04 ,2010
翠滴 3 born 15 (98)
それは不思議な感覚的だった。吐き出す事も出来ないのにカクカクと痙攣に近い震えが起り、頭の中が白く白熱して何もかもが極まる。膨張する熱に煽られ自分がちりぢりに消えてしまいそうになる
いつまでも吐精する時の極まった快感を引き摺り戸惑った。神経の塊になったかのような躰は周の精を受けぶるりと震えた。周の手が性器に巻き付いた紐を解く。
きつく喰い込み刃物で断たない限り二度と取れないのではないかと思った絹の紐は、周が軽く引っ張っただけで呆気なく享一を解放した。勢いの衰えた雄蕊から極少量の残滓が細い糸を引いて落ちる。いつまでも引かない快感が苦しい。
大腿を伝う周の精のささやかな刺激にぞわぞわとやるせない息を吐く。
「は、あ…あ」
柔らかい唇が肩口に接吻けきゅっと吸い上げると、喘ぎ声が甘やかな色彩を帯びる。
周が掠れた低い声で呻いた。色めいたその声が鼓膜の内側で艶めく熱を撒き散らす。
周…アマネ。
好きとか愛しいとかそんな言葉も感情もまだるこしくなって、いっそこの男の一部になってしまえたらいいのにとさえ、思ってしまう。
身体を返され周と向き合った。
淡い光に照らされ、上気した身体を汗で光らせ肩で息をしている周から目が離せなくなる。瑞々しい翠の瞳に完全に魅入られ、搦まる視線の強さを感じた。
美しい男。
たとえ容姿が今のように端整でなくとも、この瞳と若竹のような強靭でしなやかな心がある限り、自分はこの男をやはり美しいと思う気がする。いつか年老いもしくは何かの要因で姿かたちがかわってしまったとしても、この男を愛し続けるに違いない。
熱く濁った赤い沼に咲く白い花。
周は強い。かつて周は自分も神前と同じ深い業を持つと言った。同じ毒を持つと。
だが、周が神前のように自分の毒に染まる事は無い。喩えあの辰村に踏み躙られたとしても、この男は変らない。 蓮の花に潜む蟲は、純白の花を永遠に穢す事はできないだろう。
だが、自分は…
交互に指を絡められた手の平を、そっと引き抜いた。
潤んだ翠の瞳に、せわしなく胸を上下させシーツに横たわる自分が映っている。その瞳に映る自分の首に、周の両手が巻き付いた。
「まだ死にたいか」
硬い声は鼓膜を通過するや否や、鋭く尖った破片に変わり心臓をめがけ落ちてきた。
「俺は最低な人間だ。心の中では周を想いながら、欲望を抑える事が出来なかった。俺は瀬尾に・・・いや、自分に負けたんだ」
「では、何故ヴィラに現れた」
古い空調の低く唸る音が、耳の奥で鳴っている。
ビジネスホテルのベッドで、打ちひしがれた本当の気持ちや、望みを抱締め息を潜めて丸まっていた。あの息の詰まる時間が、今も続いているかのように空調音を共って耳の側で息衝き始める。
ペントハウスから追い返され、周に見捨てられたと感じた時の喪失感と絶望感は、今も暗澹たる冷たい暗闇へと自分を追い立てようとする
エルミタージュで周を辰村にレンタルすると聞かされた時、凄まじいほどの感情が自分を衝き動かした。辰村への怒りや周に対する申し訳なさ、危機を憂う感情だけではなかった。そこには確かに理性を灼き尽くす嫉妬と、自分のものに触れさせたくないという自分勝手な激しい憎悪感があった。
あの瞬間、全ての答えが出たのだと思う。
周以外はどうでもいい。周の鼓動だけを聞いていたい、周さえいればいいと、そう思った。
「俺はあのヴィラの石門を潜った時、たったひとつの望み以外のすべてを棄てた」
自分を見下ろす周の顔を、強い眼差しが見返す。
「バンクーバーで拘束されている哀れな瀬尾も、自分を捨てても守ってやりたいと思った実の血を分けた子供も。俺は自分の親父と同じように・・・・」
享一の言葉が途切れ、視線が過去の時間を彷徨い、苦しげに細められる。
