03 ,2010
翠滴 3 born 9 (92)
「殺してくれ、周の手で。俺はこの先も周を裏切るかもしれない・・・・・」
もう、自分は周なしでは生きられない。周という人間に触れ、愛しく思い、周の心音だけを聞きながら生きたいと願う。
そう願いながらも餓えれば、他の男の肌に手を伸ばす。こういう性分なのか。だとしたら瀬尾の言うとおり自分はどうしようのない淫乱だ。
こんな男は周のそばにいる資格がない。周を裏切る自分を赦せない。
「もう、堪えられない」 こんな男に父親は務まる訳がない。疲れた。
「だから?」
はっと見上げた先に、自分を睥睨する黒いレンズが、きりっと吊り上った眉の下で険しい光を放つ。
周の雄雛を思わせる凛々しい顔が好きだ。出会って5年の歳月が流れても、周に見つめられると心臓のリズムが少し高めのキーをたたき始める。
容姿などすぐに慣れると言ったくせに、周は嘘つきだ。
ああ、そうじゃない。この容を突き抜けたその奥にあるものに自分は魅了されているのだ。豪胆でしなやかで、寛容で嫉妬深く情が厚くて容赦がない。パラドックスを携えて轟音を立てながら悠々と己の道を行く。
自分の世界を揺るがし、魅了し続けるこの男の腕にかかって全てを終わりに出来るなら、地獄に落ちたとしてもきっと後悔はしない。
享一の手を振り解き、周が立ち上がった。
間接照明を残し明かりを落として戻ってくる。柔らかな光が、闇の中に立つ周を照らした。
薄灯りの中、周が着ていたスーツの上着を脱ぎ床に落とした。続いてネクタイのノットに指を指し込み、衣擦れの音をさせながら首から引き抜くと上着と同じように床に落とす。ワイシャツのボタンを外して寛げ、周の意志を表すように両袖を捲り上げる。
一連の無駄がなく優美な動きは目元を薄く染めた享一の目を釘付けにしている。
享一を見つめる目は、慈悲を与えるようにやや細められ優しげにも見えたが、狩をした猛獣がほくそ笑みながら獲物を測っているようにも見えた。
無言のままベッドに上がると、膝を折り享一の上に跨った。
上背のある周は膝を折っても高く聳えるように見える。
周は自分を見下ろす双眸から黒いレンズを外すと、二つまとめて床に投げ捨てた。現れた艶やかな翠の虹彩は薄っすら憤怒の赤味を帯び、その奥で零下の青い業火が激しく燃えている。
享一は、静かに目を閉じた。この炎に焼き尽くされるなら本望だ。
「そうやってまた俺を独りにするのか」
ちかりとそれまで見えていなかったものが、閃光を放って消える。
「周・・・・・」 周を見上げる頭を無意識に横に振る。
消えた閃光の片鱗を手繰り寄せようと思いを巡らすその首に、周の長い指が巻きつく。
ピクリと躰がひとつ大きく震えた。
急所を探るように柔らかい肉を撫上げる指に合わせて、奥深くから甘い痺れが這い上がる。愛撫に似た指の動きに、肉欲の渇きを癒そうと全ての感覚がはしたなく飛びついた。
指先は柔らかい皮膚の下の血脈を探し当てると、その上で止まった。
周を見上げる黒曜石の瞳が隠微に艶めき、花弁の唇から甘ったるい吐息が漏れた。
全てを掌中に納めた周の姿からゆらりと陽炎めいたものが立ち上がる。視線に心臓を貫かれざわざわと血液が騒ぎ始める。
「それがお前の願いだというなら、望みどおり俺がこの手で殺してやる」
周の掌に喉仏の上辺りを軽く圧迫されただけで息が上がった。
酸素を求めて自然に開いた口を周の唇に塞がれ、逼迫した心臓が早鐘を打つ。息苦しさに自分の意思に反して全身がぐっと仰け反り、重なりが解けた口の端からひゅっという音がして肺に酸素が流れ込む。その唇をまたふさがれた。
口腔を弄られ苦しさに縮こまる舌を無理やり絡められ抜ける程強く吸い上げられる。久しぶりに与えられた接吻けに欲深な躰は興奮し、息苦しさに拍車がかかった。
何度も角度が変わりそのたび開いた細い隙間から息をした。頭の中心で熱い緋色の花がひらく。足のつま先から髪の毛の先まで全身に熱が燈り陶酔に沈み出す。
苦しさと快感で全身の毛穴がぱっくりと開いた気がした。
「う、ううっ・・・・・ぐ、んっ!」
