03 ,2010
翠滴 3 born 7 (90)
傾きかけた春の陽光に小さな黄色い綿のような花をたくさんつけたミモザの枝が揺れた。
周からペントハウスの庭がエルミタージュのランドスケープと同じ人物のデザインである事をあとから知らされた。そう言われてみれば、そこかしこに同じ匂いがするような気がする。
一見、自然に自生しているように見えてその実、緻密に一つ一つの草木が配置されている。建物の屋上でこれだけの木々を茂らせるとなると、相当土を盛らなければならない。設計者である河村とのコラボレーションだったからこそ成立した美しい庭だ。
夕刻に近付くにしたがって日は翳り一気に室温がさがる。享一はベッドから降りてヒーターのスイッチを入れにいった。温風が部屋の空気を暖め、ふわりと眠りを誘う。
享一はベッドの上で広げていた建築雑誌の類を閉じ背中に当てたクッションにもたれ込んだ。
包むように躰を受け止め、背中を押し返す弾力に、昨夜の背中を擦る周の掌を思い出す。途端に自分の中の奥深いところに、じくりとした未熟な熱の塊が生まれるのを感じた。
体力が回復し動けるようになると毎夜、白いタイルとチャコールグレイの石で囲まれた広いバスルームの浴槽に、自分だけが沈められた。自分ひとりが全裸にされ、周の手のひらで身体を清められてゆく。
このペントハウスに運び込まれてからの10日ほどの間、常に周を身近に感じながら親密なと言う意味ではお互い触ずにいる。
周の大きく繊細な手が着替えを手伝い、食べ物を口に運び唇をその指先で拭い、薄い唇から水を与えられようとも、そこには享一を求める意図がない。
それが辛い。
周の側で療養をすることを告げられた時、過ぎた期待をしないよう自分を戒めた。以前のような関係を望んではいけないし、戻りたいと人知れず切望する厚顔さを周に知られたくはなかった。
それなのに自分の決意に反して皮膚の下に、唇の先端に・・・・周に触れられたさきから小さな熱い痺れが生まれ、それが躰の芯へと蓄積されていった。所以の定まらない半端な熱は嵩が高まると、ふとした拍子に今みたいな昇華される望みのない未熟な熱の塊へと変化し、享一を苦しめた。
いけないことだと思いながらも昨夜の周の姿を、肌の上を滑ってゆく整った手指の動きを頭の中でトレースし、自分の手のひらで追ってゆく。
頬、項、背中・・・・・髪。耳の後ろから足の指の間まで、周は時間を掛けて丁寧に洗ってくれる。
湯で温まり感じやすくなった肌を、ボディソープを泡立てた両手が泡を塗りたくりながら滑ってゆく。
パジャマの裾から手を差し込み脇腹をなぞると、周の手になぞられた時のように急激に熱が高まり、キンと思考がぶれた。
胸の薄い丘陵を周に円を描くように洗われ、胸の尖りを掠める度に石鹸に濡れた肌がぴくりと震える。下腹部に指先が触れると堪えられなくなって「お願いだから、自分で洗わせてくれ」と身を逃がした。その度、ワイシャツの袖を捲った強い両腕に捕まえられ引き戻された。
周の手指は、そんな享一の切羽詰った気持ちなどまるで介在しないかのように遠慮なく尻の狭間を割る。会陰に指を這わせ、兆しを見せる雄蕊を包み扱くように指を蠢かせ亀頭の切れ込みを開き、叢から陰嚢までも綺麗に洗い上げた。
毎夜、周に意図はないのだと思いつつ、勝手に煽られ肌を熱くする自分が恥ずかしくて仕方がなかった。直視が堪えられず身を硬くし潤んだ目を強く閉じて最後の湯が掛けられるのを待つ。俯けた顔を上げるように促され視線を上げると、服を着たままの周が目に入り、またいたたまれなくなった。
頭では理解している筈の「求められない」「与えられない」苦しみと、温度のない周の視線に晒される羞恥が裸の肌を苛んだ。
今ここには、冷静に自分を見つめる翠の瞳はない。消えない刺青のように情交の記憶が刻まれた肌は、別の男に刻まれた熱を凌駕して歓喜の漣を細胞のひとつひとつに起こしてゆく。
「アマネ・・・・」
禁じられた言葉を囁くように唇にのせると、沸点に達することの出来なかった熱が一気に頂点を極め躰がかっと熱くなった。一度口に上らせると止まらなくなる。たった独りの部屋で、その名は何度も迸るようにして口を衝いて出た。
