06 ,2010
ファミリーバランス 2
周にとって、高波一族はかなりの脅威らしい。
確かに、喬純の祖父にあたる高波翁はかなり癖のある人物ではあるし、周にとっては忘れられない因縁の過去もある。
その息子の喬(たかし)も一筋縄ではいかない感じの人物だった。喬純の父親でもある喬は、野獣を思わせる鋭い眼光を持ち、熱く滾る猛々しい脈動を冷静な仮面の下に押さえ込んでいるような男だ。
高波の家で会った喬は、周に対して拘りがあるように見えたが・・・・・・やめよう、下衆の勘ぐりというものだ。
こそっと伺うように盗み見る視線を、同じくこちらを観察する翠の瞳にがっちり捕まえられた。憮然と睥睨する翠の瞳がふっと細まり、そのあと物騒な笑みが広がる。
ゾゾっと背中を悪寒が這い上がってきた。
「あの・・・周」
「なんでしょう?」
30男の癖に、可愛く小首を傾げるな。
邪気など微塵もありませんよーと、いかにもウソ臭い笑顔が邪念垂れ流しで、長躯のてっぺんに張り付いている。お面と話しても仕方がない。
「・・・いや、なんでもない」
「そうですか」
一昔前の歯磨き粉のCMに出てきそうな、最上級の爽やかな笑みだ。
自分も、警戒心200%の思い切り不自然な笑顔を返しておく。
その後の周は不気味なくらい機嫌が良く、こちらは悪寒と熱っぽさが絡まりながら尾を引いた。無邪気に地雷を踏んだ己を心の中で罵った。こういう時、いつも自分の学習能力のなさを呪いたくなる。
和輝を風呂に入れ、眠るまで童話の読み聞かせをしてやる。子供は不思議だ。どんなに腹を立てていたり、疲れていたとしても、無垢で清らかなその寝顔を見るとたちまち癒されてしまう。そして、祈りたい気持ちになる。
寝息を立て始めた和輝の頬や額を何度も撫でた。
再びこうやって、和輝の側にいられるのが奇跡のようで、未だに信じられない時がある。
「周、そんなにくっつかれたら歯が磨けない」
和輝の部屋を出てから、優雅なシルエットが金魚の糞のようにしつこく背後に付きまとう。いや、背後霊だろうか。鏡の中の歯ブラシを銜えるカッコの悪い顔を、背後から抱きしめる周のニタニタと嬉しそうに脂下がった顔が眺めている。全くシマリがない。折角の美丈夫もこれでは台無しだ。
「気にせずに磨いてください」
それに、なんでずっと丁寧語のままなんだ。
「うわっ、なに?!」
口をゆすぎ終えた途端、抱き上げられた。
「私の過去を気にするゆとりもないくらい、いまの私を味あわせてあげましょう」
は・・・・?
「してないっ!ぜんっぜん。なあんにも気にしてないからっ・・・うわあっ!」
反論する間もなくバスルームから拉致され、ベッドに放り込まれた。間髪をいれず周が覆い被さってくる。勢いがついた周の体重でスプリングが盛大に揺れ、周の長い四肢に囲まれた身体が上下にバウンドする。
「気にしろよ。もっと嫉妬して」
「嫉妬って・・・」 さっきと言ってることが違うだろうが。
クールなグリーンアイに真っ赤な欲望が燃え盛る。
笑いの張り付いた薄い唇を舌先がぺろりと舐める様が、ケダモノめいていて、怖い。
唇を項に這わせながら周の手がパジャマの下に侵入し、愛撫を愉しみながらボタンを外してゆく。抗議しようにも噛み付くように重なってきた唇に、声と一緒に抗う気力も奪われ、早くも息が上がり始めた。
最後のボタンが外れると同時に躰を返され、手際よく一気に剥ぎ取られた。
「周! 和輝が・・・っ」
「いい加減にしろよ、享一。いつまで、和輝に俺たちの事を隠しておくつもりだ? まさか、あいつがいなくなるまで俺に”お預け”を喰らわすつもりじゃないだろうな?」
