう。
「享一が疲れてその気にならないなら、今日はこのまま何もせずに寝ても構わない」
手の中の顔が夢から覚めたように唖然と固まる。その顔に向け嫣然と笑う。
どこかにまだ“父親”を引き摺るこの男に、自分を恋しがり欲しがる言葉を言わせたい。
享一の手が周の手を掴みゆっくり下ろさせた。
黒い瞳が真っ直ぐ見上げ自分の浴衣の襟に手をかけ、ゆっくり両サイドに引っ張り胸を開く。
朱に染まった鎖骨が露になり、肌蹴た襟の淡い翳りの中の欲望に色付く胸の尖りが見える。
「俺は・・・周に抱かれたい。もし周が俺にまだ愛想を尽かしていないのなら、抱いて欲しい」
声も襟を握り締める手も睫の先も、羞恥に染まり震えている。扇情的な享一の姿に眩暈を覚えそうになった。享一を抱き寄せ、ゆっくり唇を合わせる。
「あ・・・周、障子を。桜が見ているから」
まるで意思でもあるように明るさを増した桜に、享一の項に埋めたまま濃い色香を湛えた深緑の瞳を流す。その間も享一の浴衣の袷を割り奥へと掌を忍ばせる。硬い肉茎が当たり、這わせた指がしっとりと濡れた。
「享一、下着は?」
耳打ちすると腕の中で体温がぐっと上がる。「や・・・」 逃れようと引いた身体を更に強く抱き込んだ。
「アマネ・・・・障子を・・・ア」 声が甘く縺れる。
「桜には嫉妬させてやればいい」
周はうっそりと嗤い、崩れ落ちる享一の唇を吸った。
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
更新があいてしまってすみません。R突入予定だったんですが、入り口で止まったまんまです。
目線も周(攻め)目線に変りました。みなさんどっちが好きですか?って、「今頃、聞くな」よね。
享一はどこにパンツ忘れちゃったのかしらねえ。。
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当に、いつもありがとうございます。
ほんの拙文しか書けませんが、書いていく励みになります。。
■拍手のリコメの閲覧は、サイト左上の”もんもんもん”の
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ランキングに参加しています
お手数ですが、踏んでやってくださいませ。
↓↓↓


更新があいてしまってすみません。R突入予定だったんですが、入り口で止まったまんまです。
目線も周(攻め)目線に変りました。みなさんどっちが好きですか?って、「今頃、聞くな」よね。
享一はどこにパンツ忘れちゃったのかしらねえ。。
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当に、いつもありがとうございます。
ほんの拙文しか書けませんが、書いていく励みになります。。
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おパンツを脱いで…自ら浴衣の胸元を開いて…_ノ乙(、ン、)_悩殺
瀬尾っちのキスにも、由利さんにも和輝くんにも嫉妬していたアマネさまが満足の笑いで享一を抱いた~、キスした~ヾ(´∀`〃)ノ~♪
桜も二人に嫉妬することでしょう!
ブ、ブラボーです~~、朝チュン禁止です~~。
アマネさま目線でじっとりと享一さんを眺めまわしてくださいませ~~。