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紙魚

Author:紙魚
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Category: 翠滴 3 (全131話)

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Comment: 9  Trackback: 0

翠滴 3 VOID  6  (42)
 大きな手が自分を捏ね回している。

 その手が、周の手ではないことに酷く不安を覚えた。何かを探しているかのように自分という器の内部を掻き回すその手は、内臓を探り骨を辿り、脳を掻き回す。それでも目当てのものが見つからないのか、苛立った手指は触れられたくない奥のほうまで侵入してくる。
        いやだ。
 堪らなく不快であるのに、その不快に思う気持ちの奥底に微弱な快感を感じている自分に気付き、嫌悪のあまり全身総毛立った。

 無防備な内側から強い手の平で押されて持ち上げられて、引かれて押さえつけられ、揺らされ器も中身も何か別なものに変えられてゆく。
 『キョウ‥』
 混沌とした闇の中で名前を呼ばれ、その声を聞きたくないと耳を塞いだ。

 深層を掻き回される辛さに、自分は何度も叫び声を上げた。泣きながら懇願しているのに、掻き回すのを探すのをやめようとしない。却って、しがみついてくるような気さえした。

        頼むから、揺らさないでくれ、俺を変えないでくれ。

 『キョウ・・・・キョウ・・・ゃん』
 小さな振動は徐々に意識の浮上する身体にリアルに伝わった。


 「キョウちゃん、起きてってば!!いっぱい寝すぎたら目が腐っちゃうんだって、
 いつもパパが言ってるよ」
 肩を揺すりながら呼びかける子供の声に弾かれるようにして目が開いた。馴染みの無い場所に一瞬、頭が混乱して自分がどこにいるのかわからなくなる。
 再び、肩を小さく揺すられた。
 「キョウちゃん、起きてよ。もうお昼間だよ」
 「カズキ、君・・・?」

 自分の肩に手を掛けている和輝の顔を見て、瀬尾と同衾をしたという記憶が緩慢に追いついてくると、顔面が引き攣り蒼白になる。
 昨夜、瀬尾が自分を離さないで抱き込んだまま動かなくなると、ひとり正面の闇を見据えたまま過ごした。首の後に当たる瀬尾の吐息に、身体を巻き込む体温に何度も息が詰まりそうになった。逃れようと身じろぎすると、眠っていると思った瀬尾の腕にその都度体勢を直され、更に強く抱え込まれた。
 気持ちの置き所のない苦しい一夜をそうやって過ごし、明け方になって漸く眠りの訪れた身体が急速に重くなっていくのを感じた。意識が闇にドロリと溶け出し途切れる刹那、膜のかかった世界の向こうから声がした。
 享一、俺を愛してくれ      と。
 そんな身勝手な要求が聞けるか!と吐き捨てたつもりだったが、意識はズブリと闇に沈み全ては途切れた。
 
 今更ながらに、和輝の父親でもある瀬尾と関係を持ってしまったという事実を改めて認識し後ろめたさと自分に対する嫌悪感で、実際に胸の辺りがギシリと痛くなった。
 「キョウちゃん、あのね僕、お腹すいたから、お昼ご飯作って」
 「あ、ああ・・・・」
 和輝の声に反射的に身体を起こそうとして、自分が何かを着た記憶が無いことに思い至り、咄嗟に羽根布団の下の自分の姿を確かめた。
 ちゃんと上下ともパジャマを着ていることを確認し安堵はしたが、それを着せたのが誰であるのかを考えると、それでまた複雑な心境を生んだ。ベッドの上で泥のように重い身体を起こし、頭を抱えて細い息を吐いた。

 「和輝くん、瀬尾は・・・パパは、どこにいるの?」 
 「ずうっと前に、出かけたよ。キョウちゃんが起きたらこれ渡してって」
 尖がった唇に、暗に自分の寝坊を咎められているような気がした。
 渡され封筒の中身を確かめると、万札が一枚とメモが入っていた。

      今夜は仕事で帰れなくなりそうだから、明日まで和輝を預ってくれ。

 現金を置いてゆくという行為が、瀬尾親子対自分という図式で瀬尾から牽制を掛けて来られているようで少し腹立たしい。
 「いつ出て行ったの?」
 「すごく早い時間だよ。仕事に行くって言ってた」