瞳の中でゴウゴウと燃えていた炎が、一気に氷点下に変わる。心なしか声音にドスが効いている。
整った男らしい顔が、脂下がった顔から不遜で剣呑な表情へとつりあがり、迫力が倍増する。怖い。
「いや、そんなつもりは」
確かに、和輝がこのペントハウスに来てから最終的なコトには及んでいない。
正直なところ、和輝の“良い父親“”ステキなパパ“である事で、日々、頭がいっぱいなのだ。
「和輝を手許におきたいと思うなら、和輝と本物の家族になりたいのなら、いいかげん腹を括ったらどうだ」
周の言葉に、はっとした。深緑の瞳が真っ直ぐ自分を見下ろしている。
周の言う通りだった。和輝に偽りの姿を見せ、表面上だけ仲の良い親子に見えたとしてもそれは本当の繋がりではない。
周は相手が子供であろうと、偽る事をしない。
子供と大人の線はきっちり引きつつも、いつも自然体で和輝と接しようとしてくれている。なぜ、自分は小ざかしく体裁のようなものを取り繕おうとしてしまうのか。こんな時、周の器の大きさに単純に感動してしまう。
「周・・・・」
感動と称讃の眼差しで周を見上げた。少し目が潤んでいたりもする。
この時点で、自分が周の術中に陥ったことに全然気付かない。
俺は案外おめでたい奴なのかもしれない。
周が「わかればいい」とばかりに優しげに微笑み、柔らかい接吻けをくれた。
だが、穏やかだったのはそこまでだった。
“優麗”の皮を被った下品な肉食獣は、和輝が来てからの一ヵ月半分の欲求不満を遠慮なくぶつけてきた。いや、利子が過剰に付加されたされていたような気がしてしょうがない。
早々に白旗を揚げたにもかかわらず、性欲の塊となった周は自分が満足するまで許してはくれなかった。何度も気を失っては、突き上げる剛直と甘いキスで引き戻され、矜持も理性も木っ端微塵に吹き飛んだ。無自覚のうちに溜め込んでいた欲望を暴かれた後はあられもなく乱れ捲り、自分から周に跨って腰を振る有様だった。
昨夜の情事をトレースすると、羞恥のあまり両手で顔を押えて叫び出しそうになる。
たまらず頭からシーツを被り、ベッドの中でひとり悶々と身悶える。
そよ風と一緒にコーヒーの香ばしい香りが漂ってきた。休日の習慣で、今朝もテラスで朝食を摂っているらしく、風に乗って周と和輝の会話が流れてくる。上機嫌な周の声が恨めしい。和輝は俺の子供なのに。
「アマネ、キョウちゃんは?」
「“腰痛”でまだ寝てるから、起すなよ」
それをアンタが言うかね?
一体、誰のせいだと・・・・鮮明な自分の痴態を思い出し、シーツの中で顔を押えまた叫びそうになる。
「えーっ!サッカーの練習に付き合ってくれる約束だったのに。腰が痛いんじゃ行けない?」
「俺が付き合ってやる。言っとくが、享一より10倍は上手いぞ」
おい、俺の父親としてのなけなしの威厳を崩すなよ。
「すごい!! アマネが来てくれるの? やったあ! みんな、すごく喜ぶよ」
綿密にいえば、子供に付き合って練習を見に来た母親たちがより狂喜するのだろう。
尊敬と憧れに満ちた目で周を見上げる和輝の顔が浮かぶ。
和輝は周に憧れている。成長したら、自分も周や瀬尾のような長躯のイケメンになれると信じている節がある。残念ながら遺伝子は小柄な由利と、平凡な俺のものなのに、だ。
雲の通過で日が翳り、また明るくなる。
カーテンの隙間からこぼれるうららかな日差しが白いベッドリネンに眩しい。
テラスでは、話が成立したらしい。和輝の弾んだ声が今日のプランを並べ立てている。
俺たちが家族になれる日は来るだろうか?
