11 ,2008
翠滴 1-7 スコール 1 (19)
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周(あまね)と2人 山道を歩いていた。
屋敷から30分ほど来ただろうか、薄暗い杉林に所々光が差し頭上から絶間なく蝉時雨が降ってくる。幅の広い緩やかな山道はちょっとした避暑地の風情で、木々を渡る風が涼しく、歩いていると気持ちがいい。
享一は、いつものTシャツにジーンズだが、周も今日はアイボリーの麻のジャケットにグレーのVネックシャツ、ジーンズというカジュアルな格好が均整の取れた躯によく似合っている。
身に纏うものも選ぶものも何をとっても、周はセンスが良い。屋敷の床の間や玄関に、周が活た花一つとってみても、バランスの良さが窺える。
日頃、Yシャツ姿が多いせいか、こんな格好をして髪を下ろしていると 自分と3才しか違わないということを思い出すが、自分と周はあまりにも懸け離れていて、周と自分のいる次元の違いみたいなものを感じる。この醸し出される大人の魅力やセンスの良さは、一体どうすれば身に付くのか。自分も3年後には周のようになれるかというと、甚だ疑問だ。
前を歩く周の背中を、羨望の眼差しで見ながら歩いた。
「これからいくお堂は、専門家の話では室町後期から江戸初期の
建立ではないかと推測されています」
そんな享一の羨望を知ってか知らずか、周は振り返って微笑み、歩きながら観音菩薩が奉ってあるという古いお堂についてレクチャーを始めた。
「村の言い伝えでは、都から逃れた落ち武者がこの辺りに住み着いて、
都に残した想い人の幸せと安寧を祈願して建てたとも言われています。
真相はもう少し研究が進まないとわからないそうですが。でも、本当にそうだとしたら」
ロマンチックでしょう?、と微笑み 翡翠の眼球が享一を撫でるように眼差しを寄越してきた。そのあまりの艶かしさに心臓が小さくトクンと跳ね、それを誤魔化すように「そうですね」と視線を逸らした。心拍数が煩くて仕方がないくらい、あがっている。
この目が難物なのは、もう知っている。
自分で効果を知ってて揶揄ってるいるなら、周自身が相当な曲者だ。
傷を舐めてきたり、ドライブで死ぬ目にあったり、今のような反応に困る視線に絡め捕られたりと。思えば、大人のはずの周に自分は随分と翻弄されているのだ。
「今日は、鳴海さんは一緒ではないんですね」
雰囲気をを変えたくて、なぜか自分と対角上に居る気がする 鳴海の名を口にした。鳴海の名を口にするだけで、自分がクールダウンするのがわかり、やはり自分は鳴海が苦手なのだと、再認識した。
「鳴海は、建造物への興味が皆無ですから」
そっけなく答えるが、その表情は、噛み殺した嬉しさが込み上げて仕方ない、といった感じだ。仲が悪いようでもないが、やはり何時も一緒というのは、周にとっても窮屈なのかもしれない。享一にとっても、鳴海は気の張る相手であり、お神酒徳利のように周と行動を共にする鳴海が今日は同行しないと聞いた時、内心ほっとしていた。だから、これ以上鳴海が同行しない訳も、周の嬉しそうな表情の理由の詮索もやめた。
緩い上り坂が終わり、長い杉林が雑木林に変わった頃、急に辺りが暗くなる。
「享一君、もう少しですし走りましょう」
声と同時にポツリと頬に雫が落ちてきた。次第にその数が増え地面が濡れていき、雨が降り出す時の独特のあの匂いが辺りに立ち込めたか思うと、大粒の雫が一気に降り出した。目的のお堂に着いた頃には、あちこちに小さな小川も出来て、土砂降り状態になった。
お堂は、思っていたよりも大きなもので、手入れも行き届いている。
荒削りで長い時間の経過を経て色も剥げ落ちた阿弥陀如来像には、槙と黄色い菊が供えられていた。靴と靴下を脱いで、黒光りする板床に上がる。ほっと息を深く吸い込むと、薄暗い堂内の古い木の香りと雨の匂いが混ざり合った匂いがして、心拍数が少し上がった。
周は、麻のジャケットを木の閂に掛け、戸口から外を見ている。
すらりとした姿態が、雨に濡れた鮮やかな緑を背景にシルエットと化す。周の均整の取れた身体のラインを強調して、そのしなやかで美しい姿から目が離せなくなった自分に気付き、慌てて視線を離した。俯いて、自分の中で熱くゾクリと蠢いたものを否定する。
その様子を横目で伺い見ていた周がニヤリと口の端を上げて嗤う。次の瞬間、その貌を仮面をすげ替えたように気遣わしげなものへと豹変させて振り返った。
「享一君 濡れたTシャツは脱いだ方がいいですよ。風邪をひいてしまいます」
周に優しく声を掛けられ、髪もシャツもずぶ濡れなのに気がつき、ああそうかとシャツの裾に手を掛けた。が、周に較べ幾分というか、かなり見劣りするであろう自分の裸体を晒すことに抵抗を感じて、そのまま止まってしまった。かわりに、持ってきたリュックからタオルを出して周に渡す。
「俺は大丈夫ですから。周さん、タオル先に使ってください」
荷物やデジカメが濡れていないかと俯いたところを、周の手が伸びてきてTシャツの裾を掴んだ。
何が起こったのか考える間もなく、享一の躯から濡れたシャツが荒々しく脱がされた。
周(あまね)と2人 山道を歩いていた。
