03 ,2010
翠滴 3 born 3 (86)
柔らかく額をなでられる感覚に目が覚めた。
額から離れてゆく手のひらを追いかけて視線を上げると周がベッドに腰掛け自分の顔を覗き込んでいた。まだ周が傍にいることが、なんとなく信じられず、夢の続きを見ているのではないかと思った。
「気分はどうだ?」
点滴が効いたのか、一度目に目が覚めたときより確実に意識も気力もはっきりしている。
「ありがとう・・・周。あの、俺の鞄ってどこにあるか知らないか?」
「享一の鞄ならクローゼットの中に入っている。何か必要なものがあるならなら持ってきてやる」
「携帯を取ってきてくれないかな。実は、アパートに前空き巣が入って・・・・今はビジネスホテルに泊まってるんだ。連絡しておかないといけないし、それに会社にも」
空き巣と聞いても周は驚きもせず、無表情のまま黙って聞いている。
とうに知っているのかもしれないし、周を再びレンタルをさせるにまで追い込んだ自分に失望し、興味を失っているからの反応かもしれなかった。わずかでも周の反応に何かを期待し、またそんなことを考える自分の姑息さが嫌になる。
いつか周の足手纏いになる。
雄々しい鷲のように大きな羽を広げ躍進する周を横で見ながら、そんな予感がいつもあった。
それが、最悪の形で的中した。
目を合わせて告げると不甲斐ない涙を零しそうで、顔を背けた。ガラスの向こうでちらちらと暗闇に白い雪が舞う。その時になって、自分が見たと思った桜吹雪は、ただの季節遅れの雪だったことに気がついた。
これが現実だ。
「俺は圭太さんのお父さんの病院でなくても他の病院でいいから、明日にでも開いているところを探して入ろうかと思う」
言った瞬間、背中越しの空気がぴしりと凍りついたのを肌で感じた。
「ここがあるのに、なぜその必要がある?」
周の抑えた抑揚の声音が背中にびんと響いた。
「そんなに、ここが嫌か?」
「そうじゃない。そうじゃ・・・・」
咄嗟に向きを変えると、思いがけず周の笑った顔とぶつかり言葉を失くした。
笑んでいる周の顔がゆるゆると変化してゆく。
「心配しなくても、お前にはたっぷり償ってもらうつもりでいるから、ここでゆっくり養生すればいい」
高みから見下ろす愉悦に浸る翡翠の眼も、弓形に引かれ吊り上った口角も、まるで独裁者のような傲慢さを放つ。
頬に伸びた指先がさらりとすべり顎を摘まれた。さわさわと全身の皮膚の表面で細波がたつ。その皮膚のすぐ内側で微弱な熱が篭り始め動けなくなった。
「会社は大石設計部長に連絡を入れておいた。ホテルも引き払ってある。享一の荷物は鞄と一緒にクローゼットの中だ」
「大石部長に直接・・・?」周はホテル・エルミタージュの発注元である日本トリニティの代表で、この後も取引の予定がある。この不景気のさなか大森建設からすればまさに大口のクライアントだ。その代表から、自分の部下の病欠願いの電話を直接もらった部長はさぞかし驚いたことだろう。
「享一がここにいることも言ってある。大石部長には、遠縁にあたる間柄だといっておいたから、仕事に復帰したら話を合わせておけばいい」
大石部長からは一言二言あるかもしれないが、人のことうをとやかく詮索するタイプの人ではないし大丈夫だろう。それよりホテルの荷物が手元に戻ったことが嬉しかった。
「ありがとう。あの・・・周、それと・・・」
少し前からから尿意を覚えトイレに行きたくなっていた。
一回目に起きた時よりは身体が動くような気がしたが、他人の手を借りないことには立ち上がれそうにない。一度気がついてしまうと危機感がどんどん高まってゆく。もぞもぞと、掛布の下で下半身をすり合わせる自分の顔が紅潮していくのがわかる。
おしっこを我慢する小学生みたいで、どうにもきまりが悪い。
「それと・・・?」
なぜか言い出せなくて言葉に詰まり、それが周との間に出来た深い溝の存在を物語っているようで、じくりと胸が痛んだ。
点滴の終わった針を腕から抜かれ、上に掛けていたコンフォータをはぐられた。ふわりと抱き上げられて驚き、自分がこのペントハウスで着ていたパジャマを着せられていることにまた驚いた。
「あと数日はこの状態が続く事になる。だから、なんでも遠慮なく言えばいい。償ってもらうのはその後だ」そう言って、パウダールームも兼ねた広いトイレに連れて行かれた。爆発寸前の状態で衛生陶器の前に立ち、思わず安堵の溜息が出た。早く出してしまいたい。
周が出ていくのを待っていると、後ろから伸びた手に下着とズボンを下ろされ吃驚し、性器に手を添えられ慌てた。
「や・・・座らせてくれれば、自分で出来るからっ」
「いいから早く出せよ。この上、膀胱炎にでもなるつもりか?」
「いやだって」
なんとか周の腕を解こうと身を捩ろうにも腕の力は弛まず、躰にも力が入らない。
強制的に背後から回る手に尿意を促され否応なく排泄させられた。放尿する姿を見られ、腕の中で恥ずかしさとみっともなさに竦みながら事が終わる。
義務的に添えられた綺麗な指が、却って自分を惨めにする。
ここで周の看病を受けるという事が、実は拷問に近いのではないかという予感にゾっとした。
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翠滴 1―1 →
翠滴 2―1 →
翠滴 3―1 →
額から離れてゆく手のひらを追いかけて視線を上げると周がベッドに腰掛け自分の顔を覗き込んでいた。まだ周が傍にいることが、なんとなく信じられず、夢の続きを見ているのではないかと思った。
「気分はどうだ?」
点滴が効いたのか、一度目に目が覚めたときより確実に意識も気力もはっきりしている。
