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紙魚

Author:紙魚
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Category: 翠滴 3 (全131話)

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翠滴 3 傀儡  12  (69)
 バンクーバー行きを承諾する享一に、瀬尾の顔に猜疑と歓喜が同時に浮かぶ。
 「いいのか?・・・・本当に?」
 次に信じられないという表情と、切望が現れた。アーモンド形の瞳を見ながら小さく頷くと、言葉に詰まったようにただ、胸に当てられていた手のひらに唇を押し付けられた。 
 瀬尾から解放されると、手のひらに自分の中に息衝く別の鼓動が間髪をいれずに蘇る。脈打つ度、どくんと視界がぶれた。
 その鼓動が、「これでいいのか?」と尋ねてくる。
 突然、これまで捻り潰していた感情が元の姿を取り戻しざわざわとざわめき立った。

 春の匂いの混ざり始めた冷たく蒼い朝の空気を切り裂き、周の心臓の搏動が直接手のひらに、びぃんと響いてくるような気がして動揺した。
 手のひらが痛い。
 何の前触れもなく一粒の涙が零れた。
 
 その一粒の涙を瀬尾の舌に掬われる。唇はそのまま去らずに頬に留まった。
 何度も啄ばむキスを繰り返しながら花弁を思わせる唇にたどり着く。

 「必ず、永邨を忘れさせる」

 瀬尾は永邨 周という男を知らない。
 この先、百年経っても、たとえ自分が死んだとしても、周が自分の中から消え去る事はない。そんな事は最初からわかっていた。

 瞳を閉じれば、遥か彼方から地を揺るがすほどの爆音が聞こえてくる気がした。
 轟のごとき周の心音。
 瀬尾が自分に「生」を感じたと言うように、自分は周にすさまじい程の生命を感じた。ひんやりとした涼しげな容姿の下に、強かさと屈強な精神を隠し持った男。豪胆さとその叡智で轟音を立てながら、運命の扉を開いた碧い炎のような美しい男。
 周の存在はこの脳が死に絶えるまで自分の中で鮮烈に生き続ける。
 赦されなくていい。それでいいと思っていた。

 それなのに、周の生命のが自分の鼓動と絡まり合って心臓をきりきりと締め上げてゆく。あの、指輪に絡まったプラチナの蔦が伸びてきて、皮膚を破り肉を裂き、臓腑から骨から眼球に至るまで搦めとられていく気がした。

 胸が痛い。自分の躰を抱きしめると、その肩を瀬尾に抱き寄せられた。
 
 「必ず・・・」
 唇を塞がれた。
 すぐ目の前の瀬尾の顔が滲んでいる。
 熱を帯び始めた頬や額に何度も唇が触れてまた離れる。

 離れる前にもう一度だけと、強請られた。返事をする間もなく背中のクッションに押し付けられ、バランスを崩した下腹の下から鋭くそして重い痛みが凄い勢いで這い上がってきた。
 「・・・っ!」
 突然襲った強烈な疼痛にうつ伏してきつく目を閉じた。
 
 遠くで周が自分の進むべき道を驀進してゆく音が聞こえる。
 周は止まらない。
 光の中を、闇の中を、何があっても自分のその先にある何かに向って走り続ける。周は、厳しい男だ。決して自分を赦しはしない。そしていつか憎んだまま自分を裏切った男のことなど忘れてしまうだろう。
 それでも周の歩みを誰にも邪魔させはしない。

 「キョウ、やっぱりダメか? 無理なら」
 「いいから、止めなくていいから」
 躰を離そうとした瀬尾の手首を掴んだ。
 何度殺しても蘇る狂おしいほどの未練と恋情を押し流してほしい。
 でないと、いつか自分は。

 「忘れさせて。忘れさせてくれ」
 瀬尾に再び横たえられ身体を開くと、受け入れると決めた躰にたちまち熱が点りだす。こんな熱では足りない。
 「キョウ、やっぱり無理だ。かなり酷い炎症を起こしている。先に手当てだ、本当にすまなかった」
 秘奥に触れた瀬尾が申し訳なさそうに享一を覗き込む。瀬尾の指先が少し触れただけで、全身が硬直する鋭い痛みが走った。
 
