06 ,2009
翠滴 3 out of the blue 4 (27)
スライドを戻し、ラップトップの隣に置いた。
再び、ウィンドウがふたつ並ぶ画面に思考を集中させる。
NYのアメリカ・トリニティのトップであるエドアール・ステファンより取り寄せた過去5年の事業実績と経緯その戦略に目を通し、自分達の新事業のそれと照らし合わせる。同じやり方を踏襲したところで、本国と同じように成功するとは限らない。
日本という国の国民性や経済、国勢にあわせて新事業のために立ち上げたチームから上がってきた方針や戦略を補正してゆく。必要なものは残し、不要なものは切り捨てる。
日本で事業が成熟するまでにはまだまだ時間を要する。店舗を増やし、アパレルに続き飲食へと急成長を遂げているトリニティだが、このままでは足りない。企業として成り立つには会社の利益のみを追求すべきではない。
周はチームから上がってきたデータに、グラフつきの注釈を入れ戦略の練り直しを依頼する短い文章を加えるとチーム全員に向けて送信ボタンを押す。
知らず知らずのうちに携帯に目がいってしまう。無理からに視線を画面に戻すと息をつき、過去データの続きを読み始めた。
日は西に傾き、秋の柔らかい夕暮れの日差しが” GLAMOROUS”の4階にある周のオフィスに
差し込み室内を琥珀色で満たしている。陶器の触れる音がして、ブルーマウンテンの香りが鼻腔を擽った。
「鳴海、今日はもういいぞ。日曜日の夜くらいゆっくり休んだらどうだ?」
共に休日のラフなスタイルで、人気のない会社に出てきていた。
鳴海は光沢のある濃い目のグレーのシャツに白いズボンをはき、周はGパンにサンドベージュの薄いセーターを着ている。
鳴海も自分のコーヒーを片手に持ち周の隣に立って机に軽く腰を乗せた。
「それを言うなら、周こそでしょう?この一週間、まともに食事を摂ってないんじゃないですか?立派なワーカーホリックだ」
周は机にひじを突き鳴海を見上げる。コンタクトの嵌っていない上目遣いの瞳に陽光が差し、光が翠の虹彩の中で踊るように反射している。
「心配には及ばない。必要な栄養はちゃんと補給している」
「イル・マーレのサンドイッチで栄養の全てを賄うつもりですか?経営側としてはありがたいが、そのお得意様があなただというのはちょっと微妙ですね。シェフに周専用のスペシャルサンドを用意するように伝えておきましょう」
「今のままでかまわない。エンニョには充分やってもらっている」
イル・マーレは”GLAMOROUS”の階下にある、イタリア料理を主体にしたカフェで、他と一線を画す高級感とイタリア人シェフの作り出すその味で、昼はショッピングに訪れる女性客に、夜は味に信頼を置く男性客にも人気があった。サンドイッチは昼のみのメニューだったが周は夜食にもオーダーをし、そのプレートにはシェフの心づくしの手の込んだスイーツやスープ・サラダが必ず添えられていた。
鳴海の手が周の顎に伸びる。
憂いを含んだ翠の瞳に微かに強い光が宿り、非難めいた眼差しで見上げてきた。
「少し、やつれたみたいだ。あれから時見さんの姿を見ませんね。気になりますか?」
添えられた手の親指が、周の唇を掠めるように撫で、周は瞬時にその手を跳ねのけた。
鳴海は僅かに口角をあげて嗤った。
「つれないですね。今日はこれで失礼します」
ドアに向けて歩き出し扉の前で振り返る。
「私達の関係は”勘違い”などではなかった・・・筈でしょう?」
「俺達の関係は”利害”だった。忘れるなよ、鳴海」
鳴海は怜悧な顔に、感情の在りどころのわからない冷めた笑みを浮かべると静かに部屋を出て行った。
「今日は、和輝君はどうしたんだ?」
「単発で保育園に預かってもらっている。年中無休、24時間保育があそこのウリだからな」
「そうか、都会の保育園は何かと便利がいいんだな」
短い説明に、母親の由利がいるなら、一緒のほうが和輝も喜んだだろうに・・などと思いながらも、何か事情があってのことで他人の自分の口出すことではないと思い、外を流れる風景に目をやった。深紅のZなら間違いなく爆走するところを、瀬尾のBMWは西日の中、湾岸沿いの道をを安定したスピードで走っていく。享一はポケットの中の携帯を何度となく取り出しはまた戻した。
今すぐ、連絡を取りたい気持ちはあるが、瀬尾の隣でメールを打ったり、会話をするのは気が引けた。降りたら、すぐに連絡しようと逸る気を抑え、夕暮れに照り映える街を眺めた。
「キョウ、夕飯を食って帰らないか?ちょっといい店を知ってるんだ」
「あ、俺は・・・」
唐突に切り出され、断ろうとした時には車は打ちっ放しのモダンな建物の立つレストランの敷地に滑り込んでいた。
「瀬尾、悪いけど・・・・」
「実は、さっき車を取りに行った時、予約を入れておいた。地中海料理の店なんだけどさ、魚介が新鮮で旨いんだ。行こう」
何とか断りを入れようとしたところに声が被された。
予約と言われては無碍に断るのも悪い気がして、溜息をつくとさっさと車を降りていった瀬尾について車を降りた。
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
今日も瀬尾っち、あんまり出てきませんでした。
うーん。進展しません。。足踏み状態。。スミマセン
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長らくその存在を忘れていました、キリバンですが、
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き、気を取り直して…。
周さんと鳴海氏。
鳴海氏は相変わらず周さんに拘りをもっているのですね…美味しいな( ̄ー ̄)ニヤリッ
亨たん、そんなに気にする位ならちゃんと電話に出れば良かったのに!んもぅ~~!!
瀬尾っちとドライブなんてしちゃって…あぁ~~自ら罠に掛かるこの子羊が…くわあぁ~~と胸を掻き毟りたくなりますね(;´Д`)
そしてイタ飯屋?周さんのオフィスの階下もイタリア料理?
単なる偶然か、紙魚さんの魔の手(オイ)か…。
ああぁぁぁあぁ、亨たんにハラハラしっぱなしですヽ(≧Д≦;)ノ