04 ,2010
翠滴 3 born 16 (99)
縺れ合う肌が上質のリネンを擦る音が疲れを纏った躰に心地いい。
項や鎖骨に舌と唇を這わせる周の濡れたキスの音と、自分の乱れた呼吸の音だけが静かな部屋にある。
会った事もない徳山という男の死を知り同情を覚え、密かに根付きいつの間にか精神をも侵食し始めた死への甘美で病んだ願望は、生命力の塊であるかのような周の息吹によって蹴散らされていった。
そして、重ねた肌や唇から新たな生気が吹き込まれてゆく。
周の胸に耳を寄せると、ずっと地平の彼方から轟いてくると思っていた生命の躍動を伝える音は骨を、美しく隆起する大胸筋や滑らかな皮膚を抜けて鼓膜に直接響いてくる。次第に共鳴を始める二つの鼓動は、吐息や肌と同じように縺れ絡まり、やがてひとつの音となって世界を満たす。
「享一」
周の指が後孔に触れると引き攣ったような疼痛が背中を抜けて、享一が微かに眉を寄せ息を乱す。引こうとした周の手を細い5本の指が思いがけない強さで掴まえた。
「いい・・いいから・・・・」 渇望の瞳を周に向けると、同じく自分を求める透明な輝きを帯びた瞳が見返してくる。再び唇を合わせ、周がナイトテーブルの引き出しからローションを取り出すのを乱れた自分の心音を聞きながら見つめた。
まるで恋人が初めて抱き合うかのような、嬉しいような恥ずかしいような初心な感覚に自分で眩暈を覚える。
躰中にキスを落とされた。
先程とは打って変った、周の享一を気遣う優しく優雅なキスのひとつひとつに泣きたい様な感謝の気持ちが湧いてくる。
「アマネ」 声をかけると持ち上げた腿に薄めの唇がキスをする。視線を絡めたまま、中心に向かって唇が緩慢に降りてくると、心臓が内側から胸を激しく叩き出した。
「あぁ、もう・・・」 このまま口に含まれたら、すぐに爆ぜてしまいそうだ。
願望を聞き取った周が賛同するように享一の心臓に接吻け、深い場所に周の想いを穿ち満たしてゆく。傷を押し開く鋭い痛みは、欠けた心が再生してゆく歓喜と、泣きたくなりそうなほどの快感にかき消えていった。
「はっ・・・、享一、キョウイチ・・・」 周の低く愛欲に掠れる声が甘くて怖い。今度この声を、この体温を、自分を時間のしじまに沈める重みを見失ったら、自分の人生から一切の光が失せてしまうかもしれない。
躰を開き、しなやかに隆起した背中を抱き締めながら、深く融合させてゆく。
心地よい波間に揺れ、仰け反りながらまろやかな夜を吸い込んだ。
以前、瀬尾に向かって、お前とのセックスは心が震えないと言ったことがあった。
しかし今、心ではなく魂そのものが震えるのだと知る。
周と言う男を感じ、轟く心音を聞きながら悦楽に溺れ抱き合ったまま更なる高みを目指す。
自分の世界は周で満ち、だんだん自分と周の境界線もわからなくなる。肌が溶け合い官能に色付く歓喜の声を上げながら翠に燃え滾る魂に呑み込まれ、白熱する絶頂で意識が途絶えた。
頬を掠める微かな感覚に目を開けた。
見覚えのある茫漠とひろがる闇を、千万(ちよろず)の白い小さな花弁が舞い降りてくる。花弁は横たわる自分の上にも降り積もる。腕を持ち上げると、眠りを邪魔され腹を立てたとばかりに大量の花弁が盛大に散り、風もないのに闇の中へと吸い込まれるように舞い上がっていった。
花弁の去った指の根元に光るものを見つけ、虚ろだった瞳がかっと見開かれた。確かめようと顔に近づけた掌を突然、積もった花弁の中から伸びた手が捕えた。享一の驚きを表すように、大量の花弁がまた空を舞う。
「二度と手放すなよ」 耳許の艶を放つ低い声に、茫漠たる闇も降り積もる花弁も一斉に消えうせた。
頭の下にあった片方の腕に抱き寄せられ、なめらかに筋肉の張り詰めた胸に抱きこまれる。信じられない思いで指輪を眺めている享一に、咽喉の奥で笑いながら周が覆いかぶさる。遠慮なく乗り上げてきた男の体重に思考を奪われ、躰の芯に残された官能の焔の揺らめきに喘いだ。
重くて、苦しくて嬉しくて。嬉しくて、周の笑い声につられ享一も笑い始める。
