01 ,2010
翠滴 3 傀儡 19 (76)
自分を睨み下ろす容赦のない断罪の視線に、享一は苦悶に顔をゆがめた。
周を裏切ってまで選んだ男の命乞いに、のこのこやってきた厚顔ぶりに加えて、与えられた接吻けに簡単に酔ってしまった。酷く薄っぺらで、矮小な自分が恥ずかしくて仕方がない。
消え入りたい衝動に駆られソファの上を後ずさった。その腕を掴まれ、全身が脅えたようにびくりと跳ねた。
「放してくれ。周を疑ってたわけじゃない、本当だ。でも、周の言ったとおり、ここへは瀬尾の命乞いに来た」
もしかしたら、自分がピッキングの被害に遭っていなかったら、自分はここへは来ていなかったかもしれない。瀬尾の事故も、ピッキング被害も、自分はどこか、対岸の火事のように思っていた。自分が同じ目にあって、自分や和輝の死を連想したからこそここを、周の許を訪れたのだ。しかも純粋な気持ちからだけではく、命乞いを周に会う口実にしていなかったか?
自分の薄情さと、下劣な計算高さに反吐が出そうになる。
「瀬尾に頼まれたのか?」首を横に振る。
「違う。瀬尾は今、バンクーバーで俺がここにきていることは知らない。」
「奴がバンクーバーなのは知っている」
享一の目が驚きで大きくなる。
「俺が手を貸さなければ、どうするつもりだ?海外に跳んであの男と一生、身を潜めて生きていくつもりか?」
正直、そこまでは考えていなかった。
一生という言葉の重みに、己の覚悟の軽さを知る。
「俺達の情報網を甘く見るなよ、享一。瀬尾の動きなんぞ、奴等だってとっくに把握している。行くゆくは、バンクーバーを拠点に高飛びして姿をくらます算段なんだろうが、世界中に網を張れる連中だ。瀬尾が逃げおおせる確率は、万にひとつもないと思え」
享一の知らない周が顔を覗かせる。いや、かつてN・Aトラストを解体して縮小し、国の根幹企業であるNKホールディングスを買収に持ち込んだ周には、企業家以外の別の顔があることは分かっていた。これまで、周はその顔をひたに隠し、決して享一には見せることはなかった。
その闇の顔がいま、氷の如き冷たさを以って自分に向けられていた。
どこに逃げても同じ・・・・・空き巣というよりは、凶悪な強盗に荒されたといったほうがいい自分のアパートを思いだし、死臭のする恐怖心が蘇る。
あの場所に欠けていたものがあるとすれば、それは自分達の死体だ。
享一はソファから降りてラグを避け、白い石の床に自らの額をすり付けた。
土下座する享一を周は方膝を立てて座ったソファの上から暗い眼で見下ろす。
「自分が虫のいいのは、分かってる。こんな事を周に頼むのは筋違いだって、わかってる。けど、お願いだ。瀬尾を助けたいんだ、力を貸してくれ。頼む・・・」
床についた頭を更に擦り付ける。
「瀬尾には和輝がいる。もし・・・・もし和輝に何かあったら。俺は、・・・おれは」
小刻みに震える首の後ろが露になり、所有の刻印であるかのような鬱血痕が周の目に曝される。下げた顔から涙が床に落ち、白い石の上で四方に飛び散った。
一見いじらしいその姿に、冷酷で残虐な気持ちが芽吹き、周の胸を占拠し始める。
自分以外の者のために落ちた涙など踏み躙ってやりたい衝動に駆られ、嫉妬の憤怒で乱れる息を大きく吐いた。
「行けよ」
短い言葉に享一の顔が上がった。涙に濡れる黒い瞳も、戦慄く唇も、業火となって燃え猛る嗜虐心を煽るだけだ。
「今は、お前を見ていると滅茶苦茶にしたくなる。俺が平常心を保っている間に、ここから出て行ってくれ」
「アマ・・・・」
目の前に屈んだ周が乱暴に顎を掴み、享一の言葉を絶つ。
「でないと、奴らより先にこの俺が、瀬尾 隆典に王手を掛けてやる」
深みを増した翠の瞳に無慈悲で残忍な光が宿る。
周のシャープに整った男らしい美貌が、背筋の凍るような凄みのある笑みを浮かべ、艶然と且つ冷酷に嗤った。
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
甘アマな展開でなくてガッカリ!という方、すみません<(_ _)>
周さん、怖いですね~。自分で瀬尾っちの息の根を止めそうな勢いです。。
週末でコメントを頂いてもコメレスが遅くなると思います。
それでもかまわないという方、コメントご指摘お待ちしております。
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いやーーここで甘あまになるのは、あまりに陳腐すぎて、さすが紙魚さん、鬼畜ーーと喜んでいました。
この二人の関係がどこに向っているにしろ、いままでの享一の行動からすると、周さんすぐに許すってわけにはいかないでしょうね。
ここは、享一の覚悟をみたいところですね。
続き続き~~~←お約束のように毎回催促する。