 週休2日の瀬尾の事務所は土曜日は休みのはずだ。
 そういえばと、深夜に瀬尾の携帯に電話があったことを思い出す。緊急の仕事だったのだろうか。どっちにしても、顔を合わせなくてもよいこの状況がありがたいと思ったのみだった。

 腰に残る違和感とだるさに、取り返しのつかないことをしてしまったのだという気持ちに打ちひしがれそうになるが、和輝を前に落ち込む姿を見せるわけにも行かず、今だけはと、頭から締め出した。
 シャワーを浴びたいと思ったが、正直なところ立ち上がるのも億劫だ。

 「キョウちゃん、お水持って来ようか?」
 「大丈夫、いいから・・・」
 さっきから和輝の顔が正視できない。当然だ。

 リビングからのくぐもったTVの音とともに、盛大に腹の虫が鳴る音が聞こえてきた。
 「和輝くん、ひょっとして俺が起きるまでずっと待ってたの?」
 「うん、だってパパがキョウちゃんは疲れてるから、起こしちゃダメっていってたから。
 でも僕ね、テレビも飽きたし、お腹がすいちゃってね・・・・・」
 再び昼食のことを口にする、気の抜けた切なそうな声に和輝が空腹であることにやっと気付き、慌てて飛び起きた。徐々に気分も浮上してきた。明日まで、和輝と2人で過ごせる・・・。
 たとえ名乗れなくても、やはり和輝は愛おしむべき息子に違いない。
 
 窓から差し込む冬の日差しは、光の角度からいくと、正午もとうに過ぎてしまっている。ここ数日の不眠症が祟って泥のように眠り込んでしまっていたらしい。

 「ゴメン、和輝くん!!すぐ何か作るから・・・・ああ、それとも外に行こうか?
 ハンバーガーとか、好き?」
 救いようのない今の自分の状態を、年端もいかない子供にまで気遣わせるという現状が不甲斐無いなくて、情けない。

 脚をフローリングに下ろし立ち上がると、身体は鉛のように重かったが、努めて平静を装い動き始めた。
 取りあえず持ってきた服に着替えて、キッチンに入り冷蔵庫を物色した。前に自炊はほとんどやらないと言っていた割には、食パンやハムやチーズ、卵に野菜といった食材が一通り揃っている。独り暮らしの自分のアパートではありえない光景に、瀬尾と和輝の親子としての生活が、確かにここにあるのだということを見せ付けられた気がして、使えそうなものを素早く取り出すと視界から締め出すようにさっさと扉を閉めた。

 食欲は無いが、外食に出掛けるよりは早いだろうと、レタスとトマトとハムで簡単なサラダを作り、マーガリンを塗っただけのパンに残りのハムときゅうりを挟んだサンドイッチを作る。
 自分にコ-ヒーを淹れ、和輝にはあたためた牛乳でカップスープを作り、ヨーグルトも添えると、急ごしらえにしては、そこそこ見栄えのする昼食が出来た。

 夜は外食でもいいかと思いながら、それならば一日ここにいる必要は無いだろうと結論を出し、食事が終わったら、和輝を連れ出して自分の家に戻ろうと決心した。
 携帯さえあれば瀬尾とは連絡がつく、このまま閉塞感や罪悪感に苛まれながら瀬尾のマンションで過ごすよりはよっぽどいい。
 そう思う、と一刻も早く食事を終わらせたくなり和輝に声を掛けた。

 「ご飯出来たよ。和輝くん、TV消してこっちに座って」
 テーブルに皿を運びながら声を掛けると、リモコンを握った和輝が「あっ!」と声を上げた。
 「キョウちゃん!パパだよ。パパがTVに映ってる!!」
 
 反射的に画面を見るとそこには、一見別人と見間違えてしまいそうなほど憔悴し、蒼白な顔で項垂れる瀬尾の姿があった。





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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
  

  コメントや鍵コメで相方のご心配をくださったみなさま、ありがとうございます。
 お陰様で術後の経過も順調で、退院も予定とおりの日に出来そうです。
 私事をついぽろりと書いてしまった事で、みなさまに大変ご心配をお掛けしました
 ことを申し訳なく思い、またみなさまの優しいお心にに感謝の気持ちで一杯です。
 本当に、ありがとうございました(感涙!
 