「いって来ます」
「・・う・・・ん」
とろとろと眠りのほとりを漂う頬をふわりと撫でられて、唇が軽く重なる。
ずっとこんな日が続けばいい。
― FIN ―
ファミリーバランス・1
確かに、喬純の祖父にあたる高波翁はかなり癖のある人物ではあるし、周にとっては忘れられない因縁の過去もある。
その息子の喬(たかし)も一筋縄ではいかない感じの人物だった。喬純の父親でもある喬は、野獣を思わせる鋭い眼光を持ち、熱く滾る猛々しい脈動を冷静な仮面の下に押さえ込んでいるような男だ。
高波の家で会った喬は、周に対して拘りがあるように見えたが・・・・・・やめよう、下衆の勘ぐりというものだ。
こそっと伺うように盗み見る視線を、同じくこちらを観察する翠の瞳にがっちり捕まえられた。憮然と睥睨する翠の瞳がふっと細まり、そのあと物騒な笑みが広がる。
ゾゾっと背中を悪寒が這い上がってきた。
「あの・・・周」
「なんでしょう?」
30男の癖に、可愛く小首を傾げるな。
邪気など微塵もありませんよーと、いかにもウソ臭い笑顔が邪念垂れ流しで、長躯のてっぺんに張り付いている。お面と話しても仕方がない。
「・・・いや、なんでもない」
「そうですか」
一昔前の歯磨き粉のCMに出てきそうな、最上級の爽やかな笑みだ。
自分も、警戒心200%の思い切り不自然な笑顔を返しておく。
その後の周は不気味なくらい機嫌が良く、こちらは悪寒と熱っぽさが絡まりながら尾を引いた。無邪気に地雷を踏んだ己を心の中で罵った。こういう時、いつも自分の学習能力のなさを呪いたくなる。
和輝を風呂に入れ、眠るまで童話の読み聞かせをしてやる。子供は不思議だ。どんなに腹を立てていたり、疲れていたとしても、無垢で清らかなその寝顔を見るとたちまち癒されてしまう。そして、祈りたい気持ちになる。
寝息を立て始めた和輝の頬や額を何度も撫でた。
再びこうやって、和輝の側にいられるのが奇跡のようで、未だに信じられない時がある。
「周、そんなにくっつかれたら歯が磨けない」
和輝の部屋を出てから、優雅なシルエットが金魚の糞のようにしつこく背後に付きまとう。いや、背後霊だろうか。鏡の中の歯ブラシを銜えるカッコの悪い顔を、背後から抱きしめる周のニタニタと嬉しそうに脂下がった顔が眺めている。全くシマリがない。折角の美丈夫もこれでは台無しだ。
「気にせずに磨いてください」
それに、なんでずっと丁寧語のままなんだ。
「うわっ、なに?!」
口をゆすぎ終えた途端、抱き上げられた。
「私の過去を気にするゆとりもないくらい、いまの私を味あわせてあげましょう」
は・・・・?
「してないっ!ぜんっぜん。なあんにも気にしてないからっ・・・うわあっ!」
反論する間もなくバスルームから拉致され、ベッドに放り込まれた。間髪をいれず周が覆い被さってくる。勢いがついた周の体重でスプリングが盛大に揺れ、周の長い四肢に囲まれた身体が上下にバウンドする。
「気にしろよ。もっと嫉妬して」
「嫉妬って・・・」 さっきと言ってることが違うだろうが。
クールなグリーンアイに真っ赤な欲望が燃え盛る。
笑いの張り付いた薄い唇を舌先がぺろりと舐める様が、ケダモノめいていて、怖い。
唇を項に這わせながら周の手がパジャマの下に侵入し、愛撫を愉しみながらボタンを外してゆく。抗議しようにも噛み付くように重なってきた唇に、声と一緒に抗う気力も奪われ、早くも息が上がり始めた。
最後のボタンが外れると同時に躰を返され、手際よく一気に剥ぎ取られた。
「周! 和輝が・・・っ」
「いい加減にしろよ、享一。いつまで、和輝に俺たちの事を隠しておくつもりだ? まさか、あいつがいなくなるまで俺に”お預け”を喰らわすつもりじゃないだろうな?」
瞳の中でゴウゴウと燃えていた炎が、一気に氷点下に変わる。心なしか声音にドスが効いている。
整った男らしい顔が、脂下がった顔から不遜で剣呑な表情へとつりあがり、迫力が倍増する。怖い。
「いや、そんなつもりは」
確かに、和輝がこのペントハウスに来てから最終的なコトには及んでいない。
正直なところ、和輝の“良い父親“”ステキなパパ“である事で、日々、頭がいっぱいなのだ。
「和輝を手許におきたいと思うなら、和輝と本物の家族になりたいのなら、いいかげん腹を括ったらどうだ」
周の言葉に、はっとした。深緑の瞳が真っ直ぐ自分を見下ろしている。
周の言う通りだった。和輝に偽りの姿を見せ、表面上だけ仲の良い親子に見えたとしてもそれは本当の繋がりではない。
周は相手が子供であろうと、偽る事をしない。
子供と大人の線はきっちり引きつつも、いつも自然体で和輝と接しようとしてくれている。なぜ、自分は小ざかしく体裁のようなものを取り繕おうとしてしまうのか。こんな時、周の器の大きさに単純に感動してしまう。
