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紙魚

Author:紙魚
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Category: 翠滴 3 (全131話)

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翠滴 3 VOID  5  (41)
 「来いよ」
 間口に立つ瀬尾が手を差し伸べてくる。
 その指先を見ながら、この期に及んで瀬尾を説得できるのではないかと楽観的な見通しをたててしまった自分の甘さに我ながら呆れ同時に言いようのない落胆と失望を感じた。
 享一はソファから立ち上がると、眼を閉じて固唾を呑み息を整えた。やがて開いた漆黒の双眸は、感情も心情も押し殺した無機質な覚悟に塗り固められていた。

 「瀬尾、最後にもう一度 俺に誓え。周に関する情報を一切公表しない事と、和輝に自分の歪んだ感情を押し付けないことを、ここで俺に誓約しろ」
 瀬尾が差し出した手を引っ込め、低い声で笑い出した。瀬尾の差し向ける視線に、先刻は感じられなかった果ての無い闇が生まれ沈殿していくのを見て、享一は不吉な予感のする怖気に襲われた。
 「先ずは永邨のことで、和輝はその次か。まあいい、永邨に関しては、お前とはもう関係の無くなる男で、和輝は、お前がこれから俺達の側にいて自分の目で見守ればいいんだからな」
 傲慢な嗤いを浮かべて、もう一度、瀬尾が手を差し伸べてきた。
 「さあ、来いよ」 この手を取れば何もかも一変する。
 失うものと得るもの、その対比は通常の尺度を使って測ることは出来ない。

 周は妹たちの、そして享一の保身と引き換えに、その身を切り刻んで神前(かんざき)に差し出した。涙と共に詫びた享一に、周は「自分のやりたいようにやっただけだ」と事も無げに言った。
 自分にとって大切なものを守れただけで、自分はそれで十分に満足だったのだと。
 結果、鋼の如き強靭な精神と若竹のしなやかさを持ち合わせた男は、自分の宿命を、そして人生をその手で鷲掴みにし、激しく迸る火焔となって自らの未来の扉を開いていく。

 自分に、周のような強さが持てるだろうか。たとえ持てなくとも、愛する者の行く手を阻む障害ひとつをを無くすことくらいは可能なはずだ。
 享一は瀬尾の手を撥ね退けると、瀬尾の身体を押しのけ自分から寝室に入って行った。
 そして、まだ入り口で佇んでいる瀬尾を振り返り睨みつけ、ベージュとセピアのシンプルなリネンで整えられたベッドに自ら腰を下ろした。

 部屋の照度を落とし、瀬尾がゆっくり近付いてくる。
 「キョウ・・・」
 屈んで享一の肩を掴み、これまでの挑発する言葉とは対照的な優しさで接吻けてきた。顔を逸らせようとすると頭の両側を捕まれ固定される。
 「往生際が悪いな。ここまで来たんなら、不様に逃げたりするなよ」
 「人を脅しすかして気の無い相手を手に入れようとするお前の方が、よっぽど不様でみっともなくて、憐れだ」
 「・・・・・そうだな」
 ポツリと呟いた肉感のある瀬尾の唇が重なり、すぐに離れてまた重なる。
 キスをしながら、先刻自分が外そうとして外せなかったシャツのボタンを、瀬尾の片手がボタンホールから抜いてゆく。享一は、ボタンを外す指先の小さな震えや、沈んだ声のトーンに何か違和感を覚えながらも目を閉じ、瀬尾がするに任せた。

 少しかさついた瀬尾の唇が同じ動作を繰り返すたび、頬に当たる瀬尾の吐息が湿り気を帯びてくる。触れては離れ、享一の感情の抜けた瞳を見つめ、また唇を合わせ何度も何度も繰り返された。
 接吻けられる度に瀬尾の瞳に生まれた闇が唇を伝って享一に向って流れ込んで来る、そんな気がした。

