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紙魚

Author:紙魚
近畿に生息中。
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Category: 翠滴 3 (全131話)

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翠滴 3 傀儡  16  (73)

 見るからに重そうな大きな胡桃材の木製のドアは都会のマンションの扉などではなく、閑静な住宅街にでも建つ邸宅の佇まいを思わせた。

 ドアの前で享一はインターホンを押す事も、ドアの把手に手を掛けることも出来ず立ち尽くしていた。
 このドアの向こうに周がいる。
 1階のエントランスから周に連絡を入れ、エレベータに乗れるよう操作してもらった。
 周にも自分がドアの前に来ている事は分かっている筈だ。
 
 どことなく春めいた陽光がエレベーターホールの白い壁や、アイボリーの石床に竹笹の影を落とす。昨日の寒波と打って変わった陽気にコートはビジネスホテルに置いてきた。
 ドアの横にはインターホンの他に、静脈認証キーが設置されており、享一のデータも以前は登録され自由に出入りしていた。今や、周と別れてからのブランクを考えると試す気にもなれなかった。いや、自分のデータが消去されたことを現実に知るのが怖いからだということは、自分が一番よく判っている。

 時折、笹が風でサラサラと揺れ微かな音がし、立ち尽くした足元の影が揺れる。
 ペントハウスのドアがひとつしかないエレベーターホールは小さいながらも丹精を込めて設えられた日本庭園に面していた。
 なかなか、目の前のインターホンを押せず、享一は息をつき庭の竹林を見上げる。
 三寒四温。春が近い。
 今日のニュースで桜の蕾が固いながらも大きくなっていると、どこかの神社の桜が映っていた。どういうわけか、他より遅れて絢爛としたその姿をみせる庄谷の邸の桜も、今頃はその蕾を大きくし他の桜と同じように春を待っているのだろうか。
 
 桜が咲いたら、天を埋め尽くす薄紅の花を愛でる為に2人で庄谷に帰る。
 年に一度の季節を、周も自分も心待ちにしていた。
 言葉にしたことはない。それは当然の約束だった。
 
 だがもう、2人で庄谷を訪れる事はない。
 桜も、邸も四季折々の豊かな表情をみせる田園の風景も、記憶の中に留まったまま色褪せてゆくに任せるしかないのだ。

 すべは自分のせいだ。

 ザザッっと一際、大きな音が鳴り冷たい風が吹き込んだ。
 享一は、一歩後ずさり、ドアから遠のいた。
 今更になって、なぜ周に連絡をしてしまったのだろうかと後悔が押し寄せる。
 和輝が殺される夢に動揺し、コールしたナンバーは瀬尾ではなく周のものだった。 
 様々な思いや考えが去来して、どこかに真実を確かめたいという気持ちが自分の中に無かっただろうか?
 それだけではない。周にすがり、もっと多くのことを要求しようとしていなかったか?
 和輝や自分達のことばかりで頭がいっぱいになり、周に助けを求めようとしている。
 また一歩ドアから遠ざかった。

 冷静になった頭で考えれば考えるほど、自分の虫のよさがだけが鼻につく。周を一時でも疑った自分が恥ずかしく、そして情けなくなった。

 振り切るように踵を返し、エレベーターに向かった。

 「どこへ行く気だ?」
 よく通る艶やかな低音に、エレベーターのボタンに伸ばしかけた指先が止まる。
 エレベーターは自分が降りた後も誰にも呼ばれず、この階で止まったままだ。ボタンを押せばすぐに開く。だが、指先は躊躇った。

 「こっち向けよ、享一」
 自分を捕らえ虜にする声に抗えず、ボタンを押すのを諦め、振り返った。もとより、この声を振り切ってこの場を去ることなど、自分に出来るはずも無かった。

 周が立っていた。
 竹林の影が、周の足元で穏やかにさんざめいている。
 カラーコンタクトを嵌めていない瑞々しい翡翠の瞳が真っ直ぐに享一を見る。
 そよ風が下ろしたままの周の前髪を揺らした。

 そんな些細な事からも目が離せない。
 初めて会った時のインパクトもそのままに、視線も心も聴力も魂すらも周に惹き寄せられ、思考も矜持も奪われる。
 自分を切り裂き血を吐く思いで、何度も潰し殺そうとした周への想いは結局、こんな邂逅ひとつで元の姿以上の鮮明さで蘇ることに、享一は狼狽えた。

