10 ,2008
翠滴 1-5 爆走ドライブ 3 (15)
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運転を交代して助手席に落ち着くなり、何の前触れもなくエンジンが唸り声を上げて
車が発進する。
「時見君、シートベルト」
「は、はいっ」
心なしか、周の声が弾んで聞こえる。
周の目指す行き先は新幹線の駅のあるT市で、享一の目指していたW町よりも
かなり距離がある。
「人と待ち合わせをしているもので、予定していた新幹線に乗りたいのですが
少し急がせて頂いてもかまいませんか?」
ニヤリと笑いながら、周が訊いて来た。言いようの無い不安が胸の中に広がる。
「車と命の保障をしていただけるなら・・・預けますが・・」
「エンジンの保障は出来かねますが・・・命はお預かりします。」
周は愉しそうに横目で享一を見ながら、ウットリと微笑んだ。その間もパールピンクの軽は線路脇の極端に細く、碌に舗装もされていない道を爆走していた。
片側は田んぼで1m下に疎水が流れ、もう片方には線路に入れないようにフェンスが延びている。どう考えても車路ではない、畦道に毛が生えた程度の側道だ。
少しブレただけで横転するかフェンスにぶつかってスピードに弾き飛ばされるだろう。
自分に向いたままの周へ、恐怖に怯えた享一の叫び声が上がる。
「周さんっ!前を見てくださいっ!前ーーっ!ゲッ・・」
突然、正面に現れた石垣に激突するかという寸でのところで、車は唸るエンジン音と共に、ザザザーーーッと派手に砂利を巻き上げて右折した。大きく後輪がスライドしそのまま爆走を続ける。
「ブレーキングドリフトです」
周が得意そうに笑いかけてきた。
車は今や曲りくねった山道を勢い良く走り抜ける。目の前に白いガードレールがギリギリ迫っては視界の隅に消えていく。
生きた心地がしなかった。
車体に食い込むレールがない分、ジェットコースターより確実に怖い。
享一はドアの上についている把手を両手で掴んで凝固していた。メーターは数字を振り切り、細かい山道のカーブでも殆ど減速しない。エンジンが苦しげに断末魔の叫び声を上げる。
周はどうやらハンドルを握ると人間が変わるタイプだったらしいと、ようやく気付くが、如何せん遅すぎた。
可愛い園児の通園専用ムーブは、愛の無いハードな仕打ちに打ちのめされ容赦なく鞭を振るうようにハンドルを切る周に、甲高い非難の悲鳴を上げている。車に何かあったら・・と思うと、善意で車を貸してくれた利根さんや、口を利いてくれた鳴海たちに申し訳が立たない。
享一は、エンジン音に負けないくらい切迫した叫び声で訴えた。
「あ・・・周さんっ!車が、車が限界を超えていますっ・・!」
「ん?享一君 泣いてるの?顔色が悪いよ。大丈夫?」
自分でも気が付かないうちに、恐怖で目尻に涙が滲んでいたらしい。
相変わらずの余裕で楽しげな周が、口調だけは心配げに享一の頬に手を伸ばしてきて自分の方へ向かせるように指先を這わせた。
力の抜けた顔は周を向いても、眼球だけは固定されたように進行方向から離れない。
その瞳が驚愕に見開かれる。
「ぎゃああーーーッ 周さんっ!前ッ 前を見てくださいぃぃ!!」 と同時に左折する。
「!!!!!っ」
発狂しそうだった。
運転を交代して助手席に落ち着くなり、何の前触れもなくエンジンが唸り声を上げて
車が発進する。
「時見君、シートベルト」
「は、はいっ」
心なしか、周の声が弾んで聞こえる。
周の目指す行き先は新幹線の駅のあるT市で、享一の目指していたW町よりも
かなり距離がある。
「人と待ち合わせをしているもので、予定していた新幹線に乗りたいのですが
少し急がせて頂いてもかまいませんか?」
ニヤリと笑いながら、周が訊いて来た。言いようの無い不安が胸の中に広がる。
「車と命の保障をしていただけるなら・・・預けますが・・」
「エンジンの保障は出来かねますが・・・命はお預かりします。」
周は愉しそうに横目で享一を見ながら、ウットリと微笑んだ。その間もパールピンクの軽は線路脇の極端に細く、碌に舗装もされていない道を爆走していた。
片側は田んぼで1m下に疎水が流れ、もう片方には線路に入れないようにフェンスが延びている。どう考えても車路ではない、畦道に毛が生えた程度の側道だ。
少しブレただけで横転するかフェンスにぶつかってスピードに弾き飛ばされるだろう。
自分に向いたままの周へ、恐怖に怯えた享一の叫び声が上がる。
「周さんっ!前を見てくださいっ!前ーーっ!ゲッ・・」
突然、正面に現れた石垣に激突するかという寸でのところで、車は唸るエンジン音と共に、ザザザーーーッと派手に砂利を巻き上げて右折した。大きく後輪がスライドしそのまま爆走を続ける。
「ブレーキングドリフトです」
周が得意そうに笑いかけてきた。
車は今や曲りくねった山道を勢い良く走り抜ける。目の前に白いガードレールがギリギリ迫っては視界の隅に消えていく。
生きた心地がしなかった。
車体に食い込むレールがない分、ジェットコースターより確実に怖い。
享一はドアの上についている把手を両手で掴んで凝固していた。メーターは数字を振り切り、細かい山道のカーブでも殆ど減速しない。エンジンが苦しげに断末魔の叫び声を上げる。
周はどうやらハンドルを握ると人間が変わるタイプだったらしいと、ようやく気付くが、如何せん遅すぎた。
可愛い園児の通園専用ムーブは、愛の無いハードな仕打ちに打ちのめされ容赦なく鞭を振るうようにハンドルを切る周に、甲高い非難の悲鳴を上げている。車に何かあったら・・と思うと、善意で車を貸してくれた利根さんや、口を利いてくれた鳴海たちに申し訳が立たない。
享一は、エンジン音に負けないくらい切迫した叫び声で訴えた。
「あ・・・周さんっ!車が、車が限界を超えていますっ・・!」
「ん?享一君 泣いてるの?顔色が悪いよ。大丈夫?」
自分でも気が付かないうちに、恐怖で目尻に涙が滲んでいたらしい。
相変わらずの余裕で楽しげな周が、口調だけは心配げに享一の頬に手を伸ばしてきて自分の方へ向かせるように指先を這わせた。
力の抜けた顔は周を向いても、眼球だけは固定されたように進行方向から離れない。
その瞳が驚愕に見開かれる。
「ぎゃああーーーッ 周さんっ!前ッ 前を見てくださいぃぃ!!」 と同時に左折する。
「!!!!!っ」
発狂しそうだった。
って感じです。意味不明ですみません;
周って、けっこうマイペースですよね。
享一くんが面白いくらい可哀想(笑