笑い声で消失した時間が蘇り、声が途絶えた後も胸の中の虚空は埋まり続けている気がした。
自分がどれくらい意識を飛ばしていたのかわからなかったが、外のテラスに置かれたリクライニングチェアーもミモザの黄色い花も迫りくる朝の気配に、おぼろげな輪郭を浮き上がらせ始めている。
今日が生まれる前の厳かな時間がガラスの向こうを流れてゆく。
このテラスに朝焼けの薔薇色の光が差せば、きっと世界が生まれ変わる。
長い指がウェンゲの髪を梳き、温かい吐息が一心に朝の訪れを待つ享一の頬を掠める。
「何故、瀬尾に脅された最初の段階で俺を信じて頼らなかった?」
風に揺れるミモザ花に奪われた瞳がゆっくり振り返り、周を凝視した。
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翠滴 1―1 →
翠滴 2―1 →
翠滴 3―1 →
項や鎖骨に舌と唇を這わせる周の濡れたキスの音と、自分の乱れた呼吸の音だけが静かな部屋にある。
会った事もない徳山という男の死を知り同情を覚え、密かに根付きいつの間にか精神をも侵食し始めた死への甘美で病んだ願望は、生命力の塊であるかのような周の息吹によって蹴散らされていった。
そして、重ねた肌や唇から新たな生気が吹き込まれてゆく。
周の胸に耳を寄せると、ずっと地平の彼方から轟いてくると思っていた生命の躍動を伝える音は骨を、美しく隆起する大胸筋や滑らかな皮膚を抜けて鼓膜に直接響いてくる。次第に共鳴を始める二つの鼓動は、吐息や肌と同じように縺れ絡まり、やがてひとつの音となって世界を満たす。
「享一」
周の指が後孔に触れると引き攣ったような疼痛が背中を抜けて、享一が微かに眉を寄せ息を乱す。引こうとした周の手を細い5本の指が思いがけない強さで掴まえた。
「いい・・いいから・・・・」 渇望の瞳を周に向けると、同じく自分を求める透明な輝きを帯びた瞳が見返してくる。再び唇を合わせ、周がナイトテーブルの引き出しからローションを取り出すのを乱れた自分の心音を聞きながら見つめた。
まるで恋人が初めて抱き合うかのような、嬉しいような恥ずかしいような初心な感覚に自分で眩暈を覚える。
躰中にキスを落とされた。
先程とは打って変った、周の享一を気遣う優しく優雅なキスのひとつひとつに泣きたい様な感謝の気持ちが湧いてくる。
「アマネ」 声をかけると持ち上げた腿に薄めの唇がキスをする。視線を絡めたまま、中心に向かって唇が緩慢に降りてくると、心臓が内側から胸を激しく叩き出した。
「あぁ、もう・・・」 このまま口に含まれたら、すぐに爆ぜてしまいそうだ。
願望を聞き取った周が賛同するように享一の心臓に接吻け、深い場所に周の想いを穿ち満たしてゆく。傷を押し開く鋭い痛みは、欠けた心が再生してゆく歓喜と、泣きたくなりそうなほどの快感にかき消えていった。
「はっ・・・、享一、キョウイチ・・・」 周の低く愛欲に掠れる声が甘くて怖い。今度この声を、この体温を、自分を時間のしじまに沈める重みを見失ったら、自分の人生から一切の光が失せてしまうかもしれない。
躰を開き、しなやかに隆起した背中を抱き締めながら、深く融合させてゆく。
心地よい波間に揺れ、仰け反りながらまろやかな夜を吸い込んだ。
以前、瀬尾に向かって、お前とのセックスは心が震えないと言ったことがあった。
しかし今、心ではなく魂そのものが震えるのだと知る。
周と言う男を感じ、轟く心音を聞きながら悦楽に溺れ抱き合ったまま更なる高みを目指す。
自分の世界は周で満ち、だんだん自分と周の境界線もわからなくなる。肌が溶け合い官能に色付く歓喜の声を上げながら翠に燃え滾る魂に呑み込まれ、白熱する絶頂で意識が途絶えた。
頬を掠める微かな感覚に目を開けた。
見覚えのある茫漠とひろがる闇を、千万(ちよろず)の白い小さな花弁が舞い降りてくる。花弁は横たわる自分の上にも降り積もる。腕を持ち上げると、眠りを邪魔され腹を立てたとばかりに大量の花弁が盛大に散り、風もないのに闇の中へと吸い込まれるように舞い上がっていった。