 「いい。挿れていいから」
 思い切り痛いほうがいい。
 結局、瀬尾は享一の中で2度放ち、享一もまた気の遠くなる痛みの中で同じだけ精を放った。
 次に頬に触れた感触に意識を取り戻した時、瀬尾はサックスブルーのYシャツにイエロー系のネクタイを締めすっかり身なりを整えていた。
 尻朶の狭間にぬるつきを覚え手を伸ばすとベタベタとした軟膏のようなものが指についた。
 「一週間ほどで一旦戻るから、身の回りの整理を始めておいてくれ。バンクーバーに来るのは、仕事の限がついてからでも構わない」

 瀬尾がベッドに座る。マットの軋みに、自分はこの重みを抱いたのだと実感した。
 あたたかい手が横になったままの頬を覆う。
 「俺はずっとお前に焦がれてた。」
 不思議だ。学生時代、学業面でも恋愛でも、めぐまれた容姿にも、いつも羨ましいと思っていたのは自分の方で、コンプレックスに近いものまで抱いたこともあったというのに。今は友人も親友も越えて、二人の関係は何になったのだろう。恋人だろうか?
 「バンクーバー行きを承諾してくれて、ありがとうな」
 「ああ。気をつけて行けよ」

 瀬尾が部屋を出て行った後、重い躰を引きずってバスルームに行き、肌を刺すほどの熱い湯を浴びた。瀬尾が塗った軟膏も湯に溶けて流れ、躰が飛び上がりそうなくらい痛んだが熱い湯を浴び続けた。
 室内に戻ると、カーテンの隙間から昼を思わせる黄色みの強い光が差し込んでいる。その光は、先程の瀬尾の首を飾るネクタイを思わせた。
 携帯を取り出し、会社に無断に遅刻した詫びとこれから出社するという旨を伝え身支度を整えた。

 徐に窓辺に近付く。
 薄くあいたカーテンのスリットから差し込む日差しの中に足を踏み入れ、両の手でカーテンを掴み勢いよく両サイドに引く。

 眼下に真昼の雑踏に賑わう通りと、他のビルの屋上がひしめく光景が広がる。
 相変わらず足元から崩れ落ちてゆく感覚は体の中に残っている。
 だが、享一は足元までガラスの嵌った窓際から退く事はなく、その日差しに煌く俯瞰図を黙って見つめていた。 



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翠滴 3―1 →

□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
  
 先日は肩凝りをご心配頂きありがとうございました。
 ここ二日ほど、PC作業を少し控えてイラストなんぞを書いておりました。
 お陰さまで、随分と楽になりました。
 

                     
  ■拍手ポチ、コメント、村ポチと・・本当に、いつもありがとうございます。
  ほんの拙文しか書けない私ですがですが、書いていく励みになります。。
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テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学

Comments

享タン、自分を憎んで忘れてもいい。でも自身は忘れることができないなんて。なして、瀬尾っちについて行くんだー!

そんなこと言ってても、なんだかテレパシーというかなんというか繋がってるみたい。

>瞳を閉じれば、遥か彼方から地を揺るがすほどの爆音が聞こえてくる気がした。
>光の中を、闇の中を、何があっても自分のその先にある何かに向って走り続ける。

何かって、享タンしかいないじゃないか!
今の享タン、王気を感じてる麒麟みたいじゃないか!(突然十二国記出してすみません)

でも、瀬尾っちにも情が移ってしまって・・・。どうしても、誰かが泣くことになるんだからなあ。
何となく胸騒ぎ。バンクーバーまで瀬尾っち、無事に辿りつきますように。
ああ、間に合った!ポチリ!
瀬尾さんについて行くことにたのは、息子の為。
けして瀬尾っち一人だったらついて行くことなんてなかったですよね。
確かに瀬尾っちの愛は感じているけど、周の思いの深さの方が大きいのは
分っているから、
そりゃ追いかけてきますよ~怒涛のように。
瀬尾っち命知らず・・・と思わずにはいられませんが
もう、頑張ってみなさいと言うしかないです。
享たん会社辞めるって言うのかしら・・・それだけでもひと波乱がありそうな・・・
続きを楽しみに待っています。
ヤフブロ見てきました!!!超色っぽい!!!「アドさんおかえりなさい」
って、アドさん悶え死にませんでしかた?
くろねこさま♪
 くろねこさま、こんばんは♪