首への圧迫が解かれ、唇を合わせたまま力任せにパジャマの前が開かれる。ボタンの千切れ飛ぶ音がし、熱に湿った肌が晒され瞬時に冷えた。
頭を抑えられ息を吸い込もうと喘ぐ唇を失神する寸前まで貪られ、やっと開放された。身を捩り、急激に肺に流れ込んだ酸素に咽ながらゲホゲホと咳き込む享一に冷ややかな声が降る。咳き込む苦しさに涙が零れた。
うつ伏せ咽返る上半身から乱暴な手つきでパジャマを脱がされ、下衣にも手がかかる。
咽ていた躰が硬直した。
「いやだ!」
身体をねじって、振り向いた目の前で翠の瞳が冷笑する。
頭にかっと血が駆け上った。
殺してくれと懇願しておいて、周に首を絞められ接吻けをされて馬鹿みたいに感じてしまった。下衣の下に隠された自分の薄汚い倒錯した欲望を周に見られたくない。瀬尾の言うとおりいやらしくどこまでも貪欲で淫乱な自分を見せたくなかった。
「なぜ逃げる。享一、俺に殺されたいんだろう?」
目の前に迫った周が壮絶な色香を放ちながら狂気に似た嗤いを浮かべる。荒れ狂う嵐のような激しさでうつ伏せた半身を乱暴に戻され、下衣が下着ごと脚から引き抜かれた。下肢を隠そうと曲げた脚の付け根に周の膝が乗り、全体重で押さえつけられた。
「・・・・・うっ」
呻き声を上げ、反動で振れた頭を両手で捕まえられる。大きな掌に両側から包まれた頭は微動だに出来ない。頭を掬われ、冷酷な嗤いを浮かべる周の目の前まで引き上げられた。周の膝が半勃ちのペニスを押し潰す。
「ああうっ・・・・ぅ!」
「なら、俺にヤり殺されたとしても文句はないな」
驚きと強烈な痛みでこわばった唇に、周の唇が重なってきた。
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もう、自分は周なしでは生きられない。周という人間に触れ、愛しく思い、周の心音だけを聞きながら生きたいと願う。
そう願いながらも餓えれば、他の男の肌に手を伸ばす。こういう性分なのか。だとしたら瀬尾の言うとおり自分はどうしようのない淫乱だ。
こんな男は周のそばにいる資格がない。周を裏切る自分を赦せない。
「もう、堪えられない」 こんな男に父親は務まる訳がない。疲れた。
「だから?」
はっと見上げた先に、自分を睥睨する黒いレンズが、きりっと吊り上った眉の下で険しい光を放つ。
周の雄雛を思わせる凛々しい顔が好きだ。出会って5年の歳月が流れても、周に見つめられると心臓のリズムが少し高めのキーをたたき始める。
容姿などすぐに慣れると言ったくせに、周は嘘つきだ。
ああ、そうじゃない。この容を突き抜けたその奥にあるものに自分は魅了されているのだ。豪胆でしなやかで、寛容で嫉妬深く情が厚くて容赦がない。パラドックスを携えて轟音を立てながら悠々と己の道を行く。
自分の世界を揺るがし、魅了し続けるこの男の腕にかかって全てを終わりに出来るなら、地獄に落ちたとしてもきっと後悔はしない。
享一の手を振り解き、周が立ち上がった。
間接照明を残し明かりを落として戻ってくる。柔らかな光が、闇の中に立つ周を照らした。
薄灯りの中、周が着ていたスーツの上着を脱ぎ床に落とした。続いてネクタイのノットに指を指し込み、衣擦れの音をさせながら首から引き抜くと上着と同じように床に落とす。ワイシャツのボタンを外して寛げ、周の意志を表すように両袖を捲り上げる。
一連の無駄がなく優美な動きは目元を薄く染めた享一の目を釘付けにしている。
享一を見つめる目は、慈悲を与えるようにやや細められ優しげにも見えたが、狩をした猛獣がほくそ笑みながら獲物を測っているようにも見えた。
無言のままベッドに上がると、膝を折り享一の上に跨った。
上背のある周は膝を折っても高く聳えるように見える。
周は自分を見下ろす双眸から黒いレンズを外すと、二つまとめて床に投げ捨てた。現れた艶やかな翠の虹彩は薄っすら憤怒の赤味を帯び、その奥で零下の青い業火が激しく燃えている。
享一は、静かに目を閉じた。この炎に焼き尽くされるなら本望だ。
「そうやってまた俺を独りにするのか」
