01 ,2010
翠滴 3 傀儡 17 (74)
『瀬尾 隆典の事で、俺に聞きたいことがあるんだろう』
差し向けられた呼び水の言葉に、享一の表情が驚きとショックで強張った。
「なぜ、周がその事を知ってるんだ?」
周は表情を崩さず、立ち竦む享一に強い眼差しを投げつける。
「奴がアメリカにいる間に雇ったハッカーがよっぽど頓馬だったか、それとも意図的に瀬尾を裏切ったのか。縮小する前のN・Aトラストと取引のあった特定の企業と個人、それにトリニティのサーバーにはベタベタと不審な足跡が残っていた。ハッキングに手馴れた奴なら、そんなヘマはしない。」
瀬尾がハッカーを雇ったという話は、はじめて聞いた。
元はといえば、瀬尾の自分に対する恋情が発端になった話だったはずだ。
自分とはかけ離れた場所で展開されている話に享一は疲労を覚え、またこれはもう自分や瀬尾の手に負える話ではないということを肌身に実感する。
そう、だからこそ自分は周に会いに来たのではなかったか。
周だけが自分達を脅かす何者かへの唯一の足がかりのはずだった。
だが今は、その「目的」を、周に会うための「建前」に変えてしまおうとする感情を押しとどめることに、四苦八苦している有様なのだ。
「おまけにその後、ハッキングに使われたPCが中古品として売りに出された。そこから足がついて、瀬尾 隆典という男の何から何に至るまで全てが露呈し、標的となったというわけだ。まさに自業自得だな」
当然だと言わんばかりに切って捨てる言い方をする周に、どう取り付けばよいのか分からない。
「そんな・・・」
「瀬尾は派手に動きすぎたな。奴が俺がらみの過去を暴こうと動いた結果、芋蔓的に掴んだ情報は、どれも門外不出で隠蔽され葬られる筈のものだった。それが、今頃になって明るみに出る危険に曝されている。当然、俺のかつてのクライアントどもが色めきたつのも無理はないだろう」
「瀬尾の掴んだデータなら、もう全部消えてる。本当だ。ちゃんと説明して、謝罪すれば、なんとか・・・」
周の翠の瞳が冷たく享一を捕える。
「甘いな、享一。子供じゃあるまいし、謝ってどうにかなるなんて思うなよ。それに、データなんていくらでもコピーが作れる。いくら説明したところであいつらが、はいそうですかと信じると思うのか?」
「・・・・・」
あまりにも順当な周の言葉に思い当たる節もあり、何も言い返せず俯いた。
確かに瀬尾は、他にもコピーがあると言っていた。
自宅以外に隠し持つ場所はない・・・とは、言い切れない。
もし、まだどこかに残っているとしたら息の根を絶たれるのはクライアント達だけではない、周の将来も潰えることになる。
だが、命を狙われる恐怖を知った瀬尾がそのデータを表に出したりするだろうか?
思考が頭の中で堂々巡りをし、これと断言できる言葉が何一つ見つからない。
「でも・・・・」と、口を開きかけた顎を強い力で掴まれた。
すぐ目の前に自分を睥睨する翠の瞳がある。虹彩の縁が赤く彩られ今まで濡れるような瑞々しい翡翠の色だった瞳が朱く染まっている。
轟にも似た周の怒気を孕んだ低い声が、鼓膜と享一の世界を震わせた。
「俺を疑って、ここに来たのか?」
否定しようと首を横に振りたいのに、何もかもを見通してしまう大きく開いた瞳孔に射竦められ、指先ひとつ動かす事が出来ない。
「こんなに痩せて、疲れ果てた瞳をして・・・やっと、目の前に現われたと思ったら、瀬尾の命乞いか」
周の全身を憤怒の冷たい炎が包み、皮膚から浸透した周の体温で心臓が凍りついた。
唇に柔らかいものが被さり、続いてきゅっと吸われる感覚に驚き、身を引こうとした。その顎と躰を、骨が砕けそうなくらい強い力で拘束され重ねた唇の下で呻いた。
抗いを封じられ、噛み付くように歯を立てられ、形を変えられ開いた隙間から舌が侵入してくる。搦めた舌に、舌裏の柔らかい窪みを弄られる頃には思考が飛び散り始めた。
愉悦を覚え歓喜し快感に流されたいと願う感情と、甘美な禁忌に伸びる手を押し止めようとする理性が、今にも砕けようとする思考の際でせめぎあう。
「ン・・・ウゥ、・・・・・」
周に舌が抜けるくらい強く吸われ、引き剥がそうと周のシャツを掴んでいた指先から力が抜けた。頭の芯が舌先から伝わる熱に熔け、やがて自分を侵す熱を追いかけることしか考えられなくなる。
後頭を押える圧迫感が去っても、仰け反ろうともがいた躰はいつの間にか周の躰に添い、自分から綺麗に隆起する背中に指をたてた。
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
亀の歩みです。本当はもっと短くしてもう少し先まで進めたかったのに、眠くて←
推敲を断念しました。傀儡20いってしまいそう・・・サブタイトルの意味ないですね。
完結した暁には、細分してタイトルつけなおした方がいいな。ぐうたらなアタシにできるかな~。
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ほんの拙文しか書けない私ですがですが、書いていく励みになります。。
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それにしても、いったいどう結末をつけるのか……うーん、興味深い
推敲とか、ブログの整頓とか、なかなかできませんよね。
特に書き終わったものって、自分から離れていってしまう気がして手をつけられません。
過ぎた過去はさっぱり忘れて、がんがん更新するのがいいと思います。
↑
ものすごく無責任な助言。
ではでは