「くっ・・・・・・!ア・・マネ、周・・・・・ああっ、達く・・」
誰にも聞かせる事のない断末の声を上げて熱い塊を吐き出した。
レバーを上げると、流水と共に手のひらの白濁が流れていった。情けなくて、惨めでやるせなかった。涙が白い陶器のシンクの中に零れ落ち、渦巻く水に呑み込まれ流れていく。
たった一回の吐精が、心にも身体にも堪えた。
脱力しベッドに横たわる。自分の厭らしさがたまらない。こんな卑しい自分に償いなど出来るのだろうが。
陽が落ちて室温がまた下がり、静かな部屋でファンヒーターのモーター音が唸りを上げる。耳の奥にこびりつく安いビジネスホテルの古い空調の音がシンクロし耳の奥で鳴っている。
睡魔が背中に圧し掛かる。享一は上体を起こし眠気を遠ざけた。
ひとりで眠りたくなかった。
周は協賛会社との会議で昼過ぎから外出したままだ。
たぶん辰村の弟の会社に出向いている。祝言の時に周に未練の言葉を吐きながら、縋り付かんばかりにして泣いていた痘痕顔の男を思い出すと気が滅入った。
この先、周は本当に辰村 剛生自身に会う事はないのだろうか?
自分の引き起こした周を窮迫する事態に罪悪感と悔恨の気持ちが募る。
不安な気持ちがざわざわと騒がしい。早く周の無事な姿を見て安心したい。
庄谷で別れた後の2年間、周に恋焦がれ、それこそ重症といってもいい片思いをしていた。周が自分を突き放した真相など何も知らず、ただ遊ばれて捨てられたとそう思い込み、それでも手が届かぬ男を想い続けた。
苦悩の日々の末に邂逅を果たした周は、桜の咲く頃に迎えに行くと言った。不安や心配も確かにあったがふわふわと雲の中にいるような気分で周を待ちわびた。そして、周と庄谷で誓いを立てた夜、降りしきる花弁の下で周と出会えた奇跡に歓喜し震えた。
今も周を待っている。
だが、あの頃とは決定的に違う。
自分の中には、生々しく狂おしいばかりの邪で淫靡な欲望と情念が巣食っている。
断片的に訪れる浅い夢の中で、暗闇に向けて手指を伸ばす夢を何度も見た。
その闇が怖いくせに、嫌だと思うくせに、手を伸ばさずにはいられない。自分が恐怖を押しのけても欲しがっているものの正体に、自分が汚れてしまったことを自覚せざるを得なかった。
眠りたくない。
眠れば夢の中で、得体の知れない闇にすら抱かれたいと願う自分の浅ましい姿を見ることになる。
黄昏の後の空気が蒼い色に染まり出した薄闇の中で、今しがた自分の精を受け止めた両掌を開いた。酷く穢れていると思った。
周を裏切り陥れる真似をしておきながら、自分の欲望を吐き出す。この手は周だけではなく瀬尾の肌も忘れてはいない。
夢は無防備だ。自分の薄汚れた欲望を塗りつぶし覆い隠す事ができない。
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翠滴 1―1 →
翠滴 2―1 →
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周からペントハウスの庭がエルミタージュのランドスケープと同じ人物のデザインである事をあとから知らされた。そう言われてみれば、そこかしこに同じ匂いがするような気がする。
一見、自然に自生しているように見えてその実、緻密に一つ一つの草木が配置されている。建物の屋上でこれだけの木々を茂らせるとなると、相当土を盛らなければならない。設計者である河村とのコラボレーションだったからこそ成立した美しい庭だ。
夕刻に近付くにしたがって日は翳り一気に室温がさがる。享一はベッドから降りてヒーターのスイッチを入れにいった。温風が部屋の空気を暖め、ふわりと眠りを誘う。
享一はベッドの上で広げていた建築雑誌の類を閉じ背中に当てたクッションにもたれ込んだ。
包むように躰を受け止め、背中を押し返す弾力に、昨夜の背中を擦る周の掌を思い出す。途端に自分の中の奥深いところに、じくりとした未熟な熱の塊が生まれるのを感じた。
体力が回復し動けるようになると毎夜、白いタイルとチャコールグレイの石で囲まれた広いバスルームの浴槽に、自分だけが沈められた。自分ひとりが全裸にされ、周の手のひらで身体を清められてゆく。