自分に回された細く頼り気の無い小さな腕の温もりが、するりと解けて離れていくのを感じた。
保育園の生活発表会で楽しそうにくるくる回る小さな背中、赤ん坊の名残を色濃く残す寝顔。幼い癖に周との決別に泣く享一の頸に腕を回し、慰めながら一緒に泣いてくれた。幼くも優しい感情が自分に流れ込み、愛するものを失う悲しさを小さな腕で包んでくれた。泣けて、泣けて、仕方が無かった。
周に視線を戻した享一の瞳から涙が静かに零れる。真っ直ぐに自分を見つめる、真摯な翠の眼差しに魂が震えた。
懺悔の涙を流しても、手に入れたい男がいる。
「俺は・・・」
恋に狂い、我が子を捨てる。
父親に捨てられたトラウマを持つ自分が、あれ程蔑んできた親父と同じ事をしようとする。この身はもう、愚かとしか言いようがない。
小刻みに震えながら吐露しようとする唇を、周の指が抑えた。
「言うな享一。それを口にしたらお前は必ず後悔する。俺はお前が息子の為に瀬尾を助けたいと言ったから、辰村と取引をする気になったんだ。瀬尾 和輝はお前の大事な息子だ、それでいい」
馨しい春の夜に紛れる密やかな声が、享一の剥き出しの心を包みなおす。
涙に濡れる瞳に目蓋を下ろすとまた涙が溢れる。その涙を周の薄い唇がそっと吸い取った。
嗚呼、自分は何に祈ればいいのだろう。
「俺は、薄情で酷い奴だ」
「もう、何も言うな」 接吻けが落ちる。
享一を潰さないよう優しく覆いかぶさってくる男の体温と重さを受け止める。何度も強く抱き締め直され、優しい掌が何度も頬を、額を、髪を撫でてくれる。
切ない接吻けをかわし解いては結びなおす手指を携え、2人して柔らかな夜に滑り落ちていった。
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翠滴 1―1 →
翠滴 2―1 →
翠滴 3―1 →
いつまでも吐精する時の極まった快感を引き摺り戸惑った。神経の塊になったかのような躰は周の精を受けぶるりと震えた。周の手が性器に巻き付いた紐を解く。
きつく喰い込み刃物で断たない限り二度と取れないのではないかと思った絹の紐は、周が軽く引っ張っただけで呆気なく享一を解放した。勢いの衰えた雄蕊から極少量の残滓が細い糸を引いて落ちる。いつまでも引かない快感が苦しい。
大腿を伝う周の精のささやかな刺激にぞわぞわとやるせない息を吐く。
「は、あ…あ」
柔らかい唇が肩口に接吻けきゅっと吸い上げると、喘ぎ声が甘やかな色彩を帯びる。
周が掠れた低い声で呻いた。色めいたその声が鼓膜の内側で艶めく熱を撒き散らす。
周…アマネ。
好きとか愛しいとかそんな言葉も感情もまだるこしくなって、いっそこの男の一部になってしまえたらいいのにとさえ、思ってしまう。
身体を返され周と向き合った。
淡い光に照らされ、上気した身体を汗で光らせ肩で息をしている周から目が離せなくなる。瑞々しい翠の瞳に完全に魅入られ、搦まる視線の強さを感じた。
美しい男。
たとえ容姿が今のように端整でなくとも、この瞳と若竹のような強靭でしなやかな心がある限り、自分はこの男をやはり美しいと思う気がする。いつか年老いもしくは何かの要因で姿かたちがかわってしまったとしても、この男を愛し続けるに違いない。
熱く濁った赤い沼に咲く白い花。
周は強い。かつて周は自分も神前と同じ深い業を持つと言った。同じ毒を持つと。
だが、周が神前のように自分の毒に染まる事は無い。喩えあの辰村に踏み躙られたとしても、この男は変らない。 蓮の花に潜む蟲は、純白の花を永遠に穢す事はできないだろう。
だが、自分は…
交互に指を絡められた手の平を、そっと引き抜いた。
潤んだ翠の瞳に、せわしなく胸を上下させシーツに横たわる自分が映っている。その瞳に映る自分の首に、周の両手が巻き付いた。
「まだ死にたいか」