「ありがとう・・・周。あの、俺の鞄ってどこにあるか知らないか?」
「享一の鞄ならクローゼットの中に入っている。何か必要なものがあるならなら持ってきてやる」
「携帯を取ってきてくれないかな。実は、アパートに前空き巣が入って・・・・今はビジネスホテルに泊まってるんだ。連絡しておかないといけないし、それに会社にも」
空き巣と聞いても周は驚きもせず、無表情のまま黙って聞いている。
とうに知っているのかもしれないし、周を再びレンタルをさせるにまで追い込んだ自分に失望し、興味を失っているからの反応かもしれなかった。わずかでも周の反応に何かを期待し、またそんなことを考える自分の姑息さが嫌になる。
いつか周の足手纏いになる。
雄々しい鷲のように大きな羽を広げ躍進する周を横で見ながら、そんな予感がいつもあった。
それが、最悪の形で的中した。
目を合わせて告げると不甲斐ない涙を零しそうで、顔を背けた。ガラスの向こうでちらちらと暗闇に白い雪が舞う。その時になって、自分が見たと思った桜吹雪は、ただの季節遅れの雪だったことに気がついた。
これが現実だ。
「俺は圭太さんのお父さんの病院でなくても他の病院でいいから、明日にでも開いているところを探して入ろうかと思う」
言った瞬間、背中越しの空気がぴしりと凍りついたのを肌で感じた。
「ここがあるのに、なぜその必要がある?」
周の抑えた抑揚の声音が背中にびんと響いた。
「そんなに、ここが嫌か?」
「そうじゃない。そうじゃ・・・・」
咄嗟に向きを変えると、思いがけず周の笑った顔とぶつかり言葉を失くした。
笑んでいる周の顔がゆるゆると変化してゆく。
「心配しなくても、お前にはたっぷり償ってもらうつもりでいるから、ここでゆっくり養生すればいい」
高みから見下ろす愉悦に浸る翡翠の眼も、弓形に引かれ吊り上った口角も、まるで独裁者のような傲慢さを放つ。
頬に伸びた指先がさらりとすべり顎を摘まれた。さわさわと全身の皮膚の表面で細波がたつ。その皮膚のすぐ内側で微弱な熱が篭り始め動けなくなった。
「会社は大石設計部長に連絡を入れておいた。ホテルも引き払ってある。享一の荷物は鞄と一緒にクローゼットの中だ」
「大石部長に直接・・・?」周はホテル・エルミタージュの発注元である日本トリニティの代表で、この後も取引の予定がある。この不景気のさなか大森建設からすればまさに大口のクライアントだ。その代表から、自分の部下の病欠願いの電話を直接もらった部長はさぞかし驚いたことだろう。
「享一がここにいることも言ってある。大石部長には、遠縁にあたる間柄だといっておいたから、仕事に復帰したら話を合わせておけばいい」
大石部長からは一言二言あるかもしれないが、人のことうをとやかく詮索するタイプの人ではないし大丈夫だろう。それよりホテルの荷物が手元に戻ったことが嬉しかった。
「ありがとう。あの・・・周、それと・・・」
少し前からから尿意を覚えトイレに行きたくなっていた。
一回目に起きた時よりは身体が動くような気がしたが、他人の手を借りないことには立ち上がれそうにない。一度気がついてしまうと危機感がどんどん高まってゆく。もぞもぞと、掛布の下で下半身をすり合わせる自分の顔が紅潮していくのがわかる。
おしっこを我慢する小学生みたいで、どうにもきまりが悪い。
「それと・・・?」
なぜか言い出せなくて言葉に詰まり、それが周との間に出来た深い溝の存在を物語っているようで、じくりと胸が痛んだ。
点滴の終わった針を腕から抜かれ、上に掛けていたコンフォータをはぐられた。ふわりと抱き上げられて驚き、自分がこのペントハウスで着ていたパジャマを着せられていることにまた驚いた。
「あと数日はこの状態が続く事になる。だから、なんでも遠慮なく言えばいい。償ってもらうのはその後だ」そう言って、パウダールームも兼ねた広いトイレに連れて行かれた。爆発寸前の状態で衛生陶器の前に立ち、思わず安堵の溜息が出た。早く出してしまいたい。
周が出ていくのを待っていると、後ろから伸びた手に下着とズボンを下ろされ吃驚し、性器に手を添えられ慌てた。
「や・・・座らせてくれれば、自分で出来るからっ」
「いいから早く出せよ。この上、膀胱炎にでもなるつもりか?」
「いやだって」
なんとか周の腕を解こうと身を捩ろうにも腕の力は弛まず、躰にも力が入らない。
強制的に背後から回る手に尿意を促され否応なく排泄させられた。放尿する姿を見られ、腕の中で恥ずかしさとみっともなさに竦みながら事が終わる。
義務的に添えられた綺麗な指が、却って自分を惨めにする。
ここで周の看病を受けるという事が、実は拷問に近いのではないかという予感にゾっとした。
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
キマシタ、キマシタ。アレルギーです。
今日は朝から直撃で午後は完全ダウンしました。18時UPの予定がずるずるずれ込んで、もうすぐ23時です。
明日も飛ぶのかな・・・花粉。。。ズルル~~(ずびばぜん
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当に、いつもありがとうございます。
ほんの拙文しか書けない私ですがですが、書いていく励みになります。。
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こういう微妙な時間も凄く好きだったり…
なんか片思いに戻ったみたいですね、あれ?最初からアピールされる側だったか享たん笑
しかも今日はサービスデイですか!
尿ネタありがとうございます先生!
享たんをきっちり楽しい地獄に突き落としてください周さま!