 周が大きなドアを開ける。
 「話があってここへ来たんだろう?」
 その時になってようやく自分がここへ着た目的を思い出し、俯いた。
 先に中に入る周の足を追って、ドアをくぐる。
 
 前をゆく均整のの取れた周の背中や、艶やかな黒髪の後頭部を食い入るように見詰めた。少し痩せたような気がするのは気のせいだろうか?
 周に促され、明るい日差しに満たされた大きなリビングに入った。

 河村の監修のもとで造られた美しいペントハウスも、シンプルで開放的なリビングもそこに住む美貌の主も何も変わりはしない。ただ、自分だけが異物のようにその場にあるような気がして、リビングのドアを入ったところで立ち止まってしまった。

 「コーヒーは?」
 振り返った周に訊かれ、首を緩く横に振る。
 「突っ立ってないで、座ればいいだろう」
 広いリビングに見合った優美なフォルムのソファを顎で指す。
 再び首を横に振る享一にフッと周が嗤ったようだった。自分は向かい合わせになったソファのひとつに腰掛けると、長い足を組み両手を膝の上で組む。
 すらりと組み合わされた指には装飾品は何ひとつ無く、わかりきったその当然の事実に享一の心は馬鹿みたいに沈んだ。
 心の内が明らかに態度に出て、瞳を伏目勝ちに視線を逸らす享一を、周は薄く笑いを浮かべて観察するように眺めた。
 
 「いつまでもだんまりしてないで何かしゃべれよ。話ってなんだ?」
 聞きようによっては、突き放すようにも聞こえるその声に自分の無くしたものの大きさを、今更ながらに教えられたような気がした。

 「瀬尾 隆典の事で、俺に聞きたいことがあるんだろう」
 その言葉にようやく享一は顔を上げた。



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翠滴 1―1 →
翠滴 2―1 →
翠滴 3―1 →

□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
 
 みなさま、7月さんの神前&鳴海はご覧になられましたでしょうか?
 あまりの迫力とカッコよさに、昨日から痺れまくっている私です。

 周さん、やっと全身(笑)登場できました。久しぶりなのでちゃんと書けたかどうか・・・
 みなさま、いかがでしたでしょうか?

  
 
                     
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  ほんの拙文しか書けない私ですがですが、書いていく励みになります。。
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Comments

周さんってば、冷静を装っちゃって、内心は、嬉しかったり、怒れたり、いろいろあるでしょうに。とりあえず、再会、ですね。
ずっと出てきていなかったから、その間に、どう気持ちが動いたのか、興味深々です。

ってこの間、いちばーーんと思ってコメントを送信したら、その間にアドさんが来て先を越されてた。こんどこそ。

あ、某所でみた紙魚さんのイラスト、美しかったです。やっぱり視線がいいなあ。
サムライさんの色っぽさにもまいりました。
周さん周さん
ああ、今まで瀬尾っちに浮気していた私を許して~~~~(/_;)
やっぱり、最高にカッコイイです。周さん~~~~。
享一! どう? 参った? うひょひょひょひょひょ~~~~。
(ねじブチ切れました…)

神前×鳴海さん、ど迫力でしたね~~。
ガンの飛ばし合い(笑)
男のぶつかりあいゾク~~!! 7月さんスゴイ! 
きゃ~周さま~!
すいません、某所からきました(笑)
やっぱり周さまが1番だわ~!なんか風が吹いてくるかのようでしたよ、登場が。
いーなーやっぱり艶やかで、「享一」なんて名前呼ばれちゃったら、ズキューーンですよね、腰砕けだわ。
次回も出てきますね!
ワクワクしながら待ってます。
昨日はイラストありがとうございました。
あの翠滴解説でよかったかどうか・・・長いお話なのでまとめて解説するのは難しいですね、適度に面白さを伝えつつネタバレしすぎないようにというのも・・・
紙魚さんのイラストのようにちょっと大人なカップルに仕上げていこうと思っています。ありがとうございました!
あわあわ…あまあま…ね…さま…(;ω;)
もうだめだ…周さま好きすぎます…
あはは本当だ全身出てきましたね!笑
部分では何度か登場なさっていた!笑

今日は(昨日は?)ありがとうございます!
Route Mさま♪
 Route M さま、ようこそです!