 手の甲が頬を撫で首を伝って滑り落ち、肌蹴たシャツの間で留まると、瀬尾の手は享一の胸に掌をぴたりとあて、動かなくなった。
 享一は瀬尾の手がそのまま胸を突き破って自分の内部に侵入してきそうな気がして、心なしか身体を引く。すると、背後に回ったもう片方の腕に肩を固定され身体が強張った。
 自分の胸部にめいいっぱい広げられた瀬尾の左手が縋るような形であてられている。俯く額に瀬尾の額がこつんと合わせられ、今度はそれとわかるほどあからさまに上体を引いた。
 肩を抱く瀬尾の腕に力が篭り、享一は小さく呻いた。

 「頼むから、お前に触れさせてくれ」
 これまで聞いたことの無い切羽詰った瀬尾の声に顔を上げると、唇に瀬尾のそれが重なった。

 胸に当てられた手が緩やかに、だが有無を言わせぬ強さで享一の躰を押し倒していった。


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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
  

  『翠滴 Ⅲ』、再開します。VOID4から、随分と間が開いてしまい、申し訳ございません。
 あの話はどうなったのだろうと、気にしていて下さった方、ありがとうございます。
 前回のように行き倒れない(笑)ために、短めでも更新していきたいと思います。
 不定期更新は相変わらずでのんびりも相変わらずですが、気長にお付き合いいただけますと
 嬉しいです。

 うおおおお!!!すみません!!!
 文章が更新後2時間くらい、文章が重複した内容になってました(_ _(--;(_ _(--; ペコペコ
 Aさま、お教え頂きありがとうございます!!(。TωT)ノ☆・゚:*:
 もし、教えていただかなかったら、私のことなので夜まで放置していたと思います。
 二重で重なった文章は本当に読みにくかったと思います。
 既に読み終えられた方には、本当に申し訳ありませんでした(_ _(--;(_ _(--; ペコペコ

                             
                              
紙魚  



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テーマ : BL小説    ジャンル : 小説・文学

Comments

(-_-;ウーン
『お前に触れさせてくれ』

ずっと言いたくて言えなかった、瀬尾っちの本音なのでしょうね。
こういう形でしか果たせなかったのが苦しいです(┯_┯) ウルルルルル
Re: (-_-;ウーン
 シマシマ猫さま、こんばんは、ようこそです!!

> 『お前に触れさせてくれ』
>
> ずっと言いたくて言えなかった、瀬尾っちの本音なのでしょうね。
> こういう形でしか果たせなかったのが苦しいです(┯_┯) ウルルルルル

 本音のところは、焦がれて焦がれていたわけなので、ポロリと毀れた
 瀬尾の気持ちですが、いったいこの言葉は何に繋がっているのか・・・。
 週末運動会、相方入院(大したことは無いです)で更新少し遅れますm(_ _)m

コメント&ご訪問、ありがとうございます♪
 
周さんや河村さんや瀬尾までに、こんなに深く愛されてしまう享一さん・・・。
愛されることも、また業なのだと思わずにいられません・・・。

周さんを守るために自分を犠牲にしようとするのは、よく陥りがちな落とし穴ですよね。周さんが喜ぶはずないのに・・・。

悪役なんだけど、こういう愛し方しかできない瀬尾にも憐憫の情が・・・・。

週末、大変そうですがご無理なさいませんように。
また、パートナー様が早くよくなりますよう、お祈りします。
 くろねこさま♪
 くろねこさま、ようこそです!

> 周さんや河村さんや瀬尾までに、こんなに深く愛されてしまう享一さん・・・。
> 愛されることも、また業なのだと思わずにいられません・・・。
 人と関わり、その人生に関係した時点で何かが生まれるのでは
 ないかと思います。特に恋愛は、自分の愛と欲をもって相手を自分に
 引き入れ、また自分も相手の中に入り込んでいく。
 恋愛が本気であればあるほど、業もまた深まるのだと思うんです。

> 周さんを守るために自分を犠牲にしようとするのは、よく陥りがちな落とし穴ですよね。周さんが喜ぶはずないのに・・・。
 恋は人を愚か者にしますから。わかってはいても、守りたい気持ちの方が
 享一の中で先行しているのだと思います。早くもっと多くのことに
 気付いて欲しいです。
>
> 悪役なんだけど、こういう愛し方しかできない瀬尾にも憐憫の情が・・・・。
 悪ぶってみても、根底にあるのは享一への”想い”ですので・・・・イカン
 情が湧いてきそうです(笑)