                            
紙魚  


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テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学

Comments

まずい、何かが非常にまずい。
瀬尾にだんだん同情している自分がいる。

瀬尾に何が起きたんだ~!?
その陰には周さんの反撃がありそうなんだけど、もし自分を巡ってこんな神経戦が繰り広げられたら、耐えられなくて逃げだしますよ!(←無いから心配するな)

ああ、周さん早く登場してくれないと、私まで瀬尾に奪われそうだよう。
い、一体何が起こったんだーーーーー
先の読めない展開にどきどき。
周さん、間に合ったのか、手遅れというべきか?

くろねこさんのコメントを読んで、ああ、そうか、と思っちゃったんだけど、ほんとにそう?
最後の描写、
どっちなのだろうとドキドキです。
周さんと鳴海さんが手を回した結果の憔悴なのか、それとも瀬尾っちの擬態なのか(被害者を装っているのかなと)。
どんな理由があれ、人の気持ちを踏みにじってまで愛を手に入れようとするのは、虫が良すぎますよね。
でもくろねこさんが仰るように、瀬尾っちを悪者扱い出来なかったり。
それはきっと、瀬尾っちにも心の深淵に何かがあるのだと、本当の悪なんてないのだと言う、紙魚さんのキャラに対する愛が描写となって表れているからでしょうね。
続き、楽しみにしておりますが、どうぞマイペースで♪(そして私は、すっかり呆けモードです)
なぬっ
パ、パパがっ!?(◎-◎;)!!
正座して続きを待ちます。

享ちゃんと瀬尾っちの濡れ場、直接的な表現が少ない分、余計に妄想が広がっちゃって、シマ猫の脳内大変なことになってます。←ヘンタイ
瀬尾っち、いくら触れたくても享ちゃんの大事な大事な所まで手が届くわけないでしょ(涙)早く気づいてくれよぉ。いや、分かってるんですよね。きっと。
Re: タイトルなし
 くろねこさま、ようこそです!

> まずい、何かが非常にまずい。
> 瀬尾にだんだん同情している自分がいる。
 人間の内側にある感情の流れや動きを見て、個人に対する
 印象が変わるというのはありますよね。これから、瀬尾についての
 記述がでてきます。くろねこさまの印象はどのように変わるのか・・むふふ←
>
> 瀬尾に何が起きたんだ~!?
> その陰には周さんの反撃がありそうなんだけど、もし自分を巡ってこんな神経戦が繰り広げられたら、耐えられなくて逃げだしますよ!(←無いから心配するな)
 ふふふ、ナイショです♪いえ、別に隠すほどのことはないのですけど(笑)
 萌えな展開ではないのは確かです(汗
 まだまだ漠然とした部分(大半かも)があるので、、いまコトコトと
 煮詰めています。
>
> ああ、周さん早く登場してくれないと、私まで瀬尾に奪われそうだよう。
 きゃあ~~、瀬尾っち、くろねこさまGETなるか(笑)周はもうちっと後の登場です。
 (周はいつも大事な時にいない困った人なのです(前にもあったな~汗)

 コメント&ご訪問、ありがとうございます!

Re: タイトルなし
 AOさま、こんばんは♪
 
 先日は、お気遣いくださいまして、ありがとうございます!
 萌え満杯のメルありがとうございます!!月9をいかにして確保するか
 只今、めっちゃ頭を悩ませています(笑)

> くろねこさんと同じ感じですぅ。
> 瀬尾っちが可哀想に思えてきました。(思うつぼ?
 おっ、ムフフ・・・見事にツボに嵌ってますね♪

> それにしても、和輝君、ええ子や。
 大人の中で育てられた子供っていう感じですよね。
 あんまり聞き分けがいいと不憫な感じもします。

> >あたためた牛乳でカップスープ 愛を感じます。
 愛ですよね~~ちなみに私はただのお湯がスタンダードですv
 愛がない・・・?(笑)
 いつも、ありがとうございます!さくっと(って、さっきですけど・汗)
 修正入れときましたv!