花弁の去った指の根元に光るものを見つけ、虚ろだった瞳がかっと見開かれた。確かめようと顔に近づけた掌を突然、積もった花弁の中から伸びた手が捕えた。享一の驚きを表すように、大量の花弁がまた空を舞う。
「二度と手放すなよ」 耳許の艶を放つ低い声に、茫漠たる闇も降り積もる花弁も一斉に消えうせた。
頭の下にあった片方の腕に抱き寄せられ、なめらかに筋肉の張り詰めた胸に抱きこまれる。信じられない思いで指輪を眺めている享一に、咽喉の奥で笑いながら周が覆いかぶさる。遠慮なく乗り上げてきた男の体重に思考を奪われ、躰の芯に残された官能の焔の揺らめきに喘いだ。
重くて、苦しくて嬉しくて。嬉しくて、周の笑い声につられ享一も笑い始める。
笑い声で消失した時間が蘇り、声が途絶えた後も胸の中の虚空は埋まり続けている気がした。
自分がどれくらい意識を飛ばしていたのかわからなかったが、外のテラスに置かれたリクライニングチェアーもミモザの黄色い花も迫りくる朝の気配に、おぼろげな輪郭を浮き上がらせ始めている。
今日が生まれる前の厳かな時間がガラスの向こうを流れてゆく。
このテラスに朝焼けの薔薇色の光が差せば、きっと世界が生まれ変わる。
長い指がウェンゲの髪を梳き、温かい吐息が一心に朝の訪れを待つ享一の頬を掠める。
「何故、瀬尾に脅された最初の段階で俺を信じて頼らなかった?」
風に揺れるミモザ花に奪われた瞳がゆっくり振り返り、周を凝視した。
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
*お詫び*
昨日、「もんもんもん」の拍手コメレスについてご指摘を頂き、
調べましたところ数件のコメレスがカテゴリーの『拍手コメ、メールのお返事』ではなく
『未分類』に入ったままになっておりました。これではせっかく飛んでいただいても
サッと見ることは出来ません。
過去に拍手コメを頂きリコメが読めなかったというみなさま、大変不愉快な思いを
させてしまい、本当に、本当に申し訳ございませんでした。
Kさま、教えていただきありがとうございました!!
紙魚
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当に、いつもありがとうございます。
ほんの拙文しか書けない私ですがですが、書いていく励みになります。。
■拍手のリコメの閲覧は、サイト左上の”もんもんもん”の
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昨日、「もんもんもん」の拍手コメレスについてご指摘を頂き、
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『未分類』に入ったままになっておりました。これではせっかく飛んでいただいても
サッと見ることは出来ません。
過去に拍手コメを頂きリコメが読めなかったというみなさま、大変不愉快な思いを
させてしまい、本当に、本当に申し訳ございませんでした。
Kさま、教えていただきありがとうございました!!
紙魚
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周さまとの情交は、心ではなく魂から震えるんだと再確認!!!
やっぱり周が一番だと感じていい気持ちで意識を飛ばして戻ってきたら・・・
「何故、瀬尾に脅された最初の段階で俺を信じて頼らなかった?」
そう!!!そこなんですよね。きっと周様が一番ひっかているのは。
信じて欲しかった周様・・・、
周さまなら、瀬尾の脅しぐらいぶっ飛ばす自信あったに違いない。
でも、まんまと瀬尾の罠に嵌った享たん・・・
長い遠回りでした、これでうまく元鞘に戻ってくれるといいけど・・・
紙魚さまーー!イラストありがとうございました。感激で寝ないで記事にはちつけましたよーーー
綺麗な二人とサクラ、素敵でした・・・