屋敷から30分ほど来ただろうか、薄暗い杉林に所々光が差し頭上から絶間なく蝉時雨が降ってくる。幅の広い緩やかな山道はちょっとした避暑地の風情で、木々を渡る風が涼しく、歩いていると気持ちがいい。
享一は、いつものTシャツにジーンズだが、周も今日はアイボリーの麻のジャケットにグレーのVネックシャツ、ジーンズというカジュアルな格好が均整の取れた躯によく似合っている。
身に纏うものも選ぶものも何をとっても、周はセンスが良い。屋敷の床の間や玄関に、周が活た花一つとってみても、バランスの良さが窺える。
日頃、Yシャツ姿が多いせいか、こんな格好をして髪を下ろしていると 自分と3才しか違わないということを思い出すが、自分と周はあまりにも懸け離れていて、周と自分のいる次元の違いみたいなものを感じる。この醸し出される大人の魅力やセンスの良さは、一体どうすれば身に付くのか。自分も3年後には周のようになれるかというと、甚だ疑問だ。
前を歩く周の背中を、羨望の眼差しで見ながら歩いた。
「これからいくお堂は、専門家の話では室町後期から江戸初期の
建立ではないかと推測されています」
そんな享一の羨望を知ってか知らずか、周は振り返って微笑み、歩きながら観音菩薩が奉ってあるという古いお堂についてレクチャーを始めた。
「村の言い伝えでは、都から逃れた落ち武者がこの辺りに住み着いて、
都に残した想い人の幸せと安寧を祈願して建てたとも言われています。
真相はもう少し研究が進まないとわからないそうですが。でも、本当にそうだとしたら」
ロマンチックでしょう?、と微笑み 翡翠の眼球が享一を撫でるように眼差しを寄越してきた。そのあまりの艶かしさに心臓が小さくトクンと跳ね、それを誤魔化すように「そうですね」と視線を逸らした。心拍数が煩くて仕方がないくらい、あがっている。
この目が難物なのは、もう知っている。
自分で効果を知ってて揶揄ってるいるなら、周自身が相当な曲者だ。
傷を舐めてきたり、ドライブで死ぬ目にあったり、今のような反応に困る視線に絡め捕られたりと。思えば、大人のはずの周に自分は随分と翻弄されているのだ。
「今日は、鳴海さんは一緒ではないんですね」
雰囲気をを変えたくて、なぜか自分と対角上に居る気がする 鳴海の名を口にした。鳴海の名を口にするだけで、自分がクールダウンするのがわかり、やはり自分は鳴海が苦手なのだと、再認識した。
「鳴海は、建造物への興味が皆無ですから」
そっけなく答えるが、その表情は、噛み殺した嬉しさが込み上げて仕方ない、といった感じだ。仲が悪いようでもないが、やはり何時も一緒というのは、周にとっても窮屈なのかもしれない。享一にとっても、鳴海は気の張る相手であり、お神酒徳利のように周と行動を共にする鳴海が今日は同行しないと聞いた時、内心ほっとしていた。だから、これ以上鳴海が同行しない訳も、周の嬉しそうな表情の理由の詮索もやめた。
緩い上り坂が終わり、長い杉林が雑木林に変わった頃、急に辺りが暗くなる。
「享一君、もう少しですし走りましょう」
声と同時にポツリと頬に雫が落ちてきた。次第にその数が増え地面が濡れていき、雨が降り出す時の独特のあの匂いが辺りに立ち込めたか思うと、大粒の雫が一気に降り出した。目的のお堂に着いた頃には、あちこちに小さな小川も出来て、土砂降り状態になった。
お堂は、思っていたよりも大きなもので、手入れも行き届いている。
荒削りで長い時間の経過を経て色も剥げ落ちた阿弥陀如来像には、槙と黄色い菊が供えられていた。靴と靴下を脱いで、黒光りする板床に上がる。ほっと息を深く吸い込むと、薄暗い堂内の古い木の香りと雨の匂いが混ざり合った匂いがして、心拍数が少し上がった。
周は、麻のジャケットを木の閂に掛け、戸口から外を見ている。
すらりとした姿態が、雨に濡れた鮮やかな緑を背景にシルエットと化す。周の均整の取れた身体のラインを強調して、そのしなやかで美しい姿から目が離せなくなった自分に気付き、慌てて視線を離した。俯いて、自分の中で熱くゾクリと蠢いたものを否定する。
その様子を横目で伺い見ていた周がニヤリと口の端を上げて嗤う。次の瞬間、その貌を仮面をすげ替えたように気遣わしげなものへと豹変させて振り返った。
「享一君 濡れたTシャツは脱いだ方がいいですよ。風邪をひいてしまいます」
周に優しく声を掛けられ、髪もシャツもずぶ濡れなのに気がつき、ああそうかとシャツの裾に手を掛けた。が、周に較べ幾分というか、かなり見劣りするであろう自分の裸体を晒すことに抵抗を感じて、そのまま止まってしまった。かわりに、持ってきたリュックからタオルを出して周に渡す。
「俺は大丈夫ですから。周さん、タオル先に使ってください」
荷物やデジカメが濡れていないかと俯いたところを、周の手が伸びてきてTシャツの裾を掴んだ。
何が起こったのか考える間もなく、享一の躯から濡れたシャツが荒々しく脱がされた。
そうよ~~~やさしい(しかしこれは仮面)周さんもいいけど、もう待ちくたびれたわ。
強引にいけ~~~~
濡れた服をひっぺがせ!
ついでにタオルで体中ごしごしぬぐってやれ!!
そうすれば享一のひっそりと勃起してたモノがかくしようもなくばれる。
もちろんそれを周は承知のうえで。
「なんですこれは?」と美しい笑顔で伺う周さん。
……
……
すみません暴走しました……!!