ちかりとそれまで見えていなかったものが、閃光を放って消える。
「周・・・・・」 周を見上げる頭を無意識に横に振る。
消えた閃光の片鱗を手繰り寄せようと思いを巡らすその首に、周の長い指が巻きつく。
ピクリと躰がひとつ大きく震えた。
急所を探るように柔らかい肉を撫上げる指に合わせて、奥深くから甘い痺れが這い上がる。愛撫に似た指の動きに、肉欲の渇きを癒そうと全ての感覚がはしたなく飛びついた。
指先は柔らかい皮膚の下の血脈を探し当てると、その上で止まった。
周を見上げる黒曜石の瞳が隠微に艶めき、花弁の唇から甘ったるい吐息が漏れた。
全てを掌中に納めた周の姿からゆらりと陽炎めいたものが立ち上がる。視線に心臓を貫かれざわざわと血液が騒ぎ始める。
「それがお前の願いだというなら、望みどおり俺がこの手で殺してやる」
周の掌に喉仏の上辺りを軽く圧迫されただけで息が上がった。
酸素を求めて自然に開いた口を周の唇に塞がれ、逼迫した心臓が早鐘を打つ。息苦しさに自分の意思に反して全身がぐっと仰け反り、重なりが解けた口の端からひゅっという音がして肺に酸素が流れ込む。その唇をまたふさがれた。
口腔を弄られ苦しさに縮こまる舌を無理やり絡められ抜ける程強く吸い上げられる。久しぶりに与えられた接吻けに欲深な躰は興奮し、息苦しさに拍車がかかった。
何度も角度が変わりそのたび開いた細い隙間から息をした。頭の中心で熱い緋色の花がひらく。足のつま先から髪の毛の先まで全身に熱が燈り陶酔に沈み出す。
苦しさと快感で全身の毛穴がぱっくりと開いた気がした。
「う、ううっ・・・・・ぐ、んっ!」
首への圧迫が解かれ、唇を合わせたまま力任せにパジャマの前が開かれる。ボタンの千切れ飛ぶ音がし、熱に湿った肌が晒され瞬時に冷えた。
頭を抑えられ息を吸い込もうと喘ぐ唇を失神する寸前まで貪られ、やっと開放された。身を捩り、急激に肺に流れ込んだ酸素に咽ながらゲホゲホと咳き込む享一に冷ややかな声が降る。咳き込む苦しさに涙が零れた。
うつ伏せ咽返る上半身から乱暴な手つきでパジャマを脱がされ、下衣にも手がかかる。
咽ていた躰が硬直した。
「いやだ!」
身体をねじって、振り向いた目の前で翠の瞳が冷笑する。
頭にかっと血が駆け上った。
殺してくれと懇願しておいて、周に首を絞められ接吻けをされて馬鹿みたいに感じてしまった。下衣の下に隠された自分の薄汚い倒錯した欲望を周に見られたくない。瀬尾の言うとおりいやらしくどこまでも貪欲で淫乱な自分を見せたくなかった。
「なぜ逃げる。享一、俺に殺されたいんだろう?」
目の前に迫った周が壮絶な色香を放ちながら狂気に似た嗤いを浮かべる。荒れ狂う嵐のような激しさでうつ伏せた半身を乱暴に戻され、下衣が下着ごと脚から引き抜かれた。下肢を隠そうと曲げた脚の付け根に周の膝が乗り、全体重で押さえつけられた。
「・・・・・うっ」
呻き声を上げ、反動で振れた頭を両手で捕まえられる。大きな掌に両側から包まれた頭は微動だに出来ない。頭を掬われ、冷酷な嗤いを浮かべる周の目の前まで引き上げられた。周の膝が半勃ちのペニスを押し潰す。
「ああうっ・・・・ぅ!」
「なら、俺にヤり殺されたとしても文句はないな」
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
4~5日ほどPCのない場所に参ります。
コメントのレス等遅くなると思いますので、それでも構わんぜという方がおられましたら
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ほんの拙文しか書けない私ですがですが、書いていく励みになります。。
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周さま素敵!!
> 「なら、俺にヤり殺されたとしても文句はないな」
はい、文句はございません。
ああ、お仕事から帰ってきたらまた読もう。
あと10回ぐらい・・・。
紙魚さんしばらくいないのね~、さびしいです。