 コメント&ご訪問、ありがとうございます。

Re: タイトルなし
 Route Mさま、ようこそです!

> い、一体何が起こったんだーーーーー
> 先の読めない展開にどきどき。
 BL的な展開からずれますので、私的には”スベる”予感にドキドキです。

> 周さん、間に合ったのか、手遅れというべきか?
 手遅れ・・・になるのかな、やっぱり。手遅れです(キッパリ←

> くろねこさんのコメントを読んで、ああ、そうか、と思っちゃったんだけど、ほんとにそう?
 すみません~~本当に、地味で全然色気のない展開なんです(暴露!
 なんだか、みなさまに期待させてしまったみたいで、私、どんどん
 小さくなってます

 コメント&ご訪問、ありがとうございます。

Re: 最後の描写、
 紙森さま、いらっしゃいませ!

> どっちなのだろうとドキドキです。
 こちらでも、、どうしましょう~~~
 このままの地味な展開で、みなさまのドキドキを裏切らないだろうか・・・
 ドキドキです。

> どんな理由があれ、人の気持ちを踏みにじってまで愛を手に入れようとするのは、虫が良すぎますよね。
 そうですよね。ひたすら自己中な愛に走る瀬尾をどうやって脚色しようか
 ただ今、ちっちゃな脳を悩ませています。でも、気持ちを踏みにじって
 手に入れたものは、永く自分の懐に留まることはなく、傍にいても自分が
 辛くなるだけなのだと思うのです。
 
> でもくろねこさんが仰るように、瀬尾っちを悪者扱い出来なかったり。
 お、っここにもツボに嵌りそうな方が(笑)
 
> それはきっと、瀬尾っちにも心の深淵に何かがあるのだと、本当の悪なんてないのだと言う、紙魚さんのキャラに対する愛が描写となって表れているからでしょうね。
 本当の悪を書くには、私は精神的に未熟過ぎるのだと思うのです。
 どこかに救いを求めちゃうんですね。救いのない悪はない・・・
 そう思いたい反面、本当のワルという奴をいつか書いてみたいです。

> 続き、楽しみにしておりますが、どうぞマイペースで♪(そして私は、すっかり呆けモードです)
 ありがとうございます。
 紙森さまは呆けモードに入ってらっしゃるのですか(笑)
 投票の結果が楽しみなのですが、執筆はまだ先になりそうですね。
 紙森さんも仰っていらっしゃいました『細く長く』をモットーにのんびり
 行きましょう♪

 コメント&ご訪問、ありがとうございます♪

Re: なぬっ
 シマシマ猫さま、こんばんは。

> パ、パパがっ!?(◎-◎;)!!
> 正座して続きを待ちます。
 きゃあ~~~足は、お崩しになって・・・(笑)
 そうなのです。こんな奴でも和輝の父(戸籍上は・・)こうなると
 悲しむのはもちろん・・・ううっ!!(享ちゃんじゃないよ~。わかってるって!
>
> 享ちゃんと瀬尾っちの濡れ場、直接的な表現が少ない分、余計に妄想が広がっちゃって、シマ猫の脳内大変なことになってます。←ヘンタイ
 シマ猫ちゃんの脳内妄想が拝見したいです~~!!
 こんな時に脳間赤外線伝達装置があれば・・・惜しいっ!!
 タイミングを見て瀬尾視点からこの時の様子をチラッとかけたらなあ
 などと思います

> 瀬尾っち、いくら触れたくても享ちゃんの大事な大事な所まで手が届くわけないでしょ(涙)早く気づいてくれよぉ。いや、分かってるんですよね。きっと。
 わかってるから、エスカレートしてしまうんですよね。
 見込みがないとわかってるなら、さっさと諦めればいいのに
 それが出来ない男心。。複雑です。
 
 先日は、お見舞いコメをありがとうございます。
 後記でも書きました通り、術後も順調で入院させてもらっているのが
 申し訳ないくらい回復しています。普段が働き過ぎ人間なので
 少し別荘(←)でゆっくりしてもらえればいいかな、、などと、今は暢気に
 考えている私です。ご心配頂きありがとうございました。

 コメント&ご訪問、ありがとうございますv

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