> 周さんってば、冷静を装っちゃって、内心は、嬉しかったり、怒れたり、いろいろあるでしょうに。とりあえず、再会、ですね。
 ・やっと、再会を果たしました。長かったです。
ポツポツ更新のせいで、自分でも3倍くらい長く感じます(いいのかこれで?
周さん、踊り出したくなるくらい嬉しさも込み上げつつも、同時に血管破裂するくらい腸煮えたぎってますね(笑)享一、なむなむ。

> ずっと出てきていなかったから、その間に、どう気持ちが動いたのか、興味深々です。
 ・すっかり冷めて心変わり・・・とかあったら、私が困りますね(笑)
享一が自分の意志で戻って来るのを待っていた周さんですけど、変化は・・どうだろう?

> ってこの間、いちばーーんと思ってコメントを送信したら、その間にアドさんが来て先を越されてた。こんどこそ。
 ・わーい!ありがとうございます。いちばんです♪

> あ、某所でみた紙魚さんのイラスト、美しかったです。やっぱり視線がいいなあ。
> サムライさんの色っぽさにもまいりました。
 ・ありがとうございます~~~。あまりにも少女漫画チックだったかな・・・と、今頃になってひとりで赤面しています。

 コメント&ご訪問、ありがとうございます!
Re: 周さん周さん
 アドさま、ようこそ。おはようございます!

> ああ、今まで瀬尾っちに浮気していた私を許して~~~~(/_;)
> やっぱり、最高にカッコイイです。周さん~~~~。
 ・エエッ?アドさん、瀬尾っちに浮気していたのねん。
指輪の嵌ってない指を見せ付けちゃったり、ちょっと意地悪な周さんです。

> 享一! どう? 参った? うひょひょひょひょひょ~~~~。
> (ねじブチ切れました…)
 ・会う前から声だけでノックアウトされた享一(笑)ですので、きっと倒れそうになってると思います。サミィに失神した女子みたいな感じ?(笑)

> 神前×鳴海さん、ど迫力でしたね~~。
> ガンの飛ばし合い(笑)
 ・2人の間に、青い火花が散るのが見えるのは私だけではない筈v

> 男のぶつかりあいゾク~~!! 7月さんスゴイ!
 ・そうなんです。男対男!!
可憐な少女から骨の隋まで男!まで、7月さんの幅の広さに驚かされてしまいます。

 コメント&ご訪問、ありがとうございました♪
ついに周様登場!
さすがの存在感、圧巻です。

待ち長かったよう。もう、どこへも行かずにそばに居てね。
ゴキッ!あたた、殴られてしましました。享たんのものでした。すみません。

享たん、自分の気持ちに忠実になれるのか。やはり、裏切ってしまった呵責を抱えてつっぱり通すのか。
それに一連の黒幕って誰なのか。ますます目が離せない。

貧血予防のレシピありがとうございました。
猫の額のような畑にホウレンソウが植わってて、さっそく作って食べてます。
お浸しやナムルより子供もよく食べてます。

こちらでももうすぐ鼻血噴出の展開になることを期待しつつ、せっせと血を増量しときます。
Re: きゃ~周さま~!
 Rinkさま、ようこそです!

> すいません、某所からきました(笑)
 ・某所・・・どこだろう?Mさんとこかな?

> やっぱり周さまが1番だわ~!なんか風が吹いてくるかのようでしたよ、登場が。
> いーなーやっぱり艶やかで、「享一」なんて名前呼ばれちゃったら、ズキューーンですよね、腰砕けだわ。
 ・腰砕け!!嬉しい~~(笑)風を巻き起こす男
> 次回も出てきますね!
> ワクワクしながら待ってます。
 ありがとうございます。次も出てきますよ~~っていうか、お話も終盤に差し掛かりましたので、周の露出は増えていきます。

> 昨日はイラストありがとうございました。
> あの翠滴解説でよかったかどうか・・・長いお話なのでまとめて解説するのは難しいですね、適度に面白さを伝えつつネタバレしすぎないようにというのも・・・
 ・こちらこそです!
 細かな解説までつけて頂き、恐れ入りまする~~。バカみたいに長い話なんで要約するのが大変だったと思います。ありがとうございました。m(_ _)m

> 紙魚さんのイラストのようにちょっと大人なカップルに仕上げていこうと思っています。ありがとうございました!
 ・∑( ̄[] ̄;)! 大人って・・・・ま、まさか三枝さんと雫くんじゃないですよね?
佐藤く~ん!(本当は三枝氏に傾きかけているくせに・笑