 何でついて行くんでしょうね~?
和輝のこともあるけれど、瀬尾を放って置けなくなっているのかもしれません。
情に絆され易いのも、かれの特徴なので・・・

> そんなこと言ってても、なんだかテレパシーというかなんというか繋がってるみたい。
 ・意識の下の深い部分で周と同調している事を意識せず確信しているという、不思議くんです。なんか、SFちっくだな~

> >瞳を閉じれば、遥か彼方から地を揺るがすほどの爆音が聞こえてくる気がした。
> >光の中を、闇の中を、何があっても自分のその先にある何かに向って走り続ける。
>
> 何かって、享タンしかいないじゃないか!
 ・おお、そうだったのか(恋愛モノを書いているという自覚の足りない私・・・イカン

> 今の享タン、王気を感じてる麒麟みたいじゃないか!(突然十二国記出してすみません)
 ・小説?アニメ?でしょうか?
 この一行だけで、とてもロマンチックな感じがします。

> でも、瀬尾っちにも情が移ってしまって・・・。どうしても、誰かが泣くことになるんだからなあ。
 ・泣くのは、だれがいいですか?(って聞くな
 仲良く傷み分けはないので、仕方ないですv

> 何となく胸騒ぎ。バンクーバーまで瀬尾っち、無事に辿りつきますように。
 ・瀬尾っちも去って、次は周っちです。久々の登場。上手く書けるかなあ・・・

 コメント&ご訪問、ありがとうございます。
Rinkさま♪
 Rinkさま、おかえりなさい(はーと

 スキー、お疲れさまでした。

> けして瀬尾っち一人だったらついて行くことなんてなかったですよね。
 ・ん~~享一はちょっと複雑な子ですし、情にもほだされやすいので、本当に瀬尾が一人だった場合もわからないです。

> 瀬尾っち命知らず・・・と思わずにはいられませんが
 ・笑~~。命知らずな奴だと思いますv
瀬尾は、本当に周という男を知りませんから・・・
そういう意味では、享一もまだわかってないかもです。。

> もう、頑張ってみなさいと言うしかないです。
> 享たん会社辞めるって言うのかしら・・・それだけでもひと波乱がありそうな・・・
 ・片岡とか周りのうるさ型の人間が騒ぎそうです。

> 続きを楽しみに待っています。
 ・やた~~ありがとうございます。

> ヤフブロ見てきました!!!超色っぽい!!!「アドさんおかえりなさい」
> って、アドさん悶え死にませんでしかた?
 ・爆!生きてらっしゃいます。
 脚を・・・と前々から仰っていただいてて・・・本当はあんなエロっちいの描くつもりはなかったんですけど、なんかあんなふうになっちゃったんです。
 Rinkさん、それでも私に・・・と思われますでしょうか?(責任がもてない・汗

 コメント&ご訪問、ありがとうございます♪
あぁ~……
享ちゃんは絶対周さんのこと忘れないでしょうね。瀬尾さんも痛いし、享ちゃんも痛い……。
肉体が痛む方がいいというところまで追い詰められて、物理的にも周さんと距離を置く方を選ぶんですね。
あんな人を知ってしまって、一度深く愛し合ってしまったら、もう取り返しは付かないのでは。
次は周さんが出てくるとのこと、怖いような気もしますが、やっぱり周さんが見たい。
ますます目が離せません。
ようやく今日から幼稚園が始まり、午前中からお邪魔しております♡
北国の冬休みって長いからキライよっプン。

瀬尾っちがいなくなる1週間で何が起きるのでしょうか?
いよいよ周さんの登場なのですね。もう待ち過ぎてろくろ首みたいになっちゃいましたよぉ。(首が伸びたシマ猫って気持ち悪い..)

サムライさま拝見しました!!もうお色気がムンムン過ぎて、どうしましょう。とりあえず鼻血が治まるまで横になります(笑)
ただいまぁ
と、言っても自作のSSがまだないのですが、恐ろしくエロチックなサムライ様に、感動!
ありがとうございました<(_ _)>
そう、脚が・…脚が描いて頂きたかったので、あの顔、あの脚に悩殺されました。

さて、翠滴…ものすごく遠くから周さんが、スピードを上げて爆走して来る気配が…間に合って周さん。
3話ほど溜めてしまったので続けて読むと瀬尾っちに情がわいてしまいましたが、享一には周がいる!!!
高所恐怖症もなんのその、頑張って享一。

