02 ,2010
翠滴 3 傀儡 22 (79)
「あなたには関係がない」それが鳴海の答えだった。
「そんなはずはない!あの人は、俺のことを知っていた。5年前の・・・あの祝言に出ていた人じゃないんですか?デリバリーってどういうことなんですか?周はレンタルから解放されたんじゃないんですか?瀬尾と俺が命拾いって・・・・」
「黙れ!」
低く抑えられた鳴海の煮え滾る苦悶と怒りが混ざった鋭い一喝に、享一は言葉を失った。眉間に厳しい立て皺を刻み、享一を睥睨する瞳には憤怒の焔が迸る。激昂のあまりか、鳴海の肩が小刻みに震えていた。
自分が鳴海に好かれているとは露ほども思ったことはなかった。だが、今日ほどあからさまに猛った憎悪を向けられたのは初めてだ。
「本当に、あなたの面の皮の厚さとと軽率さには、ほとほと呆れ返る。あれは、祝言に出た辰村の双子の兄ですよ。あの頃は、他の者ほど周に執着はしてなかったが、レンタルの相手の中ではある意味、神前並にタチの悪い相手だった。それをお前は・・・」
享一たちとは離れた場所にいる外国人の客が、男2人のただならぬ険悪な雰囲気に控えめな好奇の視線を送る。
鳴海は一旦言葉を切ると、烈火のごとく上り詰めた怒りの焔を鎮めるように息を吐いた。爆発しかけた憤怒の感情を捩じり伏せた鳴海の表情には平静が戻ったものの、自分を刺し殺しかねないほどの殺意が瞳の中に残っている。享一は自分を刺し貫く鳴海の視線を正面から浴びながら、自分の胸の心臓を破ろうと荒れ狂う血液の濁流音を聞いていた。
「瀬尾 隆典が今朝未明、バンクーバーでかつての顧客達の息のかかったマフィアに拘束されました。」
鳴海を見ていた享一が瞠目する。
瀬尾から連絡を貰ったのは深夜の1時ごろだった。拘束されたのだとすれば、電話の後だ。享一は、瀬尾にバンクーバーも安全ではないと忠告しておかなかった事を悔やんだ。
「だが、社会的な立場のある彼らが表立って動けるはずもない。そこを、いくつものフロント企業を持つ辰村組の若頭である辰村 剛生(ごうせい)が窓口になったんです。弟の方は器も小さく全く使い物にならないが、兄の剛生は弟を表家業の代表に立て、その実、表と裏の両方を仕切っている。つまり、一番関わりたくない相手が出てきたということです」
「周はまた自分の躰をレンタルし始めましたよ」
「え?」
少し間をおいて、鳴海は低い冷ややかな声で言い放った。冷笑が口角に張り付いているが、口調にも態度にも享一に対する断罪と強い非難がある。
「瀬尾と息子の安全を、自分から周にお強請りしたくせに、何を驚いた顔してるんですか?辰村は、周の持つ利権と、レンタルの再開を交換条件として出してきたんです。周は、その条件を呑みました」
「まさか・・・」
口から零れた声は震えていた。自分が巨大な圧搾機で押し潰されたような気がした。
周が今ある自由を、どれほどの時間を費やし、屈辱に耐え、大きな犠牲を払い、ようやく手にしたのを自分は知っている。
あの祝言を辰村は「茶番」の一言で片付けた。だが、あの雅なる偽りに満ちた宴は、周が自分の運命と未来の全てを賭けて仕掛けた一世一代の大博打だった。
「瀬尾の・・・というよりは、あなたの為ですよ。今回、あなたの”大切なご友人”が余計な事をしてくれたおかげで、芋蔓式に5年前の祝言の真相まで全て顧客達に露呈してしまった。もちろん、男のあなたが新婦の”サクラ”を演じたということもね。謀る一端を担って置きながら制裁を免れられるほど、甘い連中ではないですよ」
”大切なご友人”という言葉に、殊更嫌悪感がこもるのをはっきりと感じとった。
自然に庭へのドアに向って動いた躰を引き止められた。二の腕に食い込む鳴海の手を払おうとしたが、逆に骨が折れそうなくらい強く握られ呻き声を上げる。
「もう、周に関わらないで頂きたい。前にも言ったことがありますが、あなたは目障りです。周の側にいるだけの覚悟も、強さも、したたかさも持たない。周を窮地に追いやるだけの価値のない疫病神だ。お友だちは取引が成立したら解放されるそうです。大人しくあの身の程を知らぬ馬鹿男と、自分の命より大事な息子の所に戻るのが良いでしょう」
和輝のことに触れられ、引き抜こうとした腕の力が一瞬、緩んだ。心の怯みを読んだように銀縁のフレームの奥の目が嘲笑うように細まる。
「険悪ムードだな」
柔らかいバリトンの面白がる声に腕を拘束する力が弱まった。
「しかも、かなり珍しい組み合わせだ」
「これは、河村先生」
振り向いた先に河村が立っていた。後ろに自分の設計事務所の所員である梅原を従えている。
「鳴海、前にも言ったが、その先生っていうのはやめてく・・・・あ、おい!享一!!」
咄嗟に鳴海の手を払った享一が一目散にドアを抜け、客ので賑うテラスを走り抜けて森の小径に姿を消した。
「あいつ、一体何なんだ。鳴海、なんか可笑しいか?」
享一の消えた方向に目を遣っていた鳴海が振り向く。
口元に覚えのある嗤いを浮かぶのを見て、河村の片方の眉根が上がった。鳴海がこういう笑い方をする時は、自分の思惑が上手く運んだ時だ。
「検査は私たちだけで充分でしょう。何か問題があれば、時見の上の人間を呼び付ければいい」
河村は、やれやれと息を吐く。
「鳴海、あんまり享一を苛めるなよ。ただでさえ、すぐ思い悩む性質なんだから」
河村の言葉に鳴海は冷ややかな笑いで応え、「では、行きましょうか」と歩き出した。
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
またしても鳴海の策略か?利用できるものは何でも利用する。人使いの荒い人です。
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タイトルはなんでもいいから~~~
つかやっぱり享一も加わって、3Pなのか。
さすが鬼畜同盟の会長