02 ,2010
翠滴 3 傀儡 24 (81)
艶やかな翠の瞳が、エントランスで辰村に捕まる享一の姿を見止めて瞠目する。
「享一・・・・・・」
隠しようのない狼狽がほんの一瞬、周の顔に浮かんで消えるのを、辰村が目の端で捉え薄く嗤った。
また周も滑らかな眼球の動きでその辰村の顔を捉え、次に温かさの欠片もない冷めた視線を享一投げて寄越した。
「どうするも何も・・・・何の用ですか?ここは、君の来るところではありませんし、もう君に用はありません。すぐに帰りなさい」
周の姿を目にして突き放した言い方に胸がかっと熱く焼け付いた。
すげなく享一を突き放し、室内へと姿を消した周をよろめくようにして追う。いつの間にか辰村の腕が外れていることにも気がつかなかった。
我を忘れ彷徨うように周の後を追う享一の後ろ姿に、辰村は面白がるような狡猾な笑いを浮かべる。
「周、帰ろう」享一の声に均整のとれた背中が僅かに震える。
プライベートプールと蓮池に囲まれた開放的なリビングの真ん中で周が振り返った。
「帰りなさいと言ったはずです」 その声にも瞳にも明らかな苛立ちが混ざっている。
「まあまあ、折角お前に会いに来た相手を早々に追い払うのもつれないだろう?」
おどけた辰村の声に、周が醒めた視線を送る。部屋に入ってきた辰村が周の背後に回り、白いシャツの身体に手をまわした。
節だった指先が広がり、周の躰のラインを辿りシャツの皺とその下の肌を弄ぶ。
決して華奢ではない周の体躯が、幅のある辰村のグレイのシャツを羽織る腕の中に収まっている。辰村のするに任せ、落ち着き払った周の目は真っ直ぐに享一を見ていた。
「酔狂だな、周。自分を切り捨てた男がお前に会わせろだとさ」
享一の顔が青ざめた。「切ったとか」「捨てた」とか、そんな意識はまるでなかった。だが、自分が周にしてきた事を並べれば、所詮そういうことになるのだ。
周を捨てたという事実はいきなり実体を持ち、鋼の楔となって自分に深々と食い込んだ。
「ばかばかしい。久しぶりに会ってみれば、捨てるのどうの。あなたはいつからそんなセンチなものの考え方をするようになったんですか?」
「ふん、俺はもともとロマンチストなのにお前らが気付かないだけだ。それに、俺はこんなチャンスをくれたこいつに随分と感謝してるんだぜ」
話している間も、辰村の手はシャツを這い、黒のボトムスの下肢にも及ぶ。周の顔に鬱陶しげな表情が浮かぶもののそれはすぐに消えた。
「感謝?これはまた、どの口から出てきたのやら。亡くなられた辰村前社長がお聞きになったら涙して喜んだことでしょうに」
「お前の叔父貴同様、俺の親父も大概な奴だったぜ・・・感謝さ。俺はもともと、その叔父貴に云われるがままに我が身を男に切り売りするお人形さんのお前には、興味はなかったからな」
辰村の鼻先が周の髪に潜り、匂いを嗅ぐように鼻を鳴らした。
「お前をレンタルしていた奴らも、弟の孝彰も、お前の見てくれやこの花みたいな匂いにぞっこんだったみたいだが、俺には全然足りねえ奴だったよ、お前は。しかも他人の手垢がベタベタくっついているとあっちゃあ、興も削がれるってもんだ」
辰村の獰猛な眼が横目で享一を見ていた。
暗に周を捨て、他の男の手垢に塗れた躰でのこのこ現われた愚かな自分を揶揄されたようで、享一は自分の不甲斐なさと辰村に対して湧くどす黒い怒りで躰を震わせ無言で立ち尽くした。
「だが、お前は蝶の如く脱皮し目を瞠るような変貌を遂げた。叔父貴の言いなりの、綺麗なだけの人形だと思っていたお前が、実は鋭い牙を隠し持った狡猾で強靭な意志を持つ牡獅子だったとは、誰も気付かなかったろうよ」
辰村の手が周の男性器を鷲掴みにする。周の躰が辰村の腕の中で強張るのが見て取れた。
享一は瞠目するが、享一を見ている周は表情を消したまま動かないでいる。
開いたガラス戸から蓮池の水面をなでた風が吹き込み、周の前髪を微かにゆらした。
「俺が抱きたいのは、押しも押されぬと誰もが信じた大企業、NKホールディングスに買収を仕掛けた男だ」
ニヤリと嗤った辰村の手が、無表情の周の顎に手がかかる。
「お前が啖呵を切ったニュースは見ものだったな、周。長い間、財界にのさばった神前一族が失脚した瞬間、胸がスカッとしたぜ。俺がお前を手に入れたいと思ったのはあの瞬間さ」
「それはどうも」周の冷ややかで抑揚のない声が答えた。
「それなのによ、騰真のおっさんがくたばった途端、さっさと永邨とも縁を切っちまいやがって。おまけに外資の代表なんて高みに納まられちゃあ、オチオチ手も出せやしねえ」
辰村が何かを思い出したようにひょいと享一を顎で指した。
「お前を変化させるきっかけになったのは、そこの平凡な男なんだろう?」
<< ←前話 / 次話→ >>
目次を見る
翠滴 1―1 →
翠滴 2―1 →
翠滴 3―1 →
□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
糸が引きそうなくらいネチネチ進めてますが、大丈夫でしょうか?
『ファミリーバランス』の方にもたくさんの方がお越し頂き、ありがとうございました。
引き続き、21日まで掲載させていただきますネ。
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当に、いつもありがとうございます。
ほんの拙文しか書けない私ですがですが、書いていく励みになります。。
■ブログ拍手コメントのお返事は、サイトの”もんもんもん”の
ブログ拍手コメ・メールのお返事からか、もしくは*こちら*から
ランキングに参加しています
よろしければ、踏んでいってくださいませ~♪
↓↓↓

にほんブログ村
糸が引きそうなくらいネチネチ進めてますが、大丈夫でしょうか?
『ファミリーバランス』の方にもたくさんの方がお越し頂き、ありがとうございました。
引き続き、21日まで掲載させていただきますネ。
■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当に、いつもありがとうございます。
ほんの拙文しか書けない私ですがですが、書いていく励みになります。。
■ブログ拍手コメントのお返事は、サイトの”もんもんもん”の
ブログ拍手コメ・メールのお返事からか、もしくは*こちら*から
ランキングに参加しています
よろしければ、踏んでいってくださいませ~♪
↓↓↓

にほんブログ村
>糸が引きそうなくらいネチネチ
と、紙魚さんが進め方を表現していますが、それって辰村さん!
昔の周さんには興味が無くって、今の自由になった周さんにこそ興味がある!
最高潮に怖い人
鳴海さんより瀬尾っちより神前より怖い人…
なんで紙魚さんこんなに次々とSキャラを…
嬉しいです(真性M)
享一!帰っちゃダメ~
食べられて~~~~。