> 週末、大変そうですがご無理なさいませんように。
> また、パートナー様が早くよくなりますよう、お祈りします。
 突然の入院でうろたえてしまいましたが、手術も無事終わり、あと一週間ほどで
 退院できるそうです。
 ご心配、ありがとうございます(TωT)ウルウル

 コメント&ご訪問、感謝です。
M さま♪
 Mさま、ようこそです。

> さいきん、のほほんとしたストーリーを書いてるもので、なんかすごい展開にどきどきしだしたら、鼓動がとまらなくなって……うっ! ばたっ!
 やん、ドキドキしていただけましたか?でもこの後は○チュンなんです。
 詐欺?(笑)
 CAは珍しく(?)穏やかな展開をされてますね。
 F氏のその後ちょっと見てみたかったですv

> 思う存分書いてください。でもゆっくりでもちゃんとついていきますから、無理はなさいませんように。
 ありがとうございます!!でも、思う存分愛憎劇を書ききったら、
 完結する頃に胃潰瘍になっているかもしれません(笑)
 Mさまにダメージを与えないように、のんびりソフトに行きま~す(無理かな~

 コメント&ご訪問、ありがとうございます!
享一君がかわいそうです~
お久しぶりでございます。
いろいろあって、訪問できずにいましたが、こんなことになっていたんですね。
翠滴の”VOID”と”ラヴァーズ”を一気読みしてしまいました。

翠滴のほうは、なんだかすごく重い展開になり読んでいて苦しくなりました。
周も享一もそれぞれに相手を想い大切にしたいがために苦しみ心配しているのだと思うと辛いです。特に享一は息子との板ばさみでもう雁字搦め状態。後は、瀬尾の罠にはまりまんまと持っていかれるのを黙ってみているしかないのでしょうか・・・・。

"ラヴァーズ"のほうは、懸案の薫へのカミングアウトという大仕事が片付き、ますます二人のラブラブ度が上がったみたいで読んでいて幸せな気持ちですぅ。
薫とアンリのことももっと知りたいです。魅力的なアンリにもどこかで会えたらいいな。



Re: 享一君がかわいそうです~
 甲斐さま、いらっしゃいませ、ようこそです♪

 お久しぶりでございます!

> 翠滴の”VOID”と”ラヴァーズ”を一気読みしてしまいました。
 翠滴はどんよりと濁り、20000HITリクの『真夏~』と、『ラヴァーズ』は
 なにやってんの?状態で時間軸はずれていますが、正反対の展開です。

> 翠滴のほうは、なんだかすごく重い展開になり読んでいて苦しくなりました。
 すみません~~。子供も絡み、享一に到っては身動きが取れなくなって
 きている上に、自分で自分の首を締めているところが無きにしもあらず
 ですが三人とも、どこかで光明を見つけて欲しいです。

> "ラヴァーズ"のほうは、懸案の薫へのカミングアウトという大仕事が片付き、ますます二人のラブラブ度が上がったみたいで読んでいて幸せな気持ちですぅ。
 わ~い!拙い短編でしたが、そう言っていただけると嬉しいです!!
 本当は、薫へのカミングアウトをする時はもっと互いに戦ってもらいたかったん
 ですけど、書き出すとまたネチネチと書いてしまう予感があってさらりと
 流してしまいました。(あ~、後で後悔するかも(笑)

> 薫とアンリのことももっと知りたいです。魅力的なアンリにもどこかで会えたらいいな。
 わ、ありがとうございます!!安里・・・何気に押しの強そうな人です。
 安里はともかく、ぽっちゃり薫はビジュアル的に主役を張れるのか・・・?
 疑問だ~~。でも、書きたい気持ちはあるんですよv
 花隈兄弟は、私に様々な試練を与えてくれます(鬚乙女とかデブとか・爆

 コメント&ご訪問、ありがとうございます!

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