このペントハウスに運び込まれてからの10日ほどの間、常に周を身近に感じながら親密なと言う意味ではお互い触ずにいる。
周の大きく繊細な手が着替えを手伝い、食べ物を口に運び唇をその指先で拭い、薄い唇から水を与えられようとも、そこには享一を求める意図がない。
それが辛い。
周の側で療養をすることを告げられた時、過ぎた期待をしないよう自分を戒めた。以前のような関係を望んではいけないし、戻りたいと人知れず切望する厚顔さを周に知られたくはなかった。
それなのに自分の決意に反して皮膚の下に、唇の先端に・・・・周に触れられたさきから小さな熱い痺れが生まれ、それが躰の芯へと蓄積されていった。所以の定まらない半端な熱は嵩が高まると、ふとした拍子に今みたいな昇華される望みのない未熟な熱の塊へと変化し、享一を苦しめた。
いけないことだと思いながらも昨夜の周の姿を、肌の上を滑ってゆく整った手指の動きを頭の中でトレースし、自分の手のひらで追ってゆく。
頬、項、背中・・・・・髪。耳の後ろから足の指の間まで、周は時間を掛けて丁寧に洗ってくれる。
湯で温まり感じやすくなった肌を、ボディソープを泡立てた両手が泡を塗りたくりながら滑ってゆく。
パジャマの裾から手を差し込み脇腹をなぞると、周の手になぞられた時のように急激に熱が高まり、キンと思考がぶれた。
胸の薄い丘陵を周に円を描くように洗われ、胸の尖りを掠める度に石鹸に濡れた肌がぴくりと震える。下腹部に指先が触れると堪えられなくなって「お願いだから、自分で洗わせてくれ」と身を逃がした。その度、ワイシャツの袖を捲った強い両腕に捕まえられ引き戻された。
周の手指は、そんな享一の切羽詰った気持ちなどまるで介在しないかのように遠慮なく尻の狭間を割る。会陰に指を這わせ、兆しを見せる雄蕊を包み扱くように指を蠢かせ亀頭の切れ込みを開き、叢から陰嚢までも綺麗に洗い上げた。
毎夜、周に意図はないのだと思いつつ、勝手に煽られ肌を熱くする自分が恥ずかしくて仕方がなかった。直視が堪えられず身を硬くし潤んだ目を強く閉じて最後の湯が掛けられるのを待つ。俯けた顔を上げるように促され視線を上げると、服を着たままの周が目に入り、またいたたまれなくなった。
頭では理解している筈の「求められない」「与えられない」苦しみと、温度のない周の視線に晒される羞恥が裸の肌を苛んだ。
今ここには、冷静に自分を見つめる翠の瞳はない。消えない刺青のように情交の記憶が刻まれた肌は、別の男に刻まれた熱を凌駕して歓喜の漣を細胞のひとつひとつに起こしてゆく。
「アマネ・・・・」
禁じられた言葉を囁くように唇にのせると、沸点に達することの出来なかった熱が一気に頂点を極め躰がかっと熱くなった。一度口に上らせると止まらなくなる。たった独りの部屋で、その名は何度も迸るようにして口を衝いて出た。
「くっ・・・・・・!ア・・マネ、周・・・・・ああっ、達く・・」
誰にも聞かせる事のない断末の声を上げて熱い塊を吐き出した。
レバーを上げると、流水と共に手のひらの白濁が流れていった。情けなくて、惨めでやるせなかった。涙が白い陶器のシンクの中に零れ落ち、渦巻く水に呑み込まれ流れていく。
たった一回の吐精が、心にも身体にも堪えた。
脱力しベッドに横たわる。自分の厭らしさがたまらない。こんな卑しい自分に償いなど出来るのだろうが。
陽が落ちて室温がまた下がり、静かな部屋でファンヒーターのモーター音が唸りを上げる。耳の奥にこびりつく安いビジネスホテルの古い空調の音がシンクロし耳の奥で鳴っている。
睡魔が背中に圧し掛かる。享一は上体を起こし眠気を遠ざけた。
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周は協賛会社との会議で昼過ぎから外出したままだ。
たぶん辰村の弟の会社に出向いている。祝言の時に周に未練の言葉を吐きながら、縋り付かんばかりにして泣いていた痘痕顔の男を思い出すと気が滅入った。
この先、周は本当に辰村 剛生自身に会う事はないのだろうか?