硬い声は鼓膜を通過するや否や、鋭く尖った破片に変わり心臓をめがけ落ちてきた。
「俺は最低な人間だ。心の中では周を想いながら、欲望を抑える事が出来なかった。俺は瀬尾に・・・いや、自分に負けたんだ」
「では、何故ヴィラに現れた」
古い空調の低く唸る音が、耳の奥で鳴っている。
ビジネスホテルのベッドで、打ちひしがれた本当の気持ちや、望みを抱締め息を潜めて丸まっていた。あの息の詰まる時間が、今も続いているかのように空調音を共って耳の側で息衝き始める。
ペントハウスから追い返され、周に見捨てられたと感じた時の喪失感と絶望感は、今も暗澹たる冷たい暗闇へと自分を追い立てようとする
エルミタージュで周を辰村にレンタルすると聞かされた時、凄まじいほどの感情が自分を衝き動かした。辰村への怒りや周に対する申し訳なさ、危機を憂う感情だけではなかった。そこには確かに理性を灼き尽くす嫉妬と、自分のものに触れさせたくないという自分勝手な激しい憎悪感があった。
あの瞬間、全ての答えが出たのだと思う。
周以外はどうでもいい。周の鼓動だけを聞いていたい、周さえいればいいと、そう思った。
「俺はあのヴィラの石門を潜った時、たったひとつの望み以外のすべてを棄てた」
自分を見下ろす周の顔を、強い眼差しが見返す。
「バンクーバーで拘束されている哀れな瀬尾も、自分を捨てても守ってやりたいと思った実の血を分けた子供も。俺は自分の親父と同じように・・・・」
享一の言葉が途切れ、視線が過去の時間を彷徨い、苦しげに細められる。
自分に回された細く頼り気の無い小さな腕の温もりが、するりと解けて離れていくのを感じた。
保育園の生活発表会で楽しそうにくるくる回る小さな背中、赤ん坊の名残を色濃く残す寝顔。幼い癖に周との決別に泣く享一の頸に腕を回し、慰めながら一緒に泣いてくれた。幼くも優しい感情が自分に流れ込み、愛するものを失う悲しさを小さな腕で包んでくれた。泣けて、泣けて、仕方が無かった。
周に視線を戻した享一の瞳から涙が静かに零れる。真っ直ぐに自分を見つめる、真摯な翠の眼差しに魂が震えた。
懺悔の涙を流しても、手に入れたい男がいる。
「俺は・・・」
恋に狂い、我が子を捨てる。
父親に捨てられたトラウマを持つ自分が、あれ程蔑んできた親父と同じ事をしようとする。この身はもう、愚かとしか言いようがない。
小刻みに震えながら吐露しようとする唇を、周の指が抑えた。
「言うな享一。それを口にしたらお前は必ず後悔する。俺はお前が息子の為に瀬尾を助けたいと言ったから、辰村と取引をする気になったんだ。瀬尾 和輝はお前の大事な息子だ、それでいい」
馨しい春の夜に紛れる密やかな声が、享一の剥き出しの心を包みなおす。
涙に濡れる瞳に目蓋を下ろすとまた涙が溢れる。その涙を周の薄い唇がそっと吸い取った。
嗚呼、自分は何に祈ればいいのだろう。
「俺は、薄情で酷い奴だ」
「もう、何も言うな」 接吻けが落ちる。
享一を潰さないよう優しく覆いかぶさってくる男の体温と重さを受け止める。何度も強く抱き締め直され、優しい掌が何度も頬を、額を、髪を撫でてくれる。
切ない接吻けをかわし解いては結びなおす手指を携え、2人して柔らかな夜に滑り落ちていった。
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翠滴 3―1 →
□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
早くこのエリアを・・・とか言いながら気がつけばあっさり脱出していました。。ああ、心が軽い~~(笑)
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ハッピーな場面なのに、享一に父親のことを言わせなかった周の気持ちにぐっと来ました。男だね。