06 ,2009
翠滴 3 penny rain 3 (19)
ひとつひとつを思い出しながら細かく並べてゆく。
瀬尾 隆範と、瀬尾の息子の和輝も一緒に駅前で待ち合わせたこと。
スーパーに寄っておでんの材料を買い瀬尾の家で作ったこと。おでんが自分達の思い出の料理であることや、和輝がこんにゃくを落とし、かつてのプレイボーイがかいがいしく息子を着替えさせ食事をさせてやっていたことも蛇足でつけくわえた。
その間も周の僅かな身じろぎで、享一の胸に垂れたネクタイが微かに皮膚の表面で揺れる。
全神経がネクタイの先に集中し絹の表面が動くか動かないかの、ほんの頼りない刺激で電光石火の如く爪の先、毛髪の先にまでザワザワと血液を煽る熱が伝播してゆく。
そのたびに享一は口を閉ざし熱い吐息と共に熱をやり過ごした。
「それから?」
「周、もう・・・勘弁してくれないか・・」
「”全て”、といった筈です」
「瀬尾は、周が気にしなければいけないような相手じゃない。結婚して子供もいるんだぞ」
真上から覗き込むようにしていた首が優美な仕種で傾ぐと胸の上で盛大な火花が散り、声を上げて躯が跳ね上がった。享一の雄蕊は痛いほどに反り返り、下腹に透明な蜜を滴らせている。周は享一の劣情に気がついていても表情ひとつ変えず淡々と先を促す。
目尻から涙の雫が零れるのを感じた。どうして自分がここまで恥ずかしくそして情けない思いをしなければならないのか。
「周、お願いだから、もう・・」
「さあ、続きをどうぞ」
正面から自分を射抜く瞳は深く澄み切り、つややかな表面には裸で欲望にいやらしく身を焦がし物欲しげに身悶える自分の姿が映っている。堪らなかった。
戦慄き震える声で先を続けた。
和輝が食事の途中で寝始めたこと、和輝を寝かしつけた瀬尾がワインを進めてくれたこと。
和輝の話をする時、ほんの少し享一の瞳が正気に戻り何かを回想するように細められる。
「ワインを飲んだら眠たくなって、目が覚めたら周から電話が入っていたんだ」
「・・・・・・・・」
「寝てたから、出られなかっただけで周が心配するようなことは何もなかったんだって。だから・・・周?」
翠の瞳が眇まった。
この男の無防備さと疎さが愛しくもあり、腹立たしくもある。
享一という男は初対面の人間や付き合いの浅い人間には警戒心が強く、必要以上の距離を置き慎重すぎるくらいの態度を見せるくせに、一旦心を開いてしまうと手放しで相手を信頼し受け入れてしまう傾向がある。
寝顔でさえ、自分に焦がれる男をどれだけ惹きつけて止まないか・・・自分の魅力に自覚がないだけに始末に終えない。それがアルコールで頬を上気させ、唇を紅く染めて正体をなくして眠るなど以ての外だということも。
思っていたより仕事が早く片付き上機嫌でペントハウスに戻ると、いるはずの享一がいなかった。耳に嵌めた小さなイヤホンからは、くぐもりながらも小さな雑音や話し声、それに子供の声も聞こえてくる。それが、瀬尾がワインを勧めた少し後ぐらいから声も、物音も入らなくなった。
冷たく沈む翠の瞳が、戦慄き始めた享一の唇に釘付けになる。
その形を崩してもなお、自分を惹きつて止まぬ唇に噛み付き思う存分吸い上げ、完全に形が変ってしまうほど嬲りたい衝動に駆られる。
何度もしつこくコールした後、享一の携帯に出た瀬尾の応対は至極普通のものだったが、通話を切った後も瀬尾 隆範はしゃべり続けた。
本当に短いセリフだったが、あれは、明らかに自分にあてた宣戦布告だ。
『永邨さん?聞こえてるんでしょう?享一は俺が貰う、手出しは無駄です』
自分の下で手足を縛られ劣情も露に情欲の焔に煽られた躯をもてあまし、潤みきった素直な瞳が不安げに見上げる。瞬時に悩殺してくる扇情的な姿に平静を装う理性が敢え無く焼けて粉々になりそうになるのを心を殺して堪える。
享一の艶やかな唇の戦慄きが大きくなり、赤く縁を染めた目許から涙が後から後から零れ、すすり泣きのような声が漏れ出した。
泣き顔を見られまいと、享一がホールドさせられた腕の中に顔を隠した拍子に、鎖骨の上のあった指輪が緋色の紐を通したまま銀色の光を放ちシーツの上に転がり落ちた。
鮮やかな緋色が享一の首に映え、なまめかしさに頭の中が沸点に達する。
螺子になった紐の金具を外し首から抜きとった。
自分の指輪も外して紐に通し再び螺子を締め、揺らすと二つの指輪が緋色の絹紐の中間で澄んだ金属音を立てる。二つ並んだ指輪を目にし、切れ長の瞳が愉しげに細まった。
享一が自分と暮らすことを承諾した。自分がどれだけこの日を待ちわびていたいたことか。
あとは、このタイミングで、本性を露にした瀬尾がどう出てくるのか?
瀬尾のことは、職場から自宅の場所、上原由利との関係まで調べ上げ全てリサーチ済みだ。おおよそ、今日の様子では、向こうもこちらの事は相当細かく調べ上げているに違いない。
今日の瀬尾の最後の挑発で、今まで不明だった符号が次々と嵌り出した。
一年半前、享一とのキスに憤怒の形相で睨みつける瀬尾を見たときから、いつか瀬尾 隆範が目の前に現れることは想定していた。
気がかりは・・・・
「酷いぞ・・・周。なんでこんな・・・・」
朱に染めた躯が嗚咽に震えだす。
「いいでしょう。では、どうしてほしいか自分の口で言ってください」
「外してくれ・・・・」
「それは駄目です。もう少しこの官能的な姿を楽しませてください」
耳に吹き込み、耳朶をきつく吸い上げると声を上げて全身を仰け反らせた。
勢いをなくしかけた雄蕊が再びエレクトし、胸の尖りも艶やかで淫猥な装飾品のごとく享一の細く引き締まった躯を飾る。
周は身を起こすと、享一を見下ろしながら自分のネクタイを解き、まるでストリップをするように自分の服を脱ぎだした。ベッドに縛り付けられたままの享一は釘付けになったように目を瞠り、周の流れるような動きを見ていたが、周の肌が露になると、涙の止まった瞳を更に紅く染めて恥ずかしそうに逸らした。
「見ていて下さい。今から、永邨 周という男の全てを、時見 享一に捧げるのですから」
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□□最後までお読みいただき、ありがとうございます(*^_^*)ペコリ
みなさまこんにちは。
今日もたるい進展ですみません。
まだ、腐神さまが降りてらっしゃらないようです。ハイ。(神頼み・・・するなよ!
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>「永邨 周という男の全てを、時見 享一に捧げるのですから」
って、そうなんですかッ?!
…って何言ってるか、わかりませんよね(笑)
や、別に違う展開でも、それはそれで今の状況からすると楽しそうなのですが。
明日を楽しみにしております~♪