自分の引き起こした周を窮迫する事態に罪悪感と悔恨の気持ちが募る。
不安な気持ちがざわざわと騒がしい。早く周の無事な姿を見て安心したい。
庄谷で別れた後の2年間、周に恋焦がれ、それこそ重症といってもいい片思いをしていた。周が自分を突き放した真相など何も知らず、ただ遊ばれて捨てられたとそう思い込み、それでも手が届かぬ男を想い続けた。
苦悩の日々の末に邂逅を果たした周は、桜の咲く頃に迎えに行くと言った。不安や心配も確かにあったがふわふわと雲の中にいるような気分で周を待ちわびた。そして、周と庄谷で誓いを立てた夜、降りしきる花弁の下で周と出会えた奇跡に歓喜し震えた。
今も周を待っている。
だが、あの頃とは決定的に違う。
自分の中には、生々しく狂おしいばかりの邪で淫靡な欲望と情念が巣食っている。
断片的に訪れる浅い夢の中で、暗闇に向けて手指を伸ばす夢を何度も見た。
その闇が怖いくせに、嫌だと思うくせに、手を伸ばさずにはいられない。自分が恐怖を押しのけても欲しがっているものの正体に、自分が汚れてしまったことを自覚せざるを得なかった。
眠りたくない。
眠れば夢の中で、得体の知れない闇にすら抱かれたいと願う自分の浅ましい姿を見ることになる。
黄昏の後の空気が蒼い色に染まり出した薄闇の中で、今しがた自分の精を受け止めた両掌を開いた。酷く穢れていると思った。
周を裏切り陥れる真似をしておきながら、自分の欲望を吐き出す。この手は周だけではなく瀬尾の肌も忘れてはいない。
夢は無防備だ。自分の薄汚れた欲望を塗りつぶし覆い隠す事ができない。
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
うーん、不本意ながらまたひとりエチ書いてしまった。お風呂シーンがひとりエチに。
ご期待いただいたみなさま、ちょっと変わってしまいましたけど、これでご勘弁くださいませ。
読み返しの時間がなくて、押し出しです。
おかしなところに気がつかれましたらご一報いただけると嬉しいです。
今日は夕方まで出掛けておりまして、コメレスなど遅くなりそうです。すみません~
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当に、いつもありがとうございます。
ほんの拙文しか書けない私ですがですが、書いていく励みになります。。
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うーん、不本意ながらまたひとりエチ書いてしまった。お風呂シーンがひとりエチに。
ご期待いただいたみなさま、ちょっと変わってしまいましたけど、これでご勘弁くださいませ。
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おかしなところに気がつかれましたらご一報いただけると嬉しいです。
今日は夕方まで出掛けておりまして、コメレスなど遅くなりそうです。すみません~
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はーい! みなさーん!
上の文章、もう一回読みましょう。
悶えましたか?
ましたね?
診断結果です。 あなたは周病です。
私もなんです~紙魚先生~。
もう、どSです。周さん。
どSですよ!どS ←言いすぎ
ここまで、やっといて享一に一人エッチさせる!
読者大喜びじゃないですか?
周さん、ばんざーい! 紙魚さん「お風呂シーン」に「一人エッチ」のオマケまで、ありがとうございました。
やまいはますます重くなりました。アマネ病・・・。