 コメント&ご訪問、ありがとうございました。
ならさま♪
 ならさま、ようこそです~~♪

> あわあわ…あまあま…ね…さま…(;ω;)
 ・うおお~~。。。ならさん、泣かないで~。

> もうだめだ…周さま好きすぎます…
 ・わーい。おっと、周さんから一言あるそうです。では、どぞ~。
 
 周は翠の瞳の嵌る目をすっと細めて笑った。
 「いつかは俺を描いてくれてありがとう。
 俺も、俺ををずっと待っていてくれたならさんが好きだな」

 あ、帰りました。なんか瀬尾がらみで忙しいみたいです。

> あはは本当だ全身出てきましたね!笑
> 部分では何度か登場なさっていた!笑
 ・ハイ、全身でーすv ついでなのでここにも来てもらいました(笑)

> 今日は(昨日は?)ありがとうございます!
 ・いえいえ、お役にたてましたでしょうか?昨夜お訊ねの分のもお送りましたv

 コメント&ご訪問、ありがとうございます♪
くろねこさま♪
 くろねこさま、ようこそです♪

 体調はいかがですか?

> ついに周様登場!
> さすがの存在感、圧巻です。
 ・本当に長い間、出てなかったせいか妙に存在感を出しまくっていますv

> 待ち長かったよう。もう、どこへも行かずにそばに居てね。
> ゴキッ!あたた、殴られてしましました。享たんのものでした。すみません。
 ・爆~~~!!
 もう一度そちらに派遣いたしましょうか?や、享たん付きですけど・・・(笑)

> 享たん、自分の気持ちに忠実になれるのか。やはり、裏切ってしまった呵責を抱えてつっぱり通すのか。
 ・性格を考えると、すぐに甘えるって言うのは無理そうですし・・・素直になれない享タンの為に、母の愛!必殺反則技でも使おうかと用意していますv

> それに一連の黒幕って誰なのか。ますます目が離せない。
 ・こっちは、な~~んだって思われそうです(汗

> 貧血予防のレシピありがとうございました。
> 猫の額のような畑にホウレンソウが植わってて、さっそく作って食べてます。
> お浸しやナムルより子供もよく食べてます。
 ・温かいうちに食べられるのもいいみたいで、息子もお浸しよりよく食べます。
 鉄剤、止められたんですね。
 薬やサプリに頼るより、食物から自然に摂取できる方が身体にもよいですもの。
 早く体調が回復されるといいですね。

> こちらでももうすぐ鼻血噴出の展開になることを期待しつつ、せっせと血を増量しときます。
 ・そうだった!R記事!!・・・あああ、胃が~。要るかな?R・・・。

 コメント&ご訪問、ありがとうございます!
 どうぞ、お大事になさってくださいね~~。

ばばーん
周さん一見余裕たっぷりですが、内心享ちゃんを羽交い締めにでもしてギュウギュウ抱きしめ、チュウチュウしたいはず!!(品のない表現..)
しちゃえばいいのに。無茶言うなっつー話ですね(笑)

久しぶりに登場の周さん。圧倒されます。二人の恋心を思うと、ホント苦しいです。
Re: ばばーん
 シマシマ猫さま、おはようございます♪

> 周さん一見余裕たっぷりですが、内心享ちゃんを羽交い締めにでもしてギュウギュウ抱きしめ、チュウチュウしたいはず!!(品のない表現..)
 ・捕まえて閉じ込めて、あーんなことやこーんなことしたいハズ!!!
まさに、その通りでございます。
ちょっと、いじけも入って意地悪にもなってますし一本はずれると即実行しそうです(笑)

> しちゃえばいいのに。無茶言うなっつー話ですね(笑)
 ・やっちゃえ!!うだうだ言う奴には実力行使あるのみだ!(心の声
悲しいかな、それ書いちゃったらこの後のプロットが(あるのか?そんなものが??)無駄になっちゃうから、書けないっす。

> 久しぶりに登場の周さん。圧倒されます。二人の恋心を思うと、ホント苦しいです。
 ・この2人も、もう少しの辛抱です。
 瀬尾っちが帰ってくるまでにカタを付けておかなくちゃ。。

 コメント&ご訪問、ありがとうございます♪

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