もう一回、イラスト見よ(コラ、片づけろ・・・はい・・・)
Re: あぁ~……
 りりさま、ようこそです♪♪

> 享ちゃんは絶対周さんのこと忘れないでしょうね。瀬尾さんも痛いし、享ちゃんも痛い……。
 ・痛くて痛くて、こういうのを長々と書いていると、気分も斜めになってきますよね。

> 肉体が痛む方がいいというところまで追い詰められて、物理的にも周さんと距離を置く方を選ぶんですね。
 ・痛みに頼るくらい病んでいる享一は、自分はもう周の前には立てないと思っています。思考もマイナーな方へと転がって、正確な判断もつかない。んーー病んでる。

> あんな人を知ってしまって、一度深く愛し合ってしまったら、もう取り返しは付かないのでは。
 ・死ぬまで、ず~~~とこの想いを胸に抱いてるんだと思います。
 そして、思い出の中で更に周の存在が大きくなり・・・フフフ
 恋に苦悩する男の話が書けそうですぅ~~~~(黒笑
 
> 次は周さんが出てくるとのこと、怖いような気もしますが、やっぱり周さんが見たい。
> ますます目が離せません。
 ・ありがとうございます~~(┯_┯)
周っちの登場は一話に書ききれず、次の次になりました。
本当に周を書くのは久しぶりなので私も楽しみです♪
 
 コメント&ご訪問、ありがとうございます♪
シマシマ猫さま♪
 シマシマ猫さま、ようこそです~~!

> ようやく今日から幼稚園が始まり、午前中からお邪魔しております♡
 ・おお!今日から新学期(でいいのか)ですか?お疲れ様です。
 そうかあ、こっちとは長期休暇の長さが違うんですよね。
 
> 北国の冬休みって長いからキライよっプン。
>
> 瀬尾っちがいなくなる1週間で何が起きるのでしょうか?
 ・鬼のいぬまにもう一匹の鬼のほうもなんとかしなくっちゃ~~
 暴れられたら困りますもの~(笑)

> いよいよ周さんの登場なのですね。もう待ち過ぎてろくろ首みたいになっちゃいましたよぉ。(首が伸びたシマ猫って気持ち悪い..)
 ・ああ~~~!首が伸び切ってちょうちょ結びになってる~・写メ!!オイ
すみません。お待たせしました。さっき明朝の予約投稿をしてきたのですが、周が出てくるのは次の次でございました(_ _(--;(_ _(--; ペコペコ 

> サムライさま拝見しました!!もうお色気がムンムン過ぎて、どうしましょう。とりあえず鼻血が治まるまで横になります(笑)
 ・(*≧m≦*)ププッ鼻血はもうお止まりに?
 自分では、デッサンを取るのが必死であんまりエロさを感じずに描いていたんですけど、できたのを見てエロっ!!っと思ってしまいました。
自分で言ってりゃ、世話ないですね(笑)

コメント&ご訪問、ありがとうございます。
Re: ただいまぁ
 アドさま、おかえりなさいませ~~~っ!!

> と、言っても自作のSSがまだないのですが、恐ろしくエロチックなサムライ様に、感動!
 ・あ、感動?あああ!!~~~よかった!
 もしご気分を害させてしまったらどうしよう~と、内心ヒヤヒヤしていました。
 
> ありがとうございました<(_ _)>
> そう、脚が・…脚が描いて頂きたかったので、あの顔、あの脚に悩殺されました。
・こちらこそです!!ありがとうございました(ペコリ
脚と仰っていただいていたので、脚が綺麗に見える状態を考えたつもりが悩殺ポーズ・・・私、自分を疑った方が良さそうです(笑)
 
> さて、翠滴…ものすごく遠くから周さんが、スピードを上げて爆走して来る気配が…間に合って周さん。
 ・やっと、動き出しました。周は間に合うのか・・・
> 3話ほど溜めてしまったので続けて読むと瀬尾っちに情がわいてしまいましたが、享一には周がいる!!!
 ・そうですよね!
私自身、一時期見誤りそうになりました。。とか言って、まだ迷ってたり。
や、そんなBLはいけないはず。ハピエ、ハピエ・・・誰と?(コラ

> 高所恐怖症もなんのその、頑張って享一。
 ・はい、何気に克服したようであります。強すぎる毒が効いたのでしょうか(笑)

> もう一回、イラスト見よ(コラ、片づけろ・・・はい・・・)
 ちょっと前に、メッセ送りました~♪よろしくでっす!

コメント&ご訪問、ありがとうございます。

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