「周・・・・」
感動と称讃の眼差しで周を見上げた。少し目が潤んでいたりもする。
この時点で、自分が周の術中に陥ったことに全然気付かない。
俺は案外おめでたい奴なのかもしれない。
周が「わかればいい」とばかりに優しげに微笑み、柔らかい接吻けをくれた。
だが、穏やかだったのはそこまでだった。
“優麗”の皮を被った下品な肉食獣は、和輝が来てからの一ヵ月半分の欲求不満を遠慮なくぶつけてきた。いや、利子が過剰に付加されたされていたような気がしてしょうがない。
早々に白旗を揚げたにもかかわらず、性欲の塊となった周は自分が満足するまで許してはくれなかった。何度も気を失っては、突き上げる剛直と甘いキスで引き戻され、矜持も理性も木っ端微塵に吹き飛んだ。無自覚のうちに溜め込んでいた欲望を暴かれた後はあられもなく乱れ捲り、自分から周に跨って腰を振る有様だった。
昨夜の情事をトレースすると、羞恥のあまり両手で顔を押えて叫び出しそうになる。
たまらず頭からシーツを被り、ベッドの中でひとり悶々と身悶える。
そよ風と一緒にコーヒーの香ばしい香りが漂ってきた。休日の習慣で、今朝もテラスで朝食を摂っているらしく、風に乗って周と和輝の会話が流れてくる。上機嫌な周の声が恨めしい。和輝は俺の子供なのに。
「アマネ、キョウちゃんは?」
「“腰痛”でまだ寝てるから、起すなよ」
それをアンタが言うかね?
一体、誰のせいだと・・・・鮮明な自分の痴態を思い出し、シーツの中で顔を押えまた叫びそうになる。
「えーっ!サッカーの練習に付き合ってくれる約束だったのに。腰が痛いんじゃ行けない?」
「俺が付き合ってやる。言っとくが、享一より10倍は上手いぞ」
おい、俺の父親としてのなけなしの威厳を崩すなよ。
「すごい!! アマネが来てくれるの? やったあ! みんな、すごく喜ぶよ」
綿密にいえば、子供に付き合って練習を見に来た母親たちがより狂喜するのだろう。
尊敬と憧れに満ちた目で周を見上げる和輝の顔が浮かぶ。
和輝は周に憧れている。成長したら、自分も周や瀬尾のような長躯のイケメンになれると信じている節がある。残念ながら遺伝子は小柄な由利と、平凡な俺のものなのに、だ。
雲の通過で日が翳り、また明るくなる。
カーテンの隙間からこぼれるうららかな日差しが白いベッドリネンに眩しい。
テラスでは、話が成立したらしい。和輝の弾んだ声が今日のプランを並べ立てている。
俺たちが家族になれる日は来るだろうか?
「いって来ます」
「・・う・・・ん」
とろとろと眠りのほとりを漂う頬をふわりと撫でられて、唇が軽く重なる。
ずっとこんな日が続けばいい。
― FIN ―
ファミリーバランス・1
□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
軽い感じのSSでしたが、楽しんでいただけましたでしょうか?
本編とはタッチが違うのでちょっと違う話みたいです。
平凡でちょっと幸せを噛み締める毎日。こういう日々がやっと享一たちにも訪れました。
たて続けに更新したせいでしょうか、ランキングが上がってびびってます。ええ、小心者です。
普段ランキングはあまり見ないんですが、さすがにマジ見しました(笑)
明日からまた元のノンビリ更新に戻りますので、定位置(ってドコ?)に戻ります。
応援くださったみなさま、そしていつも応援くださるみなさま、本当にありがとうございます。
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当に、いつもありがとうございます。
ほんの拙文しか書けませんが、書いていく励みになります。。
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軽い感じのSSでしたが、楽しんでいただけましたでしょうか?
本編とはタッチが違うのでちょっと違う話みたいです。
平凡でちょっと幸せを噛み締める毎日。こういう日々がやっと享一たちにも訪れました。
たて続けに更新したせいでしょうか、ランキングが上がってびびってます。ええ、小心者です。
普段ランキングはあまり見ないんですが、さすがにマジ見しました(笑)
明日からまた元のノンビリ更新に戻りますので、定位置(ってドコ?)に戻ります。
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そんな享たんだからいいんだよなぁ~♪
周さんと一緒にサッカー!! くぅ~~絶対カコイイぜ、周~~~!!!
そりゃ憧れるなってのが無理ですよね。
だって享たんの遺伝子引いてるんだし(そういうことじゃない?w)
ほんわかとした幸せの